転生するなら普通はこっち(神狩人)側じゃないの? 作:こんたそば
西暦2071年某日、極東初の新型ゴッドイーターである神薙ユウの初任務を成功で終わらせるべく、俺こと程兎アルク(ほどうあるく)はシックザール支部長による特殊任務を受け、彼女がいる狩場に近づこうとするアラガミの脳天をヘッドショットする作業に勤しんでいる。
貫通弾と炸裂弾の組み合わせで小型のアラガミであれば一発KO、大型でも蹲らせることが出来る仕様だ。ただ加工費がべらぼうに高いので外すってことは許されない。
俺個人の予想であれば、原作に介入しようとする同郷の転生者が山ほどやってきてフェンリル極東支部がゴッドイーターで溢れ返り、蹂躙される原作を肴にのんびりと一杯やるつもりだったのに、ここにやってきた転生者は結局のところ自分のみという事態に困惑せざるを得ない。
「新型がオウガテイルと接触した」
『ふむ。そのまま彼女の任務が恙無く終わるように護衛を続けたまえ。……信頼しているよ』
上司であるシックザール支部長の言葉を聞きつつ、俺は心にも無いことをと悪態を吐く。主人公ちゃんは極東支部の花形である第一部隊に所属している。無論上官である雨宮リンドウも同行しており万が一ということはないだろう。
ただ他のアラガミの乱入でもあれば、彼女にいらない負担を強いるかもしれないという可能性の話のために非番だった俺をシックザール支部長が使わしたのである。休日出勤の分はきっちりと毟り取ってやると思っているとリンドウと新型の彼女が慌てふためく姿が目に入った。思考のあまりアラガミの乱入を許したか!と下唇を噛み締め相棒を構えなおすと照準器のスコープ越しに肌色の何かが映った。
「は?」
照準器の倍率を下げ、引いたところから戦況を確認した俺は一先ず神機を下ろす。そして目頭をしっかりと押す。
「最近、身体を休めてないからなー……」
そんなことを呟きながら再度神機を構えてスコープをのぞき見る。戦況は変わっていなかった。むしろ悪化していた。
リンドウと新型の彼女の前に立つアラガミはオウガテイル1体。
周囲に他のアラガミの気配はない。俺が責任を持って排除していたのだから間違いない。
しかし、新型の彼女は神機を放り捨てて自分の身体を抱き締め隠すようにして蹲っている。
彼女の上官であるリンドウは自分の神機をまるで小枝を振り回すように高速で振り抜き対峙しているオウガテイルを切り刻んでいるのだが、彼が行動を起こすたびに股間部にある“おいなりさん”と“イチモツ”が落ちてしまいそうなくらい上下左右に激しく揺れる。
一斬必殺と言わんばかりの攻撃力を秘めた斬撃であるはずなのに、対峙しているオウガテイルにはあまり効果が無さそうだ。俺は左耳につけている通信機に手を伸ばす。
「ちっ……こちら特殊任務中の程兎中尉だ。雨宮少尉、援護射撃は必要か?」
『っ!?アルクか、助かる!』
「3秒後にヘッドショットを行う。当たるなよ」
『俺を誰だと思っていやがる!』
リンドウの元気そうな声を聞きながら俺は神機を彼と新型の彼女が対峙しているオウガテイルに向ける。一時的に視界を塞ぎ、リンドウたちが距離を取れるように着弾と同時にアラガミの外殻を突き破り、内部に入り込んで弾が残り肉体を一定時間の間破壊し続けるバレットエディットで作成した脳天直撃弾をセットする。そして、引き金を引いた。きっかり3秒後、オウガテイルの頭部に高温の赤い華が咲いたのだった。
シックザール支部長にどう説明するか悩みつつ、着用していた上着をリンドウに、紺色のTシャツを新型の主人公ちゃんに手渡した俺は頭部が焼き焦げたのにも関わらず、立ったまま鎮座しているオウガテイルに目を向ける。斬撃を無効化するなんてニュクス・アルヴァみたいな奴だなと思った俺は地面にちょこちょこ動く物体を発見する。
しゃがんで摘み上げてびっくり。小指の先ほどもない大きさのオウガテイルだったのである。
そいつを摘まみあげて掌に乗せるとそいつはすぐに何かに気付いたのか、一目散にとっとこと走り、俺が手首につけていたリストバンドに噛り付いた。微笑ましいと思ったのも束の間、このオウガテイルの衣類を食べるスピードはとんでもなく早くお気に入りのリストバンドはすぐに穴だらけとなって地面に落ちてしまったのである。もしも、頭部を焼き切ったと思ったあのオウガテイルが俺の掌の上にいる超小型のオウガテイルの集合体であるならば、という考えに至った瞬間に掌に乗せていたオウガテイルを、中身をその場に捨てて空になったOアンプルの容器に入れて栓をすると、近くにいたリンドウと新型の主人公ちゃんの2人を担ぐように肩に乗せてその場から全力疾走で離れる。
「おい、アルク!一体、どうしたっていうんだ……って、何じゃありゃああああ!?」
「あわわわわ!?オウガテイルが崩れちゃったと思ったら、砂みたいになって追っかけてくるー!」
俺は2人の実況を聞きつつ、荒廃したビル群を駆け抜ける。錆だらけになった車や、ボロボロになった家屋などには目もくれず、超小型のオウガテイルたちはまっすぐ俺たちを追ってくる。
何かいいものはないかと考えた俺の目にリンドウの腰蓑となった上着が映った。背に腹は変えられんと考えた俺はリンドウの腰からそれを奪い取って、与えられた防壁を取り除かれて慌てふためく哀れな男の手が届かない目の前に放り投げた。
左肩に担いでいる新型の主人公ちゃんから強烈な視線を向けられているプレッシャーを後頭部に感じる。はぁ……右肩に生温い物体が触れるが仕方がない。
ちなみに俺の考えた通り、超小型のアラガミたちは自分たちの進行上に突如現れた“餌”に食いついた。我先にと奪い合うように食べ、幾多の戦場を共に駆け抜けてきた上着は瞬く間にその姿を失くした。その僅かな時間で俺たちはやつらの視界に入らないところまで逃げ延びることが出来たのだった。
◇
さすがに一般人の目に触れるのはまずいということでオペレーターに連絡を取り、ヘリでの迎えと一緒にリンドウと新型の主人公ちゃんの衣服も持ってきてもらった。俺も代用の上着を貰って羽織っているとヘリの操縦士からアナグラに戻り次第、支部長室に来るようにと伝えられる。リンドウから同情の視線を向けられたが、この際は仕方がなかったと開き直るつもりだと伝えると支部長の小言が終わり次第、食堂で飲むかという話になった。
さて、伝言通り支部長室に向かった俺を待っていたのは怒り心頭のシックザール支部長ではなく、満面の笑みを浮かべる榊・ペイラー博士だった。
「おかえり、大変だったみたいだね。アルク君」
そう言って榊博士は手を俺に差し出してくる。早速ばれてーらと諦めた俺は超小型オウガテイルの入ったOアンプルの容器を取り出した。そして、乗せる前に視線を榊博士に向ける。
「無論、買い取らせてもらうよ。君の口座に振り込んでおくから心配しないでくれたまえ」
「なら、いいですけど」
俺は榊博士の言質を取った後で彼に容器を手渡した。そのすぐ後には研究があるからと支部長室から去っていく榊博士の後姿を眺めた後、椅子に座ったまま瞼を閉じているシックザール支部長の前に立つ。
榊博士が室内から出たこと、俺が自身の前に立ったことを感じ取ったのか、切れ調の鋭い瞳が向けられる。
「対峙したオウガテイルが今回の任務で最もイレギュラーであったことは君の責ではない。むしろ、彼女たちがいた狩場に近づこうとしていたヴァジュラの群れやボルグ・カムランの駆逐、ご苦労だった。報酬はいつも通り、口座に直接振り込んでおく。次回も頼むぞ……下がってくれて構わん」
妙に疲れた様子の支部長はそれだけを言うと再び椅子に凭れ掛かって瞼を閉じた。普段であれば、こんな“優しい”ことなんてありえない。まさか今回のオウガテイル以外にもイレギュラーが発生したのではないか、そう思った俺は自室に帰りターミナルを開いて情報を集めるために操作する。
「……ん?『廃寺に全体的に桃色なサイゴートが現れたという情報を元に出撃した部隊が形容しがたい病を患って帰還した。現在隔離して治療中であるが、精神汚染が激しくゴッドイーター登録抹消もありえる』だと?ただでさえ少ないゴッドイーターを減らされてたまるか」
俺は支部長の無理難題をこなす特務部隊に偵察班でありながら所属している。そのため権限はそれなりに持っているので隔離された隊員たちがいる病室まで来ることは難しくなかった。
しかし、形容しがたい病に侵されていると報告書に記載されていたのにも関わらず、扉の先から聞こえてくる病人たちの会話は元気そうを通り越して喧しい。何を思ってそんな対応なのかと悪態をつきながら病室に足を踏み入れる。
「あれ、“安全”じゃん。今日は非番じゃなかったのか?」
「なんだ患者ってシュンとカレルか。元気そうじゃ……ない……。いや、お前はシュンなのか?」
「俺が俺じゃなかったら、一体俺は誰だっていうんだよ」
ベッドに座っていたのは防衛班に所属している小川シュンであったのだが、いつもにも増して小柄になり、肩は丸みが帯びて、指先はほっそりとしている。いつもはツンツンとしている赤茶色の髪はつやつやして濡れているようにも見える。決定的な違いは薄い青色の病衣の胸の部分に男ではあり得ない小ぶりの山が出来ている点。
ぶっちゃけ、シュンは【女体化】していた。
背後には金の亡者ことカレル・シュナイダーがいるのだが見るのが怖くて振り向けない。俺はそっとカニ歩きで移動した後で病室から退室。中からシュンたちの声が聞こえてくるが無視してエレベーターに逃げ込んだ。
エレベーター内に人影がないのを確認した俺はそっと呟いた。
「まさか、ゴッドイーター側じゃなくてアラガミ側に転生しちゃったのかよ、あいつら……」
これでは原作崩壊は免れないと俺は諦めの境地で力なく笑うほかに方法がなかったのだった。
【ヌガセテイル】
1体の大きさは小指の先もないほど小さい。しかし、密集して普通のオウガテイルと同じ形態となり移動している。
小型と言ってもオラクル細胞で体が構成されているため、神機を使わなければ倒せないことには変わりない。
実験の結果、炎熱や雷電、氷結といった属性を受けると動きが鈍ることが分かっているが、衣類を食べることによって細分化し単一増殖する。
人間の皮膚片や血液、骨などを与えてみたが見向きもしないので人間には脅威ではないのだが、このまま増えると人間は地上で衣服を身に纏えなくなる可能性もあるのでどうにか駆逐する必要がある。