転生するなら普通はこっち(神狩人)側じゃないの? 作:こんたそば
先日女体化していた防衛班に所属している小川シュンとカレル・シュナイダーの2人がちゃんと“男”の姿で原隊復帰を果たした。性転換現象は一時的なものだったようだが、その事に関しては『need to know』といわんばかりの緘口令が敷かれ、当人たちも口を噤んでいる状態である。
さて、件の全体的に桃色のザイゴートが主人公ちゃんのミッションに呼応するかのように贖罪の街付近に移動して来ているということで、支部長の命令で安全を確保するためにやってきたのだが、空気全体が桃色だなぁと思っていた俺以外のゴッドイーターが“男は女”に、“女は男”に性転換しちゃったんだけれど、どうすればいいのだろうか。
「またかよ!」
「無駄にでかくて邪魔だ」
「……フフフっ」
メンバーは防衛班の第3部隊プラス俺なので状況は察して欲しい。
女体化経験のあるシュンとカレルは本来ではないはずの胸の膨らみに対して悪態を吐いているが、彼ら……いや彼女らの背後でゴキゴキと拳の骨を鳴らしている女装した長身の男。銀髪かつ片目を眼帯で閉ざしている実に厨二病のような格好になってしまっているジーナ・ディキンソンの表情が恐ろしいことになっている。
俺は彼/彼女らから離れて行動することにした。
「まさか特典で貰った『状態異常無効』がこんなところで効いてくるとは……」
転生する前に毒で弱って死んだり、麻痺して意識あるままアラガミに踊り食いされたりするのは嫌だなぁと思って、こういうのを貰ったが『のこじん』でスキル設定も出来るようになっていたことを知ったときの絶望感は忘れられないけれど、“こういうの”も防いでくれることが分かった今なら、過去の自分を褒め称えたいと思う。
「つーか、エリア全部を回ったけど、いないな」
贖罪の街に聳え立つビルの屋上から周囲を見渡すけれど、女ゴッドイーター2人を追い回す男ゴッドイーターがいる以外に反応が全くない。当てが外れたかとぐっと伸びをしながら空を見上げると、豆粒のような大きさだが桃色の何かが空中を漂っているのを発見する。
神機を構えてスコープを覗くと『振動式の大人の玩具』が浮いていた。神機を置いた俺は遠くに見える山々っぽいものをじっと見て深呼吸して心を落ち着かせた後で再度スコープを覗き見る。相変わらず『振動式の大人の玩具』が浮いていた。
「なんでだよっ!エロか!エロ方面の欲望を満たすためにアラガミになったのかお前ら!ふざけんのもいい加減にしろっ!!」
俺は神機を構え狙い定める。そして空中を漂っている『振動式の大人の玩具』に向けて狙撃弾を発射する。しかし、着弾する寸前で『振動式の大人の玩具』の姿がぶれたと思ったらその場から消えていた。スコープから目を離して目標を探すが贖罪の街の上空にその姿を確認することは叶わない。
任務失敗かと肩を落とす俺だったが、甲高い悲鳴を聞いて視線を上空から地面へと向ける。上空にいた『振動式の大人の玩具』がいなくなったおかげなのか視界は非常にクリアになっていて見やすいのだが、今度は浮いていてはいけないものが浮いている。瓦礫や錆び付いた車、金属片がキラキラ輝いているかと思えば、残された神機も空中に浮いていて非常に危ない状況だ。
「今度はなんだ?」
俺は神機を持ってビルから飛び降りたのだが、落下スピードが尋常ではないくらい遅かった。まるで重力が軽くなったようで、非常に身体を動かし難い。ぽーんぽーんとボールが弾むように移動していくと性転換したシュンたちが変な格好で何かと戦っているところに出くわす。
「おい、安全!どこに行っていやがった」
「ヴァジュラの新種のようだ。分け前が減るのは癪だが手が足りない。手伝ってくれ」
「服が無ければまずかったわ……」
「お前ら、戦場でどういう格好してんの?」
仁王立ちしているジーナの足の間にカレルの頭があり、そのカレルの腰の上くらいに腰を下ろしているシュンはジーナの腰に抱きついている。
ジーナはそのシュンの背中に神機を置いて華麗にステップを刻んで避けるヴァジュラを攻撃しているがほぼ闇雲の状態だ。この重力異常はあのヴァジュラが原因かと視線を向ければ、尻尾の先がU字磁石のような形になっている相手と目があった。
良く分からなかったが、対峙するヴァジュラが普通ではないことは分かった。能力面ではなく、性癖の面で。
磁石の形をした尻尾をこちらに向けたかと思うと変な格好で固まっていたシュンたちが空中で分離し、カレルとジーナが正面から抱きあう形で固定され、余ったシュンが俺の方へ飛んでくる。俺は変な悲鳴を上げながら飛んでくるシュンに当たらないように身を捩って避けると神機を構えて間髪入れずに発砲した。
その瞬間、ふわふわした変な感覚は消えて、いつもよりもうっとおしい重力の感覚が戻ってくる。俺が避けたことによって壁に頭から衝突する羽目になったシュンを除いて、明らかに怒っていると言わんばかりのオーラを放つカレルとジーナがぞれぞれの神機をヴァジュラに向ける。
「てめえ、覚悟しやがれ」
「臓物をぶちまけなさい」
凄むカレルとジーナであったが、ヴァジュラは形勢が不利であることを感じ取ったのかすぐに反転して逃げ出した。重力を無視するように直立しているビルの面を蹴りながら縦横無尽の動きで。2人は怒りが収まらない様子で追いかけていったが、俺は気絶したままのシュンを捨て置くことが出来ず、とりあえずその場に腰を下ろした。
そして両手で頭を抱えた。
「どう報告すりゃあいいんだよ!あんなん正直に言ったら白い目で見られるって……」
俺はカレルとジーナが諦めて戻ってくるまで支部長にどう説明するのがいいのかを考えながら、その場で考え込むのだった。
◇
性転換してしまった3人はまた人目に触れないよう警備体制ばっちりの状況で隔離病棟に直接連れて行かれ、俺は榊博士に血液サンプルを抜かれた。さすがに4人中3人は変わっているのに、俺だけが性転換しなかったというのは目立ったようだ。
とりあえず、桃色のザイゴートは姿を確認できずまま逃がしたということにしておいて、電気に加えて磁力も使えるヴァジュラの存在を報告する。申し訳無さそうにシックザール支部長を見れば先日の報告を行った時よりも更にくたびれた格好になっていた。
「支部長、俺が言えた義理ではありませんがお休みになってはいかがですか?睡眠不足では纏まる考えも纏まりませんよ」
「そうしたいのは山々なのだが、そう言っていられないのだ。……イレギュラーのウロヴォロスが南下してきている」
忌々しそうに支部長が呟いたアラガミの名を聞いてリンドウの特務の話かと思ったのだが、その前の“イレギュラー”という単語が気になる。
「君もすでに3体のイレギュラーアラガミと対峙してきて分かっていると思うが、神薙ユウがゴッドイーターとなった瞬間なのだよ。イレギュラーアラガミが現れたのは。まるでアラガミが絶対的な脅威となる彼女を排するために生み出したような気がしてならないのだ」
俺は心の中で支部長に同郷の転生者たちの所為でいらない気苦労をかけてしまって申し訳ないと思いつつ、ウロヴォロスの話を聞くために質問を投げかける。
「ところで南下してきているウロヴォロスの特徴は何なのでしょうか?」
「……うむ。地面から触手だけが伸びていて、本体がどこにいるか分からないらしい」
「そうですか」
「それと触手は執拗に尻を狙って地面から勢いよく生えてくると報告を受けている」
俺の脳裏に突然『┌(┌^o^)┐ホモォ』という顔文字が浮かび上がった。恐らく何人かのゴッドイーターたちが犠牲になっているはずだ。おぞましい触手プレイ攻撃を受けて。下手したら新たな性癖の開拓、もしくはゴッドイーターとしての気概を失ってしまった可能性すらある。
見れば支部長がちらちらとこちらの様子を窺っているようにも見える。俺はビシッと敬礼をしながら宣言した。
「俺は引き続きイレギュラーのザイゴートとヴァジュラの探索を行います。報告によれば廃寺方面に行ったようなので遠征任務を受注してきます」
「待ちたまえ!君と行動を共にしていた第3部隊が動かせない現在、戦力を無闇に割くことは出来ん。……イレギュラーのウロヴォロス討伐はリンドウくんに任せる。もし、彼から任務の協力を要請されたら手伝ってやってくれたまえ」
「……リンドウに支部長から俺に『協力を申し出てはどうか』と振るのは無しで頼みますよ」
「リンドウくんが敗北した場合、君にお鉢が回ってくると思うが?」
支部長は遠い目をしながらそう告げた。
確かに他の支部からアラガミ動物園と揶揄される極東支部において現在いるゴッドイーターで腕利きなのは雨宮リンドウやソーマ・シックザールの他だと俺くらいしかいない。
むしろ実力が中途半端な奴らが大多数で討伐に行って全員が“掘られて”しまったら元も子もない。もし巻き込まれたらソーマも連れて行こうと心に決めて支部長室を退室するのだった。
自室に帰る途中、紺色のパーカーを羽織った褐色肌の少年を見つけたので声をかけようと思ったが、近づいてくるにつれて着ている黄色のシャツを押し上げる巨乳が目に入った。目的の人物は男のはずなので、人違いかと考えて声は掛けずに擦れ違うのだった。
【ジシャクラ】
通常のヴァジュラと同様で電撃を用いた多彩な攻撃に加えて、磁力を操り周囲の重力を変化させたり、物と物をくっつけたりする。
とあるゴッドイーターの見解では掛け算が好きだそうだが、意味は分からない。何故算数が関係あるのか。
引き続きデータ収集の必要がある。