「──と、なります。もう一度ご説明しましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
「それでは、塔の探索を楽しんでくださいね」
にこやかに告げる受付嬢に背を向けて、俺と小夜は幾つもあるエレベーターのひとつを目指す。
拳銃、コンバットマグナムを買ってから半時間。俺と小夜は、『学園島』の中心に聳え立つ塔にきていた。
購入した自分の相棒を試そうってことになったんだ。
因みに、銃と一緒に弾も買っている。当然ランク10だ。一発5ガル。それを500発購入で、2500ガルの出費だ。
俺の使うコンバットマグナムと小夜の使うグロック18は弾丸の種類が違う。俺のは.357マグナム弾ってので、小夜のは9mmパラベラムで、こっちは一発2ガルだ。小夜はこれを1000発も買っていた。外すことも想定してってことらしい。
全部殺傷能力はない。という設定らしい。そこら辺は、道徳的なことで、殺すんじゃなくて、
ゴム弾じゃなくて鉛玉なんだけどな。
それはさておき、今から俺達は本格的に塔に登ることになっている。昇に宏壱のエレベーターを使うわけだが、塔の一階地点、俺達のいるこの場所には、老若男女、多種多様な制服、人種も様々なカオスの状態だ。
出入口を行き交い、中心に円形に設けられた受け付けカウンターで説明を聞いたり、調合屋とプレートの付いた木製の扉を出入りしていたり、等間隔で設置されたエレベーターに乗り込んだり降りたり、動きは様々で往来が激しい。
「⋯⋯」
「緊張してるのか?」
「は、はい。だって今から戦うんですよね?」
不安そうに揺れる瞳が俺を見上げる。まぁ、現代じゃあ暴行事件すら聞かない。
争い事ってのは過去の異物で、物語やゲームの中にしか存在しないんだ。身体が強張るのも無理はないか。
「最初は怖いかもな。まぁ、慣れれば何てことはなくなると思うぞ」
「慣れられるでしょうか⋯⋯?」
「慣れるまで付き合うって」
「あ、ありがとうございます」
エレベーターの正面に着く。
ボタンはなく、鍵穴が付いているだけだ。鍵穴の数は五つ、縦に並んでいる。
受付嬢の説明によると、この鍵穴はプレイヤーの認識装置みたいなものらしい。ここにプレイヤーひとり一人が所持している鍵を差し込んで回すと、前回までのステージに行けるんだとか。
鍵穴の数はパーティー数らしい。ステージに他のプレイヤーは存在しない。いるのは自分とパーティーメンバーだけだ。月末に行われる対戦で、手の内を読ませないためってのが理由のひとつらしい。
因みに体力、所謂HPはこのゲームには存在しない。致命傷を受ければゲームオーバーで、この塔のフロア、今いる場所に強制的に送還され、所持金の半分を失い、装備品がボロボロになる。
よーく中を見渡せば、服がボロボロの者が何人かいる。このフロア内にある店に各学園の制服が置いてあって、ボロボロの服はそこで買い替えるしかない。着替えは装備変更で一瞬でできる。
因みにの因みにだが、その店では包帯や傷薬なんてのも置いてあって、傷を負った箇所に巻いたり、塗ったりすると、痛みが引き、傷が少し治る⋯⋯らしい。
エレベーターのドアが両側に開く。中は少し広めだ。5人のフルパーティーと刀剣やらドデカい銃やらを持ち込める用にだろうな。
俺はブレザーの下に肩掛けのホルスターを装備して、そこにコンバットマグナムを差し込んでいる。小夜は右の太股だ。
拳銃はコンパクトで仕舞いやすいのが長所だ。イベントリにも入れられるが、取り出しに時間が掛かる。
それなら、最初から装備していた方が効率がいい。
「えっと、何階って言えばいいんですか?」
エレベーターに乗り込むと、小夜がそんなことを言う。
「ん? ああ。いや、音声操作じゃなくて、ボタンを押すんだよ」
小夜が言った意味を理解したのは数瞬後だった。現実ではボタン操作の機械は少ないからな、分からなくても仕方ない。
ドアが閉まったのを確認して、壁際のボタンを押す。付いているのは、横に並んだ上下の矢印とそれに挟まれた確定のボタン。
受付嬢の話では、ステージを進めると1階から進んだ場所の階まで自由に行き来できるんだとか。
今は俺も小夜も当然1階だけだ。
ドアが開く。外に出ると、直立するビル群がある。市街地らしい。
大通りらしく、乗用車やら大型トラックやらが道路の真ん中に置いてある。
走っている車はないし、歩道を歩く人の姿も少ない。しかも、通行人はどうもがらの悪い連中ばかりだ。
車道にある乗用車のボンネットに腰掛け、数人の男とばか笑いをして話している奴ら。金属バットでガードレールをただ殴っている奴。ヤンキー座りでタバコを吹かしている奴。頭にネクタイを巻いて、赤ら顔でふらふらと歩く中年太りのおっさん。
⋯⋯最後のは違う気もするが、まぁ、雰囲気はスラム街って感じか?
ただ、ゴミが散乱しているわけでも、ビルがボロボロに朽ち果てているわけでも、スプレーで落書きをしているわけでもない。がらの悪い連中が多いってだけだ。
「⋯⋯こ、ここからゴールまで行くんですよね?」
現実にはいない連中に緊張しているのか、声を震わせた小夜がそう確認してくる。
「ああ。この通りを真っ直ぐ行った突き当たりのビルに、上の階に進む階段があるぞ」
そう指差して小夜に言う。
言葉通り、300mほど先にT字に分かれた道があって、突き当たりのビルには上階に上る階段が見える。
脇に逸れる道もないし、間違いないだろう。
「進むぞ?」
小夜にそう声を掛ける。
「は、はい!」
「っと、ちょっと待て」
「え?」
緊張しながらも、威勢よく頷いて踏み出そうとした小夜を止める。
「お客さんだ」
ホルスターからコンバットマグナムを右手で引き抜く。
「ひっく⋯⋯よぉ、兄ちゃぁん⋯⋯ひっく⋯⋯。⋯⋯可愛い娘ひっく連れてひっくるなぁひっ──バンッ! バンッ! バンッ!──ぎゃっ!」
しゃっくりをしながら千鳥足で迫ってきた赤ら顔のおっさんの額を撃ち抜く。
おっさんの頭は勢いよく後ろに引かれて足が浮き、3mほど飛んで地面に落下。後転を二回繰り返してガードレールにぶつかって止まった。
まぁ殺傷性はない。脳髄をぶちまけるなんてグロいことにはならなかった。
プレイヤーにHPがないように、現れる敵側にも明確なHPはない。要は致命傷を与えれば戦闘不能にさせ、経験値を得られるってことだ。
ただ、ここには防御力って概念がある。攻撃力が防御力を上回らないとダメージは通らない。おっさんには問題なく俺の攻撃が通ったみたいだけどな。
しかし、両手持ちで3発撃って1発命中。しかも、反動は凄いし、腕もブレブレだった。スキルがない所為なのは明確だ。
早めに【銃技】のスキルが欲しいよ、ホント。