赤鬼転生記~クロスオーバーオンライン~   作:コントラス

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第三鬼

 チン。

 

 浮遊感もなくエレベーターは我が家がある超高層マンションの167階に着きドアがスライドして開く。

 167階……ここでこのマンションの3分の1ほどの高さだ。

 超高層とは言ったが、この世界の、この時代ではこの程度の高さのビルはざらにある。

 

 俺の両手にはショッピングビルで買った今晩の食材と明日、明後日分の食材が入っているビニール袋があった。

 我が家はエレベーターを出て通路を真っ直ぐいった突き当たりにある。

 ひとつの階に部屋は20。真上から見るとマンションはロの形をしていて、空洞には遊具があったりベンチがあったりと憩いの場になっている。

 木々や草花も植えられていて、プログラムに沿った飼育方法で管理されている。健全に身体を動かし、自然に触れようってコンセプトらしい。

 雨が入らないように無色透明のパネルでロの空洞は蓋をされている。

 

 ビニール袋を足下に置くのも憚られたので、右手に持っていたビニール袋を左手に持ち替えて家専用のカードキーを制服のポケットから取り出して、ドアノブの上にある認証コードに翳してロックを解除する。網膜認証でも構わないのだが、そこまでしゃがむのもしんどい。

 

 

「……ただいま」

 

 

 ガチャンとロックが解除されたドアを引いて開けて、返ってこないと分かっていながらも家中に声を掛ける。

 廊下やリビングの方で灯りが点いているのだから誰か……義理の妹がいることは確かなのだ。

 時刻は6時前。母さんは大体7時半ごろに帰ってくるからまだまだ時間はある。

 同じ中等部ではあるが、アイツと俺の通う学校は違っていて、アイツの学校の方が近い。

 まぁ、俺は買い物して帰るし、同じ学校でも遅くなるのだが。

 

 

「ただいま」

 

「……」

 

 

 ガチャリとリビングの戸を開けて出てきた深い緑の髪を赤く丸いビーズがふたつ付いた髪紐で左サイドポニーにした小柄な少女、妹のリナに声を掛ける。が、我が最愛の妹は俺に一瞥をくれることもなく横を素通りする。

 その空のように青く清んだ瞳は俺と眼が合うこともない。

 

 母さんとリナは髪色や瞳の色が違う。リナが父親似になわけじゃない。そもそも母さんは結婚してないしな。

 簡潔に言えば、血の繋がりはない。まぁ、あってもそこら辺は違ってくるらしいが。

 理由はふたつ。ひとつはマイクロチップによる影響だと言われている。

 詳細までは分からないが、髪や瞳の色素に作用するって話だ。研究は進められているが、解明できた者はいない。

 もうひとつは体外受精による影響らしい。

 俺がこの世界にきて一番驚いたのは子供の作り方だ。婚姻関係の男女が精子と卵子を病院に提出し、ドデカいポットの中で受精させて生後一ヶ月まで一週間で成長させる。

 それで終わりだ。S○Xなんて言葉はこの世界にはない。男女のスキンシップはキスまでだ。しかもソフトなやつ。

 S○Xによる病気のリスクを考えた結果らしい。少し過敏すぎるとは思うが、もう100年以上前から施行されている。今更どうこう騒いだところで何も変えられないだろう。

 勿論、そういった行為が法律的に禁止されているわけではなく、一般的に知識が失われていっただけの話で――話が逸れた。今は髪と瞳の色だったな。

 体外受精を何世代にも渡って続けた結果、遺伝子に変化が起きたらしい。知能指数が通常の人間を遥かに上回る者が産まれたり、身体能力が高かったり、動体視力、反射神経、記憶領域、演算能力、とまぁ上げれば切りはないが、要は優秀な人間が産まれやすくなった。その副作用、まぁ遺伝子の変化が一要因だろうって話だ。

 

 閑話休題(ホントどうでもいい話だが……)

 

 これが俺と妹の関係だ。現状、会話どころか視線が合うこともない。相当な嫌われようである。

 理由は……まぁ、分かってはいるんだけどな。

 

 リナとすれ違いでリビングに入った俺は足の低いテーブルの上に食材の入ったビニール袋を置き、今晩は使わない物をキッチンにある冷蔵庫に仕舞っていく。

 リビングとキッチンは、カウンターで仕切られているだけで別々の部屋にあるわけじゃない。

 まぁ、あった壁を母さんが取り払ったんだけどな。「息子の主夫姿、それを見なくて立派なママとは言えないんだよ!」とドヤ顔で言われたときは呆れて言葉もでなかったが。

 

 それはさておき、今日は簡単に味噌汁とご飯、だし巻き玉子とマカロニサラダで決めようか。

 

 冷蔵庫に買い置きした食材を入れた俺は、学校指定の革製の薄いカバンを自室に置き、エプロンを身に付けて調理に取り掛かった。

 

 ◇

 

 現在時刻は7時前。料理も作り終え、今俺は自室で身支度をしている。

 必要な物は身分証でもある認証カードだけ。これと俺の身体さえあれば、俺の口座から電子マネーが引き落とされるからな。特に持ち歩くべき物はない。

 済ませたのは着替えだ。学校の制服から私服に。

 

 

「さて」

 

 

 自室を出てひとつ息を溢す。返事はないだろうが、家族として当たり前のことをするのに少し緊張する。

 まぁ、結果はいつも通りなのだろうが。

 

 自室を出て部屋をひとつ飛ばした戸の前に立つ。玄関に一番近い部屋だ。

 飛ばした部屋は母ちゃんの部屋で、その奥が俺の部屋。通路を進むとリビングになっている。

 俺達の自室の前には風呂、トイレ、物置き部屋がある。

 

 我が家の間取りはともかくとして、俺の緊張はリナに出かける旨を伝えるからだ。

 

 コンコン、と戸を手の甲で叩く。

 遠い未来であっても、来客を部屋の中にいる人間に知らせる手段はノックだ。

 廃れる物もあれば、伝統的(そう言っていいのかは微妙だが)に残っている物もある。

 

 

「リナ……俺、バイトにいってくるから、母さんが帰ってきたら一緒に飯食うんだぞ」

 

 

 ノックして部屋の中にいるリナに声を掛ける。

 入らないのはリナが年頃の女の子であるのもそうだが、何より入ったところで俺の存在は無視だ。

 

 案の定返事はない。想定通りだ。悲しくはない。いつも通りだからな。別にへこんでない。これが当たり前なんだ。

 

 と、まぁ、自分に言い聞かせたところで落胆は隠しきれないが、これも俺自身が招いた結果だ。文句を言えるものじゃない。

 

 

「……それじゃ、いってくる」

 

 

 返事はないと分かっていても数分部屋の前で待つ自分に我ながら女々しいと思うが、性分だ……治せそうもない。

 

 家を出てエレベーターに乗り、地下の駐車場まで下りる。

 地上から数km下に掘られて作られた

 そこにはエアカーと呼ばれるタイヤのない車が、白線の枠の中に何台も並んでいる。

 住民専用の駐車場で、部屋ごとに止める場所が決められている。

 俺達、須崎原家の駐車場は地下57階にある。

 

 地下57階に着いたエレベーターから出ると、メタリック色なデザインの車が並んでいる駐車場がある。

 駐車場を照らすのは、天井一面に嵌められた発光する1m四方のタイルだ。

 

 自動運転でエンジンを掛けると地表から50cm浮いて走行するこれらは、デコボコ道や凍結した道を気にする必要のない物だ。雨が降ったときにできる水溜まりを飛ばすこともないしな。

 

 

「よっと」

 

 

 目的の場所、我が家に定められたスペースに着き愛車に跨がる。マイバイクだ。

 SX-2500。120年ほど前に流行したモデルだ。

 バイクもエアバイクとなっているが、俺のはタイヤがついている。まぁ、エア系統に煽りを受けて使われなくなったタイプだな。

 動力はエアバイク同様電気で、燃料エンジン独特の音と臭いはなくて面白味はないが、時代がそうなのだから仕方ない。

 

 と語ってみたが、VRには昔ながらの車やバイクに乗れるのだが。

 

 

「起動」

 

 

 ウゥン。

 

 静かな駆動音。声紋認証と共に起動したSX-2500は充電状況や走行記録、車体の状態を空中モニターに投影する。

 数秒してallclearの文字が出て、問題ないことを俺に伝えた。

 

 

「それじゃ、いこうか」

 

 

 一声掛けてから右手のアクセルを回して発進させる。地上に出るには専用のエレベーターがあり、そこまでバイクを進めた。

 

 

「地上一階」

 

 

 ボタンを押す必要はない。声でエレベーターはしっかりと認識してその通りに動いてくれる。便利な世の中になったもんだ……なーんて年より臭いことを思わなくもない。

 

 数分して到着したエレベーターにバイクに跨がったまま乗り、地上に出る。そとはすっかり暗い。

 俺はそのまま車道に出てバイクを走らせ、バイト先へ向かうのだった。

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