そこは日本の中心。物理的にではなく、対外的にだ。
経済、政治、情報、他にも様々なものが集約されている。今の日本を動かしている中枢と言える。
バイクで駆ける俺の眼前には三角柱の形をした建造物がある。周囲には数kmに渡って木々が広がっている。
我が家から車で優に数時間は掛かってしまう場所にそれはある。俺のバイト先だ。
マザーハウス⋯⋯それがあのビルの通称だ。正式名称は長くて覚える気にもなれない。まぁ、テストにさえマザーハウスで出てくるんだ、問題はないだろう。
木々の間を迷路のようにいりくんだ通路を進む。ジョギングコースとしても使われるここは、正しい道を進まないと中心のマザーハウスに辿り着けないように設計されている。
理由は多々あるが、一番は自国企業、他国からのスパイ対策だ。
当然道を知っているやつの後ろを付ければ辿り着けるのだが、そこはこちら側の腕の見せ所である。如何に上手く追跡者を巻けるかのな。
「まぁ、基本、マークされてるのは政府の要人で、俺みたいなガキが目を付けられることはまずないんだけどな」
とはいえ、用心に越したことはない。わざと遠回りに、右へ左へと進路を変え、速度を上げる。
今の時代、人工衛星からでも鮮明な監視ができる。と言っても、ここ一体の区域はジャミングされててボケるらしいが。
ただ、この区域に入るまでは見れてしまうわけで、頻繁にマザーハウスに近付く姿を見られたら怪しまれる可能性は大きい。
まぁ、犯罪の少ないこの時代で、俺だと判別できたとしても、監視する側は何をするでもないけどな。
15分ほどマザーハウスの周囲を走り続け、ようやく正規のルートを通る。
付ける影はないし監視されているような気配もない⋯⋯いや、ひとつだけマザーハウスに近付いたときから俺を見る眼があるが、それは関係ない。
ともかく、問題はないと思っていいだろう。
正規のルーに入って5分ほどすると、遠目から見えていた三角柱の建造物が正面に姿を見せた。
言葉通りに天を突き抜けるほど高く
直径10mには高さ2mの柵があり、外からの侵入を拒んでいる。
俺がマザーハウスの門に近付くと、門は自動的にスライドして開く。備え付けの防犯カメラで俺の姿を確認したんだろうな。
開いた門を通り、指定されている駐車場にバイクを止めてマザーハウスの唯一の出入り口であるガラスの自動ドアの前に立つと、左右にスライドして開く。
屋内は緑の薄暗い電灯が照らす。部屋の中心にはドウナッツ状のカウンター。受付だ。
だが、今は誰もいない。日中なら誰かしらいるんだが、7時が定時のここはもう誰もいない。薄暗いのもそれが理由だ。
そもそも俺は受付は関係ないのだから誰かいても意味はないのだが。
いつものように入り口から向かって右側のエレベーターに乗り、「シークレット」と呟く。
「っ、急の点灯は止めてくれって言ってるだろ」
エレベーター内も薄く照らされていただけだったが、俺の呟きに呼応するように明るく中を照らす。
突然増す光量に眼を細めて誰に言うでもなく苦言を呈する。徐々に眼が光に馴れてきた頃、エレベーターのドアが開く。
エレベーターの外は、大きなドーム状の部屋になっている。高さ10mほどの天井に端から端まで500mはある広場。ここが俺のバイトの仕事場だ。
『時刻通りですね、宏壱』
部屋の中心まで進むと、背後から抑揚のない女の声が掛けられる。
振り向けば桃色の髪を羽の髪飾りで特徴的な団子にした長髪の女がいた。緑と白を基調とした服の胸部は大きく盛り上がり、ミニスカートから覗く太股はむっちりと肉感的で俺の情欲を誘う。
問題なく美少女と言っていいその女は、“恋姫夢想”という作品に出てくるヒロインの一人、“劉備玄徳”またの名は“桃香”だ。そして何より、嘗て俺が愛した女でもある。