真剣で私を護りなさい! 暁の従者   作:乱月

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002 憐桜学園 登校

『お前等ヒヨッコは、時に過ちを犯す!』

 

 講堂に集められた生徒100人以上。

 皆緊張した面持ちで、段の上に上がっている教官を見つめる。

 

『ボディガードとプリンシパルは、物理的に近しくとも、精神的に、身分的には遠い存在だ!

 共に生活する中で、まれに実らぬ恋心を抱く奴らもいる。

 お前等はどうだぁ!?』

『我々は過ちを犯しません!』

『声もチ○ポも小せえ!!』

『我々は、過ちを犯しません!!』

 

 教官の野太い怒号と、生徒の必死な声が講堂に響く。

 

『オラア朝霧! テメエ人の話を聞いてんのかあ?!』

 

 朝の目覚め。

 

 朝っぱらから教官の夢を見てしまった。一年前、耳にこびりつくほど聞かされた言葉。

 それがまさか夢にまで出るとはな。

 

「心配されなくても、あんなガキに惚れねえよ」

 

 ベッドから立ち上がり、朝の支度を始める。

 クローゼットの中には学園を辞める際、寮に置いていったはずの白い学生服があった。

 

「またこの服を着ることになるとはな」

 

 そう言いながら、オレは制服を着る。

 顔を洗ったり、髭を剃り、朝の支度を終わらせ部屋から出ると、壁にもたり掛かった金髪メイドがいた。

 

「よう、海斗。軽々と李を返り討ちにするなんざあ、お前、面白い奴だな」

「誰だよ、お前」

「あー自己紹介がまだだったな。私はステイシー・コナー。九鬼家従者序列15位だ。よろしくな」

 

 そう言いながらステイシーは右手を差し出す。ここで握手を断る理由もないので、こちらも右手を差し出した。

 

「ふうん。近くで見ても、こりゃあ中々のイケメンだな」

「オレに惚れるなよ」

「はっはははは! ジョークのセンスも李並かよ!」

 

 それは褒めているのか貶しているのか分からないが、ここは深く突っ込まないようにしよう。

 

「ま、お前気を付けろよ。昨日の李もだが、他の連中も、お前のことを怪しんでるぜ」

「怪しむって、そんなに変なことした覚えはないぜ?」

「んなこと言ってもよお、いきなり紋様専属の、見習いのボディガードが来たら誰だって怪しむぜ? 学園入学までの経歴不明、学園での成績は下から数えた方が早い。なのにヒュームやクラウディオが、紋様の護衛には十分な人材だと太鼓判を押す。これで怪しまねえ方がおかしいだろ」

 

 ステイシーの言い分は理解できるが、昨日のメイドはそんな理由でオレを試したのか。

 もっとも、目の前にいるステイシーも、オレに僅かながら殺気を放っている。

 ここのメイドは、どうも好戦的らしいな。

 

「ま、気を付けろよ? 九鬼家従者部隊ではどうやってお前を陥れようか考えている輩は沢山いる。私や李みたいに、お前の実力を試す目的以外の連中がな」

「……と言うことは、お前も近いうちにオレと戦おうっていうのか?」

「さあ? それはどうかな。じゃあまたな」

 

 ステイシーはそのまま踵を返して、どこかへ行く。

 オレも遅れぬよう、従者専用の食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒いベンツで送迎され、もう二度と潜ることのないと思っていた憐桜学園の門を潜った。

 

「随分と賑やかなんだな」

「そうなのか? 我は初めてこの学園に来るので、よく分からぬ」

 

 今まで一年間、ボディガードの訓練生しかいなかった、あっちの校舎とは大違いだ。

 紋白を先導に学園の中へ行く。

 それまでの間で、異様な視線を数多く感じた。

 

「うそ……なんで九鬼さんが訓練生を連れているの?」

「なんで朝霧が隣を歩いてるんだぁ!?」

 

 その視線はほとんど元クラスメイトや憐桜学園のお嬢様のものであった。

 あるいはそのお嬢様が連れているボディガードだったり。

 

「我が訓練生を連れてくるとは、誰も思っていなかったようだな」

「そりゃそうだろ。一年生の中で訓練生を連れているのは、お前ぐらいだろ」

 

「よっ、海斗。またすげーお嬢様に付いたみたいだな」

 

 声のする方を見ると、そこには憐桜学園の制服を着た、赤いツンツン髪が特徴の男がいた。

 正確に言えば、そんな風に見えるロボットがいた。

 

「色々な意味でな」

「でもいいなー。俺のプリンシパルなんて可愛くねえし乱暴で困っちゃうよ、ほんと」

「お主、もしや倉屋敷重工の」

「え? 俺のこと知ってるんですか? いやまいっちゃうな、こんな可愛いお嬢様に名前を覚えて貰えるなんて。

 あ、自己紹介が遅れました。俺の名前は綿織侑祈《ニシコオリユウキ》です」

 

 どっからどう見ても普通の巨乳好きの男にしか見えないが、その実、倉屋敷とかいう会社が作り上げたアンドロイド、らしい

 

「フハハハハーッ! 我の名は九鬼紋白! 気軽に紋様と呼ぶが良い!」

「はい! 紋様! いやー羨ましいぞ、海斗。こんなに可愛いプリンシパルで」

「そうか? オレにはよく分からんが。

 ……そう言うお前のプリンシパルは何処なんだよ?」

 

 二学年に進級したオレたち訓練生は、普通特別なこと無い限り、プリンシパルと離れて行動することはない。

 なのに侑祈は一人でオレたちと会話をしている。

 

「ああ、うちのチンチクリン? 和葉ちんなら家で研究してるよ。

 滅多なことがないと、学園に来ないんだよね」

「なるほど、だからお前だけなのか」

 

 侑祈と雑談をしていると、不意に紋白が精一杯背伸びをして、オレの耳元で侑祈に聞こえないように話しかけてきた。

 

「侑祈は、本当にロボットなのか? 何処からどう見ても人間にしか見えぬぞ」

「あー確かに見た目は普通の人間だが、実は本当にロボットなんだよ。今から証拠見せるから、よく見とけ」

 

 オレは侑祈に向かって、ある単語を言う。

 

「スパイウェア」

「あぶっ、」

「ワーム」

「あぶばべぶぶぶっ!?」

 

 侑祈は身体を断続的に震わせ、耳から煙が出ている。

 こいつは何故かコンピュータ関連の、特にウイルス関連の単語にめっぽう弱い。

 

「おお。本当にロボットなのだな」

「でもこいつ、自分のこと人間って思いこんでんだ」

「海斗ぉ! てめえ人が嫌がることをすんじゃねえよ!」

 

 勢いよくオレに突っかかってこようとする侑祈だが、

 

「トロイの木馬」

「あべしっ!?」

 

 と某北斗七星拳の必殺技を喰らったやられ役さながら、ボンッと顔が蒸気で爆発して、その場に倒れてしまった。

 

「んじゃ、さっさと教室に行くか」

「だ、大丈夫なのか?」

「平気だ」

 

 まあ前もこんな風になって、生き返ったから大丈夫だろう、たぶん。

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