真剣で私を護りなさい! 暁の従者   作:乱月

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003 憐桜学園 麗華との出会い

 紋白と別れ、自分の教室に入ると、一年間毎日一緒にいた人物がいた。

 

「おはよう海斗。昨日の始業式はサボってどこに行ってたんだ?」

「おはようさん薫。昨日は色々あったんだよ」

 

 南条薫《ナンジョウカオル》。腰まで伸びた長髪に、非の打ち所のない美男子として、学園では通っている。

 男しかいない一年生時代、女とも負けず劣らない美貌で魅了された男子は数知れず、同級生に夜這いを何度も受けた。

 もちろん薫はそんな輩を返り討ち。中にはそれの所為でボディガードの道を諦めた者までいる。

 

「また同じクラスとは、奇妙な縁もあったものだな」

「だな。尊《ソン》はこのクラスじゃねえのか」

 

 尊というのは以前同じクラスメイトで、一応憐桜学園の主席である。本名は宮川尊徳《ミヤガワタカノリ》。ボディガード名門の家系だとか。

 

「ああ。尊徳なら、隣のクラスだ。あとこのクラスには侑祈もいる。今日はまだ、来ていないようだが」

「そうか」

 

 そりゃあ、オレがショートさせちまったからな。しばらくは動けないだろう。

 

「それで、海斗のプリンシパルはどこにいるんだ?」

「あーオレのプリンシパルは学年が違くてな。一緒のクラスじゃねえんだ」

「学年が違う? なんだ、私と同じではないか」

 

 そう言えば薫も一学年上の奴がプリンシパルだっけか。侑祈もプリンシパルが滅多に学園に来ないって、三人もプリンシパルのいないボディガードが揃ってるよ。

 

「それで、誰の護衛をしてるんだ?」

「九鬼だ。あのクソチビ貧乳の」

「ああ、九鬼家の……って、九鬼家だと?!」

 

 ざわっ、と周囲の空気が変わる。

 

「まさか、一学年下の、あの九鬼紋白さまのことを言っているのか?」

「そいつ以外に、他に九鬼家の人間がここにいるのか?」

「いや、いないが」

「だったらそいつで間違いない。まったく、面倒なプリンシパルに当たっちまったぜ」

 

 やれやれ、とオレは首を振る。

 オレの言葉が信じられないのか、薫は驚愕の表情を浮かべる。

 

「なぜ、海斗が九鬼さまの護衛になったんだ?」

「あー実は昨日なあ」

 

 オレがどうして紋白のボディガードになったのか掻い摘んで説明した。それと、学園を辞めて駅前で本を読んでいたらって言うと、こいつはまた変なことを言うであろうから、適当にサボっていることにした。

 出来るだけ真実を話したつもりだが、薫は信じられないという顔だ。

 

「ちょっと信じられない話だが、本当なのだな」

「まあな。オレだってあの時ばかりは、どこの小説の世界に紛れ込んだかって思ったからな」

 

 あの事件がなければ、こうして薫とも話すことはなかっただろう。そう思うと、改めてあの誘拐事件はオレの人生を大きく変えたものだと実感する。

 

「だとすると、海斗の本来のプリンシパルは誰だったんだ?」

「本来の?」

「ああ。春休みに事前に連絡が来たはずだろう? 昨日九鬼さまのボディガードになったのなら、その前のプリンシパルがいたはずだろう?」

「あ、あー誰だったかな。覚えてねえわ」

 

 実は学園を辞めるつもりだったから、あまり気にしていなかったしな。

 

「まったく、海斗らしいな」

「いやーそれほどでも」

「褒めてはいないぞ」

 

 はあ、とため息を吐く薫。

 ガラッ、と勢いよくドアが開けられると、そこには怒りの表情を露わにした侑祈の姿があった。

 

「海斗お! てめえ人のことをおちょくりやがって?!」

「お前、人じゃねえだろ、ロボットだろうが」

「はあ?! なに訳分かんないこと言ってんだよ?!」

「事実だろ、なあ薫」

「事実だが、海斗、また侑祈をショートさせたのか?」

「ん? まあな」

 

 薫は小声で、侑祈に聞こえないように話してくる。

 

「あれほどショートさせるな、と校長直々に言われただろう?」

「そうだっけ?」

「そうだ。侑祈が壊れたら、それこそ億という金が必要なんだぞ? お前に払えるのか?」

「そんな柔な奴なら、一年もあの訓練をこなせるかよ」

 

 事実、侑祈は一年間訓練を耐え抜いた。オレがふざけ半分で侑祈をショートさせたこともあったが、自己修復してこうして直る。

 筋力も身体の耐久力も、人間のそれを遙かに凌ぐ。ハッキリ言って、侑祈とは真っ正面から戦いたくはない。

 

「さっきからなに喋ってんだよ?! つーか海斗、お前に一つ言いたいことがあるっ」

「なんだよ、いちいち騒がしい奴だな」

「今回のお詫びとして、紋さまと食事をさせろっ」

「はあ? あいつと?」

 

 怒りの表情から、いやらしい笑みを浮かべる侑祈。

 

「いつも不良のアウトロー気取りの癖に、こういう時だけ真面目気取りか?」

「そう言う訳じゃないが、オレの一存では決められないだろ」

 

 幾らオレが許可したところで、紋白が嫌だと言えば、それまで。安易に侑祈に答えるわけにはいかない。

 

「だったら聞くだけ聞いてくれ。それで駄目なら諦めて、海斗とバトルにするわ」

「……なんでそうなるんだ? 結果なんて見えてるだろ」

「そうだぞ侑祈。なんで海斗と戦いたいんだ? 結果など、侑祈の勝ちで決まっているだろ」

 

 薫の言葉に、やれやれ分かってないな、と言うように侑祈は肩を竦めるジェスチャーをする。

 

「俺は薫や尊に絶対勝つ自信はあるけど、海斗はそう言い切れないんだよね」

「言い切れるだろう。海斗は下から何番目だと思ってるんだ?」

「えーっと、下から三番目」

「それに海斗は、尊徳や私と模擬試合を何度もしたが、海斗が勝ったことは一度もないぞ」

 

 薫の言うとおり。オレは禁止区域出身と言うことを隠して生きるため、出来るだけ目立たぬように授業、特に体術などの授業は極力手を抜いている。

 最低ラインのぎりぎりをキープしながら。

 

「ま、どうでも良いじゃん、そんな事。俺は海斗と戦えればそれで良いの」

 

 不敵な笑みを浮かべる侑祈。全く、これでは紋白に否が応でも侑祈と食事を取らなければならなくなっちまったな。

 

「ちょっと、アンタらそこにいると邪魔なんだけど」

 

 侑祈の背後から、女性の声が聞こえた。

 

「あ、すみません、麗華お嬢様」

 

 と侑祈が退けると、そこには紋白に負けずと劣らないロリキャラが現れた。

 某国民的RPG風に言うならば、

『なぞ の ロリツインテールしょうじょ が あらわれた!』

 と言うべきであろう。

 

「……アンタ、見ない顔ね。誰?」

 

 と、突然ロリツインテールが俺に声を掛ける。

 つり上がった瞳に、まな板を思い浮かばせる残念な胸。将来性すら感じさせない残念なスタイルだった。

 

「そんなにデカい図体して、自己紹介も出来ないの?」

 

 ふむ、高圧的な態度だ。お嬢様ってのは、いつもこんな感じなのか?

 

 さて、ここは素直に自己紹介をすべきか?

 

 

 

 1 自己紹介をする。

 2 ボケて薫の自己紹介をする。

>3 胸を揉む。

 

 

 

「お前本当に鬼畜だな!?」

「なに空に向かって喋ってんのよ。頭沸いてるの?」

「いや、何でもない。ちょっとした独り言だ」

 

 ここでお嬢様の胸なんか揉んだら、一発で小説終了だ。分かるか?

 ここは大人しく自己紹介をするんだ。

 

 

 

 1 自己紹介をする。

 2 ボケて薫の自己紹介をする。

>3 胸を揉む。

 

 

 

「だから、オレはやりたくないんだ! 無茶振りは止めてくれ!!」

「南条、私そんな無茶を言ったかしら?」

「いえ、言っていません。すみません、彼、時々あんな風になるのです」

 

 いいか? よーく考え直せ。

 あの無乳と呼べる胸を、人生捨ててまで揉みに行くメリットは一つもない。

 諦めて自己紹介をするんだっ。

 

 

 

 

 1 自己紹介をする。

 2 ボケて薫の自己紹介をする。

>3 胸を揉む。

 

 

 

 

「静まれ、オレの右腕っ」

「……こいつは一体何をしてるの?」

「中二病でも発病したんじゃないんですかね?」

 

 良いか? 次がラストチャンスだ。

 次選んだら、マジでそれを実行するぞ?

 分かったらさっさと選択肢を選べ。

 

 

 

 

 1 自己紹介をする。

 2 ボケて薫の自己紹介をする。

>3 胸を揉む。

 

 

 

「ゴメン、侑祈っ」

「おわ?! いきなり何すんだよ?!」

 

 オレは侑祈の胸を揉んだ。もっとメカメカしい感触だと思っていたが、意外と本物の人間に近い感触だ。

 もちろん男の胸の感触だがな。

 

「すまない、神からの指令に逆らえなかったオレの弱さの結果だ」

 

 残念だったな。胸を揉むと言っても、それが誰にするのか書かれていなかっただろ?

 恨むなら選択肢を恨め。

 

「オレの名前は朝霧海斗だ。で、お前は何処の誰だよ」

「ボディガードの癖に、随分荒々しい言動ね」

「すみません、麗華お嬢様。彼にはあとで指導をしますので」

 

 薫はそう言いながらオレの頭をゴツンッと殴り、後頭部を押さえつけて無理矢理お辞儀をさせる。

 

「別に大丈夫よ。今回は特別に許してあげる」

「許してあげるって、何様のつもりだ」

「麗華お嬢様だっ」

 

 そう言って、薫はオレの後頭部をまた殴った。

 これで俺の脳細胞は何万死んだのだろうか?

 

「良いわ。むしろ気に入ったわ、海斗」

「は? 気に入った?」

 

 自分で言うのもなんだが、こんな態度も性格も悪い奴を気に入るお嬢様って、変だろ。

 見ろ、侑祈や薫だけじゃなく、他のクラスメイトがポカーンとオレとお前を見てるぞ。

 

「私は二階堂麗華よ。それで、アンタのプリンシパルはどこにいるの?」

「なんでそんな事、聞くんだ?」

「アンタを、私のボディガードにするため」

 

 

 

『……………………………………………………はあ?!』

 

 

 

 これが、二階堂麗華とオレの初の対面であった。

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