真剣で私を護りなさい! 暁の従者   作:乱月

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005 小笠原諸島 上陸

 オレが紋白のボディガードとなって初めての日曜日。

 

 突然だが、オレは今ヘリコプターに乗り、小笠原諸島の真上にいる。

 

 どうしてこうなったのか。それは今朝まで遡る。

 

『よし、今日は書斎で本を貪り尽くしてやるか』

『フハハ! 海斗、聞いて驚け。今日はなんと、海へ行くぞ!!』

 

 回想終了。

 そんなこんなで俺の貴重な休みは紋白の護衛になってしまった。

 オレとしては貴重な休みを、読書に費やしたかったわけだが、プリンシパルの命令には絶対服従なので、こうして付き合っているわけだ。

 面倒臭いが、こうして新たな地に足を運ぶというのも悪い気はしない。九鬼家にいる限り、退屈な日常はなさそうだ。

 今回の目的地である、小笠原諸島の九鬼家が所有する島は一部高級ホテルのようなデッカいビルがポツンと一つあるだけで、他は大自然に囲まれた場所だった。

 隣ではいつも通り元気な紋白がいる。

 

「海斗、実は今日ここへ連れてきたのには理由がある」

「理由? 遊びや仕事に来たんじゃねえのか?」

「仕事でもあるが、今日は海斗とあやつらの顔合わせだ」

 

 顔合わせって、こっちはもう何百人の九鬼家従者部隊と喧嘩売られたりちょっかい出されたりして人の顔なんざ覚える気にもならねえ。

 その何百人の中で覚えてるのは、李静初とステイシーと、あと変な鯉っつー優男ぐらいだ。

 

「それで、オレは誰と顔合わせをするんだ?」

「海斗は、武蔵坊弁慶や源義経、那須与一を知っているか?」

「ああ。本で読んだことがあるぜ。確か平安時代の人間だろ? それがどうかしたのか?」

「ならば話は早い。聞いて驚け。なんと九鬼家は、先ほど申した三武将を、現代に蘇らせた!」

 

 フハハ! と紋白は無い胸を張って高らかに笑う。

 いやいやいや、紋白の言っている意味が分からねえ。なに? タイムマシンか何かで過去からその三人を連れてきたのか? それとも最新のクローン技術で、弁慶達のクローンでも作ったってえのか?

 どちらにせよ、どこのSF小説だよっ、て突っ込みたくなる。

 オレが理解していないことが分かったのか、紋白はさらに補足説明を始める。

 

「九鬼家は約二十年ほど前から、極秘に弁慶や他の武将達のDNAを収集し、今日この日まで、この島で弁慶達を育てていたのだっ」

 

 ははーなるほどなるほど。なんだ、そんな事だったのかよ。いやほんとすげーな、九鬼……………………って、

 

「育てた?! 弁慶や源義経とかを?!」

「その通りだ。過去の武将を現代に転生させる。これを我らは武士道プランと名付けた!」

「いやいやいや! 確か世界じゃクローンは倫理に反しているから御法度だったろ?」

「ほう、海斗はこちらの世界に来て一年も経たぬのに、よくそのような知識を持っておるな。感心したぞ」

 

 感心しなくて良い。幾ら九鬼でも、そこら辺は危ういんじゃねえのか?

 

「まあ、確かにこのことを公表すれば、そのような意見も出るであろう。しかし、昔の偉人を現代に蘇らせて、何が問題ある? クローンの元も、既にこの世にはおらぬ」

 

 確かに最早いもしない人間のクローンを作ったところで、問題があるようには思えない。

 

「分かった。じゃあこの話は終わりだ。それで、そいつらとオレが顔を合わせる理由が何処にある?」

「おお、言い忘れていた。実は6月から、その三人が神奈川の川神学園に入学する予定になっている。我も武士道プランの総轄として、川神学園に編入する」

 

 なるほどなるほど。つまり紋白がその川神学園に行くってことは……………………、

 

「……オレはどうなんだよ」

「もちろん海斗も、川神学園に編入だ」

 

 ……はあっ?!

 待て待て待て、ウェイウェイ、落ち着け、落ち着けよ、オレ。

 今このチビッコなんつった? 今日は色々驚きすぎて、もう訳が分かんねえ。

 

「心配しなくとも、海斗は卒業までの二年間、特別枠として憐桜学園に在籍しておくように話を通しておる。定期的に試験や訓練に参加すれば、二年後にはボディガードの資格も取得できる」

 

 いや、そんな事は心配してねえよ。

 そうオレは心の中で紋白にツッコミを入れる。

 ヘリコプターは、高度を下げながら島唯一のビルの屋上のヘリポートに着陸した。

 

 

 

 

『我はクラウ爺と共にこのビルで仕事をする。三人とも、今は外へ出かけているようだから、海斗も外で体をリフレッシュさせながら弁慶達を探してこいっ』

 

 と言うことなので、オレはジャングルと海しかない空間に放り出されてしまった。

 クソッ、都会っ子であるはずのこのオレ様が(大嘘)こんな田舎どころの騒ぎじゃ済まない大自然で生き残れるわけねえだろ!!

 

 とまあ冗談はさておき。こんな自然しかないところで何をして暇を潰そうか。ジャングルは兎も角、オレは海というものが初めてなので、それなりに興味がある。

 

 大自然の中に、オレはいた。

 

 白い砂浜に青い海。青い空に白い雲。

 

 そして、砂浜の上に立つ、全裸のオレ。

 

「ひゃっほーーーーいっ!!」

 

 オレは年甲斐もなくハシャぎながら海へダイブ。

 

「あはははははっ! しょっぺーーーー! しかも生臭いっ!」

 

 ぶるんぶるんと効果音が付きそうな程、オレの息子は暴れる。まあ隠すものも納めるものもないから当たり前か。

 

 そんなこんなで数十分海で戯れ終え、砂浜とジャングルの境にある木に掛けて置いたスーツを着ようとするが、そこでオレは気付く。

 

 そう言えばタオルとか持ってきてねえじゃん。

 別にオレは拭かなくても大丈夫なのだが、このままスーツを着ようものならスーツは汚れて、最悪スーツが傷む可能性がある。

 

 どうしようか、と考えていると、ジャングルの方から誰かが来る気配を感じる。気配は普通の人間とは違い、何か凄いものを内に秘めているような、そんな気配だ。何を秘めているのか分からないが、相当なものだろう。

 

 誰だ? と自問して、ああ弁慶か誰かか。と一人で納得する。

 

 確か弁慶達は全員文献上では男性の筈だから、俺のオレを見たところで騒ぎにはならぬだろう。

 

「……いち~~、どこにいるのだ~~」

 

 そう思っていると、ジャングルの茂みの向こうからその気配の主が現れた。

 

「与一ぃ~~、ここにいたの…………」

 

 目が合う。

 ジャングルから出てきたのは、オレと年も変わらないほどの、黒髪のポニーテールに可愛らしい顔をした女の子だった。

 左腰には多分、本物の真剣を携えている。剣にはそれなりに自信があるのだろう。

 

 彼女は全裸のオレを上から下まで見ると、見る見る内に顔を真っ赤に染め上げ、

 

「きゃああああああああああああああああ!!!!」

「ぎゃああああああああああああああああ!!??」

 

 鞘に収まったままの剣でオレの股間を殴った。オレはそのまま股間を痛がる振りをすると、彼女は

 

「ご、ごめんなさいっ」

 

 と顔を真っ赤にしながらジャングルの中へ戻っていった。

 まさか今のが弁慶か誰かか? いやそれにしても女性な訳ないだろ。

 そう思いながら何事もないように立つと、今度は背後からの気配を感じた。

 振り向くと、そこにはモジャモジャ頭の女性が妙にホッコリした顔でジャングルに入っていった女性の方を見ていた。釣り道具一式と、酒が入っていそうなヒョウタンを引っ提げていた。

 

「…………」

「…………」

「…………(ぺこり)」

「…………(ぺこり)」

 

 何故かお辞儀をしてしまったが、相手も返してくれた。先ほどの女性のように、逃げる動作もないので、それなりにコンタクトを取れそうだ。

 

「あんた、面白いね。ずっと見せてもらったよ。素っ裸で海に入ったり、義経にあんな可愛らしい反応をさせたり」

「見てたのか?」

「まあね。久しぶりに見たよ、あんたみたいなバカ。見てて楽しかった」

「褒めても何も出ねえよ。それよりここってシャワーねえのか?」

 

 ああ、それなら。とモジャ女は竿をオレから見て左の方に指し、

 

「あっちの方にシャワールームがあるよ。それほど遠くないし、今は使う人もいないから、多分他の人と会わないと思う」

「サンキュー。じゃあオレはここで」

 

 とオレはスーツを持って立ち去ろうとするが、モジャ女が俺を呼び止める。

 

「待って。折角だから自己紹介をしてくれないか、海斗?」

「……何でオレの名前を?」

「前々から聞いてたよ。紋様直属の出来損ないボディガードの朝霧海斗。

 私は武蔵坊弁慶。面倒だけど、6月からよろしく」

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