「流石九鬼財閥、こんな辺鄙な島にも本はあるもんだな」
弁慶たちとの挨拶を終えて九鬼のビルに戻りブラブラしていると、書斎を見つけたので本を読むことにした。
種類も様々で、歴史について記された本も多数存在する。
弁慶たちが活躍する平安時代はもちろん、国内外問わず様々な歴史本もあった。
ヨーロッパ、北米、南米と順に見ていき、最後にアジア全域の歴史本を眺めていると、一つ違和感を感じた。
アジアの歴史を語るうえで、最も外せないある国の、ある年代の歴史本だけが、なかった。
他の書棚を見るが、ない。まるで誰かが意図的に排除したように、あの歴史に関する本が全く存在していない。
しかしオレはそんなことにいつまでも囚われることなく、面白そうな推理小説を見つけたので、手に取って立ち読みする。
数ページ読み、面白そうだったので手元に残す。他の本も見て、面白そうな本を5冊ほど持ち、書斎の奥にあるテーブルに着く。
「あん?」
テーブルには、既に先客がいた。
腰以上に伸びている綺麗で乱れのない長髪に、オレンジ系統の色の花飾りをしている少女が本を読んでいた。
その姿があまりにも似合いすぎている。文学少女という言葉がしっくりとくる少女だった。
その少女は夢中に本を読んでいるようだったので、オレは少女の視界に入らないように遠くの席で本を読むことにした。
「あ、あれ? 君、いつの間にそこにいたの?」
《犯人多田野隆宗の容疑否認》の第3章《取調べ》を読み終えた直後、先ほどの少女がオレに気付いたようだ。
「君、もしかして朝霧海斗くん? 紋様専属ボディガードの」
「ここでもオレの名が知れていたか。自己紹介が省けて助かる。で、お前は誰だ?」
「私は葉桜清楚です。義経ちゃんたちと同じ、クローン人間です」
へえ、弁慶以外にもクローンがいたのか。
しかしクローンってことは歴史上の人物だよな。葉桜なんて名前の奴、いたか? 単にオレの勉強不足かもしれないが。
すると清楚は察したのか、微笑みながら言う。
「実は私、誰のクローンだかまだ分からないんです」
「はあん、じゃあ葉桜清楚ってのは偽名って訳か」
「はは、偽名って訳じゃないよ。もう十年以上この名前で呼ばれているから、改めてクローンの名前にするのは、ちょっと抵抗あるかな」
「そういうものか。それにしても夢中だったな。その本、面白いのか?」
「うん、《昨日の天気雨にな~った》っていう小説。あまり知られていない作品なんだけど、すごく面白かったよ」
「お、それ読んだのか。起承転結の纏まりかたや恋愛模様の描写が上手いんだよな」
「朝霧くんも読んだの? 本の趣味合いそうね」
しばらく本の話題で花を咲かせる。まさか九鬼家にここまで本の話が合うやつがいるとは嬉しい限りだ。
そんなこんな話をすること数時間、外はすっかりと暮れてしまっていた。
「あら、もうこんな時間。紋様のところへ戻らなくていいの?」
「別にどうって事ねえよ。九鬼家のど真ん中で紋白を誘拐しようなんざ考える奴はいねえだろ」
「噂通り、朝霧くんって不真面目なのね」
「何を言う。オレほど主人に忠実なボディガードは他にいまい」
「まず、主人を呼び捨てにしている時点で忠実ではないような気がするけど」
と、不意にケータイが鳴る。
誰だとディスプレイを見ると、そこには紋白の名前が浮かんでいた。
「よう、なんだ?」
「なんだではない! 海斗、今どこにいるのだ? お前は我のボディガードであろう! 常に我の隣にいろ!!」
「ガキじゃねえんだから一人で待ってろよ」
「待ってもう日が暮れておるだろう!! 今何時だと思っておる!?」
「もう夕飯の時間だな」
「分かっておるわ! 兎に角、さっさと戻ってくるのだぞ!!」
一方的に通話を着られたので、ポケットにケータイを戻す。
まったく、耳元で怒鳴られてはかなわん。どうやら清楚にも紋白との会話が聞こえたようで、ふふふ、と微笑している。
「やっぱり、朝霧くんって不真面目ね」
「やっぱり言うな。これでもオレとしては忠実なんだよ」
「それは兎も角、紋様と良い関係を築いているようね」
「どこがだよ、紋白すんげー怒ってただろ」
「紋様があそこまで怒っているのは初めて見たわ。それほど朝霧くんを認めているのよ」
「どこをだよ。オレが認めてるんなら怒ったりしねえだろ」
「ううん、違うよ。認めているからこそ、朝霧くんにはちゃんとして欲しいから怒っているのよ」
そんなもんかね。俺には到底理解できそうにない話だが。
「安心したわ。それなりに朝霧くんを信用しているようで」
「そうか?」
「そうよ。きっと朝霧くんのことを、深く理解している証拠よ」
まあ確かに、あいつはオレの深い部分、禁止区域出身だということを知ったうえでボディガードにしたからな。オレのことを理解していると思っているのだろう。
オレがあそこで何を犯し、何をしてきたことなど知らず、この世界で生きている価値もない男を、理解した気になっているのだろう。
「それじゃあ、紋様がこれ以上不機嫌になる前に戻りましょうか」
そうして、クローンたちとの顔合わせは終わり、オレと紋白は九鬼家本社へヘリで帰ることとなった。