『赤蜻蛉』   作:城元太

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――⑪――

 

 

 八日目の対決

 

 

 

 虎挟み、ではなくゾイド挟み。名前なんてどうでもいい。巨大なトラップが5つ積まれていました。ゴジュラスのバイトファングを思わせるような、鋭い牙を持った鋼鉄の罠です。

 集会場に連なる並木道と果樹林の手前で、ローバーに乗ったままフランツさんが指示します。

「お前らは俺の決めた場所にトラップを仕掛けてこい。

 風向きに注意しろ。奴は嗅覚センサーまで発達させている気配がある。2人とも風下の西側から回り込んで行け。それが終わったら、お前、俺のゾイドを引っ張って来い」

 ロードスキッパーから降りたフランツさんが、手綱をヘルマンに渡しました。荷台から降ろした荷物を開けて、巨大なミサイルランチャーを組み立てていきます。

 ヘルマンのローバーから、ミサイルの詰まった弾倉ケースを掴み、老人とは思えない強靭な瞬発力で駆け出しました。肩に手持ちミサイルランチャーを担いで。

「行きます」

「はい」

 トラップを仕掛けに西側に回り込みます。集会場の方からの激しい銃撃音。硝煙の匂い。デスピオンらしき影が突き進んで行くのも見えました。

 最初の2つは2人で仕掛けました。

「自分はフランツさんの所に戻る。残りの設置を頼みます」

「はい。あなたも気を付けて」

 ヘルマンが一度だけ振り返り、もと来た道を引き返して行きます。私は風上に立たないように注意しつつ、フランツさんの指示に従ってトラップを仕掛けていきました。

 集会場で爆風。フランツさんのミサイルが命中したのでしょうか。奇声を上げるデスピオンがわかります。残りひとつ。

 トラップの仕掛けが終わりました。私は予てからの指示通り、来た道をヘルマンの様に戻っていきました。

 

 

 

 

 

「待たせて悪かった」

 

 硝煙の奥、肩に巨大なミサイルランチャーを抱えた人影が立っていました。

 仰向けになって腹部を晒すことを恐れたデスピオンは、尾部を器用に使ってすぐさま元の体制に戻ります。背中の部分の装甲板が擦られて、地の白い色を覗かせました。

 フランツさんは、デスピオンを見据えたまま立っています。デスピオンも、目に当たるセンサーを正面に据えたまま、睨み合いになりました。デスピオンが奪われた1本の脚の感覚を確かめるように忙しく足踏みをしています。

 尾部が鎌首を擡げます。パルスビーム砲の発射体制です。

「フランツさん!」

 ローバーに乗って、ロードスキッパーを連れたヘルマンが駆けつけます。パルスビーム砲の射線が、ヘルマンに向けられます。その一瞬の隙を逃さず、フランツさんが再び手持ちミサイルを発射しました。

 ミサイルの弾道が放物線を描きます。重力によって加速された弾丸は、正確にデスピオンの右側、既に1本足が失われている方へと到達します。金属の焼ける匂いと激しい火花。ゾイドの上げる悲鳴のような音の中、硝煙の後にはいびつに傾いたデスピオンの姿が浮かび上がりました。脚がまた2本、飛び散っています。右側に残された足は1本だけ。右のハサミを地につけなければ歩けなくなり、電磁波発生アームの使用も制限されます。

 ロードスキッパーに飛び乗ったフランツさんは、これ見よがしにデスピオンのセンサーの前を横切って走っていきます。7tの巨体を持ち上げるデスピオン。その動きは、もはや遊びではなく、怒りに任せた凶獣そのものでした。そう、子供が怒って無茶苦茶に手足をバタつかせる様に。

 ロードスキッパーに装備された重機関銃が、デスピオンの動きを牽制するために撃ちこまれます。装甲板を叩く程度の被害しか与えられないのですが、それがまたデスピオンの怒りを焚き付けるようです。右の身体を引きずり、腹を擦りながら、デスピオンが走ります。また、尾部が持ち上がります。再度パルスビーム砲の発射体制を取ろうとしています。しかし、あそこには。

 ガシャーン、という甲高い金属音が響き、デスピオンの動きが一瞬止まります。私たちが仕掛けたトラップに、今度は左側の脚が挟まれたのです。充分な加速のついていた巨体に引きずられ、左側の1番後ろの脚が引き千切られました。尻餅をつく様に倒れたデスピオンは、擡げた尾部のパルスビーム砲も一緒に空を向き、虚しく天空に向けて弾道を伸ばして行きました。

 

 ロードスキッパーで充分な距離まで離れると、空かさずにヘルマンが駆け寄ります。

「徹甲弾」

「これです」

 ランチャーに色違いのミサイルが乗せられます。デスピオンの右斜め前、パルスビーム砲が向いていない方向。ロードスキッパーを飛び下り、片膝を着いて照準を定めます。

 尾部が再び擡げ、パルスビームの射線が緩やかな弧を描き、フランツさんに迫ります。着弾まであと数メートル。

 ランチャーから火箭が伸びました。ミサイルが黒い風に乗って、デスピオンの尾部に吸い込まれました。銛のような弾丸が飛び出し、パルスビーム砲ごと尾部を吹き飛ばしました。

 悲鳴を上げるデスピオン。左のハサミを無茶苦茶に振り回し、センサーを光らせて迫ってきます。しかしそこにも。

 再びガシャーンという金属音が響きます。もう1つのトラップが、残っていた右の脚を切断しました。切断された脚部は、くるくると回転しながら、マルベリーの林に落下していきました。

 完全に身体を傾け、歩くことの出来なくなったデスピオンは、もはや射撃の的に過ぎません。

「電磁砲」

 ヘルマンが、電磁砲を構えます。出力が弱く、充分に引き寄せてからでないとシステムを麻痺できない武器です。

 その時のフランツさんは、ひどく悲しげな顔でデスピオンを見つめ、呟いていました。

「お前との遊びの時間は終わりなんだ」

 

 青く輝くセンサー目掛けて、ヘルマンが引き金を引きました。

 雷撃のような光が奔り、デスピオンの身体に吸い込まれます。距離にして約3メートル。

 瞬間、残った脚部とハサミ、そしてパルスビーム砲を奪われた尾部が、一気に力なく項垂れました。ゆっくりと関節の向きを地上に下ろしていきます。がっくりと肩を落とすように、デスピオンは動きを止めました。

 漂う硝煙の中、麻痺したデスピオンの巨体の前に、煤に塗れた2人の男性と、ローバーに乗った私がいました。

 2日走り通しの、自分自身の汗の臭いにその時気が付きました。

 

 息をつめて見つめていた集会場の窓から、歓声が上がります。

 

 私たちは、デスピオンを捕獲することに成功したのです。

 

 

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