『赤蜻蛉』   作:城元太

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――⑫――

 

 

 九日目

 

 

 

 

「御協力に感謝します」

 

 鎖でがんじ搦めに固定されたデスピオンの機体が、開拓局のグスタフの荷台に積まれていました。生き残った村のみんなが、恐る恐る取り囲んでいます。荷台の隣には、ロプサンさんとルイスおじさん、そしてヘルマンが集まって、開拓局の職員と何か話しています。

「被害の補償は、当然開拓局が負担してくれるのでしょうね」

「この野良ゾイドの捕獲の褒章金と機体の譲渡額は、今回の武器や装備品、それに店の修理代を含めての支払いを要求します」

「軍籍を抹消されているようですが、今後の対応を検討願いたいのです。出来ることならもう一度、ニクスで、いや、エウロペでもいいので、以前の研究を継続したい。特にこのゾイドに関しては、自分の研究課題と重なる部分があるのです」

 

 突然、デスピオンに向けて駆け寄って来た人がいました。手に長い棒きれを持って。固定されたデスピオンを、棒切れで叩き始めました。

 鈍い音がして、装甲板が軋みます。目に一杯の涙と、怒りを浮かべながら。

「家族を返せ」

「畑を戻せ」

 イさんでした。慌てた職員が、イさんを取り押さえて引き摺っていきます。奇声を上げながら、その場から引き剥がされて行きました。

 

 センサーには、まだ僅かな光が点っています。こちらを見て、会話を聞いているのかもしれません。日常を取り戻した人々の社会の動きを見つめながら、あのデスピオンは何を思っているのでしょうか。

 

(だから時々悲しいの)

 

 また、母の言葉を思い出しました。

 ラッタナを下りて、私は縛られたデスピオンの横に立ち、静かに歌いました。

 

 

 夕焼け小焼けの赤とんぼ

 

 止まっているよ竿の先

 

 

(いつか、この国が、幸せで満たされますように)

(いつか、この大地に、豊かな恵みが育みますように)

(いつか、この星にも、赤とんぼでいっぱいになりますように)

 

 

 私たち人は、ゾイドを利用して来ました。でも、それは一方的なもの。この星でのゾイドは、この星の自然そのもの。

 

(ゾイドは、本当はみんなやさしい気持ちをもっているの)

 

 自然から生まれた人も、自然から生まれたゾイドも、同じ自然の一部。

 

(いつでも人間のために働こうとしているの)

 

 でも、いつの間にか、人はゾイドを戦いの道具にして、利用するだけとなっていった。どこか遠くの星から飛来した、ゾイドを道具としか見ない人達によって。

 センサーの光が一瞬輝きました。私の唄に、無邪気に喜ぶように。

 

 開拓局の職員は、要求に大きく頷くと、幾つかの書類と契約書を渡し、2人の職員を残してグスタフを始動させます。

「エミリー、お別れです。いろいろお世話になりました」

 ヘルマンは再び軍務に復帰する決心をつけました。この村に住んでもらってもいいと密かには想っていましたし、彼もそんな素振りを見せてはいました。でも、目の前に現れた魅力的な研究材料の誘惑に勝てなかったようです。彼は少し興奮しながら説明していました。

「このデスピオンの複合装甲は、金属生命体の特徴とは相反する有機結合なのです。それに思考形態がこれまでのゾイドとは全く違う。スケルトン部隊の装備がなぜエウロペにいたのかも究明したい。自分は自分にできる方法で、戦友たちの犠牲を償いたいのです」

「兵隊さんは、ここに残る気はないのかね」

 見送りに来ていた祖母が、もう一度ヘルマンに尋ねました。

「ここは素敵な村でした。正直残りたい気持ちはあります。しかし自分の能力を試してみたいのです」

「どうせなら、エミリーの婿さんにでもと思っていたのだがね」

「ばあちゃん!」

「おばあさん!」

 父と私と同時でした。

 私は赤面し、ヘルマンは当惑の表情を浮かべています。

 でも、当惑しつつも冷静な表情を崩さない彼の顔を見て、そこには友情以上の感情が無いことに気付かされました。ヘルマンは微笑みながら手を振ります。

「近いうちにまた御挨拶に伺います。このゾイドの研究結果の報告と、荒らされた耕地の復興のお手伝いをさせて頂きたい。軍属からの解放は、それからでも遅くないでしょう。それまでみなさん、お元気で。フランツ大尉にも宜しく」

 狭い畦道を、グスタフが去って行く。荷台で手を振り続けるヘルマンと、デスピオンを乗せて。

 後ろ向きに積まれたデスピオンのセンサーが、寂しそうに見つめています。

 あなたは遊んでほしかっただけ、でもその方法を間違えた。

 

「フランツさんは」

 ロプサンさんに聞きました。

「武器の事を含めて、全て私に任せられたのさ。あの人では貰える金も貰えないだろう。心配しないでいいよ。フランツさんは今回の事件の大手柄の主役なんだ。充分なお礼はさせてもらうつもりさ」

 

 あれからすぐ、フランツさんはまた家に閉じこもってしまい、会うことができませんでした。折角手に入れたミサイルランチャーも、再びロプサンさんに引き渡し、残った武器も引き取ってもらい、ロードスキッパーだけを連れて戻ってしまったのです。

 ルイスさんたちが何度も訪れ、お礼の言葉や感謝を示そうとしても、以前以上に声を荒げて追い払われたそうです。

「お前らは卑怯だ。都合がいい時ばかりいい顔をして寄ってくる」

 そう言ったきり。

 

 野良ゾイド騒動で荒れ果てた村に、やっと平和が訪れました。残された果実や穀物の収穫作業を急がないと、出荷に間に合いません。太陽は真上にさしかかった頃です。

 私たちは点となったグスタフを背に、再びこれまでの営みを行うために、それぞれの家に戻っていきました。

 

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