『赤蜻蛉』   作:城元太

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――⑭(最終話)――

 

 

 

 

 一年後

 

 

 

 

 首都では先帝の一周忌を迎え、喪が明けたルドルフ皇帝の正式な戴冠式が盛大に挙行されていました。そして私たちの村も収穫期を迎え、黄金色に染まった穀物と、豊かに実った木々の実が、私たちに喜びをもたらしていました。

 昨年の悪夢のような野良ゾイド事件を振り払うように、その年は最高の収穫となったのです。あの時以来何度もヘルマンがやってきて、土壌改良の手伝いをしてくれたこともあります。様々な作物が実り、生活にも余裕が生まれました。

 私は「赤とんぼ」の土産作りは止めてしまいました。あの九日間のことを思い出してしまうから。それに、他にもやることが増えていたからです。

 シルクを紡ぎだす蚕という昆虫の飼育が、村で始められていました。モルガに似ていて、モルガの様に愛らしい昆虫です。蚕棚の中に黄金の繭が次々と張られていきます。見ていて楽しいのですが、世話をするのは大変でした。

 まだまだマルベリーの葉の刈り取りに慣れていないので、葉を食べる蚕の速さに刈り取りが追いつきません。

 刈り取り作業の合間の畑の中で、思いきり背筋を伸ばして立ち上がり、大きな欠伸(あくび)をひとつ。

 

「エミリー、がんばっているね」

 欠伸(あくび)の途中で、慌てて口を押さえます。

 ガイガロスから戻った、隣のポールでした。

……しっかり見られたかな。少し恥ずかしい。

「今日は外診ですか」

「いや、ロプサンさんの店まで薬の買い付けだよ」

 

 ずっと背の高さも同じだったのに、帰ってきたらいつの間にかに追い越されていました。

 サンテシマさんの亡くなった後、彼は母親のマリアさんと一緒に診療所を引き継ぎました。幼馴染として遊んだ頃と違い、見違えるように成長して。

 祖母はまた、彼に私の婿に来て欲しいと言い出し、父と一緒に呆れていました。二言目には「曾孫の顔が見たい」です。

 

「エミリーちゃん、レメ君、こんにちは」

「シムスさん、こんにちは……こんばんはかな」

 擦れ違いで、3人に家族の増えたシムスさん夫婦が我が家の方から帰って行きます。生まれて3か月のかわいい男の子で、昨年の出来事以来、家族でよくうちに遊びに来るようになりました。祖母が盛んに結婚を勧めるのもそのためです。

 でも、私は16歳で嫁に行く気はありません。

 

「姉ちゃん、お腹すいた」

 去年よりもかなり身長が伸びたのに、まだレメディオは甘えています。

 夕日が傾いていきます。日暮れまで、あと僅か。

 

 ふと、夕日の中に、透き通った4枚の羽を持つ小さな生き物が横切って行きました。

 大きな目に細長い体。素早く空を飛んでいきます。

 金属生命体ではありません。有機体、蚕と同じ昆虫です。

 全身が、夕焼けの様に真っ赤な色の昆虫。

 

「赤とんぼだ」

 

 ヘルマンが復活させたのでしょうか。それとも偶然再生されたのでしょうか。

 あのデスピオンにも似た、しかし小さくて、儚くて、美しい昆虫が、無数にこの大地に舞い上がりました。

 大地の豊かさを現すように、無数に、無数に、赤とんぼが舞っています。

 

「レメ、一緒に歌うよ」

 

 

 

 

 夕焼け小焼けの赤とんぼ

 

 負われて見たのはいつの日か

 

 山の畑の桑の実を

 

 小籠に摘んだは幻か

 

 十五で姐やは嫁に行き

 

 お里の便りも絶え果てた

 

 夕焼け小焼けの赤とんぼ

 

 止まっているよ竿の先

 

 

 

 

 

 私と弟の声が、夕日に舞う赤とんぼの群れに吸い込まれるように響いていました。

 

(おかあさん、私は元気です)

 

 この平和が、この自然の恵みが、2度と壊されないことを祈るばかりでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半年後、西方大陸戦争が勃発しました。

 

                 『赤蜻蛉』(終)

 

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