『赤蜻蛉』   作:城元太

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――⑤――

 五日目

 

 頭上をホエールカイザーの巨体が飛び去っていきました。

 シティーの方角から、立て続けに戦闘用ゾイドが現れます。

 軍は飛行場を壊された報復として、面目をかけて野良ゾイドを捕獲する作戦を始めました。イグアン・モルガ・ゲーターなどの第一線で活躍する小型ゾイドと、村を覆い尽くすような大量の兵士。もはや村の人々を守る目的など後回しになっていました。

 耕地は踏み荒らされ、村の家々は駐屯施設として強制的に借り上げられました。

 村民は避難を促され、野良ゾイドの進路が描く直線から最も遠い村はずれの大型仮設テントに集められました。数人の兵士が護衛についていますが、ゾイドは全て攻撃に回されているためありません。万が一ここに野良ゾイドが侵入してくれば、武器を持たず抵抗できない私たちに助かる可能性はないでしょう。

 テントの中には無線を持った兵士がいて、作戦の様子を教えてくれることになっていました。但し、私たちが避難をしてきた時からずっと不満そうな表情を浮かべています。この兵士にすれば、自分が直接戦闘に参加できないことが面白くないというように。だからルイスおじさんが何度か話しかけても、ほとんど何も伝えてはくれませんでした。

 それでも、避難時に最初に伝えられた大凡(おおよそ)の作戦の進み方と、今どのようにゾイドが戦う予定なのかはわかりました。

 各ゾイドを中心にした部隊が、ブロントシティーからセルン村へつながる道を塞ぐように置かれています。

 野良ゾイドが描く進路の直線を扇型に取り囲み、扇型の弧の部分に野良ゾイドが侵入すると同時にレーダーが感じ取り、一斉に攻撃をするのだそうです。できれば生け捕りにして、これまでどのように開拓局や駐屯軍の探索を逃れてきたのか研究するのだそうです。もしかしたら、共和国の工作員かもしれないので、その時は証拠として共和国につきつけ、徹底的に責任を追及するつもりだそうです。

 でもこれほど目立ってしまったら工作員の意味はなく、共和国の仕業ではないことだけは私でもわかりました。

 空は遠くまで澄み切って、収穫作業ができれば最高の日よりになるはずでした。

 しかし、青空の下果樹の間から唐突に聳えるイグアンの姿は、悪い夢でも見ているかのようでした。

 

 私は、納屋にローバー達を残してきたことが心配でした。仮設テントには限られた物しか持ち込めません。他の家でも、農作業に使っていたスパイカーやハイドッカーなどを残していて、もしシティーと同じように火災が発生したら見殺しになってしまいます。私は特に私に懐いていたクルンが、野良ゾイドに襲われないか、また軍の兵士に勝手に使われてしまうのではないかと、心配でした。

「姉ちゃん、いつまでここにいるの」

 弟が、誰もが口に出せずいた言葉を漏らしました。

「レメディオ、いま兵隊さんたちが悪いゾイドをやっつけてくれるの。だからそれまでの我慢なの」

「悪いゾイドって、どんなゾイドなの」

 それもまた、誰も答えることの出来ない質問でした。無線機を持った兵士は、露骨に眉を顰めて私の方を向きました。弟は私の背後に隠れ、それきり黙ってしまいました。

 

 テントから見える青空の一画に、すっと黒い煙が一筋上がりました。

 少し遅れて甲高い破裂音が響きます。戦闘が始まったようです。

 軍が張っていた警戒線の上を野良ゾイドが通過したのでしょうか。やはり白昼に活動し、まるで正面から軍と対決をするような行動でした。

 その後も断続的に銃撃音や爆発が起こり、一番背の高いイグアンが敵を求めて動き回る様子が窺えました。

 爆風のためでしょうか、戦場となっている方向から、鼻を衝くような硝煙の臭いが漂ってきます。それに混じって、何か生臭い匂いを感じました。

 これは、血の匂い。

 遠くの果樹林の向こう側で、凄惨な戦闘が行われているのが想像できます。

 銃撃や爆発の音は暫く続いていましたが、すぐに散発的になり、予想以上に早く終わってしまいました。

 無線を持った兵士が、何かマイクに向かって話しています。戦闘は本当に終わったのでしょうか。兵士が立ち上がります。

「やったのですか」

 兵士はジロリと見下すように睨むと「目下確認中だ」とだけ言って、テントの外に出て行きました。私たちは、黙って去っていく兵士の背中を見つめることしかできませんでした。

 それから数時間がたち、作戦の成功と終了が告げられた時には、空には満点の星が輝いていました。無線を持った兵士が戻ってきて、機械的に戦いの結果を伝えたのでした。

「本日昼、ブロントシティー方面より進入してきた正体不明のゾイドは、軍の一斉攻撃により鎮圧。その際激烈な攻撃の為未確認ゾイドは徹底破壊され、その機種選定に至るまで時間がかかる模様。

 地域住民に於いては、未確認ゾイドの脅威が鎮圧されたため、各自の責任に於いて帰宅することを許可する。なお、一部不発弾等の存在も考えられるため、もし発見した場合には速やかに開拓局もしくは駐屯軍本部まで申し出るように。以上」

「野良ゾイドは、やっつけたのですね」

 ルイスさんが聞き返しました。

「報告は以上だ」

 兵士はそれきり口を噤んでしまいました。

 避難していた村民の間から、安堵の声があがりました。長い間苦しめてきた野良ゾイドが、漸く退治されたのです。お互いに肩を叩きあって、明日からの収穫作業についての準備を話し合う人たちがいました。

 一応野良ゾイド事件は終了を見たのですが、私の中には何か煮え切らないものが残っていました。本当にやっつけたのだろうか、あの攻撃で、あのずる賢いゾイドはたおせたのだろうかと。でも、今は軍の言葉を信じる以外にありません。私たちは漆黒に閉ざされた畦道を、月明かりだけを頼りに各々の自宅に戻っていきました。

 火薬と機械油と果樹の焼け焦げた匂いが残っています。月明かりに照らされた焼かれたマルベリーの林は、骸骨(スケルトン)のように白く浮かび上がっていました。村の畑は、野良ゾイドを倒す道連れに殺されたような気持になりました。

 私たち家族は無言で家路を歩いていきました。夜も更け、緊張の解けた弟は父の背中で寝息をたてていました。

 

 家に帰ってみると、母屋も納屋も壊された様子はなく無事でした。ですが、真っ先に入った納屋の中、ローバーのクルンだけがいなくなっていました。

「クルン、どこにいるの、クルン」

 手綱が切れても、決して遠くに行くようなゾイドではありません。それとも攻撃作戦の時の爆発に驚いて、林にでも逃げ込んだのでしょうか。

「あんたたち、クルンを知らない。どこに逃げたの」

 ラッタナやプラマハに聞いたところで、答えてくれるはずもないのですが、ただどちらのローバーもひどく怯えている様子でした。

 私は父と祖母に、クルンがいないことをいいましたが、2人とも当惑した顔をするだけでした。

 

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