中間テストも終わり、なぜこんな時期にやるのか分からない、職場見学当日となった。
俺は比企谷の様に最後尾と言うわけではないが、勇紀と並んで歩いていた。因みに坂本は戸塚と喋りながら歩いている。頑張れ坂本。負けるな坂本。お前が戸塚と付き合えば俺の被害が減る。
と、そんなどうでもいいことを考えていると、勇紀が声を掛けてきた。
「なぁ、正平。お前、川崎の事どう思ってる?」
「はぁ?まさか、お前…」
「いや、そういう意味じゃ無くてだな。川崎、ここ最近変わったと思わねぇか?」
「あー、そっちね。まぁ、変わったんじゃねぇの?比企谷達がなにかしてたみたいだし」
「そうか」
何か感傷に浸っている勇紀をほおっておいて、俺はクラスメイトの後ろをついて歩く。
それにしても、勇紀は周りをよく見てるなぁと思う。
俺の記憶だと、勇紀は川崎と話しているところを見たことがない。
そんな事を考えていると、職場見学が終わりに近付いていた。
ちらっと、後ろを見ると、平塚先生と比企谷が話しているのが見えた。
そしてそのまま俺は近くにある座れそうな場所を探し、そのまま座った。
正直疲れた。運動音痴で人並みにしか体力のない俺だと、この後あるであろう打ち上げに参加できない。
そんな事を考えていると、クラスメイトが、これからどうする?打ち上げにいこ。と言う会話をしていたのでこれから打ち上げにいくようだ。
そして、そのままボーッとしていると、比企谷と、由比ヶ浜が話しているのが見えた。何やら話しているようだ。
読唇術は持っていないので、何を話しているか分からない。あ、由比ヶ浜が泣きながら出ていった。
さてと、俺はどうしようかな。取り合えず比企谷に何をやらかしたのか聞くとこからしてみるか。
「よう、比企谷。さっきなに話してたんだ?」
「お前には関係ない」
俺には関わらせようとしない。そんな事をはっきりと言われているみたいだ。と言うより言っている。
だが、俺にはそんな事情知ったことじゃぁない。比企谷は忘れているかもしれないが、俺は俺のやりたいように行動する。
だから、敢えてもう一度聞く。
「比企谷なに話してたんだ?」
「だから、お前には関係ない」
そう言って外に出ようとする比企谷の服をつかみ後ろに引っ張りバランスを軽く崩させる。
「おいおい、人との会話を無理矢理終わらせようなんて、酷いことするなぁ比企谷は。まぁ、なに話してたかは大体予想出来てるからどうでもいいんだけど」
「ならいいだろ?帰らせてくれ」
「だからこそお前に聞きたいんだよ。お前、なんで由比ヶ浜を拒絶した?」
俺でも驚く程のドスの効いた声が出た。勿論比企谷も、意外そうな顔をしていたが、すぐに態度を戻した。
「そこまでわかってるならいいだろ?俺は帰―」
「『お前のとこの犬助けたのは偶然だ。あの事故がなかったとしても俺はどうせボッチだった。東山に何を言われたか知らんが、そんな理由で関わんな。不愉快だ』とでも言ったんだろ?」
そういうと、比企谷は、歩みを止めこっちを向いた。
「で、それがわかってお前はどうするつもりだ?」
「いや、なにもしねぇよ?」
そういうと比企谷はポカーンと毒気の抜かれたような顔をした。
ただ、ひとつ訂正するなら、俺は由比ヶ浜になにもしないだけで、比企谷には何かする。と言うことだけだろうか。
「なら、もういいだろ。お前も小四の時の事を引きずっているなら忘れろ。あれがなくてもどうせあのあだ名はついた。だから、お前も―」
「ふざけんな‼」
気づくと俺は叫んでいた。それが比企谷に俺の生き方を否定されそうだったからなのか、俺自身を否定されかけたからなのか、それとも、比企谷が上から目線で言ってきたからなのかは分からないが、それでも比企谷にそれ以上言われたくなかった。
だから俺は叫んだのだと思う。
そう考えていると、段々と冷静になっていくのを感じた。
「なぁ、比企谷。なんでお前はそんな上から目線でものを言うんだ?」
そう聞くと比企谷は俺が叫んだことに呆気にとられていたのか、はっとした顔で答えてきた。
「は?上から目線?なに言ってんだ?」
「いや、どう考えてもお前は上から物をいってるだろ。たまにお前何様だよ。って思うときあるし。それに、人が誰に関わるかなんてお前が決める事じゃないだろ」
比企谷は、心底意味が分からないと言う顔をしている。
正直なぜわからんとしか俺は思えない。分からないならもうそれでいいやと俺は思ってしまった。
「そんじゃな、比企谷」
そう言って俺は見学先を出ていった。
それから家に帰り、咲がいつもと同じように迎えてくれた。
その時に、腹が立っていたからか、思いっきり咲を数発殴った。その時に喘ぎ声が聞こえたのはご愛嬌と言うものだ。
「お兄ちゃん、何かあった?」
「まぁ、あったっちゃぁ、あったな。でもお前には関係ないことだから気にすんな」
「そっか。無理しないでね?お兄ちゃんも居なくなったら咲どうなるか分からないから」
そういうと咲は抱きついてきた。俺たちを育ててくれた両親が亡くなり、咲は肉親と思っている俺が亡くなる事を恐れている。
そのため、両親がいた頃よりも、抱きついてきたりすることが多くなっている。本人いわく、風呂に入っている間に死んじゃったらどうしようとのことだ。
流石にそれはないと言ってはいるが不安は拭えないのだろう。脱衣場で、1分おきに声をかけてくる。返事をしないと風呂場に突撃してくるほどだ。
まぁ、そんなどうでもいいことだが、比企谷は運がいいと思う。事故にあっても生きているのだから。
だから、俺は比企谷を妬んでいたのだろう。
俺を育ててくれた両親が事故で死んだのに、血の繋がっている両親ももういない俺にとっては、比企谷が羨ましく、そして妬ましいと思っているのだろう。
そう思うと、俺もまだ子どもなんだなぁ、と安心できる。
だからと言って、比企谷に当たるのは間違いだったと今更ながらに思ってしまう。
恐らく俺も恐れていたのだ。知り合いが自分の目の前からいなくなることを。
そして、俺は風呂に入り、咲の作ってくれたご飯を食べて、咲と同じ布団で寝た。