欠けたこころ
職場見学が終わり一週間がたった。
俺がいつも通り部室に向かっていると、平塚先生と遭遇してしまい、平塚先生の仕事を手伝っていた。
因みに、手伝っている内容は、小学生の林間合宿のサポートボランティアの募集の張り紙を掲示板に貼ることだ。
ただ、それでも、集まるかどうかは分からないが、そのときは平塚先生が何とかするだろう。
あ、あと一枚だ。
「これで終わりですか?」
「あぁ。助かったよ。ところで東山、最近由比ヶ浜が部活に顔を出してないようだが、何かあったのかね?」
平塚先生が唐突に聞いてくる。
恐らく平塚先生も何かしら思うところがあったのだろう。
職場見学が終わった始めの月曜に面白いことを考えた。と言っていたから、その事だろうと俺は推測してみる。
「あー、あったみたいですよ。詳しくは知りませんけど、比企谷がらみです」
「そうか。今日はここまででいいぞ。それと、鶴見先生が呼んでいたから、ちゃんといくように」
はーい。と返事をして俺は職員室に向かって歩き始めた。
鶴見先生が俺に何か用事があるようだが、それについてよく分からない。いや、語弊があるな。何となく予想はつくが、確証がないと言うだけだ。
まぁ、恐らく娘さんがらみなのは、確かだと思う。
鶴見先生の娘さんは、今小学生らしい。
俺は、その子について鶴見先生からいやと言うほど話を聞かせれていて、ある程度その子について相談を持ちかけられている。
正直なところ、他所の家のひとに自分の家の事を相談するのはどうかと思う。
だが、子持ちの先生方曰く、俺と話しているとつい話しているとの事だ。
そんな事を考えているといつの間にか、職員室に付いていた。
「失礼しまーす」
そう声を掛けて入ると、鶴見先生がさっそく声をかけてきた。
「あ、来たのね。こっちこっち」
「はいはい、今日はなんですか?うちの娘可愛いのよトークは飽きたので、別のにしてくださいね?」
「あら、うちの娘は可愛くないみたいな対応ね?また一から教えてあげようかしら」
「いや、流石にそれはやめてください。娘さんトークはまたの機会にお願いします」
あ、危なかった。さっきのまま話をすると、俺はロリコンに目覚めていたかもしれない。
そんなことで、捕まるのは勘弁願いたい。
「私としては留美ちゃんトークをしたいのだけど、今日はそれより東山くんに聞きたいのだけど、親に隠し事する子って主に何を隠してると思う?」
なるほど、親に沢山隠し事をしてきた俺だからこそ、俺に相談してきたのか。
「そうですねぇー。まぁ、一番に思い付くのは好きな子ができ――」
「それはないわ。あの子に限ってそれはない。寧ろあの子に言い寄る子がいるなら、私と夫で吊し上げるわ。それに、そんな浮わついたような態度じゃなかったもの」
何気に怖いことを挟んできたが、きちんと子供の事を見てるんだな。
「なら、後はいじ――」
「あの子が苛め?苛めを受けているの?そんな。それならまずは………」
それからぶつぶつと呟いている先生は正直恐ろしかった。
ちらっと聞こえてきたのが、一生癒えない傷を負わす?と言っていたので、苛めをする側だとは微塵も思っていないようだ。親バカもここまで来ると恐ろしいと言うものだ。
まぁ、このまま放置と言うわけにもいかないので、話を戻そう。
「まぁ、どちらにせよ、その娘さんに、カメラを持たせたらどうですか?確か娘さんの通う学校、夏休みに千葉村に行くはずでしたし。その時に好きな子なり、仲の良い子なりが、写真に写りますし。最悪、誰一人として写ってなくても苛められてるかもしれない。ぐらいはわかるかもしれないですよ?」
「そう。そうね。それじゃぁ、東山くん。話聞いてくれてありがと。お家まで送っていくわ」
「え、流石にそれは……」
「遠慮しないで。それに、もう下校時刻はすぎているのよ?それなのに生徒を一人で帰らせるなんて一教師として見過ごせないわ。それに、まだ留美ちゃんのこと話足りないのよ」
最後のが本音か。と言う突っ込みを心に留め、俺はそのまま、鶴見先生の車で家まで送ってもらうことになった。
そのあと目茶苦茶、留美ちゃんトークを聞かされた。
鶴見先生の車が見えなくなり、俺はそのまま考え事をしていた。
―もし、俺の本当の両親が生きていたらあんな風に心配してくれたのだろうか?
育ててくれた両親が愛情を注いでくれたのはわかっている。
だが、どうしても考えてしまう。
子持ちの先生方が俺に持ち掛ける相談に対応していると、ふとそう思うときがある。
―もし、親が生きていたら?
そんな叶わないif。
願ってももう戻らない時間。
今ある大切な家族。
事故。
それは、俺から親を奪った偶然。
親の温もり。
それはもう求めても無くて。
それはもう感じることのできない、俺の冷めた
それでも、求めてしまう
破滅。
それは、俺の冷めた
残された家族。
それは、俺の守りたい
これがある限り俺は矛盾し、正解を導き出せず、迷い続ける子羊。それが、俺。
ただ、一つ言えるなら俺は今を楽しく生きる。たったそれだけのこと。
そんな、一般的にはどうでもいいことを考えながら家の戸を開けると、エプロン一枚だけの咲がいた。
そして、そのまま俺はドアを閉めた。
俺はそのまま表札を確認すると、
東山
そうかかれていた。
仕方がない。
家に入ろう。
そう決心して家の戸を再び開けた。
そうして、迎えてくれたのは正座をし、丁寧なお辞儀をするバカな妹の姿だった。
「お帰り。お兄ちゃん」
「あぁ、ただいま」
俺は怒気をはらませた口調で返事をした。
「さーて、今日はどういたぶったろか」
そう言葉にしながら、下駄箱におかれている鞭を手に取る。
そう、コレが日常なのだ。
こうしないと、
俺も咲も。
そう思いながらまた一日が過ぎていった。