目の前に二組の男女がいる。その二組とも夫婦なのだろう。
俺はその光景を見て、懐かしく思った。
それが、一組が親父たちからなのか、それとも顔の見れない夫婦からなのかは分からなかったが、とても楽しそうに話している。
気づけば俺は、ふらふらとした足取りで、顔の見えない夫婦へと近づいていく。
―なんで居なくなったの?
そう、伝えたかった。
だが、声をうまく発することができなかった。
だから、伝えたいことが伝えれず顔の見えない夫婦が、俺を抱き上げたところで、シーンが変わる。
そこで、俺はこれは夢なのだと認識した。
そのシーンは、凄く凄惨なものだった。
血だまりができていて、俺はその血だまりで泣き叫んでいた。
そして、その声に気づいたのか、ドタドタと忙しない足音が向かってくる。
『――っ!』
何を言っているのかは理解できなかったが、誰かは認識することができた。
それは一人の男性だった。顔にはもやがかかっているが、先程親父たちと話していた、二人組の男性だと何となく理解した。
そして、その後ろから、ゆったりとした足音が響き、刀を振り上げ、男性に向けて振り落とした。
俺はよりいっそう、大きな声で泣き叫んでいた。
まだ、ギリギリ命があったのか、俺に被さるように抱きつき、刀を持っている人から、俺を庇う。
『――ろ!――!』
何を言っているのかは分からなかったが、俺に何かを託すように言っていた。
そして、男性は刀を持った人に切り捨てられた。
そのあと、パトカーの音が聞こえてきて、刀を持っている人は、窓を突き破り走り去っていった。
俺はその人が出ていったのに安堵したのか、眠りについていた。
――――――――――――――――――――――
俺が再び目を覚ますと目の前に、目を瞑った妹が近づきていた。
「なにしてんだ、咲?」
「お兄ちゃんがなかなか起きないから、お目覚めのキスをと思ったんだけど、だめだった?」
そう言う妹の顔は、いまなお近づいてきている。
俺はその額にデコぴんをして、流れるように頭を撫でる。
その時咲の顔が相当蕩けていて、モザイク加工必須な状態だったが、かわいいのでそのままなで続ける。
「んで、呼びに来たってことは朝飯できてんだろ?」
「ふにゃぁ~」
だめだこいつ。早くなんとかしないと。
言語能力が著しく下がった咲を横抱き(お姫様抱っこともいう)をして、リビングに向かう。
「お、お兄ちゃんのお姫様抱っこだ。初めてされたかも」
顔を赤くする咲をスルーして、リビングに入る。
そこには、一般的な家庭で出される、朝飯が用意されていた。
咲を俺のとなりに座らせて、俺はその飯を食べ始める。
咲の作った朝飯を食い終わり、俺は咲に話しかける。
「今日、親父たちの墓参りしてくるわ。留守の間よろしくな?」
「任せてよ。咲はお兄ちゃんのためならなんでもできるんだから」
「珍しいな。咲が、ついていく、って言わないなんて」
「咲だってそう言う日くらいあるよ。それに、良い妻は夫の帰りを待つのもだよ?」
「俺はお前を嫁にした覚えはない」
そう言って、脳天に手刀を落とす。
そして、俺は自分の部屋に戻り、着替えて墓参りの準備を済ます。
「んじゃ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃい。お兄ちゃん」
咲の台詞を聞いて俺は家をでて、親父たちの墓に向かう。
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俺は花についての知識は皆無なので、適当に店員さんに見繕ってもらう。
代金を払い、外に出ると、見知った人を見かけた。
「あ、東山くんだ」
その見知った人―雪ノ下陽乃は、俺に気づき声をかけてきた。
「こんにちは、陽乃さん。それじゃ、俺は用事があるので 」
そう言って、俺は足早に去ろうとするが、それを陽乃さんが許すわけもなく、更に、話しかけてくる。
「まぁまぁ、そう言わずに、お姉さんとちょっと話をしようよ」
「知りませんよ。構ってほしいなら妹さんにお願いしたらどうです?」
「私、東山くんに妹がいるって言ったことあったっけ?」
「いや、言ってなかったですけど、予想ぐらいはできますよ。俺が入っている部の部長なんですから」
そう答えると、へぇ~雪乃ちゃんがね。と意味深ことを言っていたが、俺はそれをスルーしてその場を去る。
が、陽乃さんはついてくる。
「なんなんですか。めんどくさい」
「お、ようやく話しかけてきた。その手に持ってるのが仏花だったから、誰のお墓参りなのかなぁってね?」
「うちの両親ですよ。これで良いでしょ?もうついてこないでくださいね。デパート辺りにいってみたらどうですか?もしかしたら妹さんがデートしてるかもしれませんよ」
陽乃さんは俺が教えるとは思わなかったのか、一瞬ポカンとして、すぐに底の見えない笑みを作り出す。
「意外だなぁー。東山くんがそんなことを教えてくれるなんて。まぁ、雪乃ちゃんがデートする可能性もなきにしもあらずだし、行ってみる価値はあるかな?」
そう言って、陽乃さんは踵を返して、駆け出していく。
「それじゃあ、またね。東山くん」
「はいはい。二度と会わないことを祈りますよ」
「つれないなぁー。でも、そんな風にはっきり言うとこ私は好きだよ?」
さいですか。俺はそう心のなかでつぶやき、今度こそ墓地に向けて歩き始めた。
――――――――――――――――――――――
墓地につくと周りには人が数えるほどしか居なかった。
そこから親父たちの墓のある場所へと向かう。
作法とかよくわからないから、とりあえず、枯れた花と、買った花を差し替える。
「親父。昨日咲に俺の目的否定されたよ。まぁ、それで、俺に迷いが生まれたんだぜ?笑えるだろ?」
そこからは、俺の経験した話などを語り続けた。
そして、今朝見た夢を語ろうとしたとき、こちらに向かって歩いてくる足音が聞こえてきた。
俺はその足音のする方に顔を向ける。
そこには、中性的な見た目の、恐らく男性。
それも、親父たちと同じぐらいの年の人だろうと予想をたてていると、話しかけてきた。
「やあ、君が東山正平くんだね?」
「ええ。そうですが、それがどうかしたんですか?」
「そんな警戒しないでくれ。私は君に何かする気はないのだから」
「それならまず、名乗ってくれませんか?俺の名前は知ってるみたいですし、怪しさ満点の人をそう簡単に信用するほど落ちぶれてもいないんで」
「ハハハ、これは失敬。私は藤堂冬至。君のお父さん、東山亮平さんの同僚だよ」
そういって、警察手帳を見せてくれた。こういうのってすぐ見せて良いものなんだっけ?
詳しくは聞かない方が良いだろうな。
「そうですか」
「おや、あまり興味無さそうだね」
「えぇ。全くありませんがそれがなにか?」
そういうと、藤堂さんは苦笑する。
「き、君は物怖じしないんだね。まぁ、いいか。君がここに来るとは正直驚きだよ」
「そうでしょうか?教育方針はおかしかったですけど、一応親ですし」
「そうか。世間話はここまでにして、君に訊きたいんだが、君のご両親は本当に事故で亡くなったと思うかね?」
「興味ありません。俺が聞いたのは事故で死んだ。それだけのことですから。もし、事故でなかったとしても、それを調べる気はないですけどね」
そう言うとまた、藤堂さんは苦笑し、真剣な表情に変わる。
「私たちは仕事柄恨まれることは多かったからね。もしかしたらって考えてしまうことが多いんだよ。とくに今回の件は」
「そうなんですか」
「君は本当に興味ないようだね。私がこれ以上話しても無駄だとみた。まぁ、こちらで捜査してみるから、君も気になることがあったら聞いてくれ」
そう言ってきたので、遠慮なく訊いてみよう。俺はそう思った。
「それじゃぁ、1つ訊いても良いですか?」
「勿論」
そう笑顔で答えてくれる。
「14年前の殺人事件についてなにか知ってますか?」
「14年前か。それに殺人事件となるとそれなりにあるから、それだけだと絞れないな。他は?」
「すいません。それだけしかわかりません」
「いや、いいよ。それで、どうして君はその事件について調べようと?」
「夢で見たからですかね」
「夢で、か。それだとますます絞れないかな」
「そうですか」
「おや、落ち込んでないみたいだけど」
「まぁ、興味本意で訊いただけですし。忘れてください」
「いや、そちらも調べてみるよ。それじゃぁ、私はこれで」
そういって、藤堂さんは墓地から出ていくと、自分の車に乗って帰っていった。
さっきの話がもし、本当に事故でなかったとしても、俺は興味ない。
どんなことがあったとしても、もう死んだ存在について調べても、その人が帰って来ることはないのだから。
そう思い、俺は家路についた。