俺はいつも通り目が覚めると、いつも通り咲を愛でようとしてあることに気づく。咲が、俺を抱き枕にして、寝ているということに。
別に抱き枕にされただけで興奮することはないが、こうもガッチリと身動きを封じられると困る。いつもの日課である、咲の頭を撫でることができないからだ。
いつもの超の付くほどのドMとブラコンのお陰で、気づきにくいが、咲も相当かわいいのだ。例えるなら、褐色じゃない静謐さんじゃないだろうか。
どことなく庇護欲をそそられる容姿が、特に似ている。
似てない点を挙げるなら、ドMと全身が毒でできていないところだろうか。まぁ、全身毒だらけの一般人がこの世の中にいるとは思えないので、似てなくて当然といえば当然である。
そんな事は置いといて、今はこの状況をどうやってくぐり抜けるかなのだが、全くもって動けない。
咲が、腕だけではなく、胴体までホールドしているせいで、身動きがとれなくなったのだ。
ただ、このままと言うわけにもいかず、どうしようか迷っていると、咲の寝言が聞こえてきた。
「………おにぃちゃんは、咲が……る」
最後の方がほぼ何を言っているのか分からなかったが、気にするだけ無駄だと思い、とりあえず顔を咲の方に向けると、呼吸が荒いことに気がつく。寝起きとはいえ、妹の異常に気がつけなかったのは、兄失格じゃないだろうか。
ショックを受けている暇はないので、とりあえず今の体勢のまま、咲の額に俺の額を当てる。
やっぱり、相当熱かった。それを確認し終えてリビングに向かおうと、無理矢理咲を引き剥がす。
そのときに、ぅぅん、や。と聞こえたが、今はスルーする。
そして、俺は急いでリビングに向かう。
リビングに入った俺は、救急箱から体温計、冷蔵庫から、冷えピタ、水を取り出すと、再び自分の部屋に向かう。
部屋に入ると、部屋を出る前より呼吸の荒い咲の姿が目に入る。
「…あ、おにぃ……ちゃん?」
「起きたのか」
「……うん」
「とりあえず寝てろ。学校には俺から伝えといてやるから」
「……分かっ…た」
そう言って咲は俺の布団を被り直すと、ゆっくりと目を閉じた。
咲が、目を閉じたのを確認すると、冷えピタを貼り、玄関まで行く。
そこにある固定電話で、学校に連絡をいれる。その時、総武高校の電話番号を確認したので、少し時間を喰ってしまったが、問題なく連絡をいれることが出来た。
『はい、総武高等学校です』
「もしもし、東山です」
『あ、東山くん?どうしたの?』
「いえ、実は妹が熱を出しまして、その看病で学校に行けないという連絡をいれようと」
『そうなの?ご両親は……そうだったわね。分かったわ、担任の先生には伝えとくわね』
「有難うございます。それじゃぁ、看病に戻りますんで」
『お大事にね?』
「はい。移らないように気を付けます。それじゃぁ、失礼します」
そう言って電話を切ると、お粥を作るための準備に取りかかる。
お粥を作るのは何時ぶりになるのだろうか。去年まではお袋たちがいたから気にしてはいなかったが、今年からはそうとはいかなくなってしましまった。
まぁ、今、いない人のことを考えたってしょうがないので、お粥を作る。
とりあえず家でスタンダードな、米を水に浸し、その水が沸騰するまで温めたやつに塩を掛けるという簡単なやつだ。
ここに卵やら色々なトッピングをするのが主なのだが、俺がそんな事をすると、由比ヶ浜クラスなので自重する。
そして、完成したお粥を茶碗に移し、トレーになにも入っていないコップと一緒に乗せ、自分の部屋へと戻る。
部屋に入ると、すぅすぅ、と寝息を立てて寝ている咲の姿があった。ある程度落ち着いたようだ。
俺は、トレーを自分の勉強机の上に置き、椅子に座る。
「……ぅ、ぅぅん。あれ?おにぃちゃん?」
「起こしたか?」
「…ううん。少し寝てただけだから」
「そうか。ならよかった。お粥、作ったから食えよ?」
「……食べさせて、おにぃちゃん?」
「はいはい。起きれるか?」
「……うん」
そう言って咲は体を起こし、俺の方に顔を向け口を開ける。
そして、俺はお粥をレンゲで掬い、すこし少し冷まし、咲の口へと入れる。その時すこし熱かったのか、あちっと言っていた。
そして、それを続けること数十分、お粥を食べさせ終わったので、水を飲ます。
「……ぷはー。おにぃちゃん、汗かいてきたんだけど」
「分かった。ちょっと待ってろ」
そう言って濡れたタオルを用意して、咲の部屋から着替えを取り出す。
そして、それをもって部屋に戻る。
「…お、お兄ちゃん?それ、咲の着替え……」
「あぁ、汗かいたんだろ?体拭いてやるからさっさと服脱げ」
「い、いいいいや、お、お兄ちゃんどうしたの?いつもならそんなことしないのに」
「お前は俺のかわいい妹なんだ、面倒ぐらい見て当然だろ?」
「うぅぅ、それはそうだけど、心の準備が……」
そういう咲を無視して、俺はさっさと咲の服を脱がし始める。
「も、もう!お兄ちゃん!咲一人でできるから、待ってよ!」
「咲、そんな大声出すな。余計悪化するぞ?」
「誰のせいだと思ってるの?」
そう言って咲は頬を膨らませる。さながら、ハムスターのように。
「悪い悪い。冗談だよ」
「…冗談にしてはたち悪いよぉ。そういえばお兄ちゃん。なんで、お兄ちゃんは咲が風邪をひいただけでそんなに過保護になるの?」
「そりゃぁ、お前が俺にとって最後の家族だから、だろうな」
そう言うと咲は顔を真っ赤にする。
「そうなんだ。咲が最後の一人なんだね?」
「そ、お前は特別なの。他のやつとは違う」
そう会話をしているうちに、咲は服を脱ぎ終え、背中だけを見せてくる。背中だけなら良いということなのだろう。
正直、俺が風呂に入っているときに、全裸で突ってくるやつの反応とは思えないが、まぁ、女の子らしく恥じらいがあっていいことだ。と少し関心してしまった。
そして、俺は咲の背中を拭いて、タオルを咲に手渡す。
「咲、1つ聞いていいか?」
「うん。なに?」
「なんで、昨日外に出たんだ?」
「そ、それは友達と約束してて」
「そうか今度からは気を付けろよ。普段から無理してるんだから」
そう言うと、咲は小さくうん。と呟き、体を拭き始めた。
それを確認すると、俺は部屋を出て、冷えピタの替えを用意するために、リビングに降りる。
それにしても、さっきのやり取りをしていて、あのときのことを思い出してしまった。
咲が小学生になり三ヶ月が過ぎたある日に、風邪を引いたことがあった。
その時ほど、恐怖を感じたことはなかったけど。
今その事を気にしても時間の無駄だから、俺の朝飯を用意する。
まぁ、朝飯と言っても、パンを焼いて、ジャムを塗るだけの簡単なやつなのだが。
軽く朝飯を済ますと、俺は咲の様子を見るために、部屋に戻る。
部屋に戻ると規則的な寝息を立てて寝ている咲の姿があった。
俺はそれを確認すると、部屋からでていき、リビングでテレビを見る。
ただ、面白そうな番組がなかったため、直ぐにテレビを消して部屋に戻る。
それにしても今日の俺は落ち着きが無さすぎる気がする。
いつもなら1つの場所にとどまってゲームでもしている筈なのに、それをしていない。
咲が風邪をひいたことが原因なのだろうか。
まぁ、どちらにしても、咲が心配なのは変わらないだろう。
だから、今もこうして、咲の手を握っているのだから。
高熱を出すと不安になると聞いたことがあると言うのと、ただ俺が咲にいなくなってほしくないと言うことが大きいのだろう。
俺は自己中なのだ。どんなに言い繕ってもそれだけは変わらない。だから、自分の近くの存在だけは、いなくなってほしくないのだと思う。
それなら今、俺がやることはなんなのだろうか。それが定まらない今の俺にはどうしようもない。
そんな事を考えていると、もう既に昼に近くなっていた。
さて、冷えピタは、まだ大丈夫そうだな。タッパに移したお粥を温め直して、咲に食わせてやらないとな。
中途半端ですが今回はここまでです。