「…………」
学年別トーナメント終了後、ラウラは1年寮の屋上で綺麗な満天の星空を見上げていた。
「……とても……とても強かったな……」
ラウラは静かにそう呟いた。
頭に思い浮かぶのは二刀を手に戦う一夏の姿。自分では、自分には届かない力……技術ではなく……
「まるで恋する乙女の顔だな」
「教官……?」
「ここでは……まぁ、良いか……どうだった?一夏は」
「とても、強かったです……私が思っていた以上に……技術面もそうでしたが、特に心が……」
「そうだろう、私の弟だからな」
「私は、ようやく『力』とは何なのか分かったような気がします」
微笑を浮かべながら千冬の方を向いてそう言ったラウラ。
「そうか……悪かったな」
「きょ、教官!?なぜ謝って居るのです!?」
「お前が執拗なまでに力を求めたのは……私が強い理由を技術しか教えなかった教えなかったからだ。私の力の源にあるのは圧倒的な『技術』……それを力だと思っていたお前は私になれるのだと思っていたのだろう」
「あ…………」
「その様子だと正解のようだな」
「…………」
「済まなかった……これからは『心』についても教えなければな」
その千冬の言葉にラウラは頭を横に振った。
それでは、ラウラにとって意味が無いのだ。心は……心とは……
「ラウラ?」
「私の信ずる『心』は自分で見つけなければなりません。教官に……いえ、織斑先生に教えられては私は、前の二の舞になってしまいます」
「そうか……なら、大事な話をしようか」
「大事な話?」
ラウラは首を傾げる。記憶を探っても特に大事な事はなかったとラウラは記憶している。
「そら、お前の相棒だ」
「あ、はい」
千冬が預かっていたラウラの専用機をラウラは受け取った。今まで、今回の学年別トーナメントに参加していた専用機持ちは学園側で精密検査をしていたのだ。ダメージがあった物は整備班に回し修理を行い、微調整を行っていた。
「お前の専用機だが……VTシステムが搭載されていた」
「『ヴァルキリー・トレース・システム』ですか……?あれはアラスカ条約で禁止されていたのでは?」
「そうだ。今やVTシステムは開発も研究も禁止されている。ドイツの馬鹿共はそれを乗っけていた」
千冬はラウラの専用機にその可能性があると思い今回のトーナメントに出場した専用機持ちの精密検査を行った。つまるところ、ラウラの専用機を解析するための建前が専用機精密検査である。
「起動条件は揃っていた時があったはずなのだが……」
「私は、一度その力を望みました……でも、あれはそのとき必要としていた力には遠く及びませんでした」
「……そして、二次移行か……お前の専用機はVTシステムを『記憶』として留めている。VTシステム自体が起動している訳ではないが……かわりに高度な戦闘アシスト能力を得たようだ」
「……大丈夫なのですか?」
「問題は無いだろう。今更削除しようが取り込まれていてどうにもならん」
「……そうですか」
「まぁ、お前には必要ないかもしれんがな」
千冬はそう言って寮の屋上から居なくなった。言うまでも無く、話は終わりだ。
「自分の道は自分で見つけよう」
ラウラは再び星空を見上げそう呟いた。
・―・―・―・―・―・―・―・
チリン♪
「お疲れ」
「お疲れ様」
一夏と結華はシャンパン(ジュース)のグラスを当てて乾杯をして一口口に含む。ほどよい炭酸と甘さが口の中に広がる。
ここは1年食堂の一番端、周りからは少し離れていて夜空も見える席だ。
そこには一夏、結華の他に簪にシャルルも居た。学年別トーナメント優勝ミニパーティーというやつだ。
「なんか……大人っぽい?」
「あはは……確かにそう見えるかな?」
テーブルにはターキー丸々1羽分、ホールショートケーキ1円、チキン山盛り、ステーキ(厚さ5センチ)4人分、ノンアルコールワイン、ノンアルコールシャンパン……などなど、てんこ盛りだった。全部一夏払いではあるが、問題は無い。
「……全部食べたら流石に太りそう」
「……おごって貰ったんだし食べなきゃダメだよね……僕、ちょっと太りやすい体質なんだよね……って流石にってどういう事!?」
「太りにくい体質……でも、流石にこれ食べたら太る……」
「……鶏肉は食べると胸が大きくなるって聞いたから僕の分食べる?」
シャルルの言葉に簪はシャルルを睨みながらチキンを受け取った。嬉しいのか怒ってるのか分からない簪。
「…………」
無言でチキンを食べる簪……チキンの山はあっという間に半分消えた。恐ろしき簪のコンプレックス。次に七面鳥に手を出そうとしたが……
「……………………」
キッと何も無い空中を突然睨む簪。
…………メタですか?メタ発言来ますか?
「……煩い、年齢=彼女居ない暦の作者」
メタ過ぎるわ!!てか、一時居たよ!!2、3日で別れたけど一応居たんだよ!!訂正しやがれ!!
「……ごめんなさい?」
「更識さん、何を言ってるの?」
「……メタ」
「作者を貶めるのはやめようよぉ!!」
「問題無い、先に貶したのはシャルルを書いた作者」
「だからやめようよぉ!!」
まぁ、メタ発言が止まらない簪・シャルルペアは良いとして……(作者が悪いとは言わない)一夏・結華ペアを見に行くとしよう。
「――ところで一夏」
「何だ結華?」
「大事な話があるわ」
「何だ?」
結華は一呼吸置いてから言った。
「結婚するわ」
「いや、まだ俺出来ないぜ?」
前々から話していた内容だった。シャルルの養子縁組に結婚が必要なのは決定しているので後は一夏と結華が書類に記入&捺印するのみなのだが結婚可能年齢に達している結華はともかくとして一夏にはまだ15歳のため出来ないのだ。
「問題無いわ、今一夏の所属している国家は無いから一夏は例え0歳児でも結婚は出来るのよ」
「そうだったのか……」
「因みにハーレムも多重婚もOK」
「しないからな!?」
「そうね、そうよね……意気地無し」
「結華今何て言った!?俺の中で多重婚はNGなんだけど!?」
なんか……ボケとツッコミの応酬が繰り返されているな……もうちょっとどうにかしないと……(文才的な意味で)。
「で、ここには私の旧姓印鑑・新姓印鑑と一夏の印鑑、ペンそして婚姻届、シャル用の養子縁組届があるわ」
「おう」
「更には一夏の預金手帳も」
「?おう」
「明日、行きたい場所があるから付き合いなさい」
「……おう」
なんとなく事態を把握した一夏、内心一夏は結華の行動力の高さに驚いていた。
「そして後は捺印をするだけ」
「ちょっと待て」
「何?」
不機嫌そうな顔をする結華。一体どこに不機嫌になる要素があったかは結華のみが知る事である。
「婚姻届出した時は名前も何も書いてない白紙だったよな?」
「ええ」
「何で一瞬で後捺印するだけの状態になってんの!?」
「結婚する乙女は速いのよ」
納得できるようで出来ないような回答だった。一夏には煙に巻かれたような感覚を覚えつつ手を出した。
「何?」
「俺の判子」
「ああ、はい」
結華から一夏に判子が手渡しされる。
「じゃ、同時に押しましょ」
「おう」
一夏と結華が判子を押そうとした瞬間、婚姻届が細切れとなり紙吹雪の様に宙を舞った。
「させるか……させてなるものか!!」
婚姻届を細切れにした張本人、箒は日本刀『緋宵』を抜刀してそこに立っていた。
婚姻届を後少しで全て記入し終えるところで邪魔をされた結華は細切れとされた婚姻届を見て……
「………………」
チン♪
いつも帯刀している鉄華を一瞬で抜刀し一瞬で納刀していて、気付けば緋宵の刀身は先に細切れにされた婚姻届けの様に細切れにされていた。破片の数にして数千~数百万にも及んだ。もはや直す事は不可能だし、打ち直すにしても緋宵を作った本人はもうこの世には存在しない。
「な……」
「あー……もう良い。アンタみたいな屑はどーでもいーわ……毒舌すらも無意味ね、最早言葉なんて屑には意味を為さないわ」
酷くドスの聞いた結華の声、最近は発揮されて居なかった毒舌すらも無い箒に対する完全な拒絶の意思が結華からは発せられていた。
「どういう事だ結華!?」
「今言ったでしょ、『どーでもいー』と。さっさとどっか行け屑」
毒舌も悪口も何も入っていない、ただの単なる拒絶の言葉。結華はそれだけを箒に向ける。
「私には名前が!!『箒』と言う名前がある!!名前で呼べ!!」
「知らん、お前は屑で十分だ」
「ッ…………一夏ァ!!何とか言ってくれ!!」
箒は一夏に助けを求めるが一夏は反応すらもしない。だが、その無言は箒は『自業自得だ』と語っているように思えたが、箒はすぐにそれを否定する……『一夏はそんな事は言わない』だろうと、考えもしないだろうと思って。
「……一夏?い……ち、か……?」
「………………」
「……いちか?」
「自業自得だ、篠(・)ノ(・)之(・)さ(・)ん(・)」
「…………ッ!!」
箒はショックでその場から逃げ出した、そして自分の部屋に戻ると部屋の隅に蹲り目を閉じ耳を塞いだ。何度も、何度も何度も何度も何度も聞こえてくる箒のことを『箒』呼ばず『篠ノ之さん』と呼ぶ一夏を意識から遠ざけようとするが、遠ざけようとする度にその光景と声はリフレインされ忘れようにも忘れられなかった。
・―・―・―・―・―・―・―・
「さぁ、もう一度行くわよ」
「おう」
箒が走り去った後何も無かったかの如く婚姻届に捺印をする一夏と結華の光景がそこにはあった。
あー……この話で大浴場の話まで行くつもりだったんだけどなぁ……あれ?そう言えば大浴場云々のくだりやってなくね?