学年別トーナメントがあった週の週末、一夏と結華は外泊許可を得て土曜日からIS学園の外に出掛けていた。
一夏が外泊許可を千冬に出す際に一夏はなにやら黒いクレジットカードを『好きなように使え、恐らくかなり大きな出費になるだろうからな』と言われ渡された。結華には何のための外泊なのかは聞いて居らず、若干鈍い一夏には分からず仕舞いのまま役所に婚姻届とシャルの養子縁組届を出した後、街中にある宝石店へと来ていた。
「なぁ、結華」
「なにかしら?」
「何で俺は宝石店なんかに来てるんだ?」
結華はそこで『何を今更……』といった顔をした後、一夏に言い放った。
「結婚したんだから婚約指輪(エンゲージリング)買いに来たに決まってるでしょ」
「……ああ、だから千冬姉はクレジットカード渡したのか……」
漸く事の事態を把握する一夏。
戦闘での状況把握は上手であるにもかかわらず色恋沙汰となるとからっきし駄目な一夏だが……結華としてはそこが一夏らしいと思う場所であった。
「千冬さんにクレジットカード渡されてたの……?」
「ああ、まぁ……」
「……後で返さないとね」
そこで頷きたい一夏であったが……一夏の心の中で受け取らない姿が一瞬で想像出来た。
(千冬姉の事だから『結婚祝いだ』とかなんとか言って受け取らないんだろうな……どこまでも俺と結華の事を面倒見てくれるのは嬉しいが……少し、後ろ髪が引かれる気分なんだよな……)
しっかりと面倒を見てくれるのは一夏としてはいいのだが、多少の罪悪感というのも残る。最近では一夏と結華の面倒を見ているから彼氏が出来ないのではないか……という疑問も浮かびつつある。
「さ、こんな事するのは一生に一度でしょうし……楽しみましょう?」
「そうだな」
一体何を楽しむのか疑問に思った一夏だったが、結華が楽しみにしている様子だったためそんな疑問に意識を裂くのは止めて結華の楽しんで指輪を考える姿を見る事にした。
「……ダイヤモンドでも良いけど何か定石どおりで詰まらないのよね……いや、宝石と掛けてるわけでは無いけど……」
「……そう言えば結華は『普通』があまり好きじゃなかったっけ……」
今更ながらに思い出す一夏。
結華はあまり『定石(セオリー)』が好きではなかった。例を挙げるならば今現在……普通大概の人ならば結婚指輪に使う宝石は石言葉で『永遠の絆・純潔・永久不変』を表す『ダイヤモンド』、もしくは付けないが殆どだが、結華はその『殆ど』に属するのが嫌いだった。
「……ただの色気の無い透明なんて嫌なのよね……」
悩んでいた結華に女性店員が話しかける。
「お客様、お客様のお望みの指輪は『婚約指輪』ですか?それとも『結婚指輪』ですか?大方の検討は付きますが一応の参考のために聞かせて貰えませんでしょうか?」
結婚する際には2つの指輪がある。
『婚約指輪』は男性が女性にプロポーズの際に贈る際の指輪、『結婚指輪』が男性と女性のペアで付ける指輪の事を示す。無論、そこは結華も理解しているが、今回はどちらを所望しているかと言えば日々付けるであろう『結婚指輪』だろう。
「えっ……と……結婚指輪で」
「結婚指輪を所望なのであればあまり装飾華美なものは避けた方がよろしいかと……」
「それでも多少の華やかさは欲しいところなのよ……後で婚約指輪を一夏に貰うにしても……」
「……先に結婚指輪と言うのも珍しいですね……」
実に珍しい例だ。普通ならば男性がプロポーズするため結婚指輪が先というのは恐ろしくおかしいのだ。
「……決めたわ。スフェーンをあしらった結婚指輪をお願いします」
スフェーン、和名で『楔石』……石言葉は『永遠不変』……微量の不純物により色が半透明の赤茶色、グレー、黄色、緑、赤などがある石だ。
「承りました……お相手はそちらの御仁で間違いありませんか?」
「ええ、問題無いわ」
結華は店員からの質問(スフェーンの大きさなど)に淡々と答えていく。
「――えーと……これで最後なのですが……デザインはどういたしますか?」
「一夏の方がホワイトゴールドの輪で私のをトルコ石の輪で作れますか?」
「ISによってもたらされたナノレベルの物を製作できるようになってからはどんな物であろうとも加工出来ますよ」
「ならお願いします」
一夏は内心指輪の輪にトルコ石を使うのに驚いたが結華らしいと一夏は思った。
「製作に2日ほど掛かりますがよろしいですか?」
「日曜日の夜には出来てますか?」
「恐らく出来ていると思われますが……」
「なら、お願いします」
この後、一夏と結華は指のサイズを測って、代金(2人分で73万円)を払い店を出た。
「クラスにお披露目は出来そうね」
「見せびらかす物でもないと思うんだが……」
「良いじゃない。結婚は女性の夢よ」
なんとなく一夏には理解できない話をした結華。一夏には全くもって分からなかったが、結華がそれで良いなら良いかと納得したのだった。
・―・―・―・―・―・―・―・
その日俺と結華は1日ウィンドウショッピングをして町を回った。IS学園の近くにあるレゾナンスは品揃えは豊富であるがこれ1つと言った物に突き詰めた物を売っていない為久しぶりの専門店は新感覚だった。
そして今は夜のディナーを高級イタリア店にて頂いている。
「なぁ、結華」
「何かしら?」
「結華随分と手馴れてないか?こういったところで食べるの」
「そう見せてるだけよ。知ってるのは最低限のマナーだけ」
俺は最低限のマナーすら知らないんだが……
「別にそこまで難しくは無いわ。どっかで聞いた事あるかもしれないけどナイフとフォークは外側にある物から使う、来る順番は前菜1、前菜2、スープ、魚介のメイン料理で次はまちまちだけど口直しのシャーベットで次に肉類のメイン料理、デザート、コーヒーの順番。ナプキンはもう既に一夏は膝の上に掛けてるから問題無いわ」
「……意外と簡単?」
「国によって細かいマナーとかあるけど……ま、此処は日本だし問題無いでしょ」
……良いんだ……それで……ディナーってもうちょっと複雑なのかと思ってたぜ。
そうしてディナーは進んでいく。時々適当な話をしながら……時間は流れていく。
「ん…………」
結華は水の入ったワイングラスを傾けその中に入った水を飲む。
「……どう?一夏……美味しいかしら?」
「ああ、美味しいよ」
「まったく……私が聞いてるんだから『結華と食べるから美味しいよ』ぐらい言えないの?」
「面目ありません……」
俺はステーキを一切れナイフで1口サイズに切り、口に運ぶ。
このイタリアンレストランは男性はスーツ着用、女性はドレス着用が義務付けられている。だから俺はスーツ(正しくはタキシード?)を仕方なく買った。千冬姉には後で報告しておかなきゃな……
「一夏、あんたは今幸せ?」
「そう言う結華は?」
結華はクスリと笑ってから言った。
「女性は結婚した瞬間が最高に幸せって聞いた事無い?」
「そんなことも聞いた事がある気がする」
「そんなところよ。で、一夏はどうなのよ」
「さぁ、どうなんだろ」
「すっきりしない答えね」
「まぁ……幸せって何なのかって思うときがあるし」
「まっすぐな癖に捻くれてるわ」
どうなのだろうか……幸せについてもう一度考えて見る。そもそも幸せとはなんなのだろうか……確かに結華と居られるのは嬉しいし楽しい……だが、それが本当の幸せなんだろうか……でも、まぁ多分結華と居ると不思議な気持ちにはなる……これが所謂幸せと言う奴なのだろう。
「多分……幸せだよ」
「そう、なら良いわ」
結局、結華が幸せなのかどうなのかは聞かなかった。もしかしたら幸せじゃないと言われるのが怖かったのかもしれない……と俺はその時思った。
・―・―・―・―・―・―・―・
その日の夜。結華と一夏は家へと帰っていた。2人とも外泊届けは出しているし問題は無い。
時刻は午後11時半……もう真夜中だ。
「どうする?結華、さっさと寝るか?」
「…………」
パチン
結華は一夏の問いに答えず、一夏のつけたリビングの電気を消した。
「……結華?」
一夏がそう結華の名前を呼んだ瞬間一夏はソファーに倒され、その上に結華が跨った。
「なんだ……?」
「ふふふっ…………♪」
結華はそう笑いながら一夏にキスをした。唇が触れるだけではない、舌と舌が絡まりあう大人の深いキス……一夏にとっては2度目となるそれだった。2回とも結華からのディープキス……それは一夏には時間感覚が麻痺し1分にも10秒にも感じた。
「んぁ…………」
結華は長い長いキスからようやく一夏を開放した。2人の唾液は絡まり合い2人の口の間では糸が引いている。
「どうしたんだ?結華」
「一夏……なんとなく分かるでしょ?私がヤロうとしてること……」
一夏はわざと結華から目を逸らした。一夏はまだ早いと思っていて結華は今ヤリたいと思っている事を知っているから……分かっているから。
「でも結華……」
「良いじゃない……結婚したんだし……」
結華はそう言いながら服を脱ぎ始める……
「ゆい……か……?」
一夏の目に映るのは淡い月明かりに照らされる下着だけを着けた結華の上半身……すこし大きめの胸の膨らみが水色のブラジャーによって支えられている……そんなすがた。一夏は結華から目を離す事が出来なかった。
「……ほら、良いでしょ?下の方も……見たくない?」
「……っ!!」
一瞬頷き掛けたところで一夏は止まる。
「……一体何の問題があるのよ。シチュエーションは完璧、誰も居ない、私と一夏は今日恋人という関係を超えて夫婦となった……ヤルのぐらい問題無いでしょ」
「でも…………」
「良いじゃない……学生だって……私は了承してるのよ。これで例え妊娠しようが文句は言わないわ」
「…………」
「何時までもこんな時間は続かないわ。一番の懸念事項はあの屑よ……最悪私を殺すか、一夏を殺しかねない……それは一夏も分かっているはずよ」
それは一夏も分かっていることだった。最近の箒の行動には問題がありすぎるのだ。もはや一夏を自分のものにする事しか頭にない。自分の物に出来なければ……結華か一夏、もしくはその両方を殺す可能性すらある。
「それは……分かってる……」
「なら、今は幸せを享受するべき時じゃない?私たちは悠久の時を生きられるほど人生長くは無いわ……」
「……そう……だな……」
その日、一夏と結華はハジメテの体験をした。
初々しくたどたどしい……そんな行為を…………
これが今月ラストとなるでしょう……ま、此処まで書けて良かった。一夏の葛藤とかやるの大変だったぜ……
あ、今この一夏たちのハジメテの話を書くか書かないかのアンケートを活動報告にて行っております。ふるって参加ください