IS 一つの夏と結ばれた華   作:見知らぬ誰か

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第31話 海

「海ぃっ!見えたぁっ!!」

 

 今は臨海学校の宿泊先へと移動中。クラスの女子は窓際から見える海を見てはしゃいでいたが……一夏は静かに海を横目で見ていた。

 

「騒がないの?あんたこういうの好きだったじゃない」

 

 隣りに座った結華がヘッドホンを首に掛け、アイマスクから片目だけを見せて一夏にそう言った。

 

「人の行動って変わるものだろ?」

「で、静かなものが好きになったって訳?」

「結華に似てな」

 

 結華はフンと鼻から笑って再びアイマスクとヘッドホンをして外界からの干渉をシャットアウトした。ヘッドホンに音楽は流れておらず、聞こえるのは無音だ。結華の使っているヘッドホンは音楽を聞くときに使われる『ノイズキャンセラ』の発展機能『サウンドキャンセラ』が搭載されており、環境音を軽減するのではなく完全に排除しているのだ。そこそこ値は張ったが、結華としては音楽を聞くよりも無音の方が好きなため値が張ったのはさしたる問題ではなかった。

 

「ねぇ一夏」

「どうしたシャルル……っと、シャルロットか」

「結華ってさ、いつもこうなの?」

「んー……まぁ、長時間の移動中だけな。騒がしいのより静かなのを結華は好むから」

「そうなんだ」

 

 そう、一夏にとって結華のこの光景は小学校や中学校でもよく見てきた物なのである。

 小中学校の修学旅行……その時だって外界からの干渉を一切受け付け無いが如く、目にはアイマスク、耳にはサウンドキャンセラ搭載ヘッドホンと完全装備だった。その完全装備をして結華は寝ていた。騒がしいのは嫌い……幼き頃、結華が一夏に何度も言った言葉だ。

 

「確かに俺にも騒ぎたいって気持ちはある……けどそれ以上に静かな方がいいと思うんだ」

 

 一夏は誰かに言うのではなく、独り言のように……もしかしたら何も見ず何も聞こえない結華に向けて言ったのかもしれない言葉を呟いた。

 窓の外を見る。太陽の光を海の水面が反射しキラキラと美しく光っていた。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 臨海学校の宿泊先である旅館に到着後、旅館の女将さんに1年生全員で挨拶をして今は俺と結華の部屋の案内がされていた。

 

「お前たちの部屋は本来ならば結華は女子と一緒、一夏は私と一緒なのだが……そんなことをすれば結華が夜な夜な部屋を抜けだして私の部屋に来るのはわかりきって居るのでな」

「はぁ……」

「そう言う訳で一夏と結華の部屋はしおりに記載せず、私に割り当てられた部屋の隣だ」

 

 配慮がされていてとっても嬉しいです。というか、結華の解釈が何か間違っているような気がしないでも無いんですが……そこはどうなんだ?千冬姉。

 

「ここだ」

 

 ドアに貼られた紙には『教員室』の文字。隣の部屋にも『教員室』の文字……どっちかがフェイクってことですか?

 

「お前たちの部屋の名簿は山田先生名義だ。これなら他の生徒が来ることもあるまいし近づくこともあるまい」

「そーですか……」

「ふぁ…………」

 

 俺の後ろを着いて来ていた結華があくびをする。長時間移動睡眠の後の寝起きが結華酷いんだよな……無理に起こすとその日ずっとご機嫌斜めになって大変なんだ。

 

「起きたか結華」

「……ええ」

 

 一応起きたようだが声のトーンが2段……いや3段ほど低い。

 

「ここがお前達の泊まる部屋だ」

「……分かったわ」

 

 結華はドアを開けて部屋に入る。

 

「……広い」

「二人部屋だからな。当然だ」

「……そう」

 

 結華はそう言うと持ってきた着替えなどが入っている荷物を置いてその中から水着などが入っている袋を取り出す。

 

「……海……」

「まぁ、待て結華。部屋の説明からだ」

「……はい」

 

 低電圧モードでどこか反応の薄い結華。朝起きるとたまにこんな感じだったりするが……見ていて癒やされるな……あれ……疲れてるのかな、俺……

 

「大浴場は時間交代制。本来ならば男女別になっているのだが……お前1人のために皆が窮屈するのはおかしいだろうからな。深夜、早朝に入りたい場合は部屋のを使え。十分広いだろう、足も伸ばせるはずだ」

 

 洗面所と浴室は専用の個室となっている。ずいぶん広く作られてるんだなぁ……

 

「部屋の説明なんて仰々しいことを言ったがこのくらいだ。今日は1日自由時間だ、この後は自由にしろ……どうせ明日から疲れが溜まる日々になるんだろうからな。ゆっくり安め」

 

 その疲れって明らかにアイツのことを示してるよなぁ……心労が異常なまでに溜まって大変なことになるんだよ……。

 

「「分かりました」」

 

 俺は荷物の中から水着などを入れているバッグを取り出して結華とともに部屋を出た。

 

「結華、大丈夫か?」

 

 少しボーっとしている結華に話しかけた。

 

「……ダメかも……」

 

 結華はそう言ってフラフラと横にフラフラ揺れながら更衣室のある別館の方へと歩いていく。

 

「あ……」

 

 フラフラと歩いていた結華が小さな段差に突っ掛かり、倒れそうになると俺は結華が倒れてしまわないように支える。

 

「本当に大丈夫か?」

「……ちょっと目が覚めてきた……」

「ダメなら部屋で休んでても良いんだぞ……」

 

 俺がそう言うと結華は俺の顔をキッと睨んで言った。

 

「馬鹿言うんじゃないわよ。アンタが私に合わせてるのに私がアンタに合わせなくて何が対等なのよ」

「別に対等な関係を望んでるわけじゃ……」

「付き合い始めて、恋人になって、結婚までして対等じゃない?ふざけないでよ」

 

 結華は俺の支えから離れてしっかりと立つ。

 

「女尊男卑なんて関係ない。私も一夏も対等、それにまだまだ全部返せてない」

「返せてないって何をだよ」

「……一夏は知らなくてもいいこと。私が感じれば十分」

「教えてくれよ。対等なんだろ?」

 

 結華は少し俯いてから言った。

 

「今ここで話せない。夜に話す」

「……分かった」

「じゃ、行きましょ」

 

 ようやく結華は眠気が抜けたようで声のトーンもいつもの様になり、普通に歩いていた。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「お♪」

「う……」

「………………」

 

 俺と結華は更衣室のある別館へと向かう途中アイツとばったり出くわした。

 最近、俺と結華の悩みの種……篠ノ之 箒である。

 

「なにしてるんですか?」

「ん?ほら」

 

 アイツの指さした方向にはメカメカしいウサ耳刺さっているとともに『抜いてください』の張り紙が……これは間違いなくあの人のだろう。

 

「姉さんだ」

 

 アイツはそのウサ耳を何の躊躇もなく引っこ抜いた……が、その下には誰も埋まっておらず、ウサ耳だけで他には何一つとしてない。いくらあの人でも土の中では無理だろう。残念ながら、残念な妹にはソレが理解できなかったようだが……

 

ィィィィィン………………

 

 何か甲高い音が聞こえてくる……聞こえるのは……上から?

 見上げるとそこにはオレンジ色の下を向いた先が丸くなっている円錐……つまり人参だ。

 アイツはなんとか避けたようで人参に刺されては居なかった。

 

「やっほー!皆のアイドル束さんだよー!」

 

 真っ二つに割れた人参から登場したのは青のドレスに白いエプロンをしたISを開発した張本人でアイツの姉、篠ノ之 束だった。

 

「久しぶりです、姉さん」

「久し振りだね箒ちゃん」

「頼んでいたものは……?」

「さすがにここじゃあ渡せないよ。明日ね」

「はい!では……」

 

 アイツは少し束さんと話をすると更衣室の方へ歩いて行った。

 

「束さん」

 

 結華が束さんに話しかける。

 

「何かな、ゆーちゃん」

「屑に何を頼まれたんですか?」

「んー?誕生日プレゼントが欲しいって言われたのさ……」

 

 束さんの目から光が少し消える。

 

「誕生日プレゼント?」

「そ、誕生日プレゼントー。箒ちゃん力が欲しいって言ったからねー」

「IS……」

「うん。まぁ……少し残念だけどね」

「きっと何かしらの救いがありますよ」

 

 結華がそう励ます。

 

「あ、ゆーちゃんにもプレゼントがあるから期待してね!きっと満足してくれると思うよ!いっくんもまた明日~!」

 

 束さんは最後にそう言うとそこから居なくなってしまった。

 

「何だったんだ?」

「さぁね……屑のプレゼント以外に私にもプレゼントがあるみたいだけど……明日になれば分かるんだから考えるのはやめて行きましょ」

「……だな」

 

 俺と結華は更衣室前で別れた。すぐに砂浜で合流だ。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「おお!」

 

 青い海、白い砂浜……何年かぶりの海はとても心躍る光景だった。

 足は裸足だ。サンダルも持ってきているが一先砂浜を生で感じたかった。

 

「綺麗ね……海に来たのなんて何年ぶりかしら」

「結華は毎回砂浜にビーチパラソル差してその下で寝てたよな」

「今年は海の上よ」

 

 結華がそう言って取り出したのはマットタイプの浮き輪フロートだった。どうやら今回は海の上で寝るつもりらしい……

 

「日に焼けるぞ」

「日焼け止め塗るの手伝いなさい」

「背中まで塗る必要性無いじゃん」

「……考えて無かったわ」

 

 自分のことを完全に把握してないなぁ……今日の結華少し変な感じがするが大丈夫だろうか。

 

「じゃあ、後ろの方だけ」

「自分で塗れるだろ」

「ケチー」

「その間にそれ膨らませておくから」

 

 俺は浮き輪フロートを結華から受け取る。

 

「……よろしく」

 

 結華は砂浜にマットを敷いて袋から日焼け止めジェルを取り出し自分の体に塗っていく。その間に俺はバッグから取り出した空気入れで浮き輪フロートに空気を入れていく。それが終わると自分の使う浮き輪に空気を入れる。

 両方に空気を入れ終わった頃に結華も日焼け止めを塗り終わったようで敷いたマットから立ち上がった。

 

「一夏も塗る?」

「いや……別にいいかな……」

「じゃあ、私が勝手に塗るわ」

 

 結華は手に日焼け止めジェルを出すと器用に足だけで俺の足を払い倒して俺の腹に跨って……いわゆる馬乗り状態。

 

「え……?な、何が起こったんだ?」

「それっ!」

 

 結華は自由に動けない俺に日焼け止めを塗ってくる。胸板から顔から二の腕からありとあらゆる場所に日焼け止めをめたらやったら塗ってくる。

 

「これでよし!」

 

 気づけば足の方まで塗られているという始末……早業過ぎて何が起こったのかさっぱりだ。

 

「わー、結華ちゃんってだいたーん!」

「こんな昼から合体はダメだよー?」

 

 ……外野がなんと言おうが結華は恥ずかしもせず顔を赤くもせずにニヤリと笑った……あ、嫌な予感……

 嫌な予感がした瞬間にはもう手遅れでした……なんてのはよくあること。現にこれまで結華と過ごしてきて何度そんなことがあったことか……今回もそうだった。気付けば俺の唇は結華の唇で塞がれている……早業と言うかもはや大胆にも程がある。

 

『キャアアァァァァァァ!!!!』

 

 ほら言わんこっちゃない……絶叫(音響兵器)が炸裂したじゃないか。1組だけならまだしもここには1~6までの計180人近くが居るのだからいつも以上に耳が痛い……ここは教室みたいに閉鎖空間じゃ無いんだぞ、なんでいつも以上にうるさくなるんだ!

 

「一夏、行くわよ」

 

 結華はさも何も無かったがごとく立ち上がると、置いていた浮き輪フロートを持って海に向かった。俺も浮き輪を持って結華を追いかける。

 ……海の上なら、ゆっくり出来るよな?デキるではないから悪しからず……多分……

 




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