IS 一つの夏と結ばれた華   作:見知らぬ誰か

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第34話 紅椿・十束

 合宿2日目。専用機持ち+箒は一般生徒とは別の断崖に囲まれた場所に集まっていた。

 

「全員集まっているな……では、試験装備への換装及び試験運用を行う。各自自分で装備をインストールしておけ」

「「「「はい!」」」」

 

 セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラは返事をすると自分の換装装備のあるコンテナに近寄る。

 シャルロットの専用機『ラファール・リヴァイヴ カスタムⅡ』は元々フランスのものだったが、シャルロットの父がフランス政府と交渉し、日本のISコアと交換することによってシャルロットを日本代表候補生にして専用機もそのままとした。専用の装備は現状倉持の人員が全て白式の後付武装や換装装備(オートクチュール)を作るために割かれているがデュノア社の技術員で構成された『デュノア技術局』によって試験装備が作成されている。なお、フランスのものよりも機材を使えているからか第3世代兵装も早く完成しそうで……

 

「え………………?」

 

 シャルロットが信じられないものを見たような声を漏らした。

 

「どうしたの?シャルロット……って……何これ……」

 

 確認をしようとした結華すらも驚きの声を上げた。

 

「織斑先生の話から大体デュノア技術局が倉持に出来たのが約1ヶ月前……その1ヶ月で……」

 

 結華はそこで一度声を切り、息を吐いてから言った。

 

「どうして第3世代兵装が完成するのよ……」

 

 第3世代兵装。それはイメージンターフェースを利用した現在各国で開発が急がれている兵装である。無論、ソレにはイメージインターフェースを搭載している第3世代型ISが必要になるが、シャルロットの専用機であるラファールは第2世代型ISだが機体スペック自体は第3世代型に匹敵するためあとはイメージインターフェースを導入すれば第3世代兵装を使用可能なのだ。

 つまり、第2世代型としてありながら第3世代型に移行できるISが『ラファール・リヴァイヴ』なのだ。しかもラファールは汎用性を突き詰めた機体であるため構造上の余裕も大きく、改修が比較的楽なのだ。コレが示す事実は世界で初の量産型第3世代型ISが登場するかもしれないということだ。

 

「……アンタのお父さん、どんだけ天才なのよ……それが無能に食い潰されそうになるってのもひどい話だったけど……」

「あ、あはははは…………」

 

 そんなことがありながらも各自、自分の試験装備をインストールしていく。

 

「ごめんな、簪……白式のせいで……結華も」

 

 インストールしている一方、一夏はその状況を見て簪と結華に謝っていた。

 

「べ、別に気にしなくても……」

「しょうがないでしょ。それくらいの踏ん切りは付くし」

「ほんとにごめん……」

 

 先も言ったとおり、倉持の研究員は白式の武装開発に割かれており蒼華にも打鉄弐式にも回されていない。しかも白式の武装開発は一向に進まず白式には倉持で開発された武装は積まれていない。

 

「別にお前が謝って済むことじゃないだろう」

 

 突然声が聞こえた。声のした方を向けばそこにはストレートの銀髪にアイスブルーの瞳、メガネを掛けて白衣を着ている少女が立っていた。

 

「「「え……誰ですか?」」」

「まぁ、知らなくても当然だな。倉持技研技術主任、倉持(くらもち) 霞(かすみ)だ」

 

 そこに居たのは倉持技研のご令嬢、倉持霞だった。

 そこに入ってきたのはこの場を監督している千冬だ。

 

「おい、ここは関係者以外立ち入り禁止だ……ぞ……」

「お、世界最強。お前は何を言ってるんだ?蒼華と打鉄弐式は倉持が開発した機体だ。それに私は技術主任、関係者だし……打鉄弐式の装備も持ってきているんだ」

「そうか、済まなかったな」

 

 そう言って千冬は下る。

 

「さて……インストールするか。更識 簪」

「え、名前……」

「こっちで開発してる機体の搭乗者のプロフィールぐらい把握してる。ほら、早くコンソール開いて」

「う、うん……」

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 約10分後、各自インストール完了かインストール状態になったところで千冬がここまで何もしていない箒に声を掛けた。

 

「篠ノ之、お前にはこれから――」

「ちぃぃぃぃぃぃちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 恐ろしい速度で断崖を下って千冬の方へ駆けてくるそれは、もはやISの速度を超えているのではないかというほどに速かった。

 そしてその速度で駆けてくるのは稀代の天才『篠ノ之 束』だ。ISを1人で開発し世界をひっくり返した張本人がこの場に向かって走っていた。

 

「やぁやぁ!会いたかったよちーちゃん!さぁハグしよう!愛を――フゲッ」

 

 千冬とある程度の距離にまで迫ると速度を一切殺さずに跳んで千冬に飛び掛かったが……敢え無く千冬のアイアンクローに捕まり失敗に終わった。しかも掴んでいるその指は束の頭に食い込んでいた……手加減など必要ないように。

 

「ち、ちーちゃん……さ、さすがにもう無理……コレ以上は天才束さんの頭が水風船を握りつぶした時みたいに破裂する……」

 

 束は頭を持ち上げられ宙ぶらりんになりながらもそう言った。つまり訳すと『もう限界だからやめてください』。

 千冬はそれを聞くと手を話した。束に中にいる技術は無いからそれはつまり……

 

「いったぁ~!ちーちゃんひどいよ~……いきなり手を放すなんてさ~」

 

 束は着地できず尻もちをついた。

 

「束、自己紹介をしろ。全員……一夏と結華と篠ノ之以外が困っているだろう」

 

 その中に霞が含まれていないのは生徒だからじゃないだろう。霞は驚いていなかったが。

 

「えー……めんどくさいなぁ……私が束だよー。終わり!」

 

 とんでもなく適当な自己紹介だった。

 

「姉さん、頼んでいた物は?」

 

 箒が痺れを切らした用に束に聞く。

 

「もっちろん、用意してるよー!!さぁさぁ、大空を御覧あれ!!」

 

 そう束が空に向かって叫ぶと銀色の正八面体が落ちてきてカキンという軽い音を立てて地面に着地する。

 箒はその物体に目を輝かせ束に早く開けてくれと言うように視線を送った。

 

「これが箒ちゃんの専用機、全スペックが現存するIS中トップの性能を持(・)た(・)せ(・)て(・)い(・)た(・)機体……その名も『紅椿・十束』!!」

 

 正八面体が開きそこに居たのは両腕に1つずつ、両脚部に1つずつ、両非固定部位に2つずつ、胸部に1つ背部に1つの合計10の十字架が埋め込まれた装甲の少ない紅いISだった。

 

「持たせていた?」

 

 箒が引っかかる部分を束に聞く。

 

「そう、持たせていた。現状この紅椿・十束は本来の性能の1/10の性能しか出せない様にー……十字架(リミッター)を背負わせているのでーす!!」

「な……」

 

 箒は唖然とする。一夏の隣に立ち、結華よりも強い事を証明するはずの専用機がまともな性能を出せない様にリミッターを掛けられているのだから。そしてなにより自分の期待を裏切った束に怒りを覚えた。

 

「ちなみにーこの紅椿・十束の現状性能は……まぁ、よくて第1世代後半ぐらいかなぁ……束さんとしても、我が子に楔を打ち込むのはとても悲しいよ……」

「ならなぜ!?」

「それはぁ…………」

 

 その一瞬で束の適当というかどこか間の抜けた空気から凍るように冷たい空気へと変化した。束は触れれば細切れになるかのような雰囲気を纏っていた。いつの間にか目が千冬のように鋭く吊り上っていて、その視線は箒を射抜いていた。

 

「箒ちゃんがいっつまでも成長しないからだよ」

「!?」

「いつまでもいつまでもゆーちゃんのいっくんを盗ろうとしてさ。いっくんに対する考えるのも無駄な妄想を信じてたり……いつまでも悲劇のヒロインぶってるんじゃないよ。箒ちゃん『たかが6年』って思ってるよね?でもその6年って……考えが変わるのにも考えが完全に固まるにも十分な時間だと思わない?」

「…………」

「いっくんはその6年の間にゆーちゃんへの恋心を決めたし……ゆーちゃんはいっくんに対する敵愾心……ううん、悪戯心を恋心へと変えた……いっくんは決めた事はまず変えないよ、ゆーちゃんはこれと決めたら全力で努力するよ?じゃあ、箒ちゃんは?何を決めたの?何を努力したの?」

「それは、色々しましたよ!!」

「暴力振るったり、自分の勘違いいっくんに押し付けようとしたり、ゆーちゃんの望みを一瞬で細切れにしたり?」

 

 箒は何も言えずに黙り込み俯く。束の言葉は箒の心を突き刺し抉り、炙り、潰した。

 

「…………」

「ほら、なにもしてない。ゆーちゃんに追いつくために綺麗になる努力をするでもなく、ゆーちゃんに追いつくためにISの訓練を真剣にやった訳でも勉強をしたでもない。その全てが、ゆーちゃんを下回ってる……何がしたいの?きみ」

「………………」

「真剣による稽古だって何回気を抜いて本当に切られそうになったの?ゆーちゃんだけじゃない、いっくんにまで斬られそうになってたよね」

 

 全てが、束の発する言葉の全てが箒を侵食し侵して行く。

 

「束さんがっかりだよ?6年もあれば変わるだろうと思ってたのにさ。いっくんの友人ポジにいくと思ったのにさ……ほら、そこのツインテール少女を見てご覧よ。恋心はすっかり友情に変わってるじゃん。中学時代の1、2年なんて箒ちゃんの6年と内容的にはおんなじだよ。一体何がちがかったんだろうねぇ……」

 

 束はそこで一息ついてから言った。

 

「まぁ、そんなのどーでもいーや。早く乗ってよ、箒ちゃんみたいなのを束さんの傑作に乗せるのは腹立たしいことこの上ないけど……妹だし許してあげるからさ」

「くっ………………」

 

 箒は紅椿に乗り込んだ。

 

「まぁ、フィッティングとパーソナライズはすぐに終わるからぁ……」

 

 束は箒から離れると一夏の方に近づいた。

 

「いっくんの白式見せてー?」

「あ、はい」

 

 一夏は白式を展開する。最近の訓練で0.7秒で呼び出せるようにまでなって居た。

 展開した白式に束はコードをぶっ挿して目の前に空間投影ディスプレイとキーボードを呼び出した。

 

「おー……特殊なフラグメントマップを構築してる……いっくんが男だからかな……」

 

 フラグメントマップとは各ISがパーソナライズにおける独自の発展をした道のりのことを示している。

 

「んー……このフラグメントマップを基本にすれば男でも動かせるかな……いや、これはなにか違う?」

「束さん、なんで俺ってIS動かせるんですか?」

「……さぁ?いっくんをナノ単位まで解剖すれば分かるかもしれないけど……良い?」

 

 一夏はその回答を聞くと首を勢い良く横に振りながら言った。

 

「いえ、ノーサンキューです」

「そっかー残念」

 

 そこに霞が近寄ってくる。

 

「篠ノ之博士、白式のフラグメントマップデータ、頂けますか?」

「んー?君は誰かなー?」

「いえ、自己紹介などしてもどうせあなたは忘れるのでフラグメントマップデータだけ頂けますか?」

「いーからさ、君は誰?」

 

 千冬と一夏、結華は束が他人に興味を持ったことに驚きながらもその光景を黙って見ることにした。

 

「倉持霞ですが?」

「君はいつも何してるの?」

「ISの研究、開発ですが?何か?」

「そのメガネ何?」

「私の専用機です」

「どんな機能がついてるの?」

「ハイパーセンサー機能、皮膜装甲の常時使用ですが?」

「いや、君の機体のことだよ」

「篠ノ之博士にとって取るに足らないものですので見せる価値はありません」

「いーから教えて?」

「慣性蓄積変換器(ISC)、慣性式推進機構(ITS)、量子遷移型エネルギーバイパス、電磁式アクチュエータですが?」

「……嘘はいけないよ?」

「……多方向推進式光学力翼」

「兵装は?」

「必要なの?」

「……………………」

 

 束は様々なことを聞いて聞いて聞きまくってふるふる震えた。そして…………

 

「一緒に来ない?」

 

 お誘いだった。霞の返事は……

 

「いえ、いいです。別段、憧れてるわけじゃないので」

 

 拒否だった。束は肩を落とすかと思ったが……違かった。

 

「やっぱりかぁ……私も断るもんなぁ……」

 

 何故か束は納得していた。きっと凡人には分からない話だったのだろうと一夏と結華はそう思った。




何一つ考えずに『彼女(メカニック)は空を舞う』より『倉持 霞』を持ってきました。若干キャラが違う気がしますが許してくださいな。
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