「全員注目!」
千冬が手をパンパンと叩きその場に居た専用機持ちを振り向かせる。
「これよりIS学園の教員は特殊任務行動に移る。専用機持ちは大座敷へと集合!篠ノ之もだ!」
「「「「「「「はい」」」」」」」
「はいっ!」
専用機持ちが普段と同じように頷くと箒は嬉しいように頷いた。
「倉持、先にも言ったがお前もだ……良いな?月忌」
「了解」
霞は傭兵名で呼ばれ意識をそれ用に切り替える。
・―・―・―・―・―・―・―・
場所は変わって旅館大座敷、宴会にも使われるそこに今は大型の空間投影ディスプレイが設置されていて周辺海域が示されていた。
「状況を説明しよう。
2時間前、ハワイ沖にて試験稼働中だったアメリカ・イスラエル合同開発の第3世代型無人IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れ暴走。衛生の監視空域を離脱した」
何の説明かは分からないが……恐らく俺たち専用機持ちで何かするのだろうか?
この状況に誰も何も言わない……せめて結華ぐらいは何か言って欲しいのだが……
「その後、衛星によって何とか位置を特定し行動予測を行った結果50分後、ここより2キロの地点を通過することが判明した。学園上層部の協議の結果、我々がこれの対処に当たることとなった」
少し訳が分からなくなって俺は他の専用機持ちを見てみる。箒以外は全員、結華すらも厳しい顔つきでとても真剣だった。
結華は違うと思うが他の専用機持ちは代表候補生だからこういった場合を想定した訓練もしているのだろう。特にラウラに関しては代表候補生の中でも真剣さがとても違うようにみえる。
「学園の教員は訓練機で空域及び海域を封鎖するためこの作戦は専用機持ちに担当して貰う」
要するに、教員は動けないから生徒である俺達が銀の福音を止めるのか?一介の高校生にその荷は重いような気がするんだが……
「それでは、作戦会議を始める。意見のあるものは挙手するように」
「はい」
即座に手を挙げたのはラウラだった。
「先ほど、IS学園で対策を行うという話でしたがなぜ此処にそいつが居るのですか?」
ラウラの視線の先には何か空間投影型の球体キーボードで打ち込んでいる倉持のご令嬢、倉持 霞さんが居た。確かにこいつはIS学園の生徒ではないが……
「今回の作戦はお前たちが要だ……とは言ってもお前たちはまだまだ若輩だ、だからそのバックアップとして倉持――いや、月忌は用意した」
「月忌?何ですか?それは」
ラウラの言葉に倉持が立って前に出る。
「非合法IS傭兵『フェンリル』所属のコードネーム『月忌』、二つ名『アナザー・ブリュンヒルデ』。むしろ二つ名の方が有名かな?」
「ぐ、軍のブラックリストに載っているブリュンヒルデに届きうるというIS傭兵!?」
ラウラは瞬間的に立ち上がり軍用ナイフを取り出して構えた。
「おーおー、随分と血の気のある奴が居たもんだな」
ラウラに鋭く睨まれても全く動じない倉持の姿に俺は何か海岸にいた時とは違うものを感じた。あの時はただの研究者という感じがしたが、今は触れれば切れるような……そんな雰囲気を感じた。
「非合法とは言っても所詮は傭兵……金で動く兵だ。任務はきっちりこなすぞ?」
「そういう訳だ、ボーデヴィッヒ。ナイフを仕舞え」
「……はい」
ラウラはナイフを仕舞うと座った。
「他に質問のあるものは?」
「はい」
次に手を挙げたのはセシリア。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「良いだろう。ただし、これは2ヶ国の最重要軍事機密だ口外するなよ。情報が漏洩した場合諸君には査問委員会による裁判と最低2ヶ月の監視がつけられる」
「了解しました」
空間東映ディスプレイに銀の福音のスペックデータが表示される。
広域殲滅を目的とする特殊射撃型、機動力は高い、特殊な射撃武器を搭載、格闘性能に関しては情報なし……非固定部位の推進翼は特殊射撃武装を兼ねている……発射するのはエネルギー弾だがエネルギー消費が低く高威力ではあるが弾幕を張ることが可能か。攻撃と機動に特化させてるが……
「装甲値のスペックも、エネルギーシールド強度も情報が無い……織斑先生」
結華が口を開く。結華も同じ場所に目を付けていた……やはりどこにもその情報はない。
「アメリカ・イスラエルが開示した情報はこれが全てですか?」
「全てだ。これ以上の情報は渡されていない」
「……情報不足」
協力なんて上っ面だけじゃないか……なんだよこれ。
そう思っているところにスペックデータが追加されていく。
「これは……!?」
千冬姉が驚く。誰だ……この情報を持ってきたのは……?
「情報戦は戦いにおいて基本」
「お前、2ヶ国の軍事機密をハックしたのか?」
情報を持ってきたのは倉持さんだったようだ。
「織斑千冬、先に言ったように情報戦は戦いにおいて基本だ。それを怠るのはただの馬鹿でしか無い」
「……とにかく感謝する」
「……………………」
スペックデータはただデータを変えるだけではなく、データの比較としてアメリカ・イスラエルが開示したデータの横に表示されていた。
「……嘘」
鈴がそんな声を漏らす。
「どうしたんだ?鈴」
「機体分類のところ、見て」
そこに表示されていたのは驚くことに……
機体分類:広域殲滅特殊射撃型無人IS→広域殲滅特殊射撃型IS
初期は無人機と出ていたものが有人機に変わっていた……これはつまり……
「アメリカ・イスラエルは銀の福音を操縦者ごと切り捨てた……ってことね」
最悪の事実、アメリカ・イスラエルは俺達に『人殺し』をさせかけた。
「別にこんなのは珍しいことではない」
倉持さんが口を開く。
「傭兵として依頼を受けていると嘘の依頼だったり、裏切りがある場合も少なくはない……ましてやともに依頼を受けた傭兵が裏切った――なんてことも珍しいことではない」
「……情報隠蔽か?」
「織斑千冬、今の表のIS業界はまだマシなレベルだ。裏ともなれば……街の壊滅やIS同士の小競り合いにより戦域がまっ平らになることも最近は多い。それだけIS業界は黒くなってきている。いつまでも綺麗な世界は生きられない」
きっとこれは倉持さんの経験だろう。
「……分かった。考えるようにしよう」
千冬姉がそう言うと今まで立っていた倉持さんが座った。
「さて、この作戦に強引な手段は取ることができなくなったが……今からでも構わない。殊が次第だ作戦に参加したくないという者は退出しろ」
千冬姉がそう言っても誰も部屋から出るような動きを見せない。勿論俺もこれが専用機持ちの義務ならやるべきことだと思った。
「ふむ、そうか。では具体的な作戦立案を行う」
銀の福音のスペックを表示していた空間投影ディスプレイが戦域となっているであろう部分を示す。
・―・―・―・―・―・―・―・
私は自分の専用機『月光』のコアネットワークの情報ログを見直していた。
全てのISコアは同時に他の自分以外のISコアと繋がっているためどのような情報を受け取っているか送信しているかの情報がどのISにも分かるようになっている。
そこで私は月光と銀の福音のコアネットワークデータログを時間を遡り確認していた。
そこで得られた情報は2つ。
1つ、銀の福音が襲撃しようとしていると思われる場所、計6箇所
2つ、何者かによる外部からの接触により現状になっていることだ。
襲撃する場所は最初の見立て通り日本、そして中国、イギリス、フランス、ロシア、イタリア……その何れも第3世代型ISの配備を進めており、かつ実際に試験機の試験を行っている国である。
「進言」
私は具体的な作戦立案を行っていた全員に伝えた。
「銀の福音が目標としているのは日本、中国、イギリス、フランス、ロシア、イタリアの可能性が高い」
ここにいるほぼ全員の母国だな……何処のどいつだ?こんなことをしでかすのは……第3世代型を開発していながら襲撃目標としていない国……該当はアメリカとドイツか。
ドイツ……そう言えば傭兵の仕事でISを保有する組織を叩くって依頼があったな……たしかあの組織は亡国機業とかと言ったか……近くにはドイツの研究所があった……この黒幕はドイツか?だが何の意味がある?やるならば襲撃目標を第3世代型を開発していない研究所にして疑われないようにすればいいはずだが……
・―・―・―・―・―・―・―・
「月忌の情報通りならばこの作戦にはチャンスが1度しか無い。本来であれば織斑の白式による零落白夜による一撃必殺(ワンアプローチワンダウン)を行いたいところだが……失敗した時のリスクが大きすぎる。いざとなれば月忌がバックアップに回るが……」
「それでも尚、失敗する可能性はなくならない」
千冬の提案した作戦に霞がそう続けた。
「となればこの場にある総戦力の投入が一番だが……」
「戦闘領域到達までのタイムラグが各個ISのスペックに依存する。しかも待ち伏せを行おうにも各ISのセッティングがあるし戦域は海上。必ず待ち伏せした地点に福音が来るとは限らない」
千冬の提案する作戦を霞が問題部分を提示する。
かと言ってそれを続けたところで最適解が出るはずもなく……
「専用機持ち全員を用いた波状攻撃を行う」
「それが一番最適解に近い作戦だな……具体的にはどうする?」
霞が千冬にそう聞くと千冬は一度目を閉じて言った。
「大変遺憾だが、今回は篠ノ之の紅椿もリミッターを解除して戦力として使用する」
その声に一夏と結華、そして霞が苦い顔をして箒の顔が華やんだ。
一夏と結華は暴走あるいは増長の心配をして、霞は新兵の登用について苦い顔を、箒は自分の貰った力が存分に扱え結華など超えられると思ったためである。
一夏と結華は内心では反対したいところであったが戦闘・作戦における一人の戦力がどれほど違うか分からなかったため出来れば納得したくはないが何も言わなかったが……霞は違かった。
「織斑千冬、私は反対だ」
「何故だ!私は戦えるぞ!!」
「黙っていろ、素人(ルーキー)。これは熟練者(エキスパート)としての話だ」
箒を一瞬で黙らせ霞は千冬に問う。
「確かに今回の戦闘において篠ノ之束謹製のISの性能には惹かれる……だが、乗っている奴の方に問題がある。力に溺れているようなものを戦場に出すのは危険だ。それに野心もあるようだしな」
霞は箒のほぼ全てを箒の言動から見抜いていた。
「以上の理由から篠ノ之箒を戦力として登用するのは反対だ」
その言葉に一夏と結華も口を開く。
「俺も反対だ」
「私も、嫌な予感がするわ」
千冬はその言葉を聞いて一度頷くと言った。
「では、篠ノ之は戦力しては使用せずに移動用としての登用はどうだ?」
「完全に後方配置、援護もさせないならば問題はないだろう」
霞の意見を聞いた箒以外の全員が異議なしと頷く。
「ま、待ってください!私は戦えます!もう一度考えなおしてください!」
「決定事項だ。変更はしない」
箒の抗議を千冬は一蹴し作戦の説明を始める。
「今回の作戦は各々専用機による波状攻撃を行う」
空間投影ディスプレイに銀の福音が通る矢印と何本かの矢印が表示される。
「まず第一陣として篠ノ之が運搬する攻撃の要である一夏、高機動装備を使用する結華を戦闘に突入。その後、世代向上パッケージ仕様のシャルロット、機能増幅パッケージ装備のボーデヴィッヒを乗せた高機動装備仕様のオルコットが第二陣、最期に機能増幅パッケージ仕様の凰と更識、そして月忌を第三陣とする」
その作戦に霞が質問する。
「その陣の理由は?」
「前衛後衛の組み合わせを順次当てて前衛の攻撃と後衛の支援をするためだ。篠ノ之は一夏を送り届けた後後方へ移動し待機、撃墜された者がいれば回収しろ」
「納得できません!」
納得出来ないという箒の言葉に千冬は冷たく言い放った。
「命令だ。従え」
箒は反論することが出来ず黙りこくる。
「月忌は随時援護が必要そうであれば後方からの援護あるいは前衛に出るなど遊撃の位置を担ってもらう。一夏と結華はペアで行動し初撃必殺を試み、ダメだったならば戦力が集まるのを待て」
「「「了解」」」
「第二陣以降のシャルロット、ボーデヴィッヒ、凰は前衛。オルコットと更識は後衛で援護だ」
「「「「「了解」」」」」
箒以外の全員が頷くのを確認すると千冬は突然天井を見た。
「束、聞いているのだろう?出てこい」
すると天井の板が外れそこから束が逆さまになって出てきた。
「やっぱり気付いてたんだ~で、ご用事は?」
「聞いていたのだろう?早めに頼む」
束は心底嫌そうな顔をして言った。
「やりたくないんだけど~」
「今回だけだ。終わったらもう一度リミッターを付けて貰うが」
「う~……分かったよ」
束はひっくり返り床に立つと箒の前に立った。
「じゃ、楔を外すけど……これが自動的に外れる条件を教えるね♪」
「はぁ…………」
束はこれで変わってくれることを祈りながら箒に枷を外す方法を教えた。
「それは箒ちゃんの心が決まった時に枷は外れるようになってるんだ~。勿論それはどんな感情であろうと構わないけど『いっくんをゆーちゃんから奪う』という決意では外れないようになってるから注意してね~」
「……はい」
「じゃ、紅椿展開して?」
一夏と結華はその光景を見ながら目の前に居る千冬と霞の説明を聞いていた。
「先にも言った通り、お前たち二人には一番初めに交戦を開始して貰う。隙を狙ってもいいがまず成功しないだろう。だから出来るのであれば初撃必殺出来ないのであれば戦線維持を頼む」
「了解」
「俺のパッケージの使用は?」
一夏の質問に霞が答える。
「白式にオートロードされた換装装備はエネルギーを馬鹿のように喰うため初期投入時には使えない。使うのであれば全員が集まり畳み掛ける時だな」
「分かった」
その会話中に千冬はあることを思い出した。
「月忌、お前の専用機は武装がなかったのではないのか?」
「戦闘専用の武装用パッケージを作った……傭兵で武装が使えないのは問題だからな」
その返事を聞いた一夏と結華と千冬は思った。
――コイツ天才すぎる――
と……しかもその見解は戦闘時に見直されることになる……
次回、ようやく福音戦に入れます……長かった……