結華は一夏が撃墜された直後に到着した第二陣の戦線に加わらず、宙に浮いたままで一夏の落ちた海面を見ながらうわ言のようにポツリと呟いた。
「いちか……?」
海面はもう既に一夏が落ちた形跡すら無く、波打っている。いつも通りの普通……これが地面だったならばと結華は考えずには居られない。
『結華、戦線に復帰しろ。命令だ』
「……了解」
結華は両非固定部位に八砲身ガトリング『ヘヴィファランクス)』を装備し両腕に六砲身ガトリング『ファランクス』を装備して銀の福音に向けて全てのトリガーを引く。
第二陣と第三陣、そして結華で全方包囲しブルーティアーズのBTレーザー、甲龍・崩山装備の四門に増加した拡散衝撃砲、打鉄弐式の春雷二門、48連ミサイル山嵐に追加装備の四砲身ガトリング二門と32連ミサイルポッド、ラファールリヴァイヴ カスタムⅡ・シルフィードの無限跳弾、ズィルヴァシュヴァルツェス・レーゲン・ダンクェルリリィのソードビット、三連レールカノン×2、月光・月忌の空孔理論砲、蒼華・晴雷の四門のガトリングを全方位から受けても自慢の銀の鐘で全てを銀の福音は相殺していた。
「こんなに撃ってるのにまるで攻撃が入らないってどういうことよ!」
「弾幕がこのレベルとは聞いてませんわよ!」
恐ろしく分厚い弾幕ではあるが銀の福音が発射した銀の鐘で全て迎撃しているのではなく、エネルギー弾の爆発範囲を計算し専用機組達の攻撃による弾の軌道コースをハイパーセンサーにより算出しその軌道にエネルギー弾を配置することで最小限の無駄弾無しの迎撃を行っていた。
最大限の攻撃と最小限の迎撃……この結果がどちらへ傾くかは予想する必要もない。ましてや燃費の悪い第三世代機が主体のこの編成では……
・―・―・―・―・―・―・―・
ざぁ……ざざぁ……
(どこだここ……?)
遠くから聞こえる癒やされるような波音に誘われ、俺はいつの間にか不思議な世界の砂浜を歩いていた……なぜ不思議な世界なのか……それはその世界の景色にが原因だ。
恐ろしいほど白い砂浜に真っ黒な空……黒い空なのに辺りは暗くなく、星も月も太陽も浮かばない漆黒……砂浜は砂のような真っ白い粒子で他には何もない……もしかしたら、ここが俗にいう死後の世界なのかもしれない……
「……♪ ――♪ ――――♪」「………♪ ――♪ ―――♪」
そしてふと聞こえてくるデュエット……片方は元気そうな声でもう片方は静かな声だ……
俺はその声が気になって声が聞こえる方へ足を進める。
足元の砂がサクサクと済んだ音を響かせ、波が足元に届き始めるが……俺はその水に触れられなかった……砂は踏みしめられるのに水には波紋立てず浮かぶような感じ……だが歩ける……
俺は声の聞こえる方へ進む……周りには何もなかったのがいつの間にか枯れた木のような物体がチラホラと見掛けられた。
「ラーラララー♪ ララーララー♪」「ララ、ララー♪ ラーララーラ♪」
そして見えた二人の少女……かなり浅いのであろう浅瀬で足首辺りまで海水に浸かって回るように踊りながら歌を奏でる。
片方は真っ白な髪、輝くような白。
もう片方は漆黒の髪、白い少女とは逆のすべての光を吸収するような黒。
二人が踊り時折吹く風によって互いの髪の色のワンピースがふわりと舞う……
「………………」
俺は何も言わずに恐らく枯れてしまったのであろう倒れた木に腰掛けた。
まだ真っ黒な樹皮が半分残っているが上の方はほぼ剥がれ落ちて真っ白な中身を見せていた。
俺はそのいびつな椅子に腰掛け二人の歌と踊りをぼんやりと眺めていた。
・―・―・―・―・―・―・―・
『破壊目標A撃墜、目標をBに移行する』
唐突に響いたマシンボイス……それは第三世代機を扱うセシリア、ラウラ、簪と擬似的な第三世代であるシャルロットの攻撃に使えるエネルギーが危うくなってきた頃だった。
銀の福音が最低限の迎撃を行っていたものを結華への攻撃を開始した。他への迎撃はそのままに結華の方向だけに追加での攻撃を始めたのだ。
「……パージ」
腕と非固定部位に装備していたガトリングを全て同時に破棄(パージ)し高速切替で拡張領域から取り出し非固定部位と腰に装備したのは束によって追加された大口径グレネード『OIGAMI』四(・)門(・)、両腕に展開したのは同じく束によって追加されたスナイパーキャノン『YAKUMO mdl.2』だ。
その扱いづらいモノを全面に展開し結華は右非固定部位、右腰、左腰、左非固定部位と少し感覚を開けてOIGAMIを発射した直後に両腕のスナイパーキャノンを発射した。
ガトリングの弾が全て迎撃されると空中で炸裂するように設定していたOIGAMIの弾頭が発射した順に爆発し銀の福音へと続く空白の空間を作り出しそこを高速のスナイパーキャノンの弾が通る。
即座に銀の福音は反応し銀の鐘で迎撃するが……とてつもない運動エネルギーを持つスナイパーキャノンの弾は銀の鐘のエネルギー弾一発程度では速度は落とさず、爆発に巻き込まれず、むしろ爆発による後押しを受け更に加速し銀の福音に四(・)発(・)直撃した。
YAKUMO mdl.2のリロード速度だからこそ出来る速射によってギリギリ四発、OIGAMIの形成した道を通り抜けたのだ。
直撃したのは翼のように横に大きく展開していた銀の福音の砲口兼推進器であるウイングスラスター。左右に二発ずつ打ち込まれたウイングスラスターはスナイパーキャノンの過剰な運動エネルギーにより3つに千切れ、バラバラと海上へと落下していった。
「攻撃力は全部奪った! 全員、総攻撃! エネルギーケチるんじゃないぞ!」
月忌のオープンチャネルと実声による声の直後全員が全火力を投入するが……全くというほど手応えがない。
「……どういうことだ……?」
月忌が唸りながらに言う……いくら軍用ISと言えど競技用IS6機分(結華は過剰火力により参加見送り)の全火力であれば軍用機でもそこまで持たないはずなのだ……それが落ちていないとなると……月忌がたどり着いた結果はすぐ目の前に現れた。
直撃コースの弾が突如として光によって薙ぎ払われ大きなエネルギーの翼を広げ、機体の各スラスター部から大小様々なエネルギー翼を展開した銀の福音が現れたのだから……
「二次移行(セカンドシフト)……」
対福音戦第2ラウンドの開始である。
・―・―・―・―・―・―・―・
ざぁ……ざぁ……と波が奏でる音と共に少女二人の歌を俺は飽きもせずに聞いて、二人の姿を眺めていた。
俺はあまり歌は聞かないが……何故か二人の歌は聞いていて心地よく、懐かしい気持ちにさせた。
「……?」
ふと気づけば歌声は止まっており、踊るのもやめていた……少女二人並んで空をじっと見つめている。
俺は気になって木の椅子から立ち上がり二人の隣へと向かう。
「どうかしたのか?」
「……呼んでる……」「……行かなきゃ……」
「え……?」
二人同時に別々の事を言って驚き聞き返してみるがその場にはもう二人の少女は居らず。
周りを見回しても流木のような何かと自分が居るだけで他には波の音しか聞こえなかった……
あの二人の少女はどこを見ていたのだろうか……漆黒の空を見ても何も映っておらず、ただ真っ黒で何も見えない……
「――力を欲しますか?」
背後から唐突に声を掛けられ驚き、振り向くとそこには白い甲冑のようなものを付けた女性がつま先だけ水面につける用に浮かんでおり、手には大剣を持っている。
「え?」
「――何のために?」
また、違う声が聞こえる……ふとした瞬間白い甲冑のようなものをつけた女性の隣に黒い甲冑のようなものを付けた逆の女性が現れた。
「「力を、欲しますか? 何のために?」」
「結華を守り、悲しませないためだ」
聞かれた瞬間、即座に俺は答えた。
この答えに考える必要なんて無い、俺は俺の一番大切なもののために力が欲しい……それだけが、望みだ。
「そう」「そうか」
白と黒、二人の女声は静かに頷き。
「それじゃあ」
「行かないとね」
後ろから声が聞こえ、振り向けば白と黒のワンピースを着ている先ほどの少女二人が手をつなぎ立っていた。
「ほら、ね?」
「行こう? 彼女の元へ」
二人の少女が手を伸ばしてくる。
「……ああ!」
俺は勢い良く二人の少女の手を掴んだ。その瞬間、視界が輝き始めた。
さぁ、行こう……結華の元へ。
・―・―・―・―・―・―・―・
戦闘は一方的だった。
エネルギー翼から発射されるエネルギー弾は移行前とは比べ物にならないほど威力が増し、弾幕密度も濃くなっているのだから。
エネルギー弾は四方八方へ発射され、攻撃対象である結華を優先的に攻撃するのではなく、セシリアや鈴音、シャルロット、ラウラを優先し先に戦闘不能なレベルに追いやってから結華への攻撃を開始した。
簪と月忌には攻撃を相殺する程度のエネルギー弾をばら撒き、徹底して結華を攻撃する。
「ぐぅっ……!」
弾幕的なエネルギー弾と左右の主翼を絡ませ収束させたエネルギー弾、ブラインド、爆導索のような連鎖式の爆発など様々な使い方のエネルギー弾で結華を追い詰める。
結華も攻撃されるだけでなく反撃しているのだが小さなエネルギー翼によって放たれるエネルギー弾や翼そのものによって迎撃されマトモに攻撃が入らない。
「どうしろってのよっ!」
高速切替で非固定部位に20連ミサイルポッドを展開し発射しようとしたがそれを待っていたかのように右のミサイルポッドにエネルギー弾を数発発射されミサイルに誘爆、界面ギリギリへと追い込まれ、更に左のミサイルポッドにエネルギー弾を当てられミサイルの誘爆により吹き飛ばされ結華は岩肌に打ち付けられた。
「げほっ……! っんぐぅ……!?」
叩き付けられた直後、銀の福音が結華のすぐ前にまで接近し結華の首を掴むとギリギリと締め付け、持ち上げる。背中のエネルギー翼がバサリと開き結華を覆う。銀の鐘の形状変化したエネルギー翼、それが結華を覆うということが意味するのはつまりそういうことである。
エネルギー翼が光り始め、一斉射が秒読みに入り結華は目を閉じた。
――もう一度会いたかったけど……まぁ、いいかしらね
――どうせ死ねばまた会えるでしょうし……天国や地獄なんてものがあればだけれど
――さようなら
目の端から涙が溢れていたが……そんなことは気にせずに結華はその時を待つ。
『――!?』
が、突如として銀の福音が結華の首を離し距離を取る。その直後銀の福音が居た場所に青白いのと赤黒い光条、青くうねる光にジグザクの軌道を取る銃弾、そしてその後を追いかける大量のミサイルだった。
そしてそれが通りすぎた直後、結華は何者かに腰のあたりを掴まれその場から移動させられた。
「きゃっ!?」
「落ちてなくて安心したよ、結華」
「いち……か……?」
結華を抱え移動しているのは纏っているISの形状は違えど一夏であった。
「他の誰に見える?」
「誰にも見えないわ」
一夏に抱きつきながら言う結華。その結華の姿に一夏は微笑む。
「心配かけたな、悪い」
「うん……このISは……?」
一夏の纏うIS、それはもはや白式の形状を保っては居なかった。
大型、増加した左右大型二基中型一基の計六基の非固定部位に白と黒の装甲、灰色の展開装甲……その機体の名を黒(・)白(・)式(・)第(・)四(・)形(・)態(・)雪風という。
「白式と黒式が応えてくれた……俺の願いに」
「一夏の……願い?」
「結華を守り、悲しませないための力……黒と白は応えてくれた」
結華を離し両手に雪片弐型と黒龍弐型が発展した白月と黒月を装備し一夏と結華を観察している福音の方を向き白月の切っ先を向ける。
「落とさせてもらう」
その瞬間、一夏はその場から消え去り、気付いた時には銀の福音の目の前に居て、右斜め上から白月、左斜め下から黒月を振るっていた。
『――♪』
銀の福音の高いマシンボイスが嬉しさを奏でるような音を発すると両腕のエネルギーの小翼をブレードに変え白月と黒月に切り結んだ。
一部の人が空気とか言ってはいけない……自分の文才ではこれが限界なのです……