ミズキ視点なのに普通の文が標準語なのはわかりやすくするためです
ここまで穏やかな気分が果たして今までの人生であっただろうか。
心地良い風は体全体を包み、木々を流れさせる音は自然の奏でる合唱のように気分をさらに穏やかなものにしてくれる。
のんびりと流れているいくつかの白い雲と真っ白に輝く太陽を除けば真っ青な空がこの世界を覆っていた。
ここが桃源郷なんだろうなと錯覚してしまうくらい理想的で平和な場所なんてきっと他には存在しないだろう。
まあ実際ここは空中で自分の体が現在進行形で落下中なので全く理想的で平和な場所ではないのだけれど
「どうしてこうなったんや……」
なんて考える暇もなくすぐに自身の体は地面にたたきつけられた。
「あの、大丈夫?」
ふと、声がする。ゆっくりと目を開けるとそこにはポケモンがいた。なんでポケモンがこんなところにいるのだろう?なんで言葉を発しているのだろう?いきなりの出来事で体が動かない。
「ええと、とりあえず立てる?」
そう言ってそのポケモン……この蛇のような顔をしているポケモンは確かツタージャだったか、そのツタージャがこちらに向かって手を差し伸べていた。
「お、おう。サンキュ」
お礼を言って手を取ろうとしたその時に自分の体が人間のものでないことに気づいてしまう。自分の手は白く、指もなくなって形に関してはまるでコッペパンのようだった。
「うええええええ!?」
「えっ!?ちょっと、なんでいきなり叫びながらずっこけてるの!?」
驚きのあまりずっこけながら地面に思い切り背中と後頭部を打つ。偶然そこにいい感じのとがった岩があるわけではなかったが痛いものは痛い。思わず後頭部を両手で押さえてしまう。
「いてててて……」
「ほ、ほんと大丈夫なの?」
「あ、ああ大丈夫や」
そういって今度は自分の力で立ち上がる。そして自分の体を見渡してみるがやはり人間ではなくなっていた。紺色のヒレのような足にしっぽ、水色のセーターを体全体に羽織ったような見た目でおなかには大きい貝殻が引っ付いていた。この見た目は確かミジュマルだったか。
自分の顔は見れていないがおそらく顔もミジュマルになっているのだろう。なっていなかったら目の前のポケモンが化け物を見るような目で見ていただろうし、実際それはただの化け物だ。
「ちょっと怪しいけど、まあ大丈夫ならよかった」
「なんか心配かけさせてすまんな」
「それくらいいいよ。ところでなんでこんなところで寝ていたの?」
「ん?寝てたわけやないで?わいは空から落ちて」
ここまで言ってハッとなる。空から落ちてきただなんて言って一体誰が信じるのだろうか、現に目の前のツタージャは疑いの目でこちらを見ている。何としても事情を説明せねばならない!
「い、いやそうやなくて実はわいは人間で気が付いたら空に」
「そ、そう、大変だったのね」
事情を説明したら余計にひどくなった。疑いどころかかわいそうなものを見るまなざしをしつつ半歩後ろに下がっていた。
「あ、ええとそうじゃなくて」
何とか言い訳を考えようとすると自身の首元から何かがぽろっと落ちた。拾ってみるときれいな石のようだが。
「なんやろうこれ?」
「え?ちょっとそれってもしかして……ジュエル!?」
目の前のツタージャが驚きの声をあげ、ずかずかとこちらへ向かって歩いてくる。
「ちょっと、なんであなたがジュエルを持ってるの!?」
「え、あ、あれ、これアンタのもんやったんか?」
「あ、い、いや、そういうわけじゃないんだけど。ごめんなさい、少し気持ちを落ち着かせるね」
スーハーと深呼吸をしたツタージャが自分のほうへ向きなおし、ジュエルを指さしながら説明を始める。
「それはね、ジュエルと呼ばれているお宝なの。最近見つかったばかりで持っているポケモンはほとんどいないらしいの」
「それじゃあ偽物と違う?わいはお宝発掘なんてしたことないで?」
「本物と偽ってただの石を売る詐欺師は何匹も見たことあるけど自分の持っているジュエルを偽物と言っているポケモンはあなたが初めてよ。本物かどうか調べるためにも私について来ない?少しあなたに興味持っちゃった」
これはほいほいついて行ったらこのジュエルを取られてボコボコにされてしまうあれかな?その手には乗らないぞと言いたいがついていかなければ途方に暮れてしまうだろうしここは警戒しながらでもついていくとしよう。実際警戒されるのは頭がおかしいポケモンのような説明をしたこちらのほうなのだろうけども。
「それじゃあ頼むわ」
「わかった。私はセレナ。あなたは?」
「わいはミズキや」
「そう、よろしくねミズキ」
「こちらこそな」
そういった軽い挨拶をしてセレナについていくことにした。ボコボコにされないといいなあ。
道中、歩いていて気がついたのだが意外と姿が変わっても歩けるものなんだな。これじゃあ余計に元々人間だといっても信用されないだろうなあ。
「そういえばわいの言ったことは信じてくれるんか?」
「いいや?信じてないよ?」
「ですよね」
一応ダメもとで聞いてみたが案の定駄目だった。そりゃあそうだ。
「だって空から落ちてきたくせに傷一つついてないしね。もしそれが本当だったらそんなに元気じゃないでしょ?」
「それは確かに、ってそれじゃあなんでわいは無事なんや?」
「だからそれは嘘なんでしょ?それか夢を見ていたのか」
夢なのかなあ。あんなにリアルな感触が本当に夢なのだろうか。でもセレナの言う通り確かに自分の体には傷一つついてない。いや、ずっこけたときに後頭部と背中を強打したけれども。あれだけの高さから落ちてきたのなら下手したら死んでいただろう。
でも夢だとしてなんであそこで寝ていたのかもわからない。そういえば人間からポケモンになった時のことも覚えていないどころか人間だった時のことですら全く覚えていない。
「ミズキ、どうしたの突然立ち止まって?」
「え、あ、ああ。すまんな」
考え込んでいる間にいつの間にか足が止まっていたらしい。慌ててセレナのほうに駆け寄り、歩調を合わせなおす。
「さっきまですごい顔してたけど何考えてたの?」
「いや、まあちょっとな」
「話してみなさいよ。少しは楽になるかもよ?」
「いや、どうせ信じてもらえへんやろうしな」
「あ……、ごめんなさい」
少し気まずくなってしまった。別にそんなつもりはなかったんだけどぽろっと口に出してしまった。何とか話題を変えなければ。
「そういえばジュエルと普通の宝石ってどう違うんや?」
「え?あ、ああそうね。ジュエルは持っているポケモンの力を最大限に引き出してくれるらしいの。それが普通の宝石との決定的な違いね」
「ほお、パワーストーンみたいなもんか」
「あれと比べてもらっちゃあ困るわよ。気持ち的な問題じゃなくて本当にすごい力を引き出してくれるんだから。下手したら姿が変わったりもするのよ?」
「ふ~ん」
「正直信じてない?私も信じてないからその仕返し?」
「いや、単にそんなすごいもんをなんでわいがもっとるんやろなと思ってな」
「ああ、なるほど。それは確かにね」
そう簡単に肯定されるとそれはそれで少し傷ついてしまうなあ。ひょっとしたらわいは実はすごいポケモンでしたとかあるかもしれないじゃん。ないか。
「あ、そろそろ着くよ」
セレナが指さしたのは小さな村のような場所だった。近くには海岸そして丘の上には一際目立つテントが見えており、村の中にそこそこポケモンがいることから規模の割には意外とにぎわっていることがうかがえる。
「ここをもうちょっと直進したら目的地よ」
「どこに連れて行くんや?見たところ研究所っぽいとこはなさそうやけど」
「研究所?そんなものここにはないし、私が連れて行こうとしているのはソラさんが住んでいるとこよ」
「ソラさん?」
「ソラさんも知らないの?かつて世界を救ったことのある英雄よ」
「え、ちょ、世界救ったって、え?」
「おう、本当に世界を救ったぞ」
いきなり後ろから声が聞こえたので振り向くとそこには黒い下半身に水色の上半身、腕にはリストバンドのような黄色い模様があり、黄色い十字線の模様がある2つの大きい水色の耳が非常に目立っていた。たぶんコリンクなのだろうけどこんなに大きくなかったしそもそもコリンクは四足歩行なのにこのポケモンは二足歩行だ。右の前足というべきか右手というべきかわからないがその中にはリンゴが一つ握られていた。
「俺がソラだ。よろしくな」
ソラと名乗るポケモンはそう言ってにやりと笑った。
続きますかねえこれ