無に帰すとも親愛なる君へ   作:12

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「あーら、あの二人も来てるのお?」

広々とした賑やかなホールに、わざとらしい声が響いた。

声の主は、大きく二つに結い上げたのが特徴的な明るい髪の少女。名を、カリーヌ。神聖ブリタニア帝国第九皇女だ。ルルーシュたちヴィ家を昔から毛嫌いしているうちの一人である。可憐な見ために似つかわしくない毒をマシンガンのように浴びせることで有名だ。むろん、ルルーシュとナナリーの中だけで。ヴィ兄妹は人前で皇族批判などできる立場ではない。

ほどよく着飾ったルルーシュとナナリーは会場へやって来たばかりで、入口付近にいる彼女を無視することはできない。ルルーシュはナナリーに目配せをし、そちらへと車椅子を走らせる。二人の後ろを、こちらもほどよく着飾ったアーニャに、いつものメイド服の咲世子が続いた。全身を覆い隠したジュリアスも。

「やあ、カリーヌ。元気そうで何よりだ」

「ご機嫌麗しゅう、カリーヌお姉さま」

カリーヌは貴族の娘に囲まれていたが、呼ばれてようやく気付いたという風に二人を振り返る。取り巻きたちもそれに倣った。今夜の夜会は皇族と婚姻関係を結んでいる貴族から数人しか来ることができないから、数は普段の半分以下だ。それでもいっそ見事なほど、全員が侮蔑の表情を浮かべている。

懇意にしている第一皇女ギネヴィアの姿はない。既に会場のどこかにはいるはずだが――カリーヌのところにおらず、シュナイゼルやオデュッセウスもまだな様子を見ると、どこぞの大貴族の男とご歓談中といったところだろうか。

「あらルルーシュお兄様にナナリー。ご機嫌よう。お元気?」

「御蔭様でな」

「エリア11の総督になるんですって?大変ね、総督だなんて。ナナリーは副総督?皇帝陛下のお情けで未だに皇族面してられるだけの庶民の子供のくせに、どれだけ面の皮が厚いのかしら」

カリーヌは淡いレモン色の炭酸の入ったグラスを揺らしながら言った。冷笑が浮かんでいる。第5皇子の沙汰が出た以上彼に言及することも擁護することもないが、カリーヌが彼を慕っていたことを思うと、心中穏やかでないのは明らかだ。もしも彼らの企みが成功していたとして、彼女がルルーシュの失脚を心から喜んだであろうことは間違いない。

「シュナイゼル兄上とクロヴィス兄上の推薦でね。任されたからにはやりきってみせるよ」

「エリア11っていったら未だにテロばっかりの野蛮な地域でしょう?クロヴィスお兄様にあんなところは似合わないわ。その点、戦場が大好きなお兄様たちには向いてる場所ね」

いつもならもう少し迂遠な言い方をするところを、容赦がない。ルルーシュは苦笑した。

腸が煮えくり返っているのだろう。ナナリーはまるで褒められているかのように、にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべたままだ。

「しばらく会えなくなるな。カリーヌはユーフェミアやマリーベルみたいに高等部には上がらないのか?学校に行くのも楽しいと思うが」

「お気遣いどうもありがとう。でも、ルルーシュお兄様の案じられることじゃありませんわ」

カリーヌがルルーシュの名前に嫌みなアクセントをつけて言った。取り巻きの大貴族の少女たちが、ひそひそりと言葉を交わす。

「学校に行ったことのない殿下に仰られても……ねえ?」

「殿下はブリタニアにすべてを捧げられているお方ですから」

「皇帝陛下のお目には届いていないようですけれど」

言いたい放題だ。

その皇帝陛下に名前を憶えられてもいない小娘に言われたところで、痛くも痒くもない。

と、後ろに控えていたジュリアスが動いた。皇族同士の会話を邪魔しない程度に控えめな態度で、そっとナナリーに近づく。ナナリー皇女殿下。囁き、振り向いたナナリーに膝を曲げて体を低くすると耳打ちした。彼がナナリーにそうするときはしゃがむのだ。しゃがんでもらう自分とは逆だ。

きょとんとした様子のナナリーはやがて、向日葵が咲いたかのような笑顔に変わった。そのままルルーシュに飛びつく。先ほどの異様なまでのにこにこ笑顔とは大違いだ。もっともその笑顔の種類が違うことに気付けるのは、アリエスの人間だけだろう。

「お兄様。アリスちゃんが来ているそうです。行ってきても……」

「いいぞ。ユフィたちが来る頃には戻れよ?」

桃色の妹は、先刻姉の手で祈り虚しくリ家の離宮に引きずられて行った。今頃ドレスを着せられて、頬を膨らませながらこちらへ向かっていることだろう。

「はい!……カリーヌお姉さま、失礼致します」

ナナリーはカリーヌの返事もそこそこに、自らの騎士を連れて会場の隅へと急ぎだした。ルルーシュの視線は他よりずいぶんと低いため見つけるのにやや時間がかかったが、壁際に退屈そうな顔をしている少女がいる。アリス――アリス・ヴァルトシュタイン。地位はナイトオブイレブン――皇帝陛下直属のナイトオブラウンズの一員だ。

彼女は外見こそブリタニア人であるものの、出自のはっきりしない孤児だ。本来であれば名誉ブリタニア人扱いであるところを、数多くの特権を持つナイトオブワン・ビスマルクの養女となることで、完全なブリタニア人としての戸籍を手に入れている。彼女はさすが身体能力を見込まれて養女となったというだけあって、ザ・スピードと呼ばれるほどに素早いナイトメアさばきを見せる。アーニャと三人、同い年のせいもあってか仲がいい。今はなにやら同僚のジノ・ヴァインベルグに構われているようだが、うざったそうなオーラを隠しもしていなかった。数十センチも差のあるジノと並ぶと、相変わらず大人と子どもにしか見えない。

 

相手がラウンズであるならば、カリーヌも大きな態度には出れないようだった。暫くナナリーの背を睨んでいたものの、興味を失くして再びこちらを向いた。

「……お兄様、それは?」

それ。カリーヌに人間扱いすらされなかったジュリアスが、バイザーの下でうっそりと笑った気配がした。

「ああ。最近側近にした男だよ。ジュリアス・キングズレイだ」

ジュリアスが懇切丁寧な礼をする。本来いち側近や文官は、皇族に対して喋りかける権利を持たない。大抵の側近は平然と話しかけるが、それはもともと彼らが貴族の出であることが多いからに過ぎない。さすがというべきか、ジュリアスは現在の自分の立場を理解し弁えていた。彼にとっても妹だろう存在に。

「ふーん。こんなパーティにそんな恰好で、無粋ね。顔くらい出したらどうなの?」

カリーヌはジュリアスを上から下までじろりと睨め付ける。

「見た目が少々刺激的な男でね。公の場で見せるには、ちょっとな」

ルルーシュはユーフェミアに言ったものと同じ言葉を吐いた。説明などこれで十分だ。二目と見られないほどひどい顔をしているのか、もしや負傷兵なのか、いやいやどこかの貴族では、前科者であるから顔を出せないのでは――好きに想像すればいい。

ひそひそと会話を交わすのは何も目の前の貴族の娘たちだけではない。皇族同士の会話など、360度全方位から注目されている。カリーヌひとりに紹介しただけで、ジュリアスの名は明日には多くの人間の知るところとなるはずだ。もっともルルーシュはこれから唾を吐きたくなるような連中にも微笑んで挨拶をして回らなければならないし、後から他の皇族たちとも会話するだろう。その都度ジュリアスを紹介することになるのは明らかだ。ルルーシュは咲世子以外に側仕えを置いたことがないのだから。

今日の目的はジュリアスの存在を知らしめることと、そのジュリアスに自分がどんな人間とどのような距離感で話すのか、それをひとつずつ覚えさせるためだ。このふたつにおいて、ルルーシュが気を張らなければいけないことは特にない。相手は自分自身だ、きちんとこちらが満足のいく仕事をするだろう。その横に微笑みながら立つ咲世子は、彼が何らかの刺客である可能性を捨てていないため、いつも以上に気を張っているだろうが。

ルルーシュは、いつも通りに魑魅魍魎たちの相手をするだけだった。

再びホールがざわめく。先ほど通って来たばかりの豪勢な入口に、リ家姉妹が姿を現した。

 

 

 

ルルーシュの私屋には二つの出口がある。

ひとつは普段使う、宮の廊下へと続くもの。もうひとつは、ガラスでできた大きな開き戸だ。バリアフリーの整ったスロープを降りて部屋を出れば、そこは小さな――といっても、宮廷のそれを基準としての小ささだが――中庭だ。

この庭を抜けた先に、ナナリーの部屋がある。

噴水と、お茶をするための小さな東屋庭の真ん中に置き、まっすぐの一本道をメインとして色とりどりの花や植物が植えられた庭。背の高い植物も多く、ちょっとした森か、はたまたジャングルかという風体だ。一般的な庭園とは様相が異なるだろう。常に座った状態のルルーシュが見回すだけで花を楽しむことができるように、というナナリーの配慮だ。ルルーシュは彼女ほど花を愛でる趣味はないが、その心遣いこそが有り難かった。目が冴えて眠れなかったルルーシュは、夜着のまま、中庭に出ていた。

夜でも不自由なく庭を行けるよう、橙色のランプが道沿いに植えられている。

それに助けられて庭のなかほどまで走ると、リラックスするように軽く伸びをする。すぐ隣にある、アガパンサスの匂いを嗅いだ。澄んだ夜の空気の中でほうと息が漏れ出る。

静かだ。夜の静寂が心地いい。

ルルーシュは深く車椅子にもたれ、目を閉じる。

夏の風が吹いていた。花の香りを乗せて、ルルーシュを通り抜けていく。

どれほどそうしていただろうか。離れたところで、きぃ、と扉の開く音がした。

目を開けてそちらを見る。音の方向からそれしかないと思っていたが、予想通り、ミルクブラウンの少女。淡いブルーのネグリジェに淡い緑の薄手のショールを羽織り、静かにこちらを見ていた。そのままてくてくとこちらへと歩いてくる。ナナリー。小さく呟いたが、おそらく聞こえてはいないだろう。

ルルーシュも最愛の妹のもとへと車椅子を進ませる。二人は庭の真ん中、東屋の中で邂逅した。

「まだ寝ていなかったのか?」

「眠れなくて。……お兄様も?」

「ああ。……ナナリー。こんな格好で外に出てくるものじゃないよ。冷えるだろう?そんな素足で」

ナナリーは外用のサンダルに裸足だった。

しかしそれ以上に、彼女は下着も付けておらず、決して男性の前に出ていい恰好ではない。

ショールをどけてシルクのネグリジェを明るいところでよく見れば、難なく胸の頂の尖りを確認できるだろう。

けれどもルルーシュは、はしたないとは言わない。純粋に妹の健康だけを心配していた。

「何か、嫌なことでも言われた?」

「いいえ。……お兄様こそ、何か言われたのですか」

言われた。それはもうしこたま。

けれどもう、いつものことだ。傷つくことすらばかばかしい。

「たいしたことじゃない」

「…………そうですか」

ナナリーは納得していないのがわかる様子で、薄く息を漏らす。嫌なことを言われたのは、彼女も同じであるだろうに。

ナナリーはそっとしゃがんでルルーシュを覗き込んだ。同時に長い髪が地に付かないよう、手で片側に寄せ、首の後ろを回らせて胸の前に下ろした。

深夜の静けさに合わせたように、音のない動きだった。ほのかに光る橙色が、妹の菫色の瞳を輝かせている。どこか暗い雰囲気を漂わせているのは、明かりの少ない場でその姿に濃い陰影が現れているせいだけではないだろう。

「……ね、いっしょに寝てもいい?」

彼女が敬語を取り払うことは滅多にない。誰に対してもそうで、思い返せば母が死んだあの日からだ。皇族らしさのない年相応の少女としての言葉は、彼女が最大限に甘えるときにだけ現れる。こういう時の妹の表情はほとんど無で、その感情はとてもわかりづらい。寂しがっているのだな、ということくらいしか。ルルーシュはどうしたんだとショールの端を抑える少女の手を取ってみせた。

冷えている。

兄は顔を顰め、「部屋まで押してくれるか?」と言った。なかなか自分の部屋に戻りそうにない彼女とここで話し続けるよりは、そのほうがいいだろうと判断して。

ナナリーはそれには素直に従い、ルルーシュの後ろに回ると、車椅子をUターンさせる。

車輪が地面を踏む音と、軽やかなぺたぺたという足音。ナナリーは一言も発さなかった。

怒っている――のではない、と思う。彼女は怒っている時、もっとわかりやすく冷ややかだ。どうしたというのだろう。

スロープを上がり部屋へ戻ると、ナナリーはそのまま寝室まで進んで行ってしまう。

様子がおかしい妹の話を、ソファーでゆっくり聞くつもりでいたルルーシュはやれやれと息を吐いた。予想通りナナリーはルルーシュを軽々と抱き上げ、寝台の上に乗せてしまう。薄い上掛けまできちんとルルーシュに掛けてから、自分もいそいそと潜り込む。ベッドサイドのランプだけの室内は薄暗く、まるで恋人同士の密会のようだ。

「ナナリー」

すっかり弱って呼ぶと、少女は少しだけ機嫌を直したようで、くすくすと笑った。毛布の下で勢いよく抱き着かれ、柔らかい体と密着する。ばふりと大きな音がして、埃が舞った。

「寂しい病か?」

「ええ」

ナナリーは悪戯っぽく言った。ルルーシュはふわふわした髪に指を通し、頭を撫でる。ナナリーはルルーシュの胸に顔をうずめ、すうと匂いを嗅いだ。変態臭いと指摘しても辞めない。安心感が得られるのだと言う。母親を求めるそれに近いのだろうなと、ルルーシュは判じていた。ルルーシュは母マリアンヌのように柔らかくもないし、もちろん胸もないのだが、まあ、そういうことではないのだろう。6歳だったナナリーはもう、母を亡くしてからの時間の方が長いのだ。ルルーシュにこうして抱き着いた回数の方が、多い。

そしてあと一年ほどで、自分もそうなる。それだけの長い間、二人で支え合って来たのだ。

だとしても二人の距離感はおかしい。口さがない噂好きの誰か――アリエスの外の者が見れば、たちまち禁断の関係だと面白おかしく囃し立てられるだろう。それもまた二人を陥れるための材料にされるのだ。

だけど、やはりこれは家族の情の域だ。

二人は実行こそしなかったが、今でも同じ風呂に入れる自信がある。お互い裸を見られたとて、何にも思いはしないのだ。夜着を晒すなどという破廉恥な真似に対しても、思うことはない。兄妹として異常だと言われたとて、この距離感が当たり前なのだから仕方がない。この点においては母親を亡くしたあの時のまま、変わらずに二人は成長した。二人とも見目麗しい御蔭で纏う空気がどこか艶やかで危なげになっていることにすら、ちっとも気付いていない。

もしもジュリアスがこの場にいたなら、俺でもここまでではないぞと顔をひきつらせたかもしれない。ルルーシュのまだ知らぬ緑の魔女がその場にいたならば、シスコンブラコンもいよいよ末期だなといやらしく笑っただろう。

ナナリーがルルーシュをくすぐる。ルルーシュはこらやめろと怒りながら、否応なく生まれる笑いから逃れようと身を捩らせた。アメジストに涙が滲む。

兄が反撃とお返しすれば、妹も悶絶する。ばたばたと揉み合って、しばらくの攻防。10年前とやっていることが変わらないヴィ兄妹のくすぐり合戦は、降参です!という妹のかわいい悲鳴によって幕を閉じた。もみくちゃになった寝台を整え、お互い頭を元通り枕の上に着地させ、息を整える。もちろん鍛えているナナリーの方が回復は早かった。

「ね、お兄様」

何だ?未だ息が整わず、目だけで答えたルルーシュにナナリーは言う。

「そろそろ教えてくださいな。あのジュリアスさんという方、本当は何者なんですか?」

「な……」

驚きに目を見開く。

「寂しいです。私たちの間に嘘はない、でしょう?」

――鋭い子だ。ルルーシュは苦笑いを浮かべた。

「ずっとそれを気にしていたのか?」

「はい。……一緒に寝たかったのは、最近あんまり忙しくて、かまってもらえなかったからっていうのもありますけれど」

「かわいいことを言う」

ぐしゃぐしゃと髪を撫ぜられて、ナナリーはもうっと抗議の声を上げた。お兄さま。

「……ジュリアスな。嘘はついてないんだが」

「騙されるのもいやです」

むっつりと唇を尖らせる。柔らかな小さい体を抱き込みながら、ルルーシュは唸った。

「いつおかしいなって思った?」

「お兄様が隠してることに気付いたんじゃありません。私はそんなに鋭くあれませんもの。……ジュリアスさんが、あんまりお兄様に似ているから。私を呼ぶときの優しい顔なんて、本当にそっくり。それに、私の好物を作るのがとてもお上手。お兄様だって、気の置けないふうじゃあありませんか?そう見せないように努力はしていらっしゃるけど」

「他のみんなは何か言ってる?」

「そっくりだなあって、それだけです」

「そっか、よかった」

ルルーシュは安心したように言うと、妹の手を握った。

ここからひとつも、嘘は吐かないよ。

――勘が鋭く、目を見つめたり手を握ることでそれがさらに鋭敏になる少女への誠意のあらわれだ。

「荒唐無稽な話だけどね――」

 

そしてルルーシュは語り出した。この一月強の間に起きた、不思議な出会いとその存在について。

ナナリーは黙って耳を傾けた。衣擦れと二人分の呼吸だけがある部屋に、ルルーシュの優しい語り声が続いてゆく。

「……どう?」

「……確かにみんなには言えない話かもしれません」

ナナリーは驚きを隠すことなく表して、ぱちぱち瞬きを繰り返す。ルルーシュの話を疑うことなどありえないというように、「本当ですか?」なんて相槌はひとつもなかった。

「明日、L.L.さんって呼んでみようかしら。お兄様なのだとしたら、ルルーシュって名前のはずですよね。イニシャルだけって言っても、どうしてLなんでしょう」

「さあな。聞いても教えてくれないぞ」

ルルーシュはフンと鼻を鳴らす。ナナリーはベッドの天蓋を眺めながら、

「そっちの私みたいに、お兄様の代わりになれたらよかったのにな」

「バカを言うな」

「だって」

「そしたら俺は、お前をゼロの筆頭騎士にはしてやれないぞ。アリエスで待ってるだけなんて嫌だろう?」

「嫌です」

即答。「お兄様の期待に応えられるように、もっと頑張るんです」

兄は極上に甘く微笑んだ。蜂蜜みたいと妹の騎士に評される表情だ。

「ギルフォードに聞いたぞ?あまり無理をするなよ」

「はい」

「エリア11に行ったら、悪夢のナナリーじゃなくて、本当のナナリーに相応しい仕事を任せるからな。俺の代わりに、慰安とか式典とか行ってもらう」

「あら。私が悪夢なのは、本当のことだと思いますけど」

ナナリーはこともなげに告げる。数えきれないほどの人間を殺してきたのは、事実である。

ルルーシュはわずかに表情を曇らせ、黙ってナナリーの頭をポンポンと叩いた。済まないなと小さく呟かれて、少女は眉を吊り上げる。

「そういう意味で言ったんじゃありません」

「わかってるよ、ナナリー。……やっとここまで来た。今度の仕事が成功したら、変わるぞ」

「はい。……エリア11で、私の名前が売れてないといいですけど。ナイトメア・オブ・ナナリーが優しい仕事なんて、うまくいかなさそうです」

「うまくいくようにするさ、俺が」

言って、ルルーシュはベッドサイドに手を伸ばし、かちりと軽い音を立て明かりを消した。

寝る体制に入ったルルーシュは、相変わらずナナリーを抱いたまま。ナナリーも、その腕の中で丸まったままだ。誰より安心する相手が側にいることに、二人ともにすうっと眠気が忍び寄った。二人ぶんの体温は暖かく、心地良い。やがて呼吸の音だけが部屋を支配し、ようやく眠りが訪れようとしていた。

「……絶対、優しい世界を作るんです」

眠りに落ちる寸前、ナナリーは小さく呟いた。もう兄は眠っているだろうか、そう思いながらのそれに、しかし答えがあった。呂律は危うげで、自分と同じように眠りの海に沈みそうな様子だ。

 

「ああ、約束だ。……たとえ、父上を殺すことになっても」

 

ナナリーは唇の端を、ほんのすこし吊り上げた。どこか泣きそうにも見える、少女らしからぬ悟りを帯びた微笑みだった。

 

そう、約束。7年前、あの夜からの。

けれどもそれに返事をする前に、少女は意識を手放した。




ハァハァしながら書きました。カリーヌたんかわいい!かわいい!ギネヴィアさまも出したかった!ナナリーかわいい!ルルナナ近親相愛しすぎぃ!!(※この作品の二人は間違いなく兄妹愛です)
今までの回で一番楽しんで書いたのは間違いないです。
ジノとアリスの身長差とか自分で妄想しておいてめちゃくちゃ萌えますね……アーニャは確か160超えてるんですよね。どう考えてもアリス・ナナリーはそれより小さい……カワイイ……50センチくらいあるんじゃないの……えっジノって何センチ……今とても自然に2mある前提で話したけどさすがにそこまではないのでは……?190くらい……???

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