無に帰すとも親愛なる君へ   作:12

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シンジュク租界の駅構外でスザクは待っており、やがて出てきたアランと咲世子に合流した。歩きでゲットーまで向かう。咲世子は女性にしてはかなり体力があるらしく、つらそうな顔ひとつしなかった。そのうちずいぶん歩いてようやく街は荒廃した趣を見せ、アランが電動車椅子を動かしづらいでこぼこした道になり始める。租界とゲットーの境界は管理されているものの、抜け道がないわけではない。しかしそもそもブリタニア人がゲットーに入るのは自由であり、逆が出来ないだけだ。

「シンジュクは激戦区だったはずだよな」

「そう。トウキョウの中でも被害がひどいところだ。ここから麹町と神田、港区の方もだいぶひどい。……ってわからないか。トウキョウ湾、海のあるほうっていったらわかりやすいかな。ここも最近やっと人が戻り始めて、活気が出てきたところなんだ。」

あっちの方、とスザクは指を指す。ちょうど神田の方向だ。父が仕事をしている間に、神田祭に行ったことがあった。あの頃の神楽耶はお姫様らしいわがままっぷりがひどくて、かなり手を焼いたのだ。SPに肩車をせがみ、楽しそうに行列を眺めていた。

「そうか。……いいこと、なんだよな」

「ブリタニアがもう少しゲットーに目を向けてくれたら、復興も早いんだろうけど……あ、ごめん」

「気にするな。俺はブリタニアの国是や政策に、そこまで賛成しているわけじゃない。母のこともあるし」

アランは気安く告げ、スザクはそっかと頷いた。

出会って一時間と少ししか経っていないのに、居心地よく感じるのは何故だろう。

アランが今まで出会ったどのブリタニア人とも違うように感じていた。というか、神楽耶以外の同年代の人間とこういうふうに話すこと自体久しぶりだ。レジスタンスの組織で年の近い人間に会う事はあったが、スザクの立場もあって、親し気に話しかけてくれる人なんてなかなかいないのだ。自分がスメラギの犬と呼ばれていることを、スザクは知っている。

仕方がないのだ。キョウトは財閥の力をほとんど失わずに名誉として成功した人間たちの集まりであり、裏切り者と罵られるだけの理由はある。裏での活動も、六家の重鎮たちが動きたがらないことが原因で随分動きが鈍い。スザクが大きくなってようやく、年上を敬い、立場を立てつつ自分の意見を通せるような戦い方を覚えてきたところなのだ。キョウトにあるのは財力だけと、思われるべくして思われている。

「スザク。あっちにあるあれは?」

「駅ビルだね。新宿は世界で一番乗降客数が多い駅だったんだよ」

「あの人たちは何をしているんだ?」

「あー……租界から拾ってきたゴミの仕分けだね。まだ使えるものもあるし、修理すれば大丈夫なものもある。今日のは主に電化製品なのかな」

「ここは繁華街だったのかな」

「そうみたいだね。あ、ここはカラオケだったみたい」

「なあ、あっちの路地の方のビル。あそこ、ちょっと入ってみたい」

「車椅子じゃ無理だよ」

「……咲世子さん、いいかな?」

「えっいやいや、それなら僕がおぶるよ!男がいるのに女性に任せるのは」

「そうか?じゃあ、頼もうかな」

アランはスザクを「枢木」として見るでもない。ひどく過ごしやすいなと思う。肩からふっと力が抜けるような。

久々にやってきた新宿は、前よりかは少し状態が良くなっているように見えた。

ボロボロのまま放置される建物たちは変わりない。荒廃した、命を数多奪われた凄惨さはそのままだ。しかし、空気が明るいといでも言えばいいだろうか。廃墟そのものの、死んだ街の空気ではない。少なくともがれきは両脇にどけられ、人の通る道が形成されている。麹町の方は、これすらまだだったはずだ。

道行く人々は日本人二人を連れるブリタニアの少年を訝し気にちらちらと見たが、彼が車椅子に乗っていて、華奢な体はどこか儚さを演出するからだろうか――ガラの悪い連中も声をかけてくるようなことはなかった。実際は「最近夜食を摂ることが多くて太った」と苦い顔をして語り、言葉遣いも始めに思ったよりはがさつだ。それらがひとつひとつ、彼は外見から見られるような弱弱しい存在ではないことをスザクに教えた。

小さな子供たちが走っている。このゲットーで、子どもの笑顔は何よりの希望だ。純粋な笑い声が聞けること、その尊さ。

鬼ごっこをしているのだろうか。鬼になった少年が女の子を追いかける。少年は走るのが得意ではないのか、すぐに息をあげ、煤けたビルの壁に手をついて休憩している。

ねえ待ってよお、と疲れた声。やーだよ、じゅんくんとっろい!オトコのくせになさけないのぉ!少女らしい柔らかな髪を頭の上でふたつに結っているのが特徴的な女の子は、容赦のない無邪気な返事を返した。少年はじゅん君というらしい。やがて女の子が駆け離れていってしまうと、それを待っていたように、物陰から別の少年が現れた。じゅん、鬼代われよ。チヨたち、年上だからってチョーシのってんだぜ。俺が捕まえてやるよ。じゅん君の顔がぱっと輝いた。よっちん、ありがとう!先ほどとは、打って変わって明るい声。それを受けた少年――よっちんは、自分から鬼になると、じゅん君とは比べ物にならない速さで駆けて行った。

よっちんのガキ大将さを感じる振る舞いが、どこかかつての自分に重なって見えた。チヨちゃんも、あの頃の神楽耶に。ただしスザクは神楽耶に目にもの見せてやろうと思うことはなかった。自分が年上だったからかもしれない。侍として、そんな恥ずかしい真似はできないと思ったのだ。

しかし、じゅん君やよっちんたち男の子と、チヨちゃんたち女の子たちはそんなことはないらしい。対等、いや、年下の少年ふたりがやや劣勢のようだ。

最終的にチヨちゃんが泣く事態にならないといいけどと、スザクはぼんやりと思った。

よっちんは昔なら、女と一緒になんて遊べるかよと突っ張っていたかもしれない。ひょっとすると現在のトウキョウゲットーの子どもの少なさが、彼らの関係を築いているのだろう。

スザクの隣で一部始終を見ていたアランが、ふっと笑った。

「どうかした?」

「いや。俺もああだったなあと思って。女の子とやってるのに、全然追いつけないし、勝てないんだ。俺の場合、鬼を代わってくれたのも女の子だったけど」

「……生まれつきじゃないの?足」

「ああ」

妙に間をあけてしまったスザクに対し、アランはおかしそうに笑んだまま、ごく普通に答える。そしてそれ以上を語る気がないらしく、ただ眺めている。確かに、初対面でそこまであれこれ尋ねるのは立ち入りすぎだろう。

このあたりは人が多く住み、比較的治安もいい。所詮はイレブンとしてだとしても、それなりに余裕のある人間が集っている地域だ。さっきの子どもたちは楽しそうだったが、中には過激ないじめが後を絶たないところもある。同じ日本人同士でも、争いはやまない。

そんなスザクの思考を読んだかのように、アランが口を開いた。

「日本人の中の格差も問題だな」

「うん。地域によっても差があるし。トウキョウは壊滅したからこんなだけど、被害が少なかった県はかなり様子が違う。キョウトは自治が行き届いてるから、生活の質自体が他所とは異なる。軍の管理が雑なんだ。県ごとにルールが違ったりして、これじゃ江戸時代だよ」

一介の名誉ブリタニア人にしては、全国の様子を知り過ぎている。スザクはそれを説明する危うさにも、隣のアランがすっと目を細めたのにも気が付かなかった。

「江戸時代?」

「300年から150年前くらいの日本のことをそう言うんだ。国をいくつもの小さなグループに分けて、それぞれの地域のトップに政治を任せてた。県じゃなくて藩って名前でね」

「へえ。……やっぱりスザクに案内してもらって良かった。俺とは全然視点が違うな」

「ありがとう。そりゃあ、日本人だからね」

スザクは何気なしにそう返したが、アランは顔色を悪くした。

どうしてだろうと内心首を傾げ、思い至る。

ブリタニア人、征服者としてぬくぬく生きている君と一緒にされても困る。

もしかして、そういう意味にとられただろうか。

「あっ、アラン、あの、変な意味じゃないから!怒ってないし」

「いや、俺が考えなしだったよ。すまない」

あまりにも素直なその態度に、スザクも申し訳なくなる。

「ごめん、嫌な言い方になっちゃったね」

「気にしないでくれ。俺が変な勘違いしたのが悪いんだ……ところでスザク、旅でもしてるのか?」

「へ?」

「いや、全国の様子に詳しいからさ」

「あー……」

スザクはかりかりと頭をかいた。旅……のようなものだろうか。神楽耶の命であちこちの現状把握や、今みたいに交渉に出ているわけだけど。

「そんなようなものかな。従姉妹がいてさ、彼女がいろいろ知りたがる」

「へえ」

アランは興味深そうに頷いた。

「従姉妹殿が行けないのか?一緒に。楽しいだろうに」

もっともな疑問だろう。スザクは事情があってね、と誤魔化すことしか出来なかった。

立ち入ったことを聞いたかとアランはそこで退却し、話題を変えようとした。

しかし、アランが明るい顔で口を開きかけたとき、携帯が鳴った。彼のジャケットの胸ポケットからだ。

「いいかな」

律儀にもスザクに確認をとり、電話を取る。彼が端末の画面をそっと確認して、耳に当てるまでのわずかな時間に、スザクが持っていない(ことになっているだけで、キョウトの人間は皆持っている。現在も、マナーモードであるだけで鞄の中にある)携帯電話の画面に、「Julius」と表示されているのが見えた。動体視力の良さのおかげである。そしてそれに気を取られている間、咲世子がスザクの様子をじっと見ていたことにも、残念ながら気付くことはなかった。

「……は?ああ。……ああ、それでいい。適当に……俺でもお前でも同じことだろう。いや、俺がやらないで済むならそれに越したことはないんだ。あ、いや、いっそ全日お前がやればどうだ?名案だと思うんだが。そう、モデルが変わるとよくないぞ。…………わかった、ああ、わかったから。首と胸さえ出さないなら好きな格好をしろ。あの人の言う通りになるなよ。天使の真似事をさせられるからな。俺は御免だ。……切るぞ」

会話が進めば進むほど、アランは険しい顔つきになっていった。呆れが強くなり、ついにはうんざりしている。スザクと会話している時には全く見せなかった、鋭い雰囲気だった。途中で額を押さえて天を仰いでいたので、余程のことなのだろう。苦々しい顔でアランは携帯を仕舞った。さっきうっかりとはいえ見ちゃったし、覗くのはよくないなと顔を背けていたせいで、スザクは彼の携帯の待ち受け画面を見ることはなかった。もしそちらに顔を向けていたら、ミルクブラウンのふわふわした長い髪を持つ少女が猫を抱き、こちらに笑いかけている画像を目にすることになっただろう。そして彼は知る由もないが、その少女の携帯の待ち受けもまた、目の前の少年が猫を抱き、微笑む姿であった。

「どうしたのですか?」

「ジュリアスだ。……絵のモデルをやらされることになった」

咲世子の問いに、アランが苦々しく答える。咲世子はまあまあと顔を綻ばせ、アランの苦虫を噛み潰したような顔とは正反対だ。

「君、絵になりそうだね」

「スザク……ありがとう。しかし……そんなことをしている場合ではないというのに……」

「忙しいのかい?」

「少しな。父から任されたことがあって、てんやわんやになりそうだ」

「体、壊さないように気を付けてよ?」

「家族からも言われてるよ。耳に痛いな」

車椅子。父から任されたこと。ゲットーを見たがる。エリア11に詳しい様子。

スザクがもう少し勘が良ければ、ここで気付けたかもしれない。しかしこういった方面ではアランの方が何倍も上手であったため、スザクに勝ち目はなかった。真実にたどり着くには、あまりにも突飛な発想が必要だった。

 

スザクとアランと咲世子はそれからしばらくシンジュクを回り、日が傾き始めた頃に租界に戻った。パーキングに停めていたバイクを取りにいくところまで付き合ってくれ、スザクは何より咲世子の体力に驚いた。かなり歩いたのに、疲れた様子ひとつ見せていない。

マラソン選手のようなことをしていたと言う咲世子はとてもそうは見えず、いかにも女性らしさに満ち溢れていて、スザクは感心するばかりだ。

「今日は楽しかった。……また会えたらいいな。友達になれたら――いや、ダメならいいんだけど」

そんなことを言った自分に驚いた。

スザクには友達というものがない。

幼い頃はいないでもなかった。しかし日本が戦争で敗れてからというものの、それまで以上に周りは大人だらけになり、スザクと年の近い存在といえば、神楽耶しかいない。

そして神楽耶は従姉妹であり元許嫁であり、スザクにとっては妹だ。

枢木として見られないこと。それがこんなに心地良いことだとは、スザク自身も知らなかった。お父上が、と言われないこと。

スザクの抱える秘密を刺激し続ける日常は、疲れないといえば嘘になる。

しかし父がいたからこそ、スザクがそれなりの目で見てもらえるのも確かだ。

だからこそ、出自に不満を言うつもりもない。第一、言う資格などありはしない。

アランはスザクの葛藤をよそに、口元を綻ばせた。

「嬉しいな。俺、友達っていないから」

「そうなの!?」

スザクは驚く。なんて偶然だろう。

「友達だって言ってくれる人はいるんだが……俺にとっては、なんていうのかな……妹みたいな相手なんだ」

スザクも神楽耶が男で、なおかつあと数年早く生まれていれば、きっと友達だっただろう。

別れ際になって、親近感がぐっと増す。こんな感情を抱けるのが敵国の人間であることに、一抹の悔しさを感じた。スザクは、ブリタニア人と仲良くする気はないのだ。

でも。

「お前の住所、聞いてもいいか?新居に移ったばかりで、まだ自分の住所覚えていないんだ」

「いいよ」

スザクは快諾した。

「あちこちふらふらしてるから、あんまりすぐに返事は出せないかもしれないけど……」

渡された、咲世子のメモとペンで枢木神社の住所を書く。完全にゲットーの中だ。焼かれた街ごと棄てられた枢木家周辺は、今も戦争の爪痕がそのまま残っている。そしてゲットーへ郵便物を送るのは、ブリタニア正規の役所では無理だ。そういうものを請け負っている企業へ依頼するしかない。不便なうえに高いが、キョウトの仮住まいを書くわけにもいかないのだ。

「ゲットーか。ま、なんとかなるだろう」

「もっと君と話したいな」

「またすぐに会えるさ」

スザクは別れを告げ、バイクに跨り走りだした。交渉は成立し、良い人にも出会えた。あの無礼なブリタニアの車も許せそうだ。

夕焼けが綺麗な色をしている。実にいい気分だった。

 

 

 

「……すぐに会えるよ、枢木スザク」

スザクの走り去る姿を見ながら、アラン――ルルーシュは呟いた。受け取ったばかりの住所のメモ。一瞥して、咲世子に手渡した。

「どういたしましょう」

「適当に捨てておけ」

残しておく必要はない。枢木スザクの素性を洗えば済むことだし、何より、たった今暗記した。

偶然だった。枢木ゲンブの息子の名は知っていたが、顔までは。ただの、善意にもならない偽善が大当たりを引いてしまった。

敵に話すには危険なことも、スザクは一般人のアランにぺらぺら話してくれた。おかげでこちらは、この先を考えるための重要な素材をいくつも手に入れることができた。ありがたいことだ。

「どう思う、咲世子」

「やはりレジスタンスかと」

「どう見ても、だな。わかりやすいことこの上なかった。隠すのが下手すぎる。根が正直で良いやつなんだろうな。はっ、こんな立場でなければ、本当にオトモダチにでもなっていたか?笑えるな」

笑うというよりかは嗤いながら、ルルーシュは続けた。

「――しかし、NACは黒で間違いないだろうな。日本解放戦線を抱える、レジスタンスの総元締め……主に資金面での貢献。政府と癒着していた巨大財閥の名残――もはや旧時代の遺物に過ぎない。これを潰せば、あとは楽だ。」

ひどく悪い顔でそう言ってから、少し声を低くした。

「……咲世子もやはり、あちら側へ渡りたいか?」

「全く思わない、と言えば嘘になりますが」

咲世子は間髪入れず、短く答えた。この女がこうして本音をさらけ出してくれるのを、ルルーシュは非常にありがたく思っている。

「彼らが犠牲を払って日本を取り戻すより、ルルーシュ様がここを衛星エリアに昇格させるほうが早いでしょう」

「だが、日本ではない。彼らの矜持は奪われたままだ」

「だからこそ、私もこのように申し上げました」

ルルーシュは満足そうに微笑んだ。ひじ掛けに両の肘をつき、手を組む。

「矜持。そう。……それが問題だ。」

プライドと誇り。尊厳。

『生きる』ために、最も奪われてはならないもの。

「――命か矜持か。枢木、お前はどちらをとるのかな」

 

 

 

「……嘘、だ」

スザクは呆然と呟いた。

画面から目が離せない。

唇が震えている。

目の前の現実を、頭が拒否しているのがわかった。

 

8月31日。

エリア11新総督就任式が行われた。

政庁にて行われている最中のそれが、中継されてエリア全土に届いている。

それはいい。スザクも神楽耶と並び、彼女の部屋でそれを見ていた。

大きな液晶に映し出される政庁の様子。

そして、クロヴィスの後に続き現れた車椅子の少年。これが問題だった。

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

17歳という若さの新総督は――数週間前に会って以来、音沙汰のなかった彼だった。

(騙したのか……!)

熱くどろりとした憎悪が、腹の底から湧き、あっという間に溢れ出す。

神聖ブリタニア帝国、第11皇子。

どこがハーフだ。どこが、母さんの育った日本だ!

ルルーシュの後ろに続くのは亜麻色の髪の少女。ルルーシュの実妹にして副総督、ナナリーだ。悪夢のナナリー。まるで天使のような顔をしているが、あの女がKMFに乗り通った道に、命あるものはないのだという。

『政庁に御集りの皆さん。そして中継をご覧になっているエリア11に住む帝国臣民の皆さん、ナンバーズの方々。私は神聖ブリタニア帝国第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアです。本日は……』

クロヴィスの気障ったらしい演説も、まるで耳に入らない。ひたすらに目の前がぐるぐると回り続けるのを感じていた。画面の外にいるだろう少年に、今すぐ掴みかかってやりたい。

彼の言葉はすべて嘘だ。あの笑顔も気安さも。

アラン・スペイサー?日本人の母?反ブリタニア思想?随分バカにしてくれたものだ。

スザクを誰なのか、予め知っていて接触してきたに違いない。

自分は何を話した?キョウトの不利になることは言ったか?冷や汗が流れる。

『そして私は今日をもって総督を退任し、ここにいる私の弟、第11皇子ルルーシュにその席を明け渡します。副総督には第12皇女ナナリーを。彼らは私以上に、このエリアの治安向上、そして経済の発展に尽力することでしょう。私は前総督として全力を持って彼らを支援し……』

「スザク?」

神楽耶が自分の様子がおかしいことに気付く。

スザクは、今や怒りと混乱でぶるぶる震えていた。

「神楽耶……まずい」

「は?」

枢木は完全に疑われただろう。目を付けられた。あの日自分はブリタニアへの敵意を、どれほど語った?乗せられているのだとも知らずに!

「新総督ルル―シュ。数週間前に、あれに会った」

「なんですって!?」

神楽耶が頓狂な声を上げた。がちゃんと音を立てて、彼女の手元にあった湯呑が倒れた。緑茶が畳へと広がり、しみ込んで行く。

「ハーフで、日本人の母の故郷が見たいと嘘をついて……そ、んなふうには見えなかった!日本が見られて嬉しそうに……イレブンの現状に悲しそうにして……全部嘘だ、嘘、だった。信じられない、瞳はカラーコンタクトでも入れてたのかな、紫じゃなかった。僕はゲットーを案内した。くそ、ブリタニアめ、それで……!」

支離滅裂になってゆくスザクの言葉。神楽耶は察したらしい。艶のある唇を噛んだ。

「どの程度話したのです」

「ブリタニアの国是に賛同できない一般人に対して喋るようなことしか言ってない、けど……」

「…………相手が悪すぎましたわね」

神楽耶はそれきり、痛むかのように頭を抑えて黙り込んだ。

「くそ……!もっと警戒するべきだった!」

歯噛みする。

悔しかった。今頃この放送を見て愕然とするスザクをあざ笑っているに違いない。いや、そんなふうに騙したことすら忘れている?善良な市民を演じて、何人の日本人を騙したのだろう!

目の前が真っ赤だ。許せない。ブリタニア。これがブリタニア。

友達になれそうだと思ったのに。だって、あんなに楽しい時間は久しぶりで。

敵国の人間でも、わかりあえると――思ったのに。

そうこうするうち、クロヴィスが話し終える。第三皇子が退くと、配下が慌ただしくやってきて、スタンドマイクの高さを大幅に下げた。

それも終わると、今度はルルーシュがクロヴィスのいた舞台中央へやってくる。車椅子に乗る少年には、マイクの高さはちょうど良いくらいだ。

新総督の就任演説。

スザクを卑怯な手口で騙しきった少年は当然座ったまま、その口を開いた。

 

 

『帝国臣民の皆さま。それからナンバーズの方々。私が新総督の、第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです――――』

 




8/31、ちょうど中の日付と一致しましたね
総督就任日でした。反逆本編では、このあたりがキュウシュウくらいかな……?と思っているのですが、果たしてどうでしょうか。
現実には、ルルーシュくんが皇帝になった日(の、放送日)。


ミックスって言ってるのに反逆以外が出て来ねえと思ってらっしゃる方いらっしゃると思います、もうすぐ出るのでちょっと待ってくださいね!アキトのキャラはまっだまだ出てきませんが、他はもうすぐちらほらと。

今回はデート(笑)から、スザクくんガチギレまででした。顔面蒼白スザ神楽、可愛すぎませんか。
ルルーシュくんの言う「妹みたいな友達」が果たして誰のことか、ぜひ考えてみてくださいね。
12の大好きなキャラですので、気付いたらそんな設定になってしまったのです。

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