1-2
同じ顔の男。
いや、顔だけではない。声も背格好も非常に良く似ていた。おそらく背丈も。ルルーシュが立つことができれば、このくらいの背丈になるのではないだろうか。まるでクローンだ。
男は目を瞠り、ルルーシュを見つめた。
全く同じその顔を。次に、車椅子と足へと視線が移った。それはほんの一瞬のことであったけれど、ちらりと向けられるその瞬間に、ルルーシュはひどく敏感であった。
憐憫。同情。戸惑い。侮蔑。
時と場合によって実に様々な感情が飛んでくるが、それらすべてに負の要素を持たないものは存在しない。見るほうはそのつもりがなくても、やられるほうはすぐに理解する。不快に思うことすら面倒になるほど慣れたそれに対して、しかし今だけはそれどころではなかった。
男はきょろきょろとあたりを見回し、怪訝そうに首を傾げる。なぜ自分がこんなところにいるのかわからないと言いたげな顔だった。それはこちらも同じで、おそらく、ルルーシュも似たような顔をしているのだろう。
先ほどまで誰もいなかった空間に、なぜか自分と同じ姿の人間が出現しているのだ。
「………………貴様は、何者だ」
「……おまえこそ」
皇子としてのプライドでなんとか心を保ったルルーシュが先に口を開くと、男は虚を突かれたような間抜け顔に不敵な笑みを浮かべ、寄越した。
馬鹿にしたようなその顔にかちんときて、銃を見せつけるように手首を揺らす。いつでも撃てるという威嚇だった。
なのに男はそれを意に介したふうもなく、笑んだままだ。それどころか、優雅に腕を組んでこちらを値踏みするように見据える。
「言葉遊びをする気はない。どこでそのような顔に作り替えたのか知らないが、私の寝室に侵入するなど不敬にもほどがある」
「不敬。……おまえは皇子なのか」
「何をバカげたことを言っているんだ?このブリタニア宮殿に侵入しておいて、私がだれか知らないと?ふざけるなよ」
「そうか、ここはやはりペンドラゴンなのだな」
話が通じない。厄介だと顔を歪める。
とにかくこの痴れ者を捕まえてもらおうと、銃を持たないほうの手で胸ポケットから取り出したアラームのスイッチに手をかけた。ボタンの少ない携帯電話のような見た目のそれは、鳴らせばすぐさま警備が駆けつけてくる。身につけている身を守るもののひとつだ。
とたん、ぽやぽやしていた男が焦ったように手を伸ばした。
「待て!」
「誰が待つか」
「人を呼ばれると困る。撃ってもいいから誰も呼んでくれるな」
「はあ?」
言っている意味がわからない。
「おまえ――いや、ルルーシュか。ルルーシュ、俺に敵意はない。見ればわかるだろう?落ち着いて話をさせてくれ」
「何を――」
男はどんどん近づいてくる。
「撃つぞ!」
「好きにしてくれ。でも出来れば、音が響かないように銃口を押し付けろ」
「なにを……っ」
男の白いシャツの襟。その間に覗く肌には、妙なタトゥーがあった。首を覆うように、羽ばたく鳥のような赤い文様が浮かんでいる。
「さあ」
男がルルーシュのすぐ前まで来た。
奇妙な懐かしさは一体なんだろうか。
彼はルルーシュの突きつけた銃に腹を押し付け、撃つなら撃てと顎でしゃくった。しかし、トリガーにかけた指は動かない。動かせなかった。
(――撃ってはいけない)
銃を向けているのはこちらだ。なのに、自分が銃口を押し当てられているように肝が冷えている。なぜ?どうして?
「……撃たないのか?」
「…………っ」
「よし、なら話をさせてくれ。確認したいことがある」
男はくるりとルルーシュの後ろに回り、後ろに引く。配慮に富んだ優しい手つきは、初めて車椅子を扱うもののそれではなかった。まったく自分のペースでことを進め、こちらの混乱っぷりなどおかまいなしだ。男はルルーシュを寝室へと連れ込み、用心深く扉を閉めた。もしも誰かが入ってきてもいいようにーーそう見えた。
「撃たないでいてくれたことに感謝しよう。人に集まってこられたらいろいろ困るんだ」
「……後ろ暗いところがあるのは確かなようだな。おまえはテロリストか?いや、違うな。誰の差し金でここへ来た?」
「だから違うと言っているだろう。こんなバカみたいな恰好で暗殺に来るわけないだろうに」
男はルルーシュをベッドの脇に停めると、自分は図々しくも寝台の上に腰かけた。これだけで処刑できるほどの不敬である。誰にも彼にも敬えと偉ぶるつもりなど毛頭ないが、これには不快感が胸を占めた。
「……貴様は何者だ」
「……L.L.」
「エルツー?」
「Lを二つ並べて、L.L.。名前だ」
「イニシャルだけということか?ふざけるなよ」
「ふざけるも何もこれが正しい名前だ。身分はそうだな、魔王、とでもいっておこうか」
男――L.L.は優雅に足を組んだ。
「余程捕まりたいらしい」
「バカ、やめろ!鳴らすな!敵意はないと言ってるだろうが!」
「信用できるわけがなかろう!第一貴様はどこから入った。まさか窓から入ったのではないだろうな」
「いや?ここは三階だろう?そんな芸当俺には無理だ。そもそもどうしてここに飛ばされたのかさっぱりわからない。若い緑髪の女を見なかったか?チーズとトマトとバジルの臭いがぷんぷんするやつだ」
「見ていない」
そんな臭いを纏った若い女の姿は想像もできない。
「……飛ばされたとはどういうことだ?ワープでもしてきたような言い草だな」
男は不遜に笑った。
「そのまさかだと言ったらどうする?」
「――バカバカしい。そんなことあるはずないだろう」
こいつ、もしかして電波か。呆れ返ったルルーシュに、L.L.は唇の端を吊り上げた。その偉そうっぷりだけは、確かに魔王と自称するだけあるレベルだった。
「では、俺はどこから侵入したと?窓からだとでもいうつもりか?この下はちょうど警備の兵がいる地点だったと思うが、それを倒し、窓には傷一つつけないで、音も立てずに外側から鍵を開けて?大泥棒になれるな」
「ずっと柱の陰にでもいたんだろう。人のいない時間を狙って入り込んだ」
「ほう。ここを掃除するメイドはともかく、貴様の住むアリエス宮でもないここで、皇族を部屋にひとりにする前に、危険がないか確認をする兵はどう対処するのかな」
「……貴様」
L.L.と名乗った男は腹の立つ、人を食ったような笑みでつらつらと言葉を吐く。
ブリタニアの内部を知っているような口ぶり。皇子なのかとふざけたことを質問してきた割に、ルルーシュの名前を知っていた。いや、顔だけを知らなかったという可能性もないわけではないが――とにかくルルーシュは警戒を解いていない。銃口は男に向けたままだ。
「と、言ってもだ」
男は疲れたふうにため息を吐き、突然ふらりと立ち上がる。
さらにはおい、とルルーシュが止めるのにも構わず、顎に手をやり難しい顔をして部屋の中を徘徊し始めた。壁にかかっている大きな鏡の前で自身の首のタトゥーを訝し気になぞる。自分と同じ顔には不可解だと書いてあったが、そんな顔をしたいのはこちらの方だ。
きょろきょろとあたりを見回して、それからおもむろに寝室の扉を開ける。自分から閉めたくせに、ずかずかと向こうの部屋へと侵入してゆく。さっきまでナナリーを思って悶々としていた机へとに近づいてゆくので、途端に焦った。散らかったままのそこには重要な書類だってある。自分以外に見られては困るものもあるのだ。
呆けている場合ではない。
何かされてはたまらないと、ルルーシュは車椅子を走らせて追いかけた。男は机の上に先ほど使っていたカッターナイフがあるのを見咎めるや否や、それを手に取る。
カッター。――凶器だ。
怖気が走る。ぎくりと体が固まったルルーシュに男はクスリと笑い、
「刺されるとでも思ったか?」
そのまますぱっと自らの指を切った。
「な――ッ」
――ぱたり。
血の滴が落ちた。自分で自分の指を切った。自傷。――なぜ?
彼はそれを無感動に眺めている。いや、眺めているのは自身の傷口か。ルルーシュはもう言葉が出ない。どう見ても奇行だ。語りは正常だったが、やはりこの男、頭がおかしいのか?
「……コードを持ってることに変わりはないのか」
小さく男が――L.L.が呟く。コード?何のことだろう。
ルルーシュが眉を寄せると、彼はようやくこちらに関心を戻した。こちらはわけがわからなくて混乱しているのに、机を汚してすまない、何か拭くものはあるか?と呑気に聞いてくるものだから、危険な状況も忘れて素直に腹が立つ。
けれども自分の机を汚されているのは気分のいいものではないし(よりにもよって血液だ)、相手は凶器を持っているのだ。こちらにも銃があるとはいえ。刺激したくなくて、「左の引き出しにティッシュペーパーがある」と答えるしかない。
男はこちらも素直に礼を言うと、机と、ナイフと、自身の指をぬぐう。あとで除菌しなくてはならないなと思ったとき、待ちかねた、この場にそぐわぬ電子音が響いた。
ロイヤルプライベート通信。
(ナナリー!)
頭からなにもかもが吹っ飛んだ。
猛スピードで車椅子を机に向かって走らせ――せめてもの理性で銃は持ったままだ――いつもの場所に陣取ると、銃身を振って除けと合図する。
「ここだとお前の姿が映る」
L.L.は何も言わずに大人しく退いた。相変わらず微塵も殺気が感じられない。一体なんなんだこいつは。
人一倍どころではなく3倍も4倍も警戒心の良い自分の勘が、これは大丈夫だと判じていることに疑問を抱きながら、とにかく早くと通信を繋げた。途端、にこにこと笑う愛しい妹の姿が映る。
「お兄様!」
「ナナリー!無事か?」
「はい。皆元気に生還いたしました、作戦は成功です!これからお姉さまが後片付けをしてくださって、何もなければ週末の朝にはここを発ちます!」
「そうか――そうか、よかった」
ほっとして顔を覆う。はぁと深いため息が、先ほどとはまったく違う響きを持って漏れた。
画面の中にはナナリーを除いた3人のメンバー全員が揃っており、それぞれ良い表情でこちらを見つめている。ルルーシュはもう一度安堵の息を吐いた。良かった。しかしすぐに、不自然な動きに気が付いた。自然と声が低くなる。
「ナナリー……手首を見せてみろ」
とたん、愛らしい妹がうっと詰まった顔になった。すぐ後ろのヴィレッタがやれやれと首を振る。
「隠せるはずないでしょう、ナナリー様」
「大丈夫ですわ、このくらい……っ」
「そういう問題じゃない」
アーニャがぴしゃりと言う。ナナリーは渋々と、淡いグリーンのラインが入ったパイロットスーツの袖をまくり上げた。
画面越しではわかりづらいが、少し青くなっている。いつも帰還の報告では通信台に手を突いて話し始める彼女が、今日に限ってそれがなかったのだ。その場にある機材の型にもよるが、今日の通信機はナナリーの異常を発見するに大いに役立ってくれた。
「どうした、それ」
労わるのと、叱るの。半分ずつの低い声で問えば、敵の攻撃でナイトメアが大きく揺れ、水平を失ったコクピット内部で、大きく体をぶつけたらしい。――ということは。
「手首だけじゃないんだな?なぜそれをはやく言わない!」
「ごめんなさい、心配させると思って――帰国したらお知らせするつもりでした。医師に診てもらいましたが、軽い打ち身だそうです」
その程度で済んで良かった。ほっと息を吐き、違うそうじゃない、と再び顔を険しくさせる。
「――ナナリー、何度も言うがそうやって隠すのをやめろ。嘘を吐かれるほうが俺は悲しいぞ」
「でも……」
「ルルーシュ様はナナリー様が軍務でいらっしゃらないと食事も喉を通りませんから、怪我などして余計に心配させるなんてと、それが御嫌なのだそうですよ」
ジェレミアが苦笑する。今度はこちらが言葉に詰まる番だった。
「咲世子め――話したのか」
「咲世子さんは悪くありませんわ、お兄様」
「わかってる。――ちゃんと食べるから。お前も変に隠さないでちゃんと教えてくれ」
「わかりましたわ。約束ですよ?」
「ああ、約束だ」
引き分けと相成ったところで、ルルーシュはすっかり存在を忘れていた(不審者の存在を忘れるなどありえない)L.Lが、とんでもなく険しい顔でこちらを見ていることに気が付いた。
警戒すべき類のものというよりは、
(……何をそんなに驚いているんだ?)
ルルーシュのことを知ったような口ぶりからして、ナナリーと会話した、ただこれだけでそんな顔をするはずはないのだが。
気になってそちらを見つめていたら、ナナリーが怪訝そうな声を上げた。
「お兄様?」
「っ、どうした、ナナリー」
「どうかなさいました?もしかして、どなたかいらっしゃってるんですか?」
「いや、そんなことないよ。大丈夫だ」
「そうですか……?」
「ああ」
ウソを吐くなと言ったそばから、こちらが嘘をついているのは心苦しい。が、まさか今目の前に自分そっくりの怪しい男がいるんだとは言えるはずもなく、微笑んで誤魔化すよりほかない。
それからしばらく会話したが、ジェレミアがそろそろお休みになられてはと言うので、惜しいがそうさせてもらうことにした。この忠実な部下は、明日のルルーシュの予定をしっかり覚えているらしい。それがルルーシュにとってなかなか気の重いものだということも。
「夜ももう遅いしな。ナナリー、皆も、御苦労だった。ゆっくり休め」
イエス、ユアハイネス。全員の声が重なり、ナナリーのお休みなさいませ、を最後に通信が切れた。
画面が暗くなったのを見届けてから、さて、と不審者に視線を戻した。
「お前は何をそんなに驚いているんだ?」
「……今の通信相手は?」
「私の妹だが。私のことを調べている割に、ナナリーのことは知らないのか?」
「……ナナリー」
呼び捨てにするなどなんたる不敬か。そう思ったのに、不思議とその言葉は出てこなかった。
「皇女殿下が戦いに……?ナイトメアだと……」
ふらりとL.L.が揺れる。眩暈を起こしているらしい。そのまま瞳だけ力を持って、ぎろりとルルーシュを睨んだ。
「彼女が戦場に出ているのに、おまえは何をしているんだ」
「私は指揮官だ。この体でナイトメアに乗れるわけないだろう」
「ああ……なるほど…………そうか」
L.Lはとんでもないショックを受けているらしい。よろめき、俯き、ふらふらとルルーシュのすぐそばの椅子に座った。さっき一人でナナリーを案じていたルルーシュのように、手で顔を覆っている。見れば見るほど自分にそっくりな男だった。一体何に動揺しているのだろうか。
「……ついでに聞いておきたいのだが」
「私は貴様に聞きたいことが山のようにあるのだがな。その指がすっかり綺麗になっているのはいったいどういうわけだ?」
「こういう体なんだ。この程度の傷なら一瞬で治る……さっき、撃ってもかまわないと言っただろう?殺されても俺は死なん」
「は、随分ファンタジックなことを言うんだな」
「本当のことだからな。嘘だと思うのなら撃ってみればいい。ただし、人を呼ぶなよ。俺は研究材料としてモルモットにされるのは御免だからな。……いや、そんなことより聞きたいことがある。マリアンヌ皇妃は亡くなっているのか?お前が庇われてその足になったというわけか?皇女殿下は巻き込まれず、ナイトメアに乗れるくらいには元気なんだな?」
「……お前はいったいなんなんだ」
知り過ぎていたり、何も知らなかったり。
「お前は何だと思う?」
「……私によく似ているな」
「そうだな」
ルルーシュは困ってしまった。手品でもなんでもなく、男が自分の指を切るのを間近で見た。そして、ティッシュで指をぬぐった時にはその痕すらなかったのを。仕掛けがあるようには見えなかった。けれども、L.L.がルルーシュにそうと錯覚させるため、種を仕掛けたとも考えられる。しかし、なんのためにそんな回りくどいことをする?
ルルーシュは再び銃を手に取り、L.L.の頭蓋に押し付けた。彼は抵抗することもなく、平然としている。……いや、少し嫌そうだった。
「ドッペルゲンガ―……とか」
自分で言いながら、あまりの非現実さに笑いが零れた。冗談めかして尋ねてみる。
「なあ、お前を殺したら俺も死ぬのか?」
「それはないと思うが……。俺は何度も死んだことがあるが、お前はないだろう?」
「あってたまるか」
ルルーシュは吐き捨てた。
この男の言っていることが本当だと、そんな気がしていた。敵意はない。殺す気もない。どころか自分と同じようにナナリーを案じている。どこか、別の世界の自分を見ているような……そんな気すらした。
これで本当に生き返れば、この勘を頼っていい証明にもなるだろうか――。
(違う、そうじゃない)
夜だから、こんなバカげた思考に陥ってしまうのだろう。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、自分の勘だけを信じるには、少々命を狙われすぎていた。これが体に爆弾を移植し、整形してルルーシュになりすましてこの部屋まで来たただのテロリスト――という線もなくはない。撃て撃てと挑発し、心臓が止まれば爆発、ルルーシュどころかほかの要人までもを一網打尽だ。
人を呼ぶなと懇願するL.L.。とりあえず致命傷にならないところを撃って、その結果を見てから信用するか決めるかと引き金を引こうとした、その瞬間――ルルーシュはピクリと反応した。
「どうした?」
L.L.が首を傾げる。ルルーシュは唇に人差し指を立て、囁いた。
「気配がする」
緊張感の欠片も持っていなかったL.L.が、ここへ来て初めて剣呑な目つきに変わる。ちらりと目線を動かして、じっとそちらを見つめ……やがて頷いた。彼も理解したらしい。
――ドアの向こう。殺気だ。
一応軍人であり、常に暗殺の危険に晒されてきたルルーシュはこの手の気配に敏感だ。悪意のない者であるなら気づかないことも多いけれど、これは。
足音はしない。
けれど確かに近づいてくる。隠れたいのがまるわかりなのに、隠す気のない殺気。
隠せるだけの技量がないのかもしれない。……相手はそんなに手練れはでない。
「お前を殺しに来てるか」
「可能性がないわけじゃない」
とはいっても、この状況だとそれを疑うよりほかない。
(なんなんだ、今日は)
明らかに尋常ではない不審者に、明らかな刺客。
アラームに手を伸ばす。しかし、押す寸前で思いとどまった。
こいつをどうするかだ。
隠せる場所がない。クローゼットなんて都合のいいものはここにはなかった。机の下?テーブルクロスもないのに無理だ。チェストならあるが、そんなところに人間が入るはずもない。隣の寝室も同じだ。
(くそっ)
舌打ちしたい気分だった。
どこにも隠れる場所がないというのは、彼がこの部屋に潜んでいたわけではなく、どこからかワープしてきたということを証明することだからだ。
臍を噛む思いに拳を握ったとき、L.L.が動いた。自分の頭蓋に押し付けられていた銃をあっさり奪う。声を上げようとすれば、低い緊迫した声で黙れと囁かれた。迷いなく車椅子のレバーを手に取られ、寝室へと押されていく。先ほどのように気を遣った動きではない。
暗い部屋へ入るなりルルーシュを抱き上げ、乱暴ともいえる手つきでベッドに投げ置いた。そのまま間髪入れずにこちらの着ている上着を剥ぐ。
そこで初めて、ルルーシュは彼が何をしようとしているのかわかった。はじめは扉の向こうの人間と共犯なのかと思ったが、どうやらその反対らしい。消えそうに小さな声で怒鳴る。
「バカ!今すぐ人を呼べば」
「ここに入って来られる人間が何の作戦も立てていないと?だったら嬉しいな」
L.L.の動きは手早かった。乱暴に下まで剥ぎ取り着替えてしまう。
もうひとりのルルーシュが出来上がる。
その瞬間、ノックの音がした。