『私/俺』は『アナタ/アンタ』を『殺したい』   作:柳野 守利

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親父編

遊園地編は(恐らくほとんど)ないです


探偵はタバコをやめた

 家に帰ってくると、父と母が喧嘩をしていた。うるさかった。けど、それは自分がやったことが原因でもある

 

 父が母に向かって殴りかかった。母は泣いて言った

 

 私だってこんな子を産みたかったわけじゃない

 

 ...あっ、そう。俺もそう。あんたから産まれたくて生まれたわけじゃない

 

 お前のせいで、俺に被害がくるんだよ。どうしてくれるんだ、えぇ!?

 

 そう言って父が俺に殴りかかった。母は止めようとしなかった。むしろ...

 

 何であんなことしたのよ、貴方...貴方のせいで、台無しよ!!っと、母は俺に対して守るどころかむしろ攻勢に出た

 

 あぁ、うるさい...

 

 なんでお前みたいな子が...

 

 うるさい...

 

 お前のせいで...

 

 うるさい...

 

 出来損ないがッ!!

 

 

 うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいッ!!

 黙れッッッ!!

 

 

 近くに置いてあった包丁を振り回した

 

 俺は元から、ある種の才能があったんだと思う。神から与えられた天啓とでも言おうか。産まれた頃から、刃物に興味があった。持っていると、不思議と安心した。自分の皮膚を切って、血が出て、それを見て何故か興奮した

 

 人を殺す才能なんてなかった。けど、人を傷つける才能ならあった。包丁で切って、刺して、掻き回して、傷口を殴って蹴って。やがてその肉塊は動かなくなった

 

 そして、理解した

 

 あぁ、なんだ、こんなもんなのかと

 

 神から与えられたものは、刃物の扱い方だけだ。誰かと友達になるだとか、美形だとか、世界を救える能力だとか、そんなもんじゃない。俺はこんなもの欲しくはなかった。俺が欲しかったのは......

 

 無心になっていた耳に、声が聞こえてきた

 

 ひっ、い、いや...やめて...誰か、誰かッ...!!

 

 母が泣きながら必死に逃げようとしていた

 

 すぐさま駆け出して、母の足に包丁を突き刺した。それだけで、母は痛みに動けなくなり、その場に倒れた。失禁でもしたのか、生暖かい二つの液体が当たりに広がる。無論、片方は血液だ

 

 ...汚いなぁ

 

 蹴り飛ばした。母は仰向けにごろんと転がり、その無防備な弱点を晒し出した

 

 人間、どこが弱いのかって?頭を銃で撃ち抜かれりゃ死ぬ。金的を喰らえば死ぬほど痛い。腕を斬られればそのうち出血多量で死ぬかもしれない

 

 けど、誰しもが知ってる場所がある。ガキにだってわかる

 

 ...心臓だ

 

 包丁を振り上げ、心臓があるであろう場所に振り下ろした。手に、不思議な感覚が残った。そして再び理解する

 

 あぁ、なんだ。この程度で死ぬのか、と

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 今日も警察署の内部というのは騒がしく回っていた。電話が鳴り、それに女性の警察官が出た。そして電話を切り、大声で周りに知らせた

 

「また一人出ました! 公園の草むらに隠されていたそうです!」

 

 またか、とガヤガヤと騒がしくなる。そんな中、喫煙所では何人かの警察官が休憩していた。その中には、警察服ではない少しヨレたスーツに身を包んだ男がいた。口にタバコをくわえ、大きく吸って、長く吐き出した

 

「...偶然だったんじゃないのか?」

 

 スーツの男、恭治が隣にいた警官に言った。その警官の目つきは鋭く、額にシワを寄せ、顔つきはどこぞのヤクザと見間違えられてもおかしくはないくらいに彫りが深い顔をしていた。警官は困ったように恭治に言う

 

「浪川 鏡夜が自分の妹を放っておくのか?」

 

「...可能性としちゃありだろう。第一、話によればだいぶ近づかれたんだろ? なのに殺しもせず見て帰った。となると...単に妹の現在状況が知りたかっただけなんじゃないのか?」

 

「そんな心があるとは思えんな」

 

 警官──藤堂(とうどう) 秀次(ひでつぐ)──は苛立たしげにタバコを灰皿に押し付けて消した。まだ残ってるのに、勿体無いと恭治は思った

 

「そういや、お前んとこの息子。妹に会ったらしいな」

 

「あぁ。見た感じ、仲は良好。俺から見るに、嬢ちゃんは脈アリと見た。アイツも春かね」

 

「そりゃ良かったな。だが、俺が言いてぇのはそうじゃねぇよ。露骨にそらすな」

 

 こちらを貫くような鋭い眼が向けられる。見るだけで危機感を感じるほどの威圧を備えた睨みだ。恭治は肩を少しだけ竦めた。いつもの事だ。昔からこの男はこうやって他人を遠ざけるような真似ばかりするから友人が少ないんだ。見た目もあるんだろうが

 

「狙われるぞ」

 

「..........」

 

「お前の息子の事だ。お前の手ほどき受けてるって聞いてるからそこまで心配しちゃいねぇよ。ただ問題は...護れるかどうかだ。わかるか?」

 

「...サシなら問題ねぇ。だが、誰かを護りながらとなると...ちょいとキツイか」

 

 元々探偵なんてのは多対一や、誰かを護るための防衛戦なんてものをする展開に持ち込まない。事前に相手の戦力を削ぎ、サシか味方を連れた少対少に持ち込むのが定石だ。そもそも、戦闘自体本当は探偵の仕事じゃない。情報を持ち帰ることが最もな仕事だ

 

「ナイフは?」

 

「防衛だけ。構えは教えてねぇ。奪ったら即捨てろとだけ教えてある」

 

「拳銃は?」

 

「銃口を見て気合で避けろとだけ。ってか、まず銃撃戦に持ち込ませねぇようにしてあるっての。それができなきゃ情報収集なんざやらせねぇよ」

 

 目を閉じれば少しばかり昔の記憶が蘇る。狂ったように向かってくる少年。傷だらけになろうとも、目先の敵に対して拳を振るい、腕を掴まれて叩きつけられる。悔しそうにこちらを見て泣いていた

 

「...あいつが望んだんだ。だから教えた。戦い方も、護り方も......殺し方も」

 

「...息子を人殺しにさせる気か?」

 

 凍りつくような寒気が襲いかかってくる。目線で人を殺すとは、まさにこの事だろう。苦笑いしながら秀次に返した

 

「あいつは殺さねぇよ。もっと、より良い殺し方ってのを理解してる」

 

「...殺さない殺し方、だと?」

 

 言っている意味がわからない。そういった風に秀次は顔を歪ませて首を振った。そのまま流れる手つきで胸ポケットからタバコの箱を取り出して、一本取り出し火をつける。恭治は話を続けた

 

「生きたまま、生きる意味をなくすのさ。人が生きるのは、生きる意味を持っているからだ。それが生きる理由を探すためである人もいれば、愛する人のために生きる人もいる。その理由を、意味を、なくすのさ。それこそ、生きたまま死んでいるってわけだ」

 

「...大切なものを奪うのか。それが物であっても、人であっても?」

 

「...どこまでかは知らんよ。だが...あいつなら、多分やるよ。そのために生きているようなもんだ」

 

 蘇る記憶を忌々しそうに振り払う。口にくわえていたタバコを灰皿に押し付けた。煙はまだタバコから立ち上っている

 

「あーあ、勿体ねぇ。まだ吸えるじゃねぇか」

 

「お前が言うセリフかよ。それに、もう吸う気分じゃねぇんだ。禁煙しようかと思ってな。これ、もう最後の一本なんだぜ?」

 

 恭治が服のポケットから箱を取り出して秀次に中身を見せた。中身は入っておらず、それを見た秀次は驚きに目を見開いた

 

「なんだ、タバコ好きだっただろ。なんで急に?」

 

「...タバコは麻薬と同じなんだとよ」

 

「はっ、あんだよそれ」

 

 ニヤリと笑う恭治と不気味に笑う秀次。そんな折、コンコンッと喫煙所の扉を叩く音がした。扉を開けたのはまだ若い男の警官だ。慌てた様子の男は休憩所の全警官と一人の探偵に告げた

 

「また被害者が出ました。すぐに会議を行いますので集まってください」

 

 チッ、吸い始めたばかりなのによぉっと秀次は悪態をついた。そんな秀次に、お前もこれを機にやめろよ、と恭治は彼の肩を叩いた。百害あって一利なしだぜ、これ。そう言って彼はタバコの箱をゴミ箱に投げ入れた

 

「...この事件が終わったら考えるよ、俺は。少なくとも、俺にタバコなしでこの事件解決は無理だ」

 

「そうしとけ。かみさんも喜ぶだろうよ」

 

 そう言って振り返った恭治の口には筒状の棒がくわえられていた

 

「おま、何もう吸ってやがんだよ!?」

 

「あぁ、これか?」

 

 恭治が口からその棒を取り出すと、先端には赤色の飴がくっついていた。ニヤリと笑いながら恭治は言う

 

「タバコの代わり。案外うまいんだぜ、これ」

 

「......会議始まるまでには食い終わっとけよ」

 

「あいよ」

 

 ガリッと噛む音が聞こえ、二人は会議室に向けて歩みを進めた。今日も警察署内部は慌ただしく回っていく

 

 

To be continued...

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