「まさか西住さんがお隣さんだったとはね。ごめんね、本当は昨日挨拶に行こうと思ってたんだけど、引っ越しで忙しくて」
「う、ううん、そんな、気にしないで。……でも、まさか同級生だとは思わなかったなあ。や、八雲くん、大人っぽいし」
一緒に登校中の隣を歩く青年、八雲恭介の名前を呼ぶことに少し照れながら、みほは先ほどのことを思い出す。
自分がぶつかってしまった相手は、昨日隣に引っ越して来た八雲恭介という青年。今日からみほが通っている大洗学園に転入する予定で、まさかの同級生。
まるで少女漫画みたいな展開だな、と考え、ふと頭に自分がヒロインとして恭介相手にラブコメする様子を想像して慌てて振り払う。
(いくら八雲くんがかっこよくて優しそうな人でも、出会ってすぐにこんなことを考えちゃうなんてダメ……わぶっ!」
「に、西住さん!? 大丈夫!?」
「う、うん、平気だよ。いつものことだから」
「ほ、本当に? ……だ、大丈夫ならいいんだけど」
自分のドジを再び見られたことに恥じらいを覚えながらも、みほは大丈夫だと伝える。
恭介からしてみると、みほが会話の最中に突然顔を真っ赤にしながら俯き始め、突然首を振ったと思ったら看板に激突した挙句、一切痛がりもしないという奇妙な現象を目撃した為、心配するなと言う方が無理であったが。
「で、でも、うちの学校の男子生徒って初めて見たなあ」
みほは自分の恥ずかしいドジを誤魔化す為に話題を逸らす。
「え? ……確かに、周りを見ても通学してる男子が僕一人だけだけど。ひょっとして、僕一人だけとか――なんて」
「うーん、少なくともわたしは今まで一人も見たことがないかな」
「はは、冗談で言ったんだけどな……マジか」
みほの言葉にどんよりと落ち込む八雲。
「わたしも四月に転校して来たばかりだから詳しくは知らないけど、今年になって急に共学になったらしくて」
「それで男子がいないって訳か。なんだか心細いなあ。でも、それなら今朝の間に西住さんと友達になれて良かったな。家も隣だし」
そう言った恭介の言葉に、みほはその場で足を止めた。
「西住さん、どうしたの?」
「……と、友達? わ、わたしが?」
みほは自分の言われたことが理解できず、恭介に聞き返す。
「え、うん。そうだと思ってたんだけど……ごめん、ひょっとして迷惑――」
「そ、そんな迷惑なんて! ……でも、わたしドジで、何の取り柄もなくて……。こ、こっちこそわたしなんかが友達で迷惑じゃ……」
「そんな訳ない。僕は西住さんが最初の友達で嬉しいよ」
恭介はみほの目を真っ直ぐ見ながらそう伝える。
とても嘘を吐いているようには見えない、真剣な眼差し。
それは今まで友達と呼べる相手がいなかったみほにとって、初めて向けられるものだった。
自分と友達になりたい、そんな純粋で真っ直ぐな気持ち。
(八雲くんは、わたしを友達として見てくれてる。転校して来てから今日までずっと一人でいたわたしの、はじめてできた友達。ずっと戦車道ばかり続けて来たわたしの、はじめての――)
「……で、もういいかしら?」
「ふぇ?」
二人が声の掛かった方へと顔を向けると、そこには風紀委員の腕章を付けたおかっぱ頭の女子生徒が、怒りを露わにしながら仁王立ちになって立っていた。
「交友を深めるのはいいけど! あなた達! あと五分で遅刻よ! さっさと教室に向かいなさい! そっちの男子生徒は職員室に!」
「「ご、ごめんなさい!」」
おかっぱ頭の風紀委員に叱られ、全速力で教室へと向かう二人。
特にみほは先ほどのやり取りを他の人に見られていた恥ずかしさもあって、それを誤魔化すように走っていた。
みほが赤く染まった顔で隣を走る恭介の顔を見ると、ちょうど恭介もこちらを見ようとしていたらしく、視線が合う。
「ぷっ、あはは」
「えへへ……」
必死に走る姿がなんだかおかしくて、思わずお互いとも笑ってしまう。
「これからよろしく、西住さん」
「こ、こちらこそ。よ、よろしくお願いします……」
にっ、と笑って伝える恭介を見て、再び顔に熱が集まる。
(やっぱりかっこいいな、八雲くん。……友達になれたってことは、ひょっとしたらその先とかも――)
「学校内では走るの禁止!」
「「は、はい! ごめんなさい!」」
おかっぱ頭の風紀委員の言葉に、二人はビシッと姿勢を正し、走らず遅刻しないよう教室へと向かうのであった。
この小説の西住ちゃん赤くなり過ぎ問題