そういえば生徒会室に来るように言われていたんだったか・・・と保健室での出来事を思い出した白野は教室を出てすぐに生徒会室の方に足を向ける。
教室と同じ木造の校舎と窓から映し出された夕焼けが、やはりここは予選の会場とはことなる場所なのだと否が応でも納得させられる光景が広がっていた。
わけのわからない感傷を心の隅に感じつつ、生徒会室と書かれたプラカード下に設置されている扉に手を掛けた。
ガラガラという音と共に見えた扉の先には既に三人の人物が自身を待っていた。
黒い制服を纏った金髪の美少年ーーーレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。
ついさっきまで自身の友人として接していたのだ。忘れるわけがない。
しかし、残る二人。制服ではない黒い衣類を身に纏った男性と白銀の鎧を纏った男性には見覚えがあるようなないような・・・ともかくはっきりと思い出せない。
ううむ。と悩む白野をそのままに美少年ーーーレオはこころなしはしゃいでいるかのような調子で口を開いた。
「あ、きたきた!はい、それじゃあ二人とも、せーの・・・・・・おはようございまーす!」
「は、はい?」
思わずポロリと言葉が出た。
レオとはまあ、そこそこ付き合いがあったようななかったような間柄だが、果たして彼はこんなことをする人間だっただろうか?
混乱する白野。そんな彼女の事はおいておき後ろ二人にレオは打ち合わせ通りにと促す。
挨拶に対するコレジャナイみたいな言い方の指導込みで。
結局気を取りなおした二回目で白野もやっと挨拶を返した。
「お、おはようございまーす。」
やばい、思ったより恥ずかしいぞコレ。と思っている横でポソリと可愛らしい自身のサーヴァント(仮)の声が聞こえた。
「なるほど。そうして対人関係の融和を・・・」
ウル君。君はそんな馬鹿正直に聞かなくてもいいから。
君はそのままでいいから。
白野は心の中で叫んだ。
◇ ◆ ◇
レオからのファーストオーダーである人材集めをしようと校内を奔走するが結果は微々たるもの。
シンジの不参加は当然のことながら、一応同意してくれたのはガトーのみ、他一名は賛同は得られなかったが生徒会室をモニターするという・・・成果はまずまず・・・なのだろうか。
もう少し回ってみるかと思い白野が立ち寄った廊下のつきあたりにたおやかな所作の女性が一人立っていた。
名前は確か・・・藤村・・・大河・・・だったような。
試しに声を掛けてみることにした。
「あら、白野さん。またお会いできましたね。」
こちらににこりと微笑む女性。
まるで百合を思わせる尼僧服も相俟ってか聖母の如き慈愛に満ちた印象を受ける。
「はい。・・・ええと・・・藤村・・・大河・・・さん?」
「?藤村大河・・・ですか?おかしいですね。私、そのような愛らしい名を語った覚えはないのですが・・・。」
言って、女性は再度にこりと笑い言葉を続けた。
「私、殺生院キアラと申します。予選では教師の役割をこなしていました。その時、貴女とも知り合いましたね。」
キアラの淑やかな微笑みに、何故かほっと安心した気がした。同時に何故か気恥ずかしくなる。
「でも本当に良かった。あの黒いノイズに襲われた時は覚悟を決めましたが、貴女は無事だったのですね。」
「え・・・?黒い・・・ノイズ・・・?」
「?ええ。予選で校舎ごと飲み込まれました。ですが、幸いこの通り大事なく。足もあれば手もありましょう。」
キアラの話によればあのノイズに飲まれた時、自分に向かって声を掛けたらしいが、残念ながらその記憶すら自分にはない。記憶にはないと言ったものの、自分がキアラ含め、あの場にいた他者を見捨てたのは事実だ。
後ろめたさに襲われ、視線を下に落とす。が、意外なことに、次に帰ってきたのはありがとうと、それだけでも自分は報われたのだというキアラからの温かな言葉だった。
ーーーこの人なら、きっと生徒会に参加してくれる。
そう確信して、レオと生徒会の説明をした。
「・・・なるほど、
自身では力不足なのだとキアラは語る。
自分やレオのサーヴァントはともかくとして、自身もそして自身のサーヴァントにもそのような力は無いのだと、その上で、仲間になったキアラやそのサーヴァントをなんの苦しみもなく置き去りにできるのかと。
「私は、足手まといにはなりたくないのです。」
せめてもの手助けにと彼女のサーヴァント、アンデルセンを紹介され、いったん生徒会室に帰ることにした。
彼女に背を向けて階段のところまで歩いてきたところで不意にマスターと呼び止められる。
振り返ると光と共に自身のサーヴァントであるウルが実体化した。
「マスター。・・・こんなこと、今言うのも変かもしれませんけれど・・・あの人とはあまり近づきすぎない方がいいですよ。」
あの人・・・?はて、そんな忠告されるほど厄介な人物などさっきまで会った人物の中にいただろうか?
悩む自分にウルはどこか寂しそうな顔をして俯いた。
「・・・誰とは言いませんが、マスター。善人であれ悪人であれそうなるきっかけは些細で単純なことだったりするんですよ。そしてそれは善人だからこそ良い方向に向いているわけでも悪人だからこそ悪い方向に向いているというわけでもないんです。決めるのは、あくまで周りの人間ですから。」
思わず手を伸ばしそうになる。
が、その手を伸ばす前に先程までの寂しげな表情を消して、彼はこちらに笑いかけた。
「・・・これ以上は今は言いません。あんまり言いすぎるともう一人の僕もあんまりいい顔しないだろうし。」
それじゃあと言ってまた霊体化する。
一人になった白野は首を傾げた。
いったい彼に何があったのだろうか。
忠告よりも、その直後の彼の表情が無性に気になった。