紅蓮の壁を踏み越えて。   作:むりー

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いちわ

 眼前に広がるのは、灰と炭のモノクロの世界。

少し前までそこにあったはずの、人の営みの面影は焼け焦げた様々な物と、滴り落ちる水滴によって塗りつぶされている。

 

 既に鎮火は確認されている。

本来ならば、撤収作業を行うところだろう。

だが、彼は動こうとしない。

視線の先には、こちらに向かって手を伸ばしたまま倒れ込みピクリとも動かない妻の焼けただれた手。

 

 彼の手から消火用のホースがこぼれ落ちる。

ピシャリと、控えめな水音を立てて落ちたそれを気にすることなく、崩れ落ちる様に跪き、黒とピンクに彩られた妻の手をとる。

 

 分厚く作られた救助用革手袋越しにも解るくらいに…これ以上ないくらいに命が抜けきったその手の重みを感じたところで、彼の目は覚めた。

 

 

 

 

 

ジリリリリリ

 

「………。」

 

 枕元でけたたましく鳴る目覚まし時計。

それを乱暴な手つきで止める。

 

「………はぁ。」

 

 彼の機嫌は、これ以上ないくらいに悪い。

妻の命を奪った火災から、既に7年の月日が流れた。

一時期は、妻を喪ったショックから荒れた時期もあったが家族や同僚達の支えで既に立ち直った。

………その筈だ。

 

「ったく、折角なら幸せな夢を見せてくれても良いだろうに…なぁ?」

 

 溜め息混じりに話しかける相手は、写真の中の妻。

勿論、柔らかく微笑む彼女が彼に言葉を返すことは二度とない。

 

「っと。それじゃ、今日も1日頑張りましょうか!」

 

そうして彼は、てきぱきと身支度を整え自宅を後にする。

 

「じゃあ、行ってきます。」

 

 出掛けるときは、必ず物言わぬ妻に声をかける。

7年間、欠かしたことのない習慣だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、こんなものか。」

 

 手早く机の上の資料をまとめ、スーツに身を包んだ女性が立ち上がる。

女性の名前は『織斑千冬』。

モンドグロッソ優勝経験者、現職はIS学園の教師である。

 

「では、山田先生。」

 

「あっ、織斑先生。そう言えば、消防庁は今日でしたね?いってらっしゃい。」

 

「あぁ。行ってきます。」

 

 インフィニット・ストラトス。

通称『IS』。

女性にしか使用することが出来ない異色のパワードスーツ。

それまでのあらゆる兵器を過去の遺物へと押しやった、驚異の発明。

その登場によって、世界は大きく変わった。

 

 先進国では特に顕著に女尊男卑が台頭し、少女達の憧れの職業がISの搭乗員という「戦闘職」になった。

いや、「戦闘職」と言うのは語弊があるかもしれない。

何せ国際条約において、『IS』の軍事利用は禁止されている。

今日の『IS』はあくまで競技用の物であるからして、少女達が憧れているのはあくまでも競技者なのである。

例えマシンガンを乱射しようが、ブレードを振り回そうが、世界各国の軍事プレゼンスが『IS』の保有数で語られようが、『IS』はあくまでも競技用の代物なのだから。

少女達は『IS』を安全な物として認識している。

 

「………。」

 

 それが今、過去の物となろうとしていた。

2ヶ月ほど前に、国連で一つの決定が下されたのだ。

内容は『ISを保有した国際救助隊の創設』である。

それにより『IS』は、決して長くはないその歴史の中で、初めて「実用品」として日の目を見ようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 消防庁へと向かう道中、織斑千冬はふるりと冬の寒さに身を震わせた。

季節は12月。

東京の街中は、クリスマス一色に塗りつぶされている。

 

 

『佐竹泰三』。

7年前に火災で妻を喪った、悲劇の消防士。

今年で33歳になる彼は、レスキュー隊員として第一線で働いている。

 

 彼女の今日の目的は、彼をIS学園の教師として迎えること。

『国際救助隊の創設』にあたって、ISを保有した各国は既存の搭乗者をその隊員とすることを良しとしなかった。

莫大なコストをかけて育て上げた彼女らを、わざわざ国際組織の一員として国の管理下から外す理由がなかったのだ。

そういった各国の様々な思惑から、織斑千冬の職場でもあるIS学園において救助隊員の養成を行うクラスが新設されることになった。

そこから更に政治的なアレコレがあり、最終的に『佐竹泰三』に白羽の矢が立った訳である。

『IS』の登場以降女性の社会進出が加速度的に進んでいるにも関わらず、実質的な女子校であるIS学園にわざわざ男性を教員として送り込むことになった辺り、ドロドロとした大人のやり取りがあったのだろう。

 

 だが、それでも織斑千冬はこの『国際救助隊』の創設と養成クラスの新設を歓迎していた。

『IS』という、個人が持つには大きすぎる力。

だが、それをもってしても太刀打出来ない脅威が世界には存在する。

ISの登場から8年の年月が過ぎた。

その中で、人類は幾つかもの厄災に出会った。

地震や洪水、大規模火災等の災害や、大型客船の沈没や旅客機の墜落といった事故。

百の単位で人の命が消えて行く悲劇である。

 

 ISを動かすことの出来る人間として、そういった悲劇の報道がなされる度に「現場にISがあれば、誰かを救えるはずなのに」と悔しい思いをしていたのだ。

小回りが利く癖に、高い馬力を持つパワードスーツ。更には、搭乗者を守るシールド付きで、様々なオプションが使用可能。

何が起こるか分らない災害や事故現場において、『IS』はこれ以上ない程有用だっただろう。

これまでは、政治的な制約からそういった場でISが活躍することは無かったし、銃やミサイル等はあっても救助用のツールやノウハウが無かった。

 

…だが、この救助隊創設でそれが変わるのではないか?

人々がISを「暴力的な道具」としてではなく、「人の役に立つ道具」として見てくれるのではないか?

それは…『IS』を宇宙探査の道具として産み出した、行方不明の親友が望んでいた物ではないか?

 

 織斑千冬は期待していた。

今回の一連の動きが、人とISをより良い方向に導く物となることを。

 

 

 

 

 

 消防庁のある一室で、二人の男が話をしている。

一人は『佐竹泰三』、そしてもう一人はその佐竹の所属するレスキュー隊の隊長である。

 

「でだ、佐竹。すまんが、辞職して貰う事になった。」

 

「え?いやいやいや、隊長!ちょっと待ってくださいよ!今回の件は出向って形だった筈でしょう!?」

 

「いやぁ、昨日までそうだったんだがなぁ。どうも、例のIS委員会のお偉いさんがね?こう、「歴史的部隊の設立にも関わらず、指導する人間を腰掛けでやらせるとは何事か!?」って怒鳴り込んできたらしくて。」

 

 今回の決定は、官公庁としては異例のスピード決定であった。

タイムスケジュール的にお役所的な手続きなんかを、やってる暇はなくその結果として………

「いやまぁ、確かにそうかもしれませんけど!だったらもっと前に言うとかしてくださいよ!」

 

「ま、まぁほら。給与や待遇なんかは向こうの方が良いって話だしさぁ。」

 

 関係各所の連携はガタガタ。

そこに漬け込んで、自分の所属する組織の権限を広げようと暗躍する人間が居たりして………

 

「け、けどそれじゃ俺は現場に戻れないじゃないですか!」

 

「そこはほら、まぁ………ねぇ?」

 

「ねぇ?じゃないですよ!」

 

ものの見事に末端の人間がわりを食う事態となっていた。

 

「頼むよ佐竹ぇ。あのIS委員会のおばちゃんにまた「これだから男社会の組織はダメなんだー!」とか言われたら、色々ウチも困るんだよ。ね?どうか古巣を守ると思ってさぁ。あ、ほら、時間だよ?君の辞表はこっちで用意しとくからさ?」

 

「辞表を用意するって、なんだそりゃ、クソ隊長!」

 

「ぐっ、クソってお前さん………まぁ、気持ちは解るけど。少し落ち着いて。そんでもって、向さんに会いに行く!」

 

「………はぁ。はぁぁぁぁ。解りました。たぶんこれ、隊長に言っても仕方ない事になってるんですよね。」

 

「まぁねぇ。ウチも今じゃぁ、IS委員会に頭が上がらんのだよ。すまんな、佐竹。消防庁の未来のために、どうか納得してくれ。」

 

「………解りました。解りたくないけど解りました。」

 

「諸々の手続きは進めておくから、此方の事は心配するな。」

 

「…はい。」

 

「………佐竹。今までありがとう。」

 

「隊長…今まで、お世話に成りました。」

 

 そして、佐竹は部屋を後にする。

二人の男は、両者ともに全く納得はしていなかった。

事前に聞かされていた内容と異なり、現職を完全に退く羽目になった『佐竹泰三』。

そして、優秀な部下に突然のクビを告げる羽目になった上司。

 

だが、それでも上の決定には逆らえない。

げに悲しきは宮仕えなのだ。

 

 

 

 庁舎内の廊下を、肩を落として歩く佐竹。

気分はこれ以上ないくらいに落ち込んでいる。

思えば、若き日の憧れのままに今の職場を目指して突き進み、血の滲むような努力と訓練の末つかみ取った職業。

それが、自分にもわからないところの判断で辞めざるを得なくなる。

佐竹の胸中では、そんな世の中への不平不満が竜巻のように暴れくるっていた。

しかし、佐竹もまた独立した社会人。

理想だけではなく、何かしらの収入を得なければ生きては行けないのである。

 

 …彼はこれからIS学園の人間に会わなくてはならない。

彼の現在の環境をぶち壊した側の人間。

しかもIS関係者の中でもビッグネームである『織斑千冬』だ。

 

「大体、今の今まで向こうの人間と顔合わせすら出来ないってどういうこったよ。」

 

 佐竹は最早どうしようもない状況下で、辛うじて見つけた正当性のある不満を独り言としてこぼした。

そう。彼は有名人である『織斑千冬』を、テレビ越しに見たことはあっても実際に会ったことはない。

本来ならば、しっかりと顔合わせを行い、慎重に進められてしかるべき大きな案件である。

 

 そういったことが一切行われていないのは、一重に近年急激にその権力を拡大させている国際IS委員会のせいである。

佐竹も今回の一件で、自分がIS学園に行くことになったと知ったのは、たったの一週間前である。

その決して長いとは言えない時間の中で、自分の心と仕事に何とか折り合いをつけ、いざIS学園へ向かわんとする直前でこの事態である。

とはいえ、ひょっとすると今から会う人間は今後同僚としてやっていくであろう相手だ。

自分が新しい職場に消極的な態度で臨んでいるだなどと思われたくはない。

 

彼がなんとか自分を納得させようとしていると、ふと視界に自販機が目に入る。

 

「………コーヒーでも飲むかねぇ。」

 

幸いにも、約束の時間まで缶コーヒーを一本消費するくらい時間はあった。

ごそごそと制服のポケットから小銭入れを取りだし、自販機へとそれを入れようとする。

だが、ポロリと手から百円玉がこぼれ落ちた。

その百円玉は、ちゃりんと地面を跳ね自販機の下へと消えていった。

 

「げっ、ついてねぇー。」

 

小銭入れを確認すると、どうやらあれが最後の百円玉だったらしい。

 

「はぁ。」

 

彼は溜め息をついて這いつくばり、自販機の下を覗き込んだ。

落ちて転がった百円玉は、ずいぶんと奥に行ってしまった様である。

これはもうどうしようもないと、佐竹が肩を落としながら立ち上がり恨めしげに自販機の下を睨み付けていると後ろから足音が聞こえてきた。

 

丁度人がいないタイミングだったせいか、その足音はえらくはっきりと佐竹の耳へと届く。

一連の自分の行動を見られてやしないかと焦りながらも、さりげなく振り返る。

そんな彼の後ろに立っていたのは、目の覚めるようなクールビューティー。

タイトスーツに身を包んだ、『織斑千冬』その人だった。

 

「ふむ………小銭でも落としましたか?『佐竹泰三』さん。」

 

「???まぁ、はぁ。…全くもってツイておりません。そう言う貴女は『織斑千冬』さんで?」

 

「ええ、そうです。初めまして。」

 

「え、ええっと、予定の時間までは………」

 

「まだ時間がありますよ?少し早く到着しましたので、少し庁内を見て回っていたところです。」

 

「…特に面白い所も無かったでしょう?」

 

「いえ、私のような人間が知っている消防の方というのはやはり現場で働いている方ですので………大量の事務仕事をこなしている所を見るのは新鮮でした。」

 

「まぁ…なんだかんだ、お役所ですからねぇ。私のような現場の人間でも、出動の後は報告書と格闘してますし。正直に申しまして、机に座っているより体を動かしている方が性に合っているんですが。」

 

「あぁ。その気持ちは良く解るな。………佐竹さん、我々は思ったより上手くやっていけるかもしれません。」

 

「それを聞けて少し安心しましたよ。では、時間も丁度いい塩梅ですしそろそろ行きましょうか?」

 

「ええ、お手数ですが案内をお願いします。」

 

そうして自販機前の休憩スペースを後にする二人は、佐竹の案内のもと向かった会議室で話をする。

 

「で、此方としては佐竹さんには新学期より一クラスを担当して貰う形になります。」

 

「は?い、いきなり担任教師ですか。私には経験なんて有りませんよ?」

 

「まぁ、そこは問題ありません。私のような先任の者が確りと研修を行います。不安に思われるのも仕方ないとは思いますが、私の様な者でも未経験から教師をやれているのです。大丈夫ですよ。」

 

とは言え、そう語る元教師初心者はあの『織斑千冬』である。

世の人々にキャーキャー言われるような、完璧超人の言葉だ。

そんな彼女の『大丈夫』は、果して自分にとっても『大丈夫』なのだろうか?

ましてや、勤務(予定)先は女の園足る『IS学園』だ。

男性の教師初心者を放り込むには、ちとハードルが高そうにも見える。

 

「そ、そうだと良いのですがねぇ。」

 

とは言え、佐竹も先程クビが決定した身。

無職を避けるためには、既に進んでいたこの話を断る手は無かった。

 

「………では、最終確認を行います。佐竹泰三さん、貴方には勿論今回の件を断る権利がある。それで、来年の四月から『IS学園特設救助クラス』の担任として赴任することに異論はありますか?」

 

「………いえ、異論ありません。火の中に飛び込むしか能の無い男ですが、どうぞよろしくお願いします。」

 

そう言葉を交わして、無名の男と元世界最強は握手を交わす。

これもまた、ISを取り巻く環境のの変化の始まりと言えるだろう。

 

「では、佐竹さんには今週中に引っ越しをしてもらいます。勿論場所はIS学園内です。」

 

「………え?」

 

「申し訳ないが、これは絶対条件です。『IS』と言うのは、言ってしまえば機密の塊。保安上の観点から、外部で暮らして貰うわけにはいかないのですよ。」

 

(うわー、やだなぁ。いきなり引っ越しとか…出費が嵩むなぁ)

 

「あー、何を仰りたいのかは解ります。確かにいきなり引っ越せと言われても困るでしょう。ですが、これは絶対条件です。佐竹さんも、どこかの国の諜報員に監視されながら外で暮らすのもお嫌でしょう?」

 

「え゛っ」

 

「ご心配なさらずとも、学園の警備は万全です。万が一何者かが侵入したとして、あそこはISだらけですからね。下手な国の軍の施設よりも余程安全です。」

 

「な、何というか…流石IS学園ですね。引っ越し費用を心配していた自分が恥ずかしい。」

 

「ん?あぁ!勿論その辺りの費用は経費で落ちますよ。ご心配なさらずとも。」

 

「それを聞けて安心しました。」

 

「ははは、佐竹さんは細かい事に良く気付くようですなぁ。」

 

(うむ?引っ越し費用って個人単位で見れば結構デカイ事な気がするが…ひょっとして、IS関係者ってかなり金銭感覚が麻痺しているのでは?)

 

「ま、まぁ、その辺りについては解りました。それで、差し支え無ければ教えてほしいのですが、私の相方…副担任となる方はどんな方なのですか?」

 

「ふむ…実はその事なのですが、此方でもモーションをかけてはいるのですが、まだ最終的な返答が貰えていないのですよ。」

 

「は、はぁ。」

 

「ただまぁ、その方は女性で米国の人間です。」

 

その言葉に表情をひきつらせる佐竹。

 

「ア、アメリカ人の方ですか…となると、コミュニケーションは英語で?」

 

「ああ、いえ、彼女は日本語に堪能ですよ。」

 

「それは良かった。」

 

そう言って安心する佐竹だったが、次の織斑の言葉で再び表情を固くした。

 

「ただ、生徒のなかには日本語が苦手な者も居ります。」

 

「えっ?」

 

「あぁ、ご心配なさらずとも授業を英語で行え等とは言いませんよ。ただ、そう言った生徒とのコミュニケーションもまた必要になってくるでしょう。確か佐竹さんは………以前ニューヨークに研修に行かれたことが有ったかと。」

 

「え、えぇ、まぁ。」

 

確かに、佐竹は以前海外に消防士として研修に行かされていた。

だが、その期間は1ヶ月。

しかも、別に英語が堪能だったから選ばれたと言うわけでもなかった。

丁度妻を喪った哀しみから立ち直りつつあり、何かの切っ掛けになればと先程まで会っていた隊長が気を効かせて推薦したのである。

それを受けて、彼は英会話を付け焼き刃で勉強し語学力に不安を残したまま研修に臨んだ。

勿論、現地の生活のなかで彼の英語は何とか現地の人間に通用するようになったが、円滑なコミュニケーションを完璧にとれるかと聞かれれば不安が残る。

英語が母語の人間からすれば、何だか片言の怪しい英語を喋る日本人。

それが佐竹の英語力であった。

 

「織斑さんも、そう言った生徒とは英語で会話されているのですか?」

 

「いえ、基本的に日本語ですね。どのみち授業は日本語で行われるのです。彼女たちの学習の意味合いも兼ねて、余程の事がない限りは日本語でコミュニケーションをとっています。それに…」

 

「そ、それに?」

 

「中には、英語も得意でないという生徒も居ますからね。流石に私もスワヒリ語等の非主流言語は喋れません。」

 

織斑千冬が何をもって非主流と言っているのか、佐竹には今一分からなかったが取り敢えず日本語でも何とかなりそうだというのは理解できた。

その事に胸を撫で下ろしつつ、佐竹は再び質問をする。

 

「因みになのですが、私が受け持つクラスは大体何人か位の生徒さんが?と言うか、大体どのくらいの規模の業務を受け持つことになるのでしょうか?」

 

「大体三十人前後ですね。流石に入試も未だですのでどんな生徒が来るのかはわかりませんが。」

 

「は、はぁ。」

 

「そして、この新設クラスには三機のISが専属配備される予定となっています。」

 

「申し訳無いのですが、それがどの程度の規模なのか今一実感が沸かなくてですね。」

 

「ふむ…そうですね。まず最初に申し上げますが、IS学園では基本的に、クラス毎に機体が配備されている訳ではありません。授業でISを使用する場合はIS学園共有の物を使います。『専用機』と呼ばれる生徒個人に企業等から貸与されている物もありますが、これはまぁ特殊なケースです。」

 

「要するに、私が受け持つクラスに三機の専用機が与えられると言うことでしょうか?」

 

「ええ、要はそうですね。」

 

「何だか、厚待遇過ぎる気がしますが。」

 

「まぁ、それはそうでしょう。新クラスの機体には、従来の機体とは異なる事が要求されますので。それにまぁ、それだけ期待している人間が多いのですよ。」

 

「機体だけに?」

 

「………。」

 

「も、申し訳無い。」

 

「はぁ………話を戻します。で、それに伴い佐竹さんには『IS』に関する知識も念のため一通り修めて貰います。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!教師としての研修に加えて、『IS』の勉強ですか!?流石に四ヶ月では難しいのではないですか?」

 

「正確には違いますね。それに加えて、カリキュラム作成と来年の2月頃からは更にクラスの運営等も。」

 

以前の職業知識を活かす形とは言え、中々のハードスケジュールが佐竹を待ち受けているようだった。

流石に無茶な気もするが、彼には後がない………社会的な意味で。

…失敗は許されない。

プレッシャーが、佐竹にのし掛かる。

何しろ、人に教えられるだけのISの知識を詰め込まなければならないのだ。

流石に負担も大きいと予想される。

 

「…分かりました。」

 

やらねばならぬ。

だがしかし、佐竹の言葉の端に重たい空気が乗るのも仕方ない。

 

「まぁ、さしあたっては引っ越しの準備をお願いします。明明後日辺りに越して貰うということでよろしいですか?此方の受け入れ準備はもう出来ていますので。」

 

「…いえ、荷物もそうは多くありませんし明後日辺りでお願いします。少しでも早く新しい環境に慣れたいですし。」

 

「分かりました。では、そのように。」

 

粗方必要なことは話し合った。

二人は自然と席を立つ。

 

「織斑さん、今日はありがとうございました。」

 

「いえ、こちらこそ。では、IS学園でお会いするのを楽しみにしています。」

 

そう言って握手を交わし、佐竹は織斑を見送る。

パタリと音を立てて閉まる会議室の扉。

一人きりになった佐竹は溜め息をついて、左手の薬指にはまっている指輪を撫でた。

 

「上手くやっていけるかなぁ…まぁ、なるようになるかな?」

 

 

 

インフィニット・ストラトス。

『IS』。

善意から産み出されたオーパーツ。

その活用方法は、未だ何人も知らない。

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