歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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METAL GEAR AHOD②




『対決』







「さて、シャゴホッドを…」


説明の最中、ヘリが気流に揉まれ私は咄嗟に窓に手をついた。そこで、ふと目の前に近付いた窓から向こうを見た。


特に理由は無かったのだが、なんとなくだった。窓の向こう側ではザ・ボスがヘリのドア近くに身を預けていた。


見ていると、突然ザ・ボスは指先をチョキの形にした。



「は?」



うむ…私は疲れているのだろうか?ザ・ボスが急にチョキを虚空へと突き出したぞ…。


その直後、ザ・ボスの乗るヘリからの無線音声が流れてきた。それなりの音量があるから聞きやすかった。


<<お前に私は倒せない>>




うん、訳が分からない。ザ・ボスは一体何をしているのだ?────って今度はパーを繰り出したぞおい!?更に続けてグー、そこから手に妙なひねりを加えてからのチョキを突き出す。勿論その度に「フッ!ハッ!」だの声を挙げているらしく、無線から駄々漏れである。




<<その程度?>>




あの人は本当に何をしているのだ?
まさかと思うがじゃんけんか?
あのじゃんけんなのか!? 餓鬼共がキャッキャッキャッキャッウフフフフしながらやるあのじゃんけんか!!?
つーか誰とやってるんだザ・ボスは!!?


ああ、しかも連勝したからかニヤケ顔で勝ち誇ってるよあの人…




って、ん?ザ・ボスの動きが止まりニヤケ顔が崩れたぞ?どうした、負けたか?


私はヘリのドアを開くと、ザ・ボスの視線が向く先へと顔を向けた。確かに誰か居るがここからでは見分けがつかないので、腰に下げている双眼鏡を使う。


見えた。うん見えた。確かザ・ボスが始末した筈のエージェントがいる。というかあのエージェントがじゃんけんの相手かザ・ボスよ…って待て待て待て!


ザ・ボスがじゃんけんしてるとか始末した筈のエージェントが生きてるとか色々あるがまずはあのエージェントの指だ。


人差し指と中指でチョキ、薬指と小指を折り畳んでグー、ついでに開いている掌と親指の部分でパー………あのエージェント!まさか!よりによって!!今時餓鬼でもやらないあの禁じ手を使ったのか!!?





あの『万能出し』を!!!







驚愕する私の向かい側にいるザ・ボスは私以上に驚愕している表情だ。


なんか白い空間で3人並んだあのエージェントにグーチョキパーで周りを囲まれて、何を出しても勝てない状態。

更に黒い空間に移行した際に1人にまとまったそのエージェントが万能出しを光の反射に照らされながら繰り出して、打ちのめされたザ・ボスが地面に膝をついて、教会の鐘の音が響く中頭を抱えて喚いている。


そんな驚愕の表情である。


<<小賢しい真似を!>>

<<卑怯者!>>


ザ・ボスが憎々しげな言葉を口にしながら機内へと引っ込むと、あの山猫部隊の隊員がエージェントを卑怯者とそしる。


そしてエージェントの前まで降下したヘリのドア付近に見えたのは、なんとデイビー・クロケットを構えたザ・ボスだった!



本当にあの人は何をしてるんだ!?まさか万能出しという禁じ手とはいえ、たかがじゃんけんに負けた程度であれをぶっ放す気なのか!!?


<<同志に核を使うんですか!?>>


あ、山猫部隊の隊長の若造が止めに入った。うん、片手で簡単にどかされたよ…あの役立たずめ!!!


<<出てきなさい!>>

<<やかましい!>>



おい待てザ・ボス!たかがじゃんけんだぞ!餓鬼の遊びだぞ!それでデイビー・クロケットなど!!








<<終わりよ!!!>>



<<うおぉぉぉ!!!!!!!!!!>>





「存在Xよ…貴様に災いあれ…ガクッ…」









この日、ソ連の山岳一帯が突然の核爆発により吹き飛んだ。
でもフルシチョフは特に行動しなかったし、アメリカとの密約とかロケットエンジン付戦車とか問題にはならなかった。



今日も世界は平和である…。ほら、なんかバンダナと葉巻くわえた緑色の鳩とか「貴様を切り刻んで豚の餌にでもしてやる」とか言いそうな顔した白い鳩がお空を飛んでるよ!










デー、デー、デ、デデン、デデデン!!!


第10話

廃工場には人の気配は無い。スネークは軽く安堵しながらも、警戒を解かず廃工場内に入る。

 

 

最初にソコロフと出会った部屋へと入るが、誰も居ない。ソ連政府の言う"協力者"はまだ到着していないのかもしれない。

 

 

仕方なくスネークは再び廃工場の外側へと出る。

 

 

次の瞬間、ライトが光った。

 

 

スネークが咄嗟に視線を向けると、そこにはバイクに跨がったカーキ色のライダースーツを着て白いバイザー付ヘルメットを被った人物が、重いエンジン音を響かせながらこちらをライトで照らしていた。

 

 

「少し遅れたかしら?」

「エンジンを切れ、聞かれる」

 

 

悠長に待ち合わせの時刻に遅れたことを訊ねる人間に、スネークはエンジンを切るように言う。しかし当人は問題無いとでもいうかのようにスネークの話を流し、会話を続ける。

 

 

「貴方が西側のエージェント?」

「…お前がADAM(アダム)か?男だと思っていた」

 

 

ADAM(アダム)───それがソ連政府が今回の作戦に当たって派遣してきた、情報提供者兼協力者のコードネームであった。

 

 

キリストの神話にて、女性のEVA(エヴァ)と共に禁断の果実を口にし、楽園を追われた男。その名がADAMだった。

 

 

だがスネークの前に現れたのはADAMの名を持つが、男ではない者…声から分かるそれは女性のものであった。

 

 

そのためスネークは、彼女がADAMのコードネームを持つソ連政府の協力者ではないかと予測した。

 

 

「ADAMは来られなくなった」

 

 

しかし女性の口から出たのは、自分はADAMではないという言葉だった。そしてそれは"ADAMはここには来ていない"という意味でもあった。

 

 

「合言葉を言え。"愛国者は"?」

 

 

しかしスネークにはADAMが来ていないということ以上に早急に確認しなければならない事があった。

 

 

すなわち、目の前に居るのは誰なのか…という事である。もし目の前の女性が合言葉を知っているのであれば、来られなくなったADAMの代わりの協力者という事である。

 

 

だがもし合言葉を知らなければ、すなわち目の前の女性は協力者ではないということになる。もしくは仮に知っていたとしても、誰かの口を割って聞き出したという可能性も無視出来ない。

 

 

だがやみくもに深読みすれば逆に目が曇るだけである。スネークは思考を切り替え、まずは合言葉を知っているかどうかを確かめる事にした。

 

 

しかし女性は合言葉に答えず、軽く鼻で笑う態度を見せた。スネークは挑発とも取れる女性の態度に反応せず、今一度問いかけた。

 

「"愛国者は"?…答えろ」

 

 

女性は答えない。だがそれ以上の問題が発生した。

 

 

突如として現れ、スネークの周りを囲んだのはAK47やAKMを構えたGRUの兵士達であった。

 

 

「…ハメられた!?」

 

 

ナイフ1本だけという武器らしい武器を持たない今のスネークには、この状況は芳しくはなかった。

 

 

「伏せて!」

 

 

だがそこに響いたのは、目の前のバイクに跨がる女性の警告であった。スネークはまだ女性を信用しては居なかったが、しかし兵士としてのカンから咄嗟に床へと身体を投げ出した。

 

 

急に床へと身体を投げ出したスネークに、GRUの兵士達は対応が追いつかなかった。

 

 

その兵士達に対して、女性は腰から大型の拳銃を引き抜き、拳銃を真横に構えながら、発砲時のマズルジャンプに任せながら右から左へと振り抜きつつ次々と発砲する。

 

 

対応が追いつかなかった兵士達は更なる予想外の事態に為す術なく、順に拳銃から吐き出される鉛弾によって命を落としていった。

 

 

最後の1人が狙いもつけず、とにかく目の前の脅威を退けようと、闇雲にAK47を乱射し始める。

 

 

「上、失礼しますよ!」

 

 

床に伏せるスネークの耳に聞こえたのは目の前の女性の拳銃音ではなく、少し幼さを残す声であった。

 

 

伏せた状態から顔を捻って上に向ければそこには、今正にスネークを飛び越えるように空中へと身を踊らせる口元を黒い布で覆い、セミロングの金髪をたなびかせ、黒い野戦服を着た人間がいた。

 

 

その人間が右手に持つのは鈍く光るストレートスコップ、そして左手には現行のサバイバルナイフよりも古いナイフを逆手に握っている。

 

 

空中からの刺客に兵士は、咄嗟にAKを斜めに構えて防御姿勢を取った。次の瞬間頭部目掛けて上から、スコップが斜めに振り下ろされた。

 

 

もしこの時兵士が防御態勢を取らなければ、彼は勢いよく振り下ろされたスコップによって頭部を割られ、少ない苦痛で命を落としただろう。

 

 

しかし斜めに構えられたAKの銃身が、斜めに振り下ろされていたスコップを僅かだが反らす形になった。結果、銃身を凹ませながらも軌道を変えられたスコップは勢いをほとんど衰えさせることなく、銃身に沿って進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

"ズカッ"という嫌な音と共に兵士の頭部から手のひらサイズの何かが切断され、地面へと付着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイクのライトに照らされるそれは、赤や白、ピンクの入り交じった物体───兵士の頭部の肉片と頭蓋骨であった…。

 

 

 

 

「ギッ…!!」

 

 

脳こそ傷付かずに残るものの、頭部表面をチーズのように斜めに切り落とされた兵士は、自らに走る地獄の苦痛に叫ぼうとした。

 

 

しかし彼が叫ぶ前に着地していた野戦服の人間は、逆手に握るナイフを左から右へと一閃させた。

 

 

「グブッ…!」

 

 

喉を骨ごと頸動脈に至るまで深々と切り裂かれた兵士は、叫びの代わりにどす黒い血を口から溢れさせながら息絶えた。

 

 

「敵歩兵部隊全滅を確認、周囲は安全です。死体は私が始末しておきます」

 

 

一般人から見れば敵とはいえ人間を残忍と形容出来る形で殺した当人は、「ゴミが出たから棄ててこよう」程度の感覚でしかないのであろう口調で、場を片付けると言っている。

 

 

「ええ、お願いするわ。さて、これが合言葉の…答えよ」

 

 

バイクの女性は弾が切れた拳銃に新しい弾を取り出して装填しながら、スネークに対して"この行為が、自分達は敵ではないという証明だ"と、答えた。女性はバイクのエンジンを切ると、スタンドを立ててバイクから降りる。

 

 

女性は頭に被るバイザー付きのバイカーヘルメットを脱ぎさった。現れたのはブロンドの髪、整った顔立ちの白人女性であった。

 

 

彼女はライダースーツのジッパーに手を掛けると、目の前のスネークへと見せ付けるようにへその辺りまで下げる。ジッパーを下ろした彼女は、自らの女を強調するような歩きでスネークの前へと進む。

 

 

「初めまして、EVAよ。よろしく」

 

 

目の前まで来た彼女は"よろしく"に一際艶かさを主張するようにアクセントを置いた自己紹介を済ませる。なお、当のスネークはカーキ色のバイクスーツの下ろされたジッパーの間に覗く谷間をしっかり凝視してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──廃工場内──

 

 

 

 

 

「…計画と違う。ADAMはどうしたんだ?」

 

 

廃工場のソコロフが居た部屋にてそれぞれが小休止を挟んでいる中、最初に話を切り出したのは葉巻をふかすスネークだった。

 

 

当初の計画ではADAMが来る筈であったのが、来たのはADAMと共にソ連へと亡命したというEVAあった。

 

 

ADAMとEVA───スネークの目の前にいる長髪ブロンドの彼女と、ここに来る筈であった男は、数年前にアメリカからソ連へと亡命した、NSAの暗号解読員だという。

 

 

彼らはソ連にてこういった非常事態に備えて訓練を積み重ねていたらしく、今回の作戦に当たって、ソ連政府より派遣されていた。

 

 

だが計画とは異なり、ボディーガードと紹介した20歳にも満たない外見の少女を連れたEVAが来たのだ。

 

「貴方の名前(コードネーム)は?」

 

「俺は…スネークだ」

 

「スネーク?"蛇"ね。私はEVA…誘惑してみる?」

 

 

本題に入る前に互いの自己紹介をと求めたEVAにスネークが自身のコードネームを教えると、彼女は再び艶かしい台詞を口にしながらスネークが腰かけるベッドへと自身も腰かけ、身体を寄せてきた。

 

 

「ADAMはどうした?」

 

 

スネークはそんなEVAから自身の身体と視線をそらし、少しぶっきらぼうに再度質問をした。

 

 

「ヴォルギン大佐は用心深いわ。ADAMは適任でないと判断されたの」

 

「君なら適任だと?」

 

「ええ」

 

「どうして?」

 

「彼には出来ない事が出来るから」

 

 

一連の会話を経てスネークは理解がいった。すなわち男性であるADAMより、色仕掛けにも精通したEVAが選ばれたというだけらしい。

 

 

「もちろん、私1人で今回のバックアップを万事順調に進められるなんて思い上がりは無いわ。だから彼女を連れてきたの」

 

「ああ…。しかし君のバックアップだという彼女は何故銃ではなくスコップを?もしかして銃は…」

 

 

スネークはEVAが連れてきた少女の戦闘スタイルに疑問を持ち、ふと訊ねてみた。ちなみにスネークは可能性の一つとして射撃下手だと思っていたので口に出す。

 

 

「失礼ですね、これでも銃は得意ですよ。スコップとナイフなのは使い慣れた武器なのと、必要以上に場を喧しくしないからです。それにスコップは人類が生み出した文明の利器の1つでもあります。ガーデニングや工事は勿論塹壕掘りから即席の近接武器、朝昼夜問わずの"挨拶"にも使える優れものです」

 

 

スネークの言葉の終わりをを待たずに、単にスネークの顔にそういった表情でも浮かんでいたのか、少女は口を尖らせながら反論してきた。最後のほうはむしろスコップの利便性を情熱的に語っていたが…。

 

 

「そ、そうか…あ〜と、それでEVA、君はNSAの暗号解読員だったと聞いたが…」

 

「そう、4年前にADAMと一緒にソ連へ亡命したの」

 

「………ブルーム・ハンドル(箒の柄)…モーゼル・ミリタリーとはな」

 

 

スネークは話題が続かないと考えたのか、EVAの持つ拳銃へと話を切り替えた。

 

 

「ええ、火力があるからバイク乗りには重宝するの」

 

 

「銃を横に構えて銃口の跳ね上がり(マズルジャンプ)で水平に薙ぎ撃つあの撃ち方…見事だった」

 

 

スネークはふと、先ほどのGRUの兵士達を撃ち倒した彼女の独特な射撃方法を思いだし、褒めた。

 

 

「西側(にし)にはない撃ち方でしょ」

 

 

EVAはスネークの褒め言葉に応えるようにホルスターから先程の大型拳銃を抜き放つ。

 

 

「コピー品だな?」

 

 

スネークはEVAが抜き放ったモーゼルを見るなり、本家とのマガジンの大きさ等の違いからコピー品だと見抜く。

 

 

「ええ、中国の十七型拳銃……ここじゃ、これでも高級品なのよ」

 

 

EVAは十七型拳銃と聞いたスネークが顔を僅かにだがしかめるのを見て、苦笑するように弁明する。

 

 

スネークはふとEVAのボディーガードだという少女が使っていたナイフを思い出した。スコップは鋭く研いである以外は普通の軍用スコップだがナイフは古い型だったのを思い出し、少女に質問する。

 

 

「そういえば、君は何故サバイバルナイフなどではなく、古い型のナイフを使っているんだ?」

 

「私の上官から譲り受けた品なんですよ」

 

「そうなのか」

 

「心配しなくても大丈夫、貴方にはアメリカ製を用意しておいたわ」

 

 

スネークが用意されている物に不安を感じていると思ったのか、EVAがアメリカの物だと説明しながら渡したのは45口径、スネークも馴染みのある銃───M1911であった。

 

 

だがそれは従来のものとは違い、入念なまでに高性能パーツによってカスタマイズされていた特注品のような仕上がりであった。

 

 

今まで官給品尽くしだったスネークにとって、手にした事が無い程の高性能拳銃は彼の魂に火を着けるには十分であった。

 

 

この少し後、スネークから無線通話にてハンドガン談義を長々と語られた、彼のバックアップ担当の1人"武器・装備品の特別に凄い専門家"は、大層辟易したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにEVAが持ち込んだM1911は、西側の将校の物だとスネークは説明を受けたが、その本当の持ち主はスタイリッシュ眼鏡を掛けた黒髪の"God"の称号を持つ日本人だという噂があったりなかったりする。

 




【バックアップの少女】
スコップを愛用しその素晴らしさを実感しており、それを伝えた上官がいる金髪の幼さを残す少女───紳士諸君ならお気付きだろう。


【ADAMとEVA】
アダムとエヴァですが、メタルギアソリッド3本編に則り、次回からもアダムはADAM、エヴァはEVA表記で行きます。


【スコップ】
鋭利に研いだスコップで人間の頭を切断出来るかどうかは知りませんが、スコップの少女は出来るという設定で行きます。



†注意†
今回の本編には少々グロテスクな描写が存在します。苦手な方はお気をつけ下さい。なお、これからもちょくちょく残酷やグロテスク描写があります。

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