最初にスネークの目に飛び込んできたのは、黒い下着に包まれた肉付きの良いお尻であった。
この廃工場で合流したEVAの勧めと自分のメディカルサポートを担当する女性パラメディックの忠告により、合流後すぐに出発しようとしたスネークは工場のベッドでつかの間の睡眠を取った。
そして今、目覚めたスネークは軽く寝ぼけながらも下着を見つめる。少しして顔を右に反らすと、今度は白い柔肌と小ぶりで形の整った胸が目に入った。
眼の保養ではあるが、流石にそろそろ見続けるのは止めるべきかと瞬順するスネークだったが、外から聴こえてきた足音に気付くと、すぐさまM1911とナイフを構えた。
「どうしたの?」
「囲まれた…敵は…4人確認できる…」
「まずい、山猫部隊よ!逃げましょう?急いで!武器・装備を忘れないで!」
EVAはすぐさまライダースーツを着直すと、脱出口がある床を塞いでいる簡易ベッドをどかすためにスネークに手伝いを呼び掛ける。
スネークが少女のほうを見ると、彼女は先ほどまでの上半身裸の格好ではなく既に野戦服を着ており、黒い布で覆った口元から敵に気付かれないよう小さく呼吸をしながら、スコップとナイフを構えつつスネークの代わりに外を警戒していた。
「ここから床下に出られるわ……くっ!オセロットだわ」
どかしたベッドの下にあった床下への入口へ入ったEVAは、フェンスから見えたある人物、スネークとヴァーチャス・ミッションにて合間見えたオセロットを見つけて舌打ちする。
「私はバイクで突破する、また連絡する!」
「では私は工場裏のほうから脱出します。そのあとでEVAさんに合流しますので」
「分かった。俺は奴等を引き付ける」
そう言ったスネークに、EVAは頬にそっと口付けをした。
「死なないでね」
エヴァはそう言うと、床下を這っていった。なお未だに警戒をしていた少女は、「では私も」と言うと、入口とは反対側にある壁へと向かっていった。
何をする気なのかとスネークが目で追うと、彼女は壁の前でかがみこみ「えーと、この辺りだったかな?」と呟きながら壁をペタペタ触る。
「何をしている。脱出しないのか?」
「脱出口というのは見つけるものですが…」
言葉を区切った彼女は目当ての場所を見つけたのか、壁に手をついて押し込んだ。
「前もって作るものでもあるんですよ」
鈍い音を立てて壁が外れ、ドスンと音をたてて外側へと落ちる。なんとそこには、人1人が通れるくらいの穴が開いていた。
外から「今の音は!?」とか聞こえてくるが、今のスネークにはむしろ目の前の珍事のほうが目を引いた。
目の前の少女は、昨夜のうちにレンガ造りの壁に脱出のための穴を開けていたからだ。
「この少女はいつの間に」と疑問やら感心やらが頭を行き交うスネークを尻目に、少女は「では」と一礼してから穴を通り外へと抜けていった。
だが抜けていった少女は何かを思い出したかのように、パッと穴から顔を覗かせてスネークに言い放った。
「あと私、少女では無いですから。これでもれっきとした20歳ですからね………半永久的にだけど(ボソッ」
彼女は自分の心を読んだのだろうか?と、スネークは危機を前にしながらも頭を捻るのだった。最も、最後のほうの呟きは小さくて聞き取れなかったが…。
そんなスネークが次に思ったのは「そういえば彼女の名前を聞いていないな」だった。最初の出会いから今さっきの別れまで、スネークは少女の名前を聞いていなかったのだった。
──大要塞グロズィニグラード──
「くそぅ!アメリカの犬め!!」
そう叫ぶ大男の拳の一撃を受けて、ドラム缶がひしゃげながら宙を舞う。
たかがドラム缶とはいえ資源を怒りの矛先でスクラップにされては、兵站の関係者も堪らないであろう。
皆さんこんにちは、ターニャ・デグレチャフ少佐であります。
小官は現在、目の前の我々のボスであるヴォルギン大佐へと報告に来ているのでありますが、報告を聞いた大佐はそれはもう凄まじい形相となり、目下ドラム缶を叩き潰す事でストレスを発散しております。
原因は言わずもがな。
現在進行形でヴォルギン大佐率いる部隊に人的及び資源的被害を与えているアメリカのエージェントである。
現時点で数えるだけでも、武器庫が2つ爆破されて吹き飛び、食料庫が2つガソリンを撒かれて焼却された。
お陰で現地の部隊は揃いも揃って武器の交換も弾薬の補給も受けられず、まともに食事も取れなくなり警戒態勢に大穴が生じている。
もし今何者かから攻撃を受ければ、1日と持たないだろう。いかに精鋭とはいえ彼らも人間である。食う物食わなければ力も出ないのだ。
しかもボルシャヤ・パストに設置されている中継基地では、警備に当たっていた兵士が捨てた(本人は必死に火をしっかり消したと主張していた)煙草がたまたまドラム缶から漏れ出していた燃料に引火し、駐機されていた新型ヘリが資材やら予備機材を巻き込みまとめて吹き飛んだ。
もっともヴォルギン大佐はこれも兵士の不注意ではなく、エージェントのスネークによる破壊工作と捉えているので兵士はエージェントを見逃した事以外はお咎め無しである。
まぁ資源的被害も随分なものであるが、人的被害も無視出来ない。把握出来てるだけで20人近くが殺られている……最も、そのうち4分の1はコブラ部隊所属の兵士、ザ・ペインがアメリカのエージェントへと仕向けた蜂による巻き添えでの被害なのだが。
そうだ、ザ・ペイン───戦場において"痛み"という感情を見出だしたコブラ部隊兵士。相手に与える痛みだけでなく自らが受ける痛みにすら執着的な思考を覗かせる男だ。
だが当人は最早痛みという感情に執着することは無いであろう。何せあのアメリカのエージェント───ザ・ボスの弟子であるスネークによって、先日チョルナヤ・ピシェラの洞窟にて打ち倒されてしまったからだ。
ボルシャヤ・パストのクレバスにて待ち構えていたオセロット。彼と撃ち合っていたスネークのところへ大量の蜂を送り込み、まんまと彼を洞窟へ追い込んだザ・ペインは、洞窟の出口手前、チョルナヤ・ピシェラの主洞にてスネークを迎え撃った。
そして敗北した。彼は息絶える寸前、コブラ部隊の兵士に必ず持たされている自決用の爆弾を起爆させ、木っ端微塵に吹き飛んだ。
彼の死亡確認のために、私はあの戦闘の直後辺りに直接チョルナヤ・ピシェラへと赴いたのである。残念ながら遺体は回収出来ないが、代わりに彼のドッグタグを持ち帰った。
そして私は直接は見ていないが、ポニゾヴィエの物資倉庫にてボスからザ・ペイン敗北の報せを受けたヴォルギン大佐は、怒りのあまり搬入口のコンクリート壁に拳を叩き付けていたらしい。
そんな出来事の矢先である。優秀なコブラ部隊兵士の喪失に加えて人的・資源的被害の報告だから、かなり怒り狂っている。
「ティクレティウス少佐!」
「はっ!」
「次に奴を迎え撃つのは誰だ?何処で迎え撃つ?」
「申し訳ございません。小官にはお答えしかねます。ですが、当人は既に襲撃地点にて潜伏中。アメリカのエージェントが到着次第、迎撃する手筈であります」
「少佐…私はザ・ボスを信用していない訳ではない。だが万が一に備えたい。故に、貴官は直ぐにそこへ向かってくれ」
「ヴォルギン大佐殿、私も"一員"でありますが?」
「分かっている。ザ・ボスの命令にしか従わんのだろう?だからこそ命令ではなく、こうして貴官に頼んでいるのだ」
「…了解致しました。ボスには私が話を通しておきましょう」
「頼んだぞ、ティクレティウス少佐───いや、ザ・ピースよ」
「はっ、尽力致します」
ヴォルギン大佐からの頼みを受けた私は、アメリカのエージェントを迎え撃つコブラ部隊隊員のサポートの為に装備を整えようと、グロズィニグラードにある自室へと戻る。
自分に与えられた自室の前までくると、扉を開けて部屋へと入る。そして扉を閉めると、つい顔がニヤけてしまった。
「クククッ…なんたる事だ…ああ全く…信じられん…"こうまで物事が予定通りに進む"とは…」
ああ全くだ全く…愉快で痛快で爽快だ。最終目的を達成するまではまだまだだが、数日中に最終目的に至る為の過程を達することは可能である。
その過程とは、あのエージェントに与えられた任務の1つだ。そのため、私が直接その過程を成すことは出来ないのだ…ああ残念だ。目的は達せられるだろうが私自身で達せられないのは残念だ。
まあいい…あの男の始末はエージェントに委ねればいい…だが…やはり後ろ髪を引かれる思いだ…ああ本当に…
あの男───ヴォルギン大佐に手を下せないのは残念だ…。
あの日、私の国に、私の部隊に責を押し付けて名誉を傷つけてくれたあの男は、のうのうと生きてきた。
それのみならず、あの日の事件のせいで部隊とそこに属していた我々は無実にも関わらず犯罪者扱いだ。国を脱して星条旗の下に身を寄せてからも長年犯人を探ったが分からなかった。だがそれも間も無く報われる。
ザ・ボスが見つけ出してくれたのだ。だが、それだけではなかった…。あの日、あの虐殺の主導者がまさか、ヴォルギン大佐だったとは…。ザ・ボスには恩が増えるばかりだ。
大佐…例え100年過ぎ去ろうが、貴方が惨めに死に逝くまで我々は、私は決して、あの虐殺の記憶を忘れはしない。身に覚えの無い罪を押し付けられ、犯罪者の烙印を押され、罵倒と軽蔑の視線の中を這いずり回る屈辱と怒り…。
「…マイネ・エーレ・ハイスト・トロイエ(忠誠こそ我が名誉)。…私の部隊を陥れ、私の経歴に下劣な犯罪者という消えない悪名を押し付けてくれたその行い…是非ともナチらしく冷酷に報いて差し上げよう」
我等は『第0SS装甲師団「マイネ・エーレ・ハイスト・トロイエ」』。
我等は決して"カティン"の冤罪を忘れはしない。
【第0SS装甲師団】
以前から出していたターニャの所属していた架空師団です。
今回kuraisuさんより頂いたナチス親衛隊のモットー『忠誠こそ我が名誉』を師団名として使わせて頂くこととしました。kuraisuさん、ありがとうございます。
【カティン】
カチンとも。ソ連軍が捕虜であるポーランド軍将兵数千人をカティンの森にて虐殺。事件そのものはドイツ軍の仕業として擦り付けた。
【ザ・ピース】
我らが幼女様のコードネーム。詳しい由来などは後々に。