歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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まさかの風邪。

まだ喉が痛くて鼻づまりもあるけど、私は元気です。


第15話

「お前は…EVAの…!」

 

 

「はい、こんにちは。スネークさん」

 

 

 

スネークに体重を乗せながら押し倒した敵、それは廃工場にEVAが連れてきていた彼女曰く"護衛"の少女であった。

 

 

彼女はスネークの現状をじろじろと眺めると、ため息を吐いた。

 

 

「スネークさん、もし私が本当に敵だったら終わりですよ。それにスナイパーの基礎すら焦りで忘れるのはザ・ボスの弟子として、そもそも連戦での勝利から慢心を…」

 

 

まるで教師かスポーツコーチのようにスネークにやんわりとだが至極もっともなことをズバズバと突き付けてくる。

 

 

だが当のスネークはというと、少女のズバズバとくる説教中もジ・エンドに撃たれた麻酔弾のせいで、自力で足を動かすのが困難などころか眠気と気だるさで意識が朦朧としていた。

 

 

少女はスネークの状態を思い出したのか、「ああ、忘れてました」と呟きながら腰のバックパックから何かの錠剤を取り出した。

 

 

「気付け代わりです。飲んでください」

 

 

しかし少女がスネークの口に錠剤を入れて飲ませようとするが、麻酔で意識が朦朧としているスネークには自力で錠剤を飲み込む力はない。

 

 

さて………映画やアニメなら普通ここで献身的なヒロインだとか頼れる女相棒なんかが口移しで薬やら食事やらを男主人公(逆であれば女主人公に男)が飲ませたり食べさせたりしてくれるシーンが入るだろう。

 

 

しかし少女は「うーん、自力では飲めませんか。口移し──は絶対有り得ませんね。ファーストキスはやっぱり…」とブツブツ呟き、献身的介抱をするつもりは微塵も無いようだ。しかも、その中にはおもいっきり私的な理由が含まれている。

 

 

少しばかり悩んだ少女はふと『あ、そうだ良いこと思い付いた』みたいな表情を浮かべると、まずスネークの口内に錠剤を放り込んだ。そしてスネークの錠剤が入っている口に、腰から取り出した水入りの水筒をくわえさせる。そして水筒を支えつつスネークの鼻を摘まみ…

 

 

 

 

 

 

「ほいっと!」

 

 

 

 

 

 

勢いよく水筒を傾けて中の水をスネークの口内へと溢れるのも構わずグイグイ流し込み始めた。

 

 

当然いきなり口内へと大量の水が流れ込めば当然むせるし、スネークの身体も危険を察知して異物と見なした水を咳き込みなどで排除しようとするが、少女はそんなことには構わずありったけ流し込む。

 

 

ついでに鼻を摘まみつつ、スネークの頭をブンブン揺らしてシェイクしながらどうにか錠剤を飲ませようとする。救おうとしてるのか逝かせようとしてるのか分からないカオスな一進一退の十数秒間に渡る攻防は、スネークがゴクリと錠剤を水と一緒に飲み込んだことで終結する。

 

 

その数秒後、スネークは突如として身体に異変を感じた。急に身体のそこから突き上げられるような感覚と共に、全身に力が行き渡ってきたのだ。先ほどまで気だるさと眠気で朦朧としていた意識は爽快な朝を迎えた時のようなはっきりとした意識に上書きされ、自力で動かすのが困難であった手足は思い通りに軽やかに動かせた。

 

 

驚くスネークに対して、少女は錠剤の種明かしをしてきた。

 

 

「どうですか?アフリカである先住民の部族が代々使っているという実を混ぜた錠剤です。ただ劇薬なので過度な摂取は出来ませんが」

 

「ああ、ありがとう。ただ次はもう少しお手柔らかに頼む…しかし、君は一体どこでこんな薬を?」

 

「私ではなくドイツが開発した薬ですよ。そこで我々が実験も兼ねて」

 

「ドイツ…それは東ドイツがか?」

 

「ドイツはドイツですが…まぁそれは今後回しにして置いておきましょう。はい、気付け薬の次のプレゼントはこれです。どうぞ」

 

 

少女はスネークの疑問を今は関係無いと話を終わらせ、今度は自らが背中に背負っていたライフルを取ると、スネークに対して差し出してきた。

 

 

「これは?」

 

「SVDドラグノフ。ソ連が最近開発したばかりの新型セミオート・スナイパーライフルです。7.62mmのフルサイズ弾なので威力があるし連続した射撃が可能ですよ。流石に専門の狙撃銃ほど長距離射撃に優れてはいませんが、速射性と耐久性に重きを置いた優秀な銃です」

 

「すまない、有り難く使わせて貰おう」

 

「ふむ…もう大丈夫そうですね。では私はもう戻ります。一応EVAさんの護衛ですから、長い時間護衛対象の側に居ないのは周りから怪しまれるので」

 

 

少女はスネークにライフルを渡し、錠剤でスネークが大丈夫そうになったのを確認すると、帰る旨を告げて返事も待たずに先ほど出てきた茂みへと消えていった。

 

 

そこでスネークはふと気付いた。

 

 

「…また名前を聞き忘れたな…」

 

 

名前は聞き忘れたが、とにかく少女のお陰で麻酔の成分は身体から抜けたらしい。しかもソ連製の新型狙撃銃というおまけ付きである。漸くジ・エンドと対等に戦える態勢が整った。

 

 

「さて、ここまで支援を貰ったんだ。ここでThe・ENDになる訳にはいかないな」

 

 

スネークはそう一人ごちると、ドラグノフを握りしめ、ジ・エンドを打ち倒すべくソクロヴィエノの森林へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ソクロヴィエノ:対ジ・エンド戦第二ラウンド─

 

 

 

『いいぞ、掛かってくるがいい!』

 

 

態勢を立て直し再び立ち向かってきたスネークに対して、ジ・エンドはその気概を称える。対等な武器を手に入れただけでなく慢心を消して慎重さを取り戻したスネークに対するジ・エンドの評価であった。

 

 

ジ・エンドから見ても、今のスネークは先ほどとは段違いである。標的たるジ・エンドを発見出来ない場合、スネークは数分感覚で次々と狙撃位置を変えていく。

 

 

これは次々移動することで発見されやすくなる危険を孕むが、代わりに敵スナイパーに狙い撃つチャンスを与えにくいことになる。

というのも全てのスナイパーが白い死神の如く、射界に入った瞬間にヘッドショット出来る訳ではないからだ。

 

 

それに加えて頻繁な移動とはいっても、その方法は匍匐や厚い茂みに潜みながらの移動である。そしてスネークもまたカムフラージュとして野戦服のあちこちに木々の葉や植物を差し込んだりしている。

 

 

もちろん狙撃位置から下がる時も後ろへゆっくりと匍匐状態で下がっている。今のスネークはまだ荒削りながらも、ジ・エンドは終焉に値すると見込んだ。

 

 

だからこそ彼も全身全霊で以て、スネークとの狙撃対決に臨んでいる。そしてそんな互いの狙撃手としての駆け引きが、かれこれ1時間は続いただろうか。

 

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

 

 

スネークは遂に、これまで姿を見なかったジ・エンドを、初めてドラグノフのスコープの中心へと捉えていた。ジ・エンドは実に巧妙に高台の草むらに潜んでいた。

 

 

それを発見出来たのには訳がある。こればかりは恐らく、彼───ジ・エンドですら気付けなかったのだろう。いや、全てのスナイパーがまさかと思う筈である。

 

 

あるものが反射したのだ。だがスコープレンズではない。最初その反射に気付いたスネークはそれを想像したものの直ぐに違うと直感した。あれほどのスナイパーがそんな初歩的なミスを犯す筈がない。

 

 

だがそれ以上に好機であった。反射物がある場所にはジ・エンドがいたからだ。今度こそジ・エンドの罠ではなく、彼本人がスナイパーライフルを手にスネークを探していた。

 

 

スネークは息を殺しながら慎重にゆっくりと動きだし、側にある腰の高さほどの岩に腰だめで身体を隠す。そこからドラグノフの銃身を岩に載せて、射撃時の反動を軽減出来るよう安定した姿勢を取った。

 

 

風向きは無風状態、弾丸がジ・エンドの潜む地点まで届く際に落下していく慣性の法則を考慮して射角を数mmほど調整し、ついにトリガーに指を掛けた。

 

 

ジ・エンドの胴体部分にスコープの照準を合わせ、引き金を引こうとした────

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、ジ・エンドはスネークに気付き、スネークに対して銃口を向ける。互いにスコープの中に相手を捉えている。後はどちらが先に相手に弾を撃ち込むかであった。

 

 

第一射は同時である。ジ・エンドの弾丸はスネークの髪の毛を、スネークの弾丸はジ・エンドのギリースーツをかすっただけ。

 

 

第二射を放つため、ジ・エンドはボルトを引き排莢、更にボルトを戻し新たな弾を薬室に装填した。

 

 

だが、この時点で狙撃対決に決着が着いていた。ジ・エンドの使うスナイパーライフルはモシン・ナガンM1891/30。

帝政ロシア時代に採用され、第二次世界大戦、冷戦初期を生き抜いた傑作ライフルである。

 

 

しかし帝政ロシア時代から第二次世界大戦といえば各国の標準装備である歩兵銃は、そのほとんどがボルトアクションライフルである。すなわち一発放つごとにボルトを引いてから押すという行程を経て次の射撃が可能になるのだ。

 

 

そしてモシン・ナガンもその例に漏れず、ボルトアクションライフルである。構造、そしてボルトアクションという射撃システムによって高い精度を誇るモシン・ナガンだが、この1960年代、モシン・ナガンはソ連軍制式採用狙撃銃の地位を別のライフルに明け渡している。

 

 

すなわち、今スネークが用いているSVDドラグノフライフルである。両者は構造や外観も違うが、その最も大きな違いはひとつ────

 

 

モシン・ナガンはボルトアクションに対して、ドラグノフはセミオートなのである。つまりドラグノフはモシン・ナガンのように次弾を発射する際にボルトを引いて押すという行程を必要としないのだ。

 

 

つまりジ・エンドが次弾を発射するべくモシン・ナガンのボルトを操作している間、その間がたったの1秒間だったとしても、スネークがジ・エンドにドラグノフの次弾を発射するには十分であった…。

 

 

スネークのドラグノフがジ・エンドのボルト操作の間に次弾を発射。7.62mmの大口径弾は、対人であれば一発当たるだけでも十分な威力を発揮し、相手を戦闘不能に陥れる。

 

 

スコープでジ・エンドを見ていたスネークは、ジ・エンドが立ち上がると、よろけながら移動するのが見えた。ここで逃すまいと、スネークはドラグノフを背負いジ・エンドの後を追いかけだした。

 

 

だがジ・エンドはすぐに見つかった。高台から西へと進んだ地点、そこにジ・エンドはいた。よろけながら歩くジ・エンドは、木々が開けた場所で仰向けに倒れ込む。

 

 

スネークの撃った弾は、ジ・エンドの腹部に見事に命中していたのだ。腹部を押さえるジ・エンドの手の隙間からは大量の血が溢れ出している。

 

 

『森……達よ…がとう…ボス……素晴らしい…だ』

 

 

 

スネークのいる場所でははっきりとは聞こえないが、ジ・エンドは苦痛を堪えながらも何かを述べている。敵が生きている以上確実性を期すために止めを指すのが原則だが、スネークにはその気が起きなかった。

 

 

『思い……ない…これで…も……へ還れ…』

 

 

 

 

ジ・エンドの最後の思い…彼はそれを述べ終わり、満足したのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジ・エンド!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発がジ・エンドの身体を巻き込み、彼の遺体を消し去った。爆風に巻かれた木々や破片のようなそれらは森の中を回るように舞い、散っていった。

 

 

とうとうジ・エンドとの決着はついた。しかしまだ先があるのだ。スネークはコブラ部隊の天才スナイパーに敬意を示すと、ソクロヴィエノを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なおスネークはジ・エンドの名誉のためにも対決の勝利原因を伏せようと心に決めていた。

 

 

決して反射していたものが、スコープレンズや装備の金具ではなく、彼の見事に禿げ上がった頭皮だったなどということは絶対に無かった。決して絶対に頭皮の反射などは存在しなかったのだ。

 

 

 

そしてジ・エンドが命を落とす前に起爆させた自決用の爆弾が彼の遺体を消し去る直前、口から上下セットの入れ歯を戦闘機の緊急脱出が如く射出したりなんて状況も全く見ていない。ジ・エンドの入れ歯緊急射出なんて状況は決して絶対存在しなかったのだ。

 




【スネークを覚醒させた錠剤】
元ネタはガンアクション漫画PeaceMakerから。ホテルでのの襲撃及び作中の架空闘技GOD(ガンズ・オブ・ドミネイション)にてイズ・チャカカがハイマン・エルプトンに飲ませた実からです。歯車戦記ではその実を混ぜた錠剤という設定で出しました。なおPeaceMakerではどんな実なのか詳細説明がないので効能は捏造。


【ドラグノフ】
FPSでお馴染みの連発ライフル。W2000やM14EBR等と並んで有名ですね。黒い入江の運び屋さんが出てくる某漫画では元ロシア軍のマフィアが好んで乱射してる銃でもありますね。


【禿げと入れ歯】
ジ・エンド戦は特に入れ歯シーンが感動をぶち壊しに来ましたね。でもそういったのがあるからメタルギアは楽しい。

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