歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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…アメリカはリベレーターを何の為に作ったんだろう?


第16話

─クラスノゴリエ山岳地帯─

 

 

グラーニニ・ゴルキーを発ってから約1日が経過した。スネークは疲労する身体に鞭を打ちながら、今現在、クラスノゴリエの山岳を山頂施設を目指し登っている。

 

 

この山岳に入る前、ソクロヴィエノの森にてスネークはコブラ部隊兵士の1人である近代狙撃術の祖と言われるスナイパー、ジ・エンドと戦い、彼を打ち破った。

 

 

その際スネークは、ある人物と再会した。ソ連の情報提供者として廃工場に現れたEVA───彼女が引き連れてきた護衛だという少女である。

 

 

ジ・エンドによるカムフラージュに騙され、麻酔弾を身体に受け、意識は朦朧とし、敵が用いるスナイパーライフルに対して、スネークが所持するのは拳銃であるM1911と近接武器のサバイバルナイフのみという、既に勝敗が見えていた戦い。

まるでそれを見越したかのように、野戦服に口元を隠す布といったあの時と同じ装いの少女が、ソ連製スナイパーライフルを背に担いで現れた。

 

 

さらに少女はスネークが陥る状況を想定していたのか、成分不明の錠剤をも携帯してきていた。ただスネークは麻酔のせいで自力では飲めなかったため、少女はスネークに錠剤を無理矢理飲ませた(尚、錠剤を口にふくませて頭をシェイクして飲ませるというやり方に、スネークは「他にやり方があるだろう」と思った)

 

 

だがそのお陰で麻酔の薬効は消え、少女から渡されたスナイパーライフルによってジ・エンドと対等に戦えるようになり、遂には打ち倒すことが出来た。

 

 

そして今、スネークは疲労した身体でありながらもクラスノゴリエ山岳へと辿り着き、EVAから合流地点に指定されている山小屋へと向かっていた。

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

「少佐、こちらスネーク。山岳の山小屋がある地点に到達した」

 

<<よしスネーク、まずはEVAと合流するんだ。先は長いがまだフルシチョフから定められた期限まで時間はある。むしろザ・ペインにザ・フィアー、ザ・ピースにジ・エンドと4人ものコブラ部隊兵士とやりあってるんだ。山小屋で休息をとったほうがいい>>

 

「ああ、そうさせてもらおう。ところで少佐…ザ・ピースに関してだが…」

 

<<ザ・ピースがどうかしたか?>>

 

「ザ・ピース…彼女は本当に人間か?もし本当にコブラ部隊兵士として大戦を戦っていたとしたら…」

 

<<確かに!私もそれは気になっていたわ!>>

 

「うぉっ!?パラメディック…急に驚かすな」

 

<<ごめんスネーク、ところでザ・ピースなのだけれど、もし彼女が本当にあの大戦から生きていたとすると、もしかしたら彼女は『小人症』なのかも>>

 

「小人症?一体なんなんだ?」

 

<<小人症は、極端な低身長になる病気と言えばいいかしら?これは様々な原因によって低身長という表現型を示している疾患群で、骨系統疾患が多く含まれいて、その大部分は単一遺伝子疾患であることが多いわね。遺伝やホルモン・染色体異常などと様々な原因があるわ>>

 

「…成る程」

 

<<分かってないでしょ?とにかく、この小人症は珍しくしかも治療法が確立されていない病気なのよ。それに子供のような身長のまま成長しないから理解の無い人から差別を受けたりもするの。もしかしたら彼女もそうなのかと…でももし彼女が小人症等ではなく純粋にあの身体のまま…>>

 

「待て、パラメディック」

 

<<え、何スネーク?>>

 

「悪いが、俺が言おうとしたのは見た目とかじゃない」

 

<<え?>>

 

「ザ・ピースは、常人では出せないような化け物染みた力を持ってる。シギントから聞いたんだが、コブラ部隊が居た戦域で時折だが『まるで何かに殴り飛ばされたような戦車や装甲車の残骸』を見たという話があったらしい。つまりザ・ピースによる仕業かと思ったんだ」

 

<<あ、あらそうだったの?ごめんなさい、私つい勢いで…>>

 

「それでパラメディック、君は最後に何か言いかけてなかったか?」

 

<<ああ、確かに言いかけてたな>>

 

<<スネーク、少佐、それはもういいから…!>>

 

<<確か「もし小人症ではなく純粋に…」といった感じだったな>>

 

「パラメディック、もしかして君は…」

 

<<だから私は!>>

 

「よくある…永遠の命とか永遠の若さみたいな話に引かれたとかか?」

 

<<…ええ、そうよ。だって考えてもみてよスネーク!もし彼女が小人症ではなく自身の肉体組織を純粋に維持してあの若さを保っていたとすれば、老齢化による肉体能力の衰え等を抑えられる可能性もあるのよ。そこから老齢化による病気や症状を改善出来る治療法が発見出来るかもしれないし他にも…!!>>

 

<<あ〜スネーク、パラメディックは私が落ち着かせておく、君はそろそろ任務に戻ってくれ>>

 

「…了解した。まずは山頂の山小屋へと向かう」

 

<<ちょっと!聞いてるのスネーク!!>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──グロズィニグラード──

 

 

 

「…決心はついたかね?ならば君は万が一の場合、先ほどの指示を実行したまえ。万が一が起こらなければそのまま我々と来たまえ。報酬は君の身柄の安全と家族との再会だ」

 

「本当に、家族に会えるのか?」

 

「嘘ではない。既に部下が本国に連絡を入れて、君の家族を保護している。君が決心したのであれば、後は君が我々と共に脱出し亡命するだけだ」

 

(…それに今回の問題はクレムリンも間違いなく隠したい事態だ。それを僅かにでも知る者が亡命するのは防ぎたいだろうが───たかが一兵士の亡命に過剰反応すれば、それこそいぶかしんだ第3者が裏を探ろうとしかねない状況を想定しない筈がない。結局のところ共産主義者共は多少の被害には目を瞑るしかないのだ…)

 

 

「…さて、話は終わりだ。君は持ち場に戻り、準備に掛かりたまえ」

 

「分かった。あんたを信じるよ」

 

「よろしい。それと、私がグロズィニグラードにいること…生きているということはくれぐれも漏らさぬように…な」

 

 

私との取引を交わし指示を受けた兵士は、持ち場である監獄へと戻っていく。さて、これで万が一問題が生じても、何とか立て直せるだろう。もし無理であれば、私が直接出るまでだが…。

 

 

ああ…早く目的を達したいところだ。上からの命令だとか部下の仇といった面もあるが、一番はやはりあのヘドが出るコミュニストの顔面に一撃をかませるのは痛快だからだ。

 

 

おっとこれは失礼、皆さん。どうも、グラーニニゴルキーではお付き合い頂き感謝を…ターニャ・デグレチャフであります。

小官は現在、スネークより先にクラスノゴリエ山岳を踏破し、ヴォルギン大佐の本拠地グロズィニグラードへと来ております。

 

 

もっとも小官は一応はコブラ部隊兵士としてグラーニニゴルキーで戦死した扱いですので、この小柄な体格を生かして潜入中───つい今しがたもスネークをサポートするべく、万が一に備えた根回しをしていたところでありました。

 

 

他にもスネークが潜入してくると目した地点の鍵や錠をとっ払ったり、グロズィニグラードに張り巡らされた排水溝の所々の網を撤去したりと大忙しです。

 

 

さて、現在私は今述べたように、スネークのグロズィニグラード到着を見越して、様々な裏工作や準備に入っていた。当のスネークもソクロヴィエノでは危なかったそうだが、それも思慮して送り込んだ忠実な副官が、しっかりと仕事を果たしてくれたおかげで、スネークは無事切り抜けたと報告を受けた。

 

 

ちなみにそういった様々な準備によるものと、スネークが予定より早くグロズィニグラードへ到着しそうなので工作や根回しを前倒しで進めていたために睡眠や食事の時間削減を喰った。その煽りで、私は現時点で飲まず食わずで睡眠も取っていない状態だ。

 

 

正直しんどい。これだけやって、しかしボーナスも特別休暇も無いのだろう。

飲まず食わずで寝る間も惜しんで命を掛けた強制的な仕事、だがそういった苦労に見合う対価は月々の公務員給与のみ。会社として考えるならばブラック企業である。

 

 

ああ…まだ亡命を受け入れてもらった頃は警戒されていたこともあるが、しっかりと事務仕事をしながら週休2日に加えて割増しされた給与に時折の旅行も許されていた…酒だってゆっくりしながら飲めたし、仮にアドバイザーとして戦場や紛争に駆り出されても砲弾を気にする必要のない安全な後方で睡眠が取れて食事もしっかりとした物を出されていた…。

 

 

なのにどうして私はいまこのくそったれコミュニストの国で裏工作やら根回しやらに飲まず食わず寝ずでかけずり回らなければいけないのか。酒は無味無臭のウォッカだし飯は基本的に冷えたマズいレーション。

 

 

ああ文明的な場所に帰りたい。暖かい食事としっかりした週休に寝床、ちょろちょろ寄ってくる部下が飼っている猫の喉を撫でながらソファーに身体を預けてもたれたい…。

 

 

…っと失礼。部下からの無線連絡だ。

 

 

「私だ」

 

<<失礼致します少佐殿、カイル上曹であります。クラスノゴリエ山頂にて"蛇"と接触しました。これより目標を地下坑道へと追い込みます>>

 

「よろしい。だが注意しろ。目的はあくまでも"蛇"を地下坑道へ誘導することだ。間違っても坑道ごと生き埋めになどしてくれるなよ?」

 

<<お任せを、コイツの操縦にはすっかり慣れました。トンネル潜りでもなければ問題なく行けます>>

 

「任せたぞ、私はまだ用事があるので、またな」

 

 

大戦以来、私の部下の中でももっとも航空機体の扱いに慣れた部下からの連絡によれば、スネークはクラスノゴリエの山頂にようやく辿り着いたらしい。

 

 

ここからグロズィニグラードへと潜入するルートは2つ───

 

ひとつは山頂の山小屋近辺にはいくつかなだらかな道があり、そこを通るルート。このルートは巡回の兵に発見される危険性はあるが、最も速くグロズィニグラードへと辿り着ける。

 

 

そしてもうひとつは、山頂からグロズィニグラードへと通じている地下坑道を通るルート。このルートは時間こそ掛かるが、地下坑道は巡回をほとんど配置していないため、比較的発見される危険性を持たずに潜入可能だ。

 

 

そして、私の部下がわざわざ襲撃を行ってまで地下坑道にスネークを追い込む理由は2つ。

 

 

ひとつは時間稼ぎのため。スネークより先に到着して根回しやら下準備はしていたものの、まだ幾つかやり残しがあるのだ。私は死んだ扱いである以上、隠れながら下準備をせねばならず、根回しは慎重かつ信用出来る奴を人選しなければならない。

 

 

もうひとつは、最後のコブラ部隊兵士である。火炎兵士ザ・フューリー…彼が扱う武器は、屋内や密閉空間にて最も凶悪な性能を発揮する。そんな彼が、クラスノゴリエの地下坑道にてスネークを待ち構えているのだ。実のところ、コブラ部隊兵士は皆、スネークとの対決を心待ちにしているのだ。

 

 

なにせザ・ボスが全身全霊で以て鍛え上げた唯一無二の弟子───それがあのスネークなのだ。彼女と共に戦ったウォーモンガー連中にとって、そんなスネークと戦うのは兵士としての喜びなのだろう。

 

 

だからこそ私も、コブラ部隊の一員としてお膳立てをするのだ………もっとも…たかだが地下坑道に追い込まれるためだけに、"重武装ヘリ"に追い回されるスネークにとっては、災難でしかないのだが…。

 

 

…っと失礼、また部下からの無線連絡です。

 

 

「私だ……よし、EVAは戻っていったか。で、スネークは?………グロズィニグラードを偵察して…ふむ…山小屋からまだ出てきていないか……いや、問題はないぞ。カイル上曹、山小屋目掛けてぶちかましたまえ」

 

 

 

 

 

 

では皆さん、私はこの辺りで失礼致すとしましょう。それではまた、グロズィニグラードにて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…それにしても腹が減った…

 




幼女戦記…早く第2期やらないかな…

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