歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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どうにも描写が上手くいかず、書き直しを繰り返してて遅れました。
もし読まれていて、「ここの描写が全然一致しない」みたいな箇所がありましたら、指摘お願い致します。


※2018年4月8日
後書きの設定にて、『愛国者』を『賢者達』に修正しました。



第17話

─グロズィニグラード・監獄区域─

 

 

 

 

 

 

人体を力任せに殴り付ける音が響き渡り、殴り付ける音の度に掠れるようなうめき声が聴こえる。

 

そこでは1人のスーツ姿の中年の男が、もう1人の軍服を着た大男により幾度となく殴りつけられ、蹴りあげられ、痛めつけられる光景があった。

 

軍服の大男はヴォルギン大佐、スーツ姿の中年男はグラーニンである。

ヴォルギンの拳がグラーニンの腹部にめり込み、グラーニンは地面に這いつくばると、腹の中身を地面へとぶちまけた。嘔吐と腹部の痛みから中身を全て吐き出してえずくが、ヴォルギンのそばにいた髑髏と羽根のワッペンを着けた兵士2人が、彼の両腕を掴むと無理矢理立ち上がらせる。

ヴォルギンはグラーニンの頭を鷲掴みにすると自分へと顔を向けさせながら言う。

 

 

「そろそろ腹の中身だけでなく、心の中身もぶちまけたらどうだ?さぁ、言え!アメリカのエージェントに協力してる奴は誰だ?奴は何を目的にしている?」

 

「…ぐぉっ…はっ…はっ…誰が言うか、大佐。貴様はスターリンと同じくこの国を蝕む癌だ!儂を利用しおって!あの新型ヘリとて儂が開発してやったというのに、貴様はその途端に儂をお払い箱にしおった!挙げ句シャゴホッドなぞという下劣な兵器に資金を回しおって、恥を知れ!」

 

 

グラーニン男は大男の言葉に対して唾を吐くように罵倒を返した。ヴォルギンはそんなグラーニンを見て口の端を歪めると、頭を鷲掴みにする手を離して、彼を掴む兵士に顎をしゃくって合図した。

その途端、彼の腕を掴んでいた兵士の1人が彼の鼻を人差し指と中指で挟み込むとギリギリと締め上げてから、一気に鼻を捻り上げた。

 

 

「ギャアァ!!」

 

 

鼻骨を力任せにへし折られたグラーニンは、激痛に叫びを上げた。

 

 

だがそれだけでは終わらず、もう片腕を掴む兵士がグラーニンを軽々と持ち上げた。

グラーニンには必死に暴れるも兵士は彼を落とすことなく運び、近くの中身が空であるドラム缶へと頭から無造作に放り込んだ。

けたたましい叫びと罵倒がドラム缶から反響する。ヴォルギンはそれを見るとニヤリと笑いを深め、ドラム缶へと近付く。それを見た兵士2人は、ヴォルギンから離れて監獄区域を出ていった。

 

ヴォルギンはドラム缶前までくると、腰のポケットから金属製の細長い筒───ライフル弾の薬莢を取りだし、自らの指の間へと挟み込む。

彼が拳を握ると、ライフル弾の薬莢はまるでメリケンサックのように指の間から飛び出しており、見る者に恐怖感を与える。

 

ヴォルギンはこれから自らが為すことを想像したのか、狂喜的な表情を浮かべながらドラム缶の周りを歩き出した。そしてピタリと足を止めた途端に、自らの身体に電撃を纏う。先ほど出ていった2人の兵士…彼らはこれからヴォルギンが行おうとしている尋問の名を借りた行為を悟って、"見る気はない"と出ていったのだろう。

ヴォルギンは拳を構えて腰を落としながら言った。

 

 

「さて、ドラム缶にこもった芋虫はどんな鳴き声をあげるかな?息があるうちに話したほうが身のためだぞ…クククッ、まだまだ終わらんからな…」

 

 

ヴォルギンの言葉を皮切りに、監獄区域に金属を殴り付ける音が幾度となく響き渡り出した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side オセロット】

 

 

 

 

「それで、グラーニンは何か吐きましたか?」

 

「いや、その前に死んだ」

 

 

あれから半時、この監獄区域へと訪れると自分の眼前には、身体のあちこちから血を流し肉の焼ける不快な臭いを漂わせるグラーニンの死体が転がっていた。

 

いくばくかのやりとりをした後、同志を片端から疑い情け容赦なく殺すことを当たり前のように言うヴォルギンに対して「こんなやり方には納得出来ない」と詰め寄るがヴォルギンは上官であり司令官たる自分の命令だと威圧してくる。

 

自分とヴォルギン大佐、互いに一触即発の雰囲気を漂わせるが、それはある人物が現れたことで霧散した。

 

 

「部下を疑いだすとキリがない」

 

 

ザ・ボスである。彼女が現れた途端に互いに一触即発の雰囲気を抑えたのは、ひとえに彼女の存在があるからだ。今回の亡命において新型核兵器を持ち出し、更にはCIAの裏を知り尽くす非合法特殊部隊幹部らに加えてその隊長すらソ連側へと引き込んだ手腕の持ち主───なにより大戦を戦い抜いた特殊部隊の母という猛者相手では例え力自慢の兵士が1個小隊で全力で掛かっても捻り潰されるのがオチだ。

 

特にヴォルギン大佐はザ・ボスの気迫に常に気圧されていた。彼女がその鋭い眼光で一睨みするだけで、ヴォルギンはあっという間にたじろぎ、しどろもどろな口調になってしまうのを自分は何回も見ていた。

 

 

「少佐、何事かね?」

 

 

突然ザ・ボスが現れたことにヴォルギンが訳を訊ねると、ザ・ボスはヴォルギン達の手前へと3つの物を投げ出した。

クロスボウガンにナイフ、認識票である。ザ・フィアー、ザ・ピース、ジ・エンドの持ち物だ。まだ彼らが死ぬ前に、チラリとだが見た覚えがある。

 

 

「ザ・フィアー、ザ・ピース、ジ・エンドが殺られた」

 

 

やはり間違ってはいなかった。彼らが殺られたというザ・ボスの言葉…そして投げ出した彼らの持ち物。要は遺品である。そしてザ・ボスがヴォルギンに告げたコブラ部隊敗北の報せ、それを聞かされて冷静でいられるヴォルギン大佐ではない。

額に青筋を浮かべて歯を食いしばり、電撃を纏う拳をドラム缶へと怒りに任せて降り下ろした。

 

 

「アメリカの犬め!!」

 

 

既にほとんどのコブラ部隊兵士が命を落とし、残るはザ・フューリーのみである。相手はザ・ボスの弟子であったエージェント…自分とて簡単に仕留められるとは考えておらず、ある程度の被害は覚悟していたが現実は、伝説のコブラ部隊がいとも簡単に倒されていくというあまりに予想外だと言わざるを得ないものだった。

 

だが同時に喜びを感じてもいた。なにせスネークは自分に二度も恥をかかせた相手だ。そんな相手が同志やコブラ部隊とはいえ、他人の手にかかって死ぬのは納得いかない。奴の命はこの自分の手で奪う!

それは自分の恥をすすぎ、同時に自分よりも強い兵士を打ち倒したという自負になる。

 

 

「…ヴォルギン大佐、ザ・ピースを私に断りなく動かしたと聞いたが?」

 

「むぅ!?」

 

 

だがザ・ボスの追及がオセロットの内心での決意を込めた思考を打ち切った。ザ・ボスは部下たるザ・ピースをヴォルギンが勝手に動かしたことを問い詰めるような視線をぶつけている。

 

そして当のヴォルギン大佐はザ・ボスの追及に閉口してしまい、まるで悪戯がバレて母親からの追及に反論出来ず黙りこんでしまった子供のようなヴォルギンの醜態に、先ほどの確執もあって僅かながらも鬱憤晴らしが出来ていた。

元々ヴォルギン大佐自体に好感を持てないでいた。要するに馬が合わないのである。

 

そんなヴォルギン大佐だが、ザ・ボスの前ではまさに子供同然。断りなくコブラ部隊兵士を動かし、死なせるという状況を引き起こしたという事実もあり、何も言い返せない。

しかしザ・ボスの追及は、ザ・ボス自身がヴォルギン大佐の弁明を聞く前に切り上げた。彼女は大佐に対して「もういい」と一言だけ返す。

 

そのやり取りを見ていてふと思う。追及を切り上げたザ・ボス───それは果たして大佐のまともな言い訳を期待していないからか、追及したからとて部下が還ってくる訳ではないからか…もしかしたら、"あの女"が来たからか…?

 

そんな思考にふけるが、気がつけばザ・ボスは馬へと跨がりながらヴォルギンへと基地の警備強化を促していた。

ザ・ボスはアメリカのエージェント、スネークが必ずグロズィニグラードへたどり着くと確信しているようだった。

それは自分も同感である。いや、むしろ絶対にたどり着いてもらわなければならない。

 

そこでヴォルギン大佐はザ・ボスへと自らの疑問をぶつけていた。何故アメリカのエージェントは送り込まれたのか?ソコロフだけが目的とは思えない、と。

 

「アメリカの目的は2つ…私の抹殺と大佐が持つ…"賢者の遺産"」

 

それを聞いたヴォルギン大佐の顔は、面白いくらいに憤り、焦り、恐怖が入り交じった表情を醸し出していた。やはりヴォルギン大佐にとって"賢者の遺産"は、自らの命と同じくらい大事らしい。そんなヴォルギン大佐が守ろうとする"賢者の遺産"。

一体どこに隠されているのか…愉しくなってきたものだ。

 

馬を走らせて去っていくザ・ボスの後ろ姿を眺めながら、オセロットは口元を吊り上げていた。

さて、まだ片付いていない問題がある。そう"あの女"…それはソコロフの愛人タチアナである。眼鏡を掛けた事務的な軍服を身に纏う彼女は、つい先ほどこの監獄区域へとふらりと現れた。ヴォルギン大佐とザ・ボスのやり取りが終わったのを見計らってか、いつもの控えめな態度を取りながら近付いてきたタチアナに、オセロットは元来大部分の女性に抱いていた感情も相まって強く叱る。

 

 

「どこに行っていた!」

 

 

このタチアナという女性は、元はソコロフの愛人であるが、今はヴォルギン大佐の秘書兼愛人となっている。変態的な性的嗜好を持つヴォルギンが彼女を見るなり、自分が頂くと宣言したからだ。故に本来なら彼女は"行為"の時以外はヴォルギンの秘書として彼に付き添う筈だ。

 

しかしタチアナは時折居なくなることがある。基本的に自室に篭り1人でゆっくりしているとは聞いているが、自分はもちろんヴォルギンも他の兵士たちも見たことはない。それはすれ違いだったり女性のプライバシーだったりと言われるが、その本当の理由は…

 

 

「え〜と、お邪魔でしたか?」

 

 

そう、この少女だ。ヴィクトリア・ティクレティウス…ザ・ボスが連れてきたCIAの非合法部隊(ゴースト・カンパニー)の構成員。そしてザ・ボスと今は故人となったザ・ピースの推薦で、この少女はタチアナの護衛として動いている。

 

もっとも喋り方や顔立ち以前に、ティクレティウスという名前は偽名だろうと推測している。グラーニニ・ゴルキーで戦死したコブラ部隊兵士であり、非合法部隊の隊長でもあったザ・ピースことターシャ・ティクレティウス…あの幼女の皮を被った化け物と同性など、わざとらしく偽名だと宣言しているようにしか思えない。

もっとも、コブラ部隊兵士と特殊部隊の母からの信頼を受け、雌犬共のように香水やら化粧やらをしていないという点から、偽名や偽りの素性を含めても少女をそこまで嫌ってはいなかったりするのだが…。

 

さて、タチアナが自室に篭ること。それ自体は知られていても、どう過ごしているかまでは誰も知らない理由───それはヴィクトリアがいるからであった。

ヴィクトリアは毎回タチアナが自室で休む際には、部屋の扉前に立ち常に誰も立ち入らせない。

 

例えヴォルギンが訪ねてきたとしても彼女は、タチアナの自室には決していれようとはしないのだ。ある意味警備や護衛に携わるものの鏡だ。

そしてその少女、ヴィクトリアが来た理由は一つ───タチアナを連れていくためだろう。だが自分の用事はまだ終わっていない。

 

地面に落ちていたザ・フィアーのものであったクロスボウガンを拾い上げると、ガンアクションの要領で弄びながらタチアナの周りを回る。

それは以前から抱いていた疑問だ。タチアナが自室に長時間籠る理由…そしてヴィクトリアが休憩中のタチアナの部屋へは決して誰も立ち入らせない理由…それは…

 

一瞬の隙をついたのはお互いだった。自分はタチアナが見せた隙を狙い彼女の首筋にクロスボウガンの先を突き付ける。

今引き金を引けば、至近距離から射出された薄い金属程度なら軽々と撃ち抜く威力を持つ鋼鉄の矢がタチアナの喉を貫き、その足元を血の海と変貌させるだろう。

 

だが代わりに自分はミンチになる。ヴィクトリア───彼女は自分がタチアナにクロスボウガンを突き付けるのとほぼ同じタイミングで腰のベルトから手榴弾を取りだし、間を置かずに安全ピンを抜いていた。

自分がタチアナを殺せば、ヴィクトリアは手榴弾のセーフティピンを押さえる手を離して、自分目掛けて手榴弾を投げ付けてくるつもりなのか。

 

脅しか本気か…たかが女1人、しかも護衛と護衛対象という間柄以外は無関係なタチアナの仇をとるためだけに、ヴィクトリアがそんな行為に訴えるとは思えないが…まあ良い。

 

いずれスネークに協力している存在は正体が明かされ、タチアナもまた何を隠しているかはしらないが尻尾を出すだろう。ヴォルギン大佐は冷戦を、そして諜報合戦を『殺るか殺られるか』と言い表したが…。

本当の諜報合戦とは『いかに相手を出し抜き、自身に都合良い局面を作り上げるか』だ。

 

自身の目的を悟られず、最終目的のために様々な手段を講じる。それに何も自ら手を汚したり、都合良い局面を作ろうと四苦八苦する必要はないのだ。

偽装の目的を可能性が高いものとして相手に信じさせ、実際に自身が望む手段を相手が取らざるを得ないようたどり着かせてやればいい。

例えば破壊が目的なら、敵には奪いとって使うつもりだと思わせるのだ。そうすれば敵は使わせまいと守ろうとし、無理であれば破壊という手段に訴える。

これで終わりだ。自分は手を汚したり破壊のために四苦八苦して行動する必要はない。相手がそう思い込み、自ら泥沼に嵌まりこんだだけなのだから。

 

───ならばもういいだろう。そう決めるとタチアナの首筋に突き付けたクロスボウガンをずらすと、タチアナに言う。

 

「良いブーツだ…きちんと掃除しておけよ」

 

タチアナのブーツのつま先についていた泥汚れを指摘してやる。内勤の人間が、しかもほとんどを施設内で過ごしている筈の秘書がブーツを、しかも山岳でも歩いたかのような汚れをつけている筈がない。

 

そしてやはり…自分がタチアナのブーツの泥汚れを指摘した瞬間───自分でもよく気付いたものだと自画自賛したいくらいにほんの僅かな一瞬だが、ヴィクトリアの顔が「なぜ証拠を残してるのか」とでも言いたげに忌々しげな歪みを浮かべていた。

 

どうやらヴィクトリアは兵士としての能力は高いようだが、腹の探りあいやポーカーフェイスは不得手らしい。

だがそのお陰でタチアナは尻尾を出した。あとはどのタイミングで尻尾を掴み、穴ぐらから引き摺りだすかだけだ…。

 

タチアナとヴィクトリアをそのままに監獄区域を後にする自分の胸中には、これから先、ほぼ確実に起こるであろう状況を思い、高揚感が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

待っていろ…スネーク!

 

 




【非合法部隊】
以前に出した架空のCIAお抱えの特殊工作部隊。歯車戦記世界では幾つかの非合法作戦に関わってる設定。ケネディ大統領暗殺を仕組んだのもこの部隊。

*賢者達がCIAに指示→CIAが非合法部隊に指示→非合法部隊、主に隊長は心中嫌々ながら作戦実行


【オセロット】
ネタバレ注意!MGS初見でネタバレ駄目な方は、見ずに早々に次のページにどうぞ。


あの時代からトリプルクロスとしてEVAを出し抜いてCIAに遺産が渡るよう仕組めるくらいだから、諜報合戦にしても自分の手を汚さず相手が勝手に自分が目指す目的を達成してくれるよう誘導するくらい訳ないだろう───そんな感じでオセロットを描写しました。やたらオセロットの心中描写や内心発言多くてすいません<(_ _*)>。


【ターニャ】
早く話をターニャ視点にしたいみょん…

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