歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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今回、人によっては不快になる描写がありますが、ご了承下さい。




脱字による「1ドル」表記を正しい表記に修正しました。


第19話

「そうか、墜とされたか」

 

<<申し訳ありません少佐…まさかヘリ相手に真っ向から挑んでくるとは思わず…>>

 

「謝罪は今後の結果で示したまえ」

 

<<はっ。大変失礼致しました>>

 

「それでスネークは?」

 

<<残骸から這い出した時には既に地下坑道に侵入した後でした。あれから4時間が経過しましたが、ヴァイス大尉の方でも未だ行方は掴めません>>

 

「ならばスネークはもうグロズィニグラードへ潜入しているとみていいな。貴官は直ぐにヘリを飛ばせるよう準備したまえ…今度は墜落は許されないぞ?」

<<はっ。次こそは必ず結果でお応え致します>>

 

部下からの無線を切ると、私は先ほどまで続けていた作業を再開する。

しかし…この用水路は随分と冷え込むな。外では雪もちらついているようだし、お陰でストレスは溜まる一方だ。

 

っと失礼。皆さんこんばんは、ターニャ・デグレチャフであります。現在小官はグロズィニグラード地下のくそったれなまでに冷え込んでいる用水路で楽しい楽しい図画工作の真っ最中です。

 

 

さて、まともに答えるなら、今こうして用水路の至るところにある格子を手作業で破壊しながら、万が一に備えた逃走経路を用意しているところなのだ。

時折用水路に住み着いている野良犬が餌を欲して私に近寄ってくるだが、追い払っても追い払ってもキリがない。

 

今も汚い床に伏せながら鉄格子を腕力のみでひしゃげさせてから引き抜くという地道な作業の最中だが、1匹の大柄な犬がさっきから私の足元をうろちょろしたり、ブーツを甘噛みしたりして餌をねだってくる。

 

仕方ないので一旦作業を止めると、腰のポーチから肉の缶詰めを取り出す。蓋の一ヶ所に指を突っ込んで、そこから指を引っ掛けて抉じ開けると、後ろに放ってやった。

すると犬は放り投げた缶詰めに駆け寄り、中身を食べ始めた。

 

ようやく邪魔されずに作業に戻れそうだ。ちなみにこいつは最初に私に近付いてきたとき、なんと餌をねだろうとして仰向けで作業していた私の股に顔を突っ込んできたのだ。

女性の股に顔を突っ込むなど例え犬でも許される訳がない。なので死なない程度に蹴りあげてやったのだ。そのためか、餌をねだる際には私に甘噛みしたりすりよったりで済ませるようになったのだ。

 

 

 

 

 

……って、私は男だろうがぁぁー!!

何故股に顔を突っ込んできたのを、犬相手とはいえ許される訳がないだとか女性的な思考が出てくるのだ!クソ忌々しい!

 

 

 

 

 

頭を抱えてしばしジタバタするも、今優先されるべき作業を思いだし、何とか冷静さを取り戻そうと深呼吸をする。何度目か呼吸でようやく頭が冷えた。

作業に戻ると、最後の格子一本を地面からメコッと引き抜き、放り捨てる。

さて、これで北の通用口までの脱出経路を確保し終わった。もしスネークがヴォルギンに捕らえられたとしても、ここを通って脱出できる筈だ。

 

 

<<少佐殿、失礼致します!ヴァイス大尉であります!緊急事態が発生しました!>>

 

「聞こえているヴァイス大尉。落ち着きたまえ、何事か?」

 

<<はっ、先ほどグロズィニグラード西棟にて、スネークが捕まったと>>

 

「む…ザ・ボスにでも見つかったか?」

 

 

まさか万が一のための脱出経路が早々に役立つ時がくるとは…。まあ捕まってしまったものは最早仕方あるまい。

まずはあの監守に連絡を入れて、スネークの脱出準備を始めなければ…

 

 

<<少佐殿…もうひとつ悪い知らせがあります…セレブリャコーフ中尉が捕らえられました>>

 

「何、何故だ?」

 

 

何故ヴィーシャが捕らえられたのだ?ヴォルギンに我々の目的が知られた訳でもないというのに…。

 

 

<<タチアナです。彼女が地下を彷徨いていたのをセレブリャコーフ中尉が見付けて何とか逃がしたそうですが、代わりに中尉が…>>

 

「…分かった。とにかく貴官はセレブリャコーフ中尉が殺されないよう尽力してくれ。万が一の場合は彼女を救出して脱出したまえ」

 

<<はっ!>>

 

 

部下からの無線を切ると、とりあえず近場の壁を思い切り抉り取った。そのまま抉り取った破片を地面へと叩き付け、踏みつける。

私は部下のためならば命を掛けるような英雄然とした人間ではない。だが…付き合い長く優秀な部下をそんな下らない事で失うのを許容出来る訳ではない…。

 

部下が捕らえられるという事態を想定外として全く考慮していない訳ではなかった。しかしまさかあの女絡みだとは…。

ヴィーシャはタチアナがスネークの情報提供者であり、任務完了後のスネークの脱出も手助けするという立場ゆえに、彼女を逃がすことを選んだのだろう。

 

間違った判断ではない。事実我々は我々の任務があるために、スネークに全面的に関わる暇は無い。

だが…全く余計な事をしてくれるな、タチアナ…こいつは貸しにしておく。

後々返してもらわねばな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード監獄区域─尋問室─】

 

 

 

首尾よくグロズィニグラードへと潜入し、東棟を巡視していたGRUの佐官ライコフ少佐を拘束し、彼に変装。変装で警備を難なくすり抜け、ソコロフが監禁されていた西棟へと辿り着けた。

 

彼は無事だった。後は彼を連れて施設を脱出してセーフポイントに彼を隠れさせた後に、ヴォルギン大佐及びザ・ボスを抹殺してソコロフと共に帰還する───その予定はヴォルギン大佐との突然の遭遇…そしてザ・ボスの奇襲によって失敗した。

 

捕らえられたスネークは監獄の尋問室へと連行され、うっすらとした意識の中、ソコロフがヴォルギンに尋問され、殺されるのを聞いた。

そして今、はっきりと意識が目覚めた。スネークは装備を奪われ、天井から伸びるロープによって両手を吊り上げられた体勢で、尋問を待つ身であった…。

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

身体に冷水が浴びせられ、全身に針で突き刺されたようなピリピリとした痛みが走る。

しかしそれはマシなほうだ。直後、ヴォルギンは自分を何度も殴りつけ、雷撃を放ってきた。

 

鈍い痛みと体内をジリジリと焼かれる痛みを交互に与えられ、自分でも発狂していないのが不思議なくらいだ。

そして一通り殴りつけられた後…頭に被せられていた布が剥ぎ取られる。

 

目の前にいたのはヴォルギン大佐、オセロット、ザ・ボス、EVAの4人───いや、もう1人いた。

顔を左に向けた先、そこには一糸纏わぬ姿の少女が、スネークと同じように両手を天井から伸びるロープで拘束され、猿轡を噛まされ晒し者にされていた。

 

EVAの護衛だと言っていた少女…彼女だった。

 

だがこうして改めて見ると容姿は少女と大人の女性の中間とも言える。

だが違和感がある。それは外見全てなのだ。

 

軍人にしては異様なまでに綺麗過ぎるのである。先が若干内側にはねている黄金のような金髪に、淡く青い海を連想させるような碧眼、小さくはないが大人の女性より慎ましやかな胸に、真っ白な肌。

 

本来なら軍人生活の中でそんな容姿を保つのは不可能である。ましてや後方勤務ではなく前線を走り回る人間ならば尚更だ。

裸の女性を見て自分が抱いたのは驚嘆や肉欲ではなく、まるで呪われた人形を見たかのような不気味さだった。

 

だがそれは今、直近の問題ではない。現時点での直近の問題は何故EVAの護衛である彼女が、今自分と同じようにこの尋問室で捕らわれているのかだ。

しかしその疑問は、ヴォルギンの口から聞かされた事で明かされた。

 

 

「この女…地下を彷徨いていた。何故、タチアナの護衛の女が地下を彷徨いていたのだろうな?」

 

 

口元を笑みの形に歪めながらヴォルギンは少女へと近付き、その顔を掴むと自分へと向けさせた。

少女は憎々しげな眼でヴォルギンを睨み付け、もがこうとした。だがロープが若干揺れただけ…それだけで、何も行動に移せないことに驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「動けまい?筋弛緩剤を投与した。お前の能力は知っているからな…クククッ、さて…楽しませてもらうぞ?」

 

 

ヴォルギンは自身の目の前で無力と化した少女を前にさらに笑みを強くした。

そして少女の顔を掴む手を離すと、おもむろに少女の胸をわし掴みにする。

そして少女が抵抗出来ないのをいいことに、胸を揉み出した。

 

その後ろではザ・ボスとオセロットが嫌悪と軽蔑に満ちた視線をヴォルギンへと向けているが、ヴォルギンは全く気付いていない。

それどころか今度は少女の腹部へと拳を叩き付けたのだ。

 

腹部に叩き付けられた拳の先、鋭くめり込んだ一撃に少女は口から呻きを漏らし、何度も咳き込む。

当のヴォルギンはといえば、少女が苦痛に呻く姿を見て、自らの局部を盛り上がらせている。

 

 

「何故地下を彷徨いていた?何を探していた?うん?答える気が無いのか、答えられないのか…まぁ構わんがな…貴様が痛みを味わうだけ──だ!」

 

 

再び少女の腹部を殴打する。苦痛に耐える少女の脇腹を蹴りあげ、平手で顔を何度も叩き、雷撃を浴びせる。

更には合間合間に少女の胸や局部を弄び、その度に自身の局部を膨れ上がらせた。

 

 

「言え!何を探していたかは分かっている!私の遺産を探していたのだろう?」

 

 

時折地下を彷徨いていた目的や探し物の名を出したりしてはいるが、それは決して尋問等ではない。

自らの性癖と欲望を抵抗出来ない相手に一方的にぶつける、下衆な行為であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

 

ひとしきり少女を嬲り、痛めつけることに満足したのか、ヴォルギンは少女から離れ、今度はスネークへと近寄る。

 

 

「どうやら彼女は喋らないようだ。ならば、今度はお前に聞くとしようか?答えろスネーク、お前に協力していたスパイはこの女か?他に誰が貴様に協力している?何を目的にこのグロズィニグラードへ来た?」

 

だがスネークは答えない。先ほどの拷問でもそうだったが、例え全てを知っていたとしても答える気は無かった。

これは知らないというだけでなく、喋らない事こそが命の保証になるからだ。

 

もし知りうる情報を話せば、その瞬間から捕虜となった兵士に価値は無くなる。軍人ならば価値を無くした捕虜は牢獄か収容所送りで、労働力扱いによる飼い殺しか、捕虜の引き渡しに備える。

 

しかし軍人の中にも例外は多い。太平洋戦争もベトナム戦争も捕虜虐殺や拷問、鬱憤張らしの虐待など両の指を反復させても足りないほどにある。

そしてヴォルギン大佐という軍人はその例外組だ。

間違いなくスネークを拷問のために殺すだろう。だから決して話しはしない。

 

 

「無駄だ、そいつは決して喋りはしない。そう訓練されている…私が訓練したんだ。あの少女も同じだ…決して喋るまい」

 

 

そこに、まるでスネークの心中を覗いたかのように、ザ・ボスによる注言がヴォルギンに"尋問は無意味"だと突き付けてきた。

すなわち『私が対尋問訓練でスネークを鍛えた。奴は決して知りうる情報があっとしても漏らさない。少女も同じような訓練を上官から受けている筈…ならば答えは明らかだ』と、性癖や欲望を交えたヴォルギンの尋問や拷問は無意味だと冷や水を浴びせたのだ。

 

そしてヴォルギンはというと、ザ・ボスによる皮肉を交えた注言もあってか、無言を貫いた少女や話そうとしないスネークに業を煮やし、幾度も殴りつける。

──自分の尋問や拷問が雌餓鬼や若造程度に耐えられてたまるか!──

──必ずスネークに目的を喋らせてやる!あの雌餓鬼は、喋る気がないなら兵士らの慰みものにしてやる!──

 

 

「言え!貴様の目的は私の遺産なのだろう!あの二度の大戦を通して集められた秘密資金だ!その記録が欲しいのだろう!」

 

 

 

 

 

 

 

「世界中に分散して隠された、1千億ドル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今は亡きグラーニンや、目の前のヴォルギンが何度も口にした『賢者の遺産』───そして彼の口から漏れたそれは、目も眩むような金額だった。米・露・中の真の権力者達が世界支配のために二度の大戦を経て、持てる資産から供出した莫大な資金。

 

あの大戦を数回は繰り返せる程の資金。これほど血塗られた金もあるまい。スネークはまだ知らないが、アメリカもロシアも中国も───遺産を知る人間達は、数千万の人間を地獄に落としてなお、新たな生け贄を差しだしてでも───とあらゆる手段を用いて遺産の在処を探りだし、自分の手に納めようとしているのだ。

 

 

「そうとも!賢者の遺産は私が守っている!このグロズィニグラードの地下金庫でな!!」

 

 

苛立ちまぎれに放たれたヴォルギンの言葉は、その場にいた者たちの目を彼に向けさせた。

すなわち事実だったのだ。莫大な"遺産"も"賢者たち"も…。ヴォルギンに目を向けた者たちの全ての考えは読めない。しかし遺産の在処というのは間違いはないだろう。

 

 

「貴様如きに手は出せん!!」

 

 

ヴォルギンが電撃を纏わせた渾身の一撃がスネークを穿った。

だがその拍子に落ちた、ある物がヴォルギンの目に止まった。

 

 

「発信器だと?誰だ、こんな小賢しい真似を?」

 

 

スネークには小型発信器が取り付けられていたのだ。それがヴォルギンによる拷問でスネークの身体から外れたのだ。

そしてヴォルギンは周りを疑う。誰が発信器をスネークに埋め込んだのか?

 

オセロットは両手を掲げて、自分ではないと示す。タチアナは先ほどからヴォルギンの手酷い尋問を見て怯えており、答えられる様子ではない。

しかしザ・ボスは違った。堂々と自分だと言ったのだ。

 

 

「私だ。我がコブラ部隊が、奴の動きを知るために取り付けた」

 

 

スネークはそこで気付いた。「あの時か」と。

まだグロズィニグラードではなく、グラーニン設計局よりも前───『スネーク・イーター作戦』を開始した地点───ドローンから射出され、着地した場所だ。あの後すぐ、自分はザ・ボスに発見された。そこで叩きのめされ、立ち去る彼女に、馬の蹄で右手を踏みつけられたのだ。

 

その馬の蹄に発信器は取り付けられていたのだ。確かに今思えば、蹄に踏みつけられた時に違う痛みがあった。

まるで何かが手の甲に突き刺さり、異物が入り込んだような痛みだった。恐らくは何か埋め込み式の装置だったに違いない。

 

そう納得したスネークだが、彼の向かい側ではヴォルギンがザ・ボスに詰め寄り、問い詰めていた。だがザ・ボスから「私を疑うのか?」と逆に詰め寄られると、ヴォルギンはたじろぎながらも、ザ・ボスにスネークとグルではないという確証が欲しいと望んだ。

 

 

「何をしてほしい?」

 

 

そう聞き返したザ・ボスに対してヴォルギンが望んだのは、"スネークの目を抉れ"だった。

兵士にとって大事な目という器官を奪い、弟子である男の兵士生命を終わらせるという、一般人が見れば誰もが「悪辣な」と吐き捨てるものだ。

 

だがスネークと共謀してはいないという確証を示さなければならない。ゆえにザ・ボスはナイフを取り出すと、ゆっくりとスネークの目に向けてナイフを近付けていく。

そしてナイフの切っ先がスネークの目とあと1cm程となった時だった。

 

 

「止めて!酷すぎるわ!」

 

 

怯えていたタチアナが、スネークとザ・ボスの間に割って入った。

本人がこれ以上人がいたぶられるのを黙認出来なかったからなのか、何か裏があるからなのかは分からない。

 

だが間に割って入ったタチアナに、オセロットはタチアナがスパイだからだと言った。タチアナは「何のこと」と訊ねるが、オセロットはタチアナを完全に疑う。そしておもむろにタチアナの胸に手を伸ばした。

 

ヴォルギンはターニャ(タチアナ)が欲しくなったのかとオセロットに聞くと、オセロットは欲しくなったのではなく、試したくなったと言った。

オセロットの言う『試し』は、あのソコロフに対しても行われたものだった。3丁のSAAをジャグリングさせながら、タイミングをバラバラに引き金(トリガー)を続けて6回引く。

すなわち、手の込んだ曲芸的なロシアンルーレットだ。

 

ヴォルギンはそれに認可を出した。つまりヴォルギンにとってタチアナという女は、何処にでもいる女と変わらないというのだ。

例えタチアナが死んでも代わりはいるのだと。

 

許可を受けたオセロットはSAAをジャグリングさせ始める。そしてタイミングをバラバラに引き金をタチアナ目掛けて引く。

何度目かのトリガー音が鳴るが、未だに弾は出ていない。しかしそれも時間の問題だった。

 

そこでスネークと、薬物を投与されていた少女が行動を起こしたのは同時だった。少女のほうは、筋弛緩剤が抜け出していたのだろう。

スネークは次の引き金を引こうとしていたオセロットに思い切り身体を揺らして体当たりした。

 

突如として身体のバランスを崩したオセロットは、何とか体勢を立て直そうと踏ん張り、勢い余って指を掛けていたSAAの引き金を引いてしまう。そして炸裂音が鳴り響き、血飛沫が飛び散った。

同時にスネークの激痛に悶える叫びが響き渡った。

タチアナはその状況に悲鳴をあげ、部屋の隅へと逃げ出す。

 

オセロットは何とか体勢を立て直し転倒を避けたが、彼に安息の暇は無い。それは、薬物が効力を失い出していたために動けた少女だ。スネークとほぼ同時に身体を揺らしてオセロット目掛けていた少女の、左足のバネのように伸びる鋭い爪先蹴りがオセロットの股関を、次いでしなやかなまでに真上に向けて繰り出された右足の踵裏が顎を捉えたのだ。

男の急所と顎を狙われ、フラりとよろけたオセロットだが、今度はザ・ボスに銃をもぎ取られた直後に張り手を入れられた。

 

オセロットによる『試し』は、スネークが右目を失うという事態になった。ザ・ボスはヴォルギンに「これで満足か」と詰め寄る。そしてヴォルギンはというと興が醒めたとばかりにタチアナに自分の部屋に来るように言い、出ていった。

 

ザ・ボスはそれを見届けるとスネークへと歩みより、彼のベルトへとSAAを差し込んだ。

「…逃げて」

たった一言だがザ・ボスから呟かれた彼を心配する言葉は、スネークに活力を与える。そしてベルトに差し込まれたSAA───脱出の武器に使えという事なのだろう。

 

ザ・ボスが出ていくと、残ったのはオセロットとタチアナだけだった。オセロットはスネークの足元に落ちていたあの発信器を拾い上げると、スネークの周りをゆっくりと歩き回る。

そしてスネークの背中辺りで止まると、突如としてその発信器を背中の裂傷へと埋め込んできた。

 

それが何を意味するかはスネークには分からない。その後もオセロットはただ「大佐の拷問に耐えたな…いいぞ、究極の表現法だ」と、自分が望む境地を見れたと言いたげな言葉以外は、これといってスネークに何も言わなかった。

 

そしてオセロットが出ていくと、最後に残ったのはタチアナだった。彼女はもう誰も居なくなったのを見計らってから、スネークへと近付いてきた。スネークはタチアナの、自分が知る彼女の名を呼ぶ。

 

 

「EVA…」

「静かに…いいスネーク?よく聞いて…」

 

 

タチアナ───EVAという自らの協力者である女性が聞かせてきたのは、このグロズィニグラードからの脱出方法であった。

脱出後の合流地点や奪われた装備の回収など、様々な情報を聞かされ、最後に別れのキスを頬にされた。

 

するとそれまで沈黙を保っていた兵士2人が、スネークと少女に近付いてきた。そしてそれぞれに腕を拘束されていた縄を切られると、不思議と彼らはスネークの腰に差されたSAAを奪うことも、少女と別々にされることもなく同じ牢獄へと移されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事か?」

 

「スネークさんこそ、目、大丈夫なんですか?」

 

 

スネークと少女、2人は同じ牢獄で束の間の休息をしていた。スネークは角膜損傷に眼球破裂───つまりは右目を失明した。

対して少女はそういった怪我こそないものの、あちこちが傷だらけだ。

なお少女は衣服が無いため牢獄のベッドに寝転がりながらシーツで身体を覆い、スネークはベッドに腰掛けている状態である。

 

 

「それで怪我は?」

 

「ほっとけばそろそろ治りますから」

 

「?」

 

「ほら、腕はもうこの通りですよ」

 

 

少女の言葉に疑問を抱いたスネークに、少女はこういうことだと示すように自らの左腕を上げて見せた。そしてその腕を見たスネークは絶句した。

先ほどまで痣や裂傷だらけだった腕が血の跡を除いて綺麗に無くなっていたのだ。それどころか今まさに最後の切り傷が、まるで映像を逆再生するかのように塞がっていき、最後には元の綺麗な肌に戻っていた。

 

 

「ね?」

 

「君は一体?」

 

 

スネークの問いに少女は答えない。スネークも踏み込みすぎたかと、それ以上追及はしなかった。

しかし、もう1つは言っておかなければならなかった。

 

 

「奴(ヴォルギン)に辱しめを受けた時、よく耐えてくれた。お陰で奴は今頃疑心暗鬼の筈だ」

 

「あ〜、確かに不快ではありましたがね。慣れてましたから…」

 

「慣れて?」

 

「ええ。私の上官が色々と訓練をしてくれたんですよ。雪山の小屋で全裸で拘束されたり、野戦砲の実弾が降り注ぐ中塹壕に籠らされたり、様々な環境下での対尋問訓練とかを。私は女性でもあったので、凌辱を用いた尋問もあると叩き込まれましたね」

 

「随分過激な上官だな…しかし、君は嫌じゃなかったのか?特に、その…女性に使われる尋問訓練は?」

 

「上官は非常に良い方ですよ。確かに訓練は過激ですが、本音では戦争を悲惨だと言ってますし、やらなくて済むならやらないほうがいいって。凌辱を用いた場合の尋問訓練は残念ながら座学だけでしたね……ボソッ(少佐相手でしたら実践訓練も吝かではないのですが…)」

 

「ん?最後に何か言ったか?」

 

「いえ、何も?」

 

「だが確かに何か…それに君はさっき尋問訓練が座学だけで残念と…」

 

「お休みなさーい!」

 

 

少女はスネークの質問を受け流して、シーツを被るとそれきり静かになってしまった。

スネークはベッドに腰掛けるのを止めて、少女とは真反対を向いて寝転んだ。

 

ベッドはシングルなので狭いが、互いに詰めて寝る形なのでスネークは何とか自分が休むスペースを確保出来ていた。

そしてゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

この1時間後、食事を持ってきた見張りとの会話をしていたスネークは、見張りの好意や身の上話といった偶然を経て渡されたある道具を用いて、牢獄から脱出することになるのだった。

 




【下衆なヴォルギン】
ゲーム本編にて「人をいたぶる、人を痛めつけることで快楽を得る最低の男」とEVAから酷評されるヴォルギンですが、つまりは間違いなく性行為と平行してサドな行為もしてるんですよね。
なので作中での描写はヴォルギンの実態よりもかなりマイルド描写にしました。で本音は、あんまりヤバいの描写したら幼女戦記ファン(主にデグさんの副官が好きな方々)から叩かれるだろうな〜という弱腰ゆえですよ、文句ありますか!(逆ギレ)


【対尋問訓練】
幼女戦記のコミック等でも尋問訓練描写がありましたが、デグさんは多分高確率で凌辱を用いた対尋問訓練を想定して自分の副官に教えてると思う。
作中では座学だけですが、実践はまずいと思うのでボツにしました。
ええこれも叩かれるのやだな〜って弱腰ゆえですよ(再び逆ギレ)!


【奪われずに残された無線機やSAA】
ゲーム本編ではゲームプレイに支障が生じるとか色々な都合でスネークが装備したままですが、本作品ではデグさんの優秀な交渉や裏工作による賜物です。
そのためスネークは身一つという絶望的な状況を回避出来ました。

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