歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

26 / 37
どうにか今月中にMGS3編を終わらせてオプスに入りたい…


第26話

「こいつを撃て!……っ!聞こえないのか?撃て!」

 

「ふぅ…大佐、それは出来ません」

 

「出来ないだと!?」

 

「貴方はザ・ボスと約束しました」

 

「黙れ!私が貴様の上官だぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

…まったくもって度しがたい…

 

ザ・ボスの手前、意気揚々と1対1の戦士としての…いや、男としての戦いを誓っておきながら、分が悪いと見るや否や相手を撃ち殺せとは…。

 

しかも部下に誓いを破ることへの指摘を受けた途端、上官だ部下だと持ち出して力付くでしか意に従わせられない無能な軍人───この男をGRUの佐官に昇進させた間抜けな上司の顔が拝みたいものだ…。

 

心中で嘆息しつつ、目先に迫る脅威を追い払うべくホルスターから抜き放ったSAAでヒップシューティングの体勢から次々とファニングによる射撃を行い、6発の銃弾全てを放射状に広がるように放つ。

 

自分に向かって放たれた青白く跳ねる電撃は、放射状に放たれた銃弾を避雷針代わりに散り散りに霧散した。

 

苦し紛れに電撃を放ったヴォルギン大佐…いや、ヴォルギンは自らの攻撃がいとも簡単に防がれたことに驚愕すると同時に、ダメージが深刻な身体で無理に電撃を放った事で、耐えきれずに床に膝をついた。

 

 

「…貴様ぁ…この私に楯突く気か…?」

 

 

何とも見苦しく、浅ましい。戦士としての矜持などどこにも見えない。こんな男が一時とはいえ自分を顎で使う上官だったなど、笑いすら込み上げてくる。

 

手にするSAAを弄びつつ、無様に膝をついてなお相手を完全に下に見た発言をするヴォルギンを高所から見下ろしながら、少しばかりの愉悦に浸りたいところではあった…。

 

だがまず最も、この誇りを持とうとしない哀れな男に言ってやらねば気が済まないことがあった。

 

 

「男らしく戦いなさい!」

 

「戦いなさい…?」

 

 

ああ、ようやくくすっきりした。以前から一度言ってやりたかったのだ。いや、軍人を名乗るまともな人間ならば誰でも言いたくなるだろう。

『1対1の戦いを自ら誓いながら、あの有り様。お前にはプライドが無いのか?』と…。

 

さて、見下す部下からこんな風にたしなめられて、ヴォルギンはどうするか?利かん坊の如く駄々をこねるか、心を引き締めて今一度戦いに挑むか?

 

 

<<総員に次ぐ!格納庫内にて爆薬が発見された!繰り返す、格納庫内にて爆薬が発見された!爆薬解体要員以外の全基地職員は、直ちに待避せよ!>>

 

 

ちっ…!この肝心な時に…。

 

 

「クソッ!オセロット!爆弾の捜索に行け!」

 

 

まぁ仕方あるまい。どのみち私には他の役目が残っているのだ。丁度ヴォルギンからも指示が出された事だ。仮初めとはいえ、部下として最期の命令くらいには従ってやるとしよう。

 

もっとも命令は"捜索に行け"であって、"発見しろ"ではないがな…。せいぜいゆっくり捜索するとしようか…。

 

私は自分を見ていたスネークに少しばかりのエールを送ると、捜索名目で目的を果たすべく格納庫を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード・兵器厰区画・西側】

 

 

 

「ぎゃっ!」

 

「クソッ!またやられたぞ!何であの大男は倒れないんだ!?」

 

「知るか!とにかく頭だ!頭を狙え!胴体への射撃は無意…ブェッ!!」

 

 

グロズィニグラードの西側、奇妙なデザインの戦車が何台も駐車されているその区域では、1人の大男が人間が持てるとは到底思えないスリングで肩から吊るした重機関銃を軽々と振り回し、近づく敵を片端から挽き肉に作り替えていた。

 

 

「まったく腹ばかり狙ってきたと思えば、今度は頭か?俺は少佐殿やヴィーシャとは違うから、頭は勘弁願いたい…な!!」

 

 

大男は自分の頭を狙って射撃を行う敵に顔をしかめつつ、空いている丸太のように太い片腕で自らの頭を防御しつつ、もう片腕で重機関銃を振り回しながらありったけの弾をばらまく。

 

重機関銃が唸る度にブロック塀や貨物を盾にする兵士達は次々と身体中を穿たれて命を落とすのに対して、大男は腹部や背中にいくら弾が命中しても分厚い防弾チョッキを着ているのか動きは鈍らない。

 

だが肘部分まで腕捲りをして素肌が見えている腕を見ると、胴体にも恐らくは防弾チョッキを着ていないのだろうと思われた。何せ大男が頭を防御するためにかざす腕に命中した弾は、僅かばかりめり込んだだけに終わったからだ。そして大男が動く度にめり込んだ弾は振動でポロポロと地面に零れ落ちる。

 

「む…弾切れか」

 

大男は弾が出なくなった重機関銃にチラリと目をやると、スリングで吊るしたまま片腕でリロードを始めた。その腕には何重もの銃創が見えるが、その何れもが擦り傷程度の流血しか起こしていない。

その様相はまさに人間装甲車という言葉がしっくりくるものであった。

 

 

「さて、時間が無いのでな…そろそろ降伏するか全滅するか選んで貰おうか」

 

 

リロードを終えた大男はそう口にすると、再び重機関銃を持ち直して未だ生き残っていた敵に対してその銃口を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード・兵器厰区画・東棟、本棟区域】

 

 

 

「コンタクト!10時、軽機!」

 

「ラジャー」

 

 

パパン!パパン!

 

 

「クリア!」

 

「ムーヴ!」

 

 

兵器厰の東棟及び本棟では、野戦服に髑髏と羽根のマークが刺繍されたワッペンを付けた2人の兵士が、手にするAKMで次々と巡回の敵を排除していく。

 

2人は先ほどの大男のような非常識な戦いかたではないが、連携や互いのサポートは熟達のそれを漂わせている。

 

巡回や警備の兵士は2人を様々な場所から狙おうとするも、少しでも身体や銃口を動かして彼らを狙った瞬間にまるで初めから位置が知られていたかのように即座に反撃を食らい、なかなか阻止することが出来ずにいた。

 

 

「残念ながら貴様らの位置はお見通しなんでな」

 

「"鷹"様様ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード・兵器厰上空】

 

 

 

「ヴァイス大尉、11時方向軽歩兵5名。装備はいずれもAK47。約5秒後に接敵予定」

 

<<了解>>

 

「警戒、ノイマン大尉、8時方向RPG所持の歩兵2名。東棟屋上左端、水槽タンクの側」

 

<<オーケー>>

 

 

 

 

グロズィニグラードの上空では、1機のハインド重戦闘ヘリが滞空しつつ、女性パイロットが下で戦う歩兵に対して周囲の動きを随時的確に報告していた。

 

 

「蛇の時は油断したが、今度は初めから全力で行かせてもらうぞ。コミュニスト共」

 

 

女性パイロットはスネークの時とは違い、真っ赤に染まる瞳をギョロリと動かしながら周りの敵の動向を更に報告し続ける。

 

だが忙しなく動いていた瞳がある1台のバイクを捉えると、そこに視線を固定した。バイクの向かう先、そしてバイクを操る人物をその視界に捉えた女性パイロットは、口元のインカムにそれを伝えた

 

 

「作戦行動中の各隊員へ…"運び屋"が到着した。繰り返す…"運び屋"が到着した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<爆薬解除失敗、総員待避せよ!繰り返す!爆薬は解除不能!総員待避せよ!>>

 

 

「早く出ろ!」

 

「爆発するぞ!」

 

「急げ!」

 

 

グロズィニグラードの兵器厰格納庫は液体燃料タンクに仕掛けられた爆薬の解除失敗と、施設からの即時待避を呼び掛けるアナウンスに加え、逃げ出そうと必死に走る兵士達の叫びが渦巻いていた。

 

そして時を同じくして、スネークとヴォルギンの対決にも一応の幕が下ろされていた。勝者はスネーク───元ヘビー級ボクシングの選手であったヴォルギンは自慢の体格と腕力を武器に挑んだものの、力ではなく柔と技術を基本としたCQCを扱うスネークには一歩及ばなかったのだ。

 

 

 

 

CQCの基本───それは受け流しである。これは相手が本気で殺しに来る時にこそ本領を発揮する技術であり、相手は自ら罠に飛び込む形になるのだ。

勢いよくつきだされた拳も蹴りもナイフや銃剣も、そこには一直線又は真っ直ぐに進む力が乗せられている。もしその勢いよく出した腕や足を引っ張られればどうなるか?

 

答えはひとつ、相手は簡単にバランスを崩すのである。後はバランスを崩したところへ反撃を放つだけ───これだけで終わりだ。

 

あの吊り橋でのザ・ボスによる肘うちもそれに則った単純な攻撃だったのである。

 

また人間には人体の構造上、確実に痛みを受けたり反抗出来ない場所が存在する。例えば左手の平を内側に立てた状態から外に捻る事が出来るか?答えは無理である。だがもしその無理な状態の時に敵が手を添えて、左手の甲側の小指と薬指の付け根下を押せばどうなるか?

 

やられた側はあっという間にバランスを崩して倒れ込むだろう。これは一見簡単に封殺出来そうな技だと思われるが、ではその相手が武術や柔術の熟達者であったならどうか?

 

現実では反射神経が働いて封殺しようとする前に既に相手に倒されるのだ。何せ体感でも現実でも1秒と掛からないからだ。

 

他にも脛や太もも・二の腕内側等は例え鍛えていても急所となりうる。もし組み合った時に脛を蹴りあげられたり、太ももや二の腕内側を中指の第二間接辺りをグリグリとねじ込まれたら耐えられるか?まず無理である。

 

長々と語ったが、すなわちCQCとは人体構造上の間接や急所、脆い部分の弱点や盲点、鍛えようが無い部位を的確に狙い、相手を倒す技術なのである。

故にヴォルギンは敗北したのだ。ボクシング以上にCQCはより実戦的かつえげつない技術ゆえに。

 

さて、スネークは息も絶え絶えになりがらも力を振り絞り、梯子を使って昇降台から上へと逃れようとしている。

だが逆にヴォルギンは動くどころか膝をついて身体を支えているのがやっとであった。

 

 

「グゥッ…!…!?ゴハァッ!!!」

 

 

憎々しげにスネークを睨み付け、膝で倒れないように支えているのがやっとの身体を無理に動かそうとした途端、ヴォルギンは床一面に血を吐いた。

内臓へのダメージは彼の予想以上に深刻であった。

 

直ぐにでも治療を受けなければ命の保証は無い。しかしヴォルギンはゆっくりと目の前の物を見上げて、そんな危機的な状況にも関わらず口元に歪んだ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが爆薬解除失敗に絶望的になりながらも、最後の望みを掛けて必死に施設からの脱出を図ろうと走り続けていた。

 

もはや誰も格納庫に保管されている兵器はおろか、満身創痍になっている上官ですら見捨てて逃げ出している。

 

その阿鼻叫喚の中、スネークは何とか格納庫外への脱出を果たしていた。

そこで手を膝について荒い息をしながらどうグロズィニグラードから脱出するかの算段を立てようとしたスネークは、目の前の光景を見て驚いた。

 

目の前には破壊された敵のトラックや装甲車があちこちで炎と黒煙に包まれており、GRUの兵士達の死体があちらこちらに散らばっていたからだ。

 

誰の仕業か?

 

しかしそれを考える間もなく、今度はそれらの残骸を乗り越えて自分の側へとドリフトを掛けながら停車したバイクを操る人物に驚いた。

 

 

「乗って!」

 

「EVA!?無事だったのか?」

 

「時間が無いわ、早く!」

 

 

スネークの問いかけを後回しに、EVAはバイクに乗るようにと急かす。

 

当然だ。既にタンクに仕掛けた爆薬のタイマーは30秒を切っていた。急がねばロケット燃料による大爆発に巻き込まれてしまう。

 

 

「良いぞ、出せ!」

 

 

バイクのサイドカーへと乗り込んだスネークが合図すると、EVAは一気にバイクのスロットルを全開にして走り出す。

 

 

「不味いぞ、もっと飛ばせ!」

 

 

 

 

10…9…8…

 

 

 

 

「ヒイィィ!」

 

「逃げろ、爆発する!」

 

「どけ、早く行かせろ!」

 

 

 

 

 

 

 

7…6…5…4…

 

 

 

 

 

 

 

 

「クククッ…私には"コイツ"がある!まだ終わってはいないぞ、スネェーク…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3…2…1…

 

 

 

 

 

 

 

 

爆薬のタイマーが指定された時間を指した瞬間、起爆装置は微弱な電流を発し、信管を通してタンクに貼り付けられた爆薬に───スネークが潜入中、EVAの注意通りよくこね回したC3爆薬の内側に電流による起爆を促した。

 

TNT換算にして約1.34倍の威力を誇り、3.5kgあれば厚さ2cmの鉄すら難なく破壊する、将来的には各国の軍が採用を決める程の高性能爆薬C4───その前進たるのがこのC3爆薬。

 

液体ロケット燃料貯蔵タンクに仕掛けられた4つの爆薬は同時に炸裂、TNT以上の破壊力を撒き散らし、タンク内の大量のロケット燃料を巻き込んで大爆発を引き起こした。

 

瞬時に窓という窓、通風口という通風口、出入口やドアから紅蓮の炎が迸り、至近距離の車両や資材、人間を爆発の衝撃と風圧で吹き飛ばし、破壊的な光景を産み出した。

 

だが爆風で吹き飛されて身体を打ち付けた程度の者は幸運であった。

 

貯蔵されていた液体ロケット燃料で爆発により飛び散った飛沫───炎が立ち上る液体ロケット燃料を浴びた者は消えることない全身に回る炎に身体を焼かれ、苦痛にのたうち回り跳び跳ね回りながら絶叫を挙げていた。

 

 

<熱い!熱い!>

 

<助けて!火が!>

 

<誰か火を消してく゛れ゛ェェー!>

 

<死にたくないぃ!>

 

 

 

ある者は顔面を半分以上炭化させながらも残った力で助けを求め、ある者は消えない火を消そうと手が焼けるのも構わず燃える箇所はたき続け、ある者は全身に回る炎に喉まで焼かれ鈍い断末魔を挙げながら倒れ動かなくなった。

 

酷く残酷な光景───しかしこれが戦争であり、戦場であった。

 

彼らとて人間だ。恐怖もあれば感情もあり、生き意地汚く足掻き続け、他者を蹴落としてでも助かろうとする。

 

だが戦争は…そして戦場はそんな事を決して気にしない。例え兵士だろうと士官だろうと殺し殺され、蹴落とし蹴落とされるだけ───生き残ることが戦争、そして戦場での勝者の証となる。

 

冷戦…諜報と代理戦争が主であるこの戦争も何ら変わらない。残酷だろうともそれは彼らが選び、選択した結末であった。それが兵士という生き方の結末の1つなのだ。

 

故にスネークは彼らを見ているだけであった。無残に炎に巻かれる彼らを見ても、罪悪感や後悔を感じる暇は無かった。

 

むしろ彼の心中では、シャゴホッドの破壊という任務を果たした事への達成感があり、そしてまだ果たさなければならない任務への思いが渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「EVA、どうして君はここに?」

 

「ザ・ボスが逃がしてくれたの」

 

「ボスが?」

 

 

スネークはEVAから聞かされた言葉に再び驚いた。彼女を始末するといって連れていったザ・ボスは、彼女を殺さずに逃がしたというのだ。

 

 

「ええ、それで…貴方に伝える事があるの…ザ・ボスが…彼女が、グロズィニグラード先の湖で待っているわ」

 

「EVA…」

 

「本当は黙っていようと思ったの…でも、彼女の瞳を思い出したら…貴方に嘘はつけなかった…本当に澄んだ瞳をしていたわ。あんな綺麗な瞳は見たことが無かった…」

 

 

EVAから告げられたのは、ザ・ボスがグロズィニグラード先の湖───脱出用のWIGが駐機されている湖にて、スネークが来るのを待っているという事である。

 

だがEVAの言葉から、そして表情から彼女が言わんとしていることはスネークにも理解出来た。だからこそ、スネークは自身に言い聞かせるようにEVAに言葉を返す。

 

 

「まだ任務は終わっていない…俺は行かなければならない」

 

「分かっているわ…貴方と彼女には私では理解出来ない絆があるってことも…それでも…ザ・ボスとは…戦って欲しくないの…」

 

 

EVAはそっとスネークを抱き締めた。

 

 

「でも、貴方は行くのよね?それが任務だから……いいえ、やっぱり理解出来ない…なぜ愛する人を殺さなければならないの…」

 

「EVA…」

 

「…ごめんなさい…少し取り乱したわ。さぁ、行きま…」

 

 

EVAは半ば諦めるように会話を打ちきり目元を指で拭うと、スネークに脱出しようと呼び掛けた時だった。

 

上から飛び降りてきた存在に地面に力付くで押し倒されたのだ。しかしEVAは反撃をしなかった。

その存在が、彼女とスネークにとって見知った人間だったからである。

 

 

「君は…!」

 

「ヴィクトーリア!?」

 

「伏せろ!」

 

 

あの滝裏の洞窟辺りからいつの間にか姿を消していたヴィーシャが、突如として現れたのだ。

 

だがヴィーシャとは別に響いた舌足らずな幼い声───スネークは聞き覚えがあるその声が自分に向けられたものだと理解した瞬間に即座に地面に伏せた。

 

直後にスネークの頭上で銃弾が通過する独特の音が響き、先ほどスネークが出てきた格納庫の扉───そこからスネークとEVAを狙おうとしていたGRUのスペツナズ兵、つまりは山猫部隊兵士数人が的確に頭部や心臓を撃ち抜かれ、倒れ込んだ。

 

 

「戦場でいちゃつくとは余裕だな、"蛇"」

 

「お前は…」

 

「どうした?私が幽霊にでも見えるか?なんなら触れても構わんぞ?」

 

「生きていたのか…ザ・ピース…!」

 

「ご覧の通りだスネーク、さて話はここまでだ。まだ終わってはいないぞ」

 

「なに?それは一体……っ!!…あれは!?」

 

 

スネークはザ・ピースの"終わっていない"という言葉に、彼女に理由を問い掛けようとして、格納庫から響いた轟音にそちらに目線を向けた。

 

それを見たスネークは、彼女に問い掛けようとしていた口を閉じた。理由を彼女に問わずとも、そこに見えた物が全てを物語っていたからだ。

 

シャゴホッドである。あの巨大な核搭載戦車が、今まさに格納庫の外壁をぶち破って格納庫外へとその巨体を乗り出そうとしていたのである。

 

 

<<スネェーク!まぁだだぁ!まだ終わってはいなぁい!!>>

 

 

そしてシャゴホッドのスピーカーから流れたのは、格納庫で爆発に巻き込まれたと思われたヴォルギンの声であった。

 

シャゴホッドの操縦席…そこには満身創痍とも言えるヴォルギンが座していた。しかし各部から出血し、痣や傷まみれになりながらもその顔は好戦的な笑みを浮かべていた。

 

 

「くそっ、失敗だ!」

 

 

グロズィニグラード兵器厰西棟の一室に囚われていたソコロフから提示された、ロケットブースターに使われる液体燃料の貯蔵タンクを用いた爆発により格納庫ごとシャゴホッドを葬るという作戦は、通常兵器であれば成功する作戦であった。

 

そう…通常兵器であれば…だ。

 

一つ挙げるのであれば、惜しむらくは彼───シャゴホッドを設計したソコロフ博士が、"ロケット技師"であったことだろう。

 

彼はロケット技師であるが故に大気圏突破や突入を行う宇宙ロケットの耐熱装甲や技術に関しては高い知識を誇っていた。

だからこそ彼はその知識を基にシャゴホッドの破壊を脳内計算し、危険な液体燃料貯蔵タンクを用いるという作戦を導き出したのだった。

 

しかしシャゴホッドは通常兵器では無かったのだ………以前、スネークがヴァーチャス・ミッションにて初めてこの兵器を見た時にソコロフが漏らした言葉───そこにシャゴホッドを破壊し損ねた原因があったのである。

 

 

 

 

 

 

『隠密展開・即事発射が可能な、核搭載戦車』

 

 

 

 

 

 

 

そう…シャゴホッドは通常兵器ではない。核戦争を想定した設計の戦車なのである。そしてソコロフが設計したシャゴホッド、その試験・整備にはグロズィニグラードに集められた大勢の科学者や技師が強制的に参加させられていた。

 

そう、実はそれらの科学者や技師のうち核爆発に詳しい者達がヴォルギンの命により特別に開発した装甲、それがシャゴホッドに用いられていたのだ。

 

だがソコロフはいちロケット技師であったがために、核爆発に対応出来る具体的な装甲の厚さや強度といった所までは思考が及ばなかった。もっとも及んでいたとしても、門外漢の彼には具体的な計算は難しかったのだが…。

 

 

「さて、どうするかね蛇?残念ながらあの装甲では例えRPGをつるべ撃ちしても歯が立たないぞ」

 

「大丈夫よ…あいつを橋まで誘き出せばいいわ。後は…」

 

「鉄橋…君が爆薬を仕掛けた…そうか!あいつが渡るときに起爆すれば、橋ごと落とせる!決まりだ、ザ・ピース!」

 

「よろしい!ヴィーシャ、貴官は先に行きたまえ!私はしばしあのデカブツの水葬に出席してくるのでな!」

 

「はっ、ではお先に!」

 

 

ヴィーシャはザ・ピースの命令を受けると、それまでスネークが見たことが無いほどの満面の笑顔で返答して、離れていった。

 

そこでふと、スネークはヴィーシャが度々口に出していた上官の話を思い出した。彼女が上官の話をする時の様子とザ・ピースに対する様子───それらが色々と違和感なく合致したのである。

 

 

「ザ・ピース…聞きたい事があるんだが、彼女…ヴィーシャが言っていた上官とはもしかして…」

 

「スネーク、後にしたまえ。今はあのデカブツが先だ」

 

 

ザ・ピースはスネークの言葉を遮り、手にするM−16の銃口でシャゴホッドを指し示す。

 

 

「さぁ!乗って!」

 

 

EVAも時間が無いと、スネークに乗車を促す。

 

催促されたスネークは直ぐ様思考を切り替えバイクに駆け寄ると、サイドカーに飛び乗った。

 

そしてザ・ピースもサイドカーに飛び乗ったスネークと座席の隙間に入り込んだ。若干狭いが、勢いよく走るバイクのサイドカーに乗るのであれば、互いの身体が密着して互いに支えあう形になるのは、悪いものではない。

 

 

「掴まって!さぁ、行くわよ!!」

 

 

EVAの合図でバイクが唸りを上げ、エンジンが一気に噴かされた。

 

揺れるサイドカーの中、スネークは左右を、そしてザ・ピースが背後を守る形だ。

 

スネークはザ・ピースの、銃を振り回すだけの筋肉が付いてるとは思えないほど柔らかく暖かい体温が伝わる小さな背中に自らの背を預けながら叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザ・ピース!背後は任せたぞ!!!」

 

「ああ、任された!!!」

 




【んのっく大佐爆誕】



※この後書きでやるのは本当に考えなしにふざけまくった結果の産物です。もしこれを読んでから「俺は何て無駄な時間を…」と盛大に後悔する可能性がある方は、即座に画面を切り替えて他作者様の作品を閲覧されることを全身全霊で推奨致します。








「ようこそザ・ボス、デグレチャフ少佐。我が国、我が部隊へ!」


バーチャス・ミッション後、シャゴホッドを奪い取ったコブラ部隊及び非合法工作部隊"ゴースト・カンパニー"の面々は、大要塞グロズィニグラードにてヴォルギン大佐の歓待を受けていた。

本来ならば軍規等でこういった催しを行おうとはしないヴォルギンだが、シャゴホッドと自身が持つ"賢者の遺産"を用いたとてつもない野望を心に懐く彼は、ザ・ボスとザ・ピースことデグレチャフ少佐が自身の部隊へと加わったという事実に内心狂喜していた。

故にヴォルギンは凄まじく上機嫌になっており、この歓待パーティーを催していたのである。

グロズィニグラードに勤務する士官や兵士達も普段は味わえない一時の安らぎとばかりに、ウォッカやビール、ウィスキーをあおり、思い思いに騒いでいる。

そしてデグレチャフ揮下のゴースト・カンパニーの面々もコブラ部隊隊員らと交流を交わしていた。


「ヴィクトーリヤと申します。よろしくお願いいたしますね、フィアーさん。ところでですが、ウィスキーボンボンでも如何ですか?」

「クハハッ!貰おうか!」

「はい!お好きなのをどうぞ!」

「(カリッ!)………ッ!?ぐおぉぉ!ぞ…臓賦が内から焼けるぅ!こ、これはぁぁぁ!!?」

「引っ掛かりましたねフィアーさん!そのウィスキーボンボンはウィスキーの代わりにウォッカ───しかも唐辛子を漬け込んだ激辛のペルツォフカです!」





「お休み中のところ、失礼致します。はじめまして、ジ・エンド殿。私はヨハン・マテウス・ヴァイス大尉と申します。以後お見知りおきを」

「いや…問題無い…むしろ、今回は眠りが深くてな…そろそろこの世界での時間が迫っているのだろう…よく…儂を…起こしてくれた…(プスッ!カクンッ!)スゥー…スゥー…」

「おお…凄まじい威力の改造モシン・ナガンだな。人間が一発で眠りに落ちたぞグランツ」

「ノイマン大尉…今気にするべきはモシン・ナガンの威力ではなく、持ち主のジ・エンドさんの頭に麻酔針が刺さった事では…?」




…訂正、面々と隊員らは思い思いにトラブルの種を撒き散らしていた。

そんな中、ウォッカのグラスを手にかなり酔っているのだろうヴォルギンが、ターニャへと近づき声を掛けた。


「デグレチャフ少佐、楽しんでいるかね?」

「はっ!大佐殿!我々のためにこのような歓待を催して頂き、感謝の言葉もありません!」

「そう固くなるな、デグレチャフ少佐。今や我々と貴官らはザ・ボスの世界を一つにまとめるという目的───理想の下結ばれた同志だ」

「はっ!失礼致しました(ふん…カティンの黒幕め…味方への後ろ弾が得意なコミュニスト風情が理想だ同志だとはな…)」


ヴォルギンはターニャの内心には全く気付く様子もなく、今度はターニャの隣で水を飲んでいたザ・ボスへと話題を移した。


「時にザ・ボス。貴女が編み出し、最も得意としている近接格闘術は、何でも近接そのものから銃を無力化すら出来るとか?」

「そうだ。私はCQCと呼んでいる。ジュウドーやアイキドー、アラハンといった日本の様々な武道に軍で使われる近接格闘技を組み込み、人体構造や理論に基づいて考案した」

「ほう…それは興味深い。いずれそのCQCを拝見したいものだよ」

「ならば彼女…ザ・ピースと組み手をしてみてはどうだ?彼女もまたCQCに精通した軍人だ。それ以外にも彼女は自身の体格に合わせた独自の戦いかたも身につけている。」

「ほう…?」


ヴォルギンの目が好戦的な光を宿す。米国の暗部を切り盛りしてきたCIAが抱える非合法部隊の隊長───その実力に以前からヴォルギンは興味を持っていたのだ。

元ボクシング選手としての魂が疼くのか、ヴォルギンはウォッカのグラスをテーブルに置くと、ターニャに呼び掛ける。


「どうかねデグレチャフ少佐。私と一戦組み手を交えるというのは?」

「はっ。いいえ、問題ありません。ではテーブルを退かさせましょう」


ターニャの指示を受けたゴースト・カンパニーの面々がてきぱきとテーブルを片付け初め、数分もしないうちに舞台が整えられた。

そうしてヴォルギンとターニャは中央へと互いに進み出て向かい合う。そして互いの幾度目かの呼吸をゴングに、ターニャは迎え撃つ体勢に移行し、ヴォルギンはターニャと組み合おうと勢いよく動き出した。

しかし、ここで予期せぬトラブルが起こった。

むしろ起こったというよりは起こって然るべきトラブルだったかもしれない。

そもそもヴォルギンはターニャと違いウォッカを飲んでいる。
さらに彼は野望を果たすための準備がトントン拍子に進んだことで上機嫌だったのである。

度数が平均的に60を越える酒を上機嫌な感情にまかせてあおっていた人間がいきなり無理な運動をしようとすればどうなるか…


「ぬぉっ!!?」


そう、身体の不調である。勢いよく動き出したヴォルギンは、急激に身体中に回りだしたアルコールによろめき、足をつんのめらせた。

そして最初の勢いを保ったまま上半身からターニャ目掛けて倒れ込む。

さてここでもう1つ…急にバランスを崩して倒れ込みそうになった人間はどんな行動を取るか?

手をばたつかせる者もいれば、顔や頭部を守ろうと防御体勢を取る者もいる。さて、では他には?

そう、答えは"咄嗟に近場の物を掴んで転倒を避けようとする"だ…。

では現時点でヴォルギンの最も近場にある掴めそうなものは一体何か?

これはもう明確だろう…そう…ヴォルギンを迎え撃つ体勢に入っていたターニャである。

ヴォルギンは酒で回らない思考を回転させ、咄嗟に転倒を避けようとターニャの襟元を掴んだ。だが、掴んだ相手は普通よりは頑丈な作りの野戦服とはいえ布である。

当然身長2mはある元レスリング選手であり軍人であるヴォルギンの全体重が乗っかった力───それを受け止めるだけの頑丈さをターニャの着る野戦服は持ち合わせてはいなかった…。





ビリィィィッッ!!!!!!






上から下まで一気に布を引き裂くような音が部屋中に響き渡り、周囲の人間───グロズィニグラードの士官や兵士達、ゴースト・カンパニーもコブラ部隊も当人たるターニャやそれを見ていたザ・ボスまでもが目の前の惨状に一斉に沈黙した。

ヴォルギンはといえば、倒れ込んだ体勢から痛む顎付近をさすりつつ起き上がってきて、ふと沈黙が支配する部屋に気付き周りを見渡している。

そして己が掴んだものが引き裂くような音を立てたと思いだし、片手に握りしめた布切れと化した服をしばし見つめてから、今度は正面に視線を移した。

そしてヴォルギンの前で非常に冷徹な瞳でヴォルギンを睨む小柄な少女と彼女の丸見えな身体を見て、何とか言葉を絞り出す。


「少佐…

その…

何だ…

あ〜と…

いや…

失礼したな…」



直後、ヴォルギンは冷徹な瞳から一転───にっこりと笑顔を浮かべたターニャに言われた。











「くたばって下さい、変態粗○○大佐殿」





「んのっく!!!!??」

















※言い訳しておきますと、私は事前に書きました。こんな思いつきかつ完全にふざけた作品を読むくらいなら、他の作者様の作品を閲覧したほうが良いと…。


はい…罵倒、軽蔑、雑言お待ちしております…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。