歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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【激突】




「EVA、WIGの真下を抜けたまえ!」

「オーケー!」


私の指示を受けたEVAは巧みなハンドル捌きで滑走路から退避しようとしているWIGの車輪の間を抜けていく。

さて、WIGのパイロットには悪いが、シャゴホッドを足止めするためのわずかばかりの時間稼ぎ役を担ってもらうとしようか…。


そんな私の目論見通り、シャゴホッドは邪魔なWIGへわざと激突───華麗なまでに機械体操選手の垂直倒立が如くはね上がっ…







はね上がった?シャゴホッドが?




なんということだろうか…私の目の前で目論見を大きく外してシャゴホッドがWIGに逆に弾き飛ばされていたのである。

しかも地面へと落下した衝撃でシャゴホッドの操縦席部分とミサイルサイロを積んだ後部パーツが引き千切れ、両者共に綺麗なまでに真横にグルグルと回転している。


…とシャゴホッドの操縦席のハッチから何かが飛び出した。

そこで丁度、スネークとEVAも背後で起こった謎の衝撃と破損音を確かめるべくバイクを止めると背後を見る。
そこには回転がようやく止まり、滑走路脇に停止したシャゴホッドの操縦席があった。

そこまで来て、2人はようやく私が見ている方向にも視界を向けた。



「スネェェェーク!!まぁだだぁぁぁ!!!」



何とヴォルギンが空中から何かこう股を広げた面白い体勢から徐々に股を閉じていき、滑走路上を受け身でゴロゴロ転がりながら我々がいるバイクの真横まで来て止まったのだ。

驚愕するスネークの目先でヴォルギンはスネークに対して「まだ終わっていな…





キキィィィ!!ガキャアァン!!!



「どぅっふぉあ!!?」




背後から追跡してきていたオセロットのバイクに見事なまでに勢いよくはねられてしまった。








「ぬっはぉああぁうぉぁぁぁ!!!!!」







そしてひとしきり空中へと飛んでいき─────









ドカアァン!!








見事に爆発した。黒い黒煙を撒き散らし、後には何も残っていない…。







「自分で自爆するとは…」


「馬鹿じゃないの?」







何だこの終わり方…?





デー、デー、デ、デデン!!
デデデン!!!


第28話

間を置かずに響いた4発の銃声。

 

 

 

鉄橋に仕掛けられた4つのC3の起爆装置を、スネークとザ・ピースが的確かつほぼ同時に次々と装置を狙撃したのだ。

 

起爆したC3爆薬は連鎖して鉄橋の中央部を支える鉄骨を破壊───そこにシャゴホッドの重量が加わったことで鉄橋は崩壊した。

踏みつけた枯れ枝がへし折れるように、鉄橋は支えを失った中央部から崩れ、次々に深い谷底の川へと落ちていく。

 

 

運が無いとはこのことだろうか…。

 

 

先ほどまでスネークらを追跡していたグロズィニグラードの兵士らは、丁度鉄橋をシャゴホッドと共に渡っていた───又は渡りだしたところであった。

 

当然ながら鉄橋はシャゴホッドというとんでもない重量物たる鉄塊を抱えているのだ。爆発から重量過多による鉄橋の崩壊までは30秒と掛からない。

その間だけで橋から離れるのはおろか、バイクから降りることすら不可能だ。

 

そしてその不運な兵士らは、同僚や乗り込んでいたバイクと共に絶叫を上げながら深い谷底の川へと消えていく。

 

シャゴホッドも最後までキャタピラを回転させ踏ん張っていたが、ついには自らの重量に引き摺られて谷底の川へと転落───巨大な水柱を立ち上らせつつ川底へと沈んでいった。

 

 

「凄い…」

 

 

今まさに己の目を通して見ているEVAは、それでも現実離れした目の前の凄まじい光景にポツリと呟いてしまう。

 

だがこれで終わったのだ。シャゴホッドは核搭載戦車という…東西冷戦という歪な対立構造が産み出した、歪な使命をついぞ果たすことなくその歴史に幕を下ろしたのだ。

 

 

「終わったわね…」

 

「…いや…まだだ。まだ終わっていない…」

 

「スネーク…ええ…そうだったわね…」

 

 

スネークの言葉通り、まだ終わってはいない。まだザ・ボスが残っているのだ。彼女の抹殺…それがザ・ボスの弟子たる彼に課せられた任務だからだ。

 

 

 

「行きましょうスネー…」

 

「……待て!」

 

 

 

先を急ごうと声を掛けたEVAを遮り、スネークが叫んだ。

 

そしてその言葉を待っていたとでも言うかのように、崩れ落ちた鉄橋の残骸───スネークらが居た側の崩落する寸前で留まっていた鉄橋から何かが勢いよく飛び出したのだ。

 

 

 

轟音を立ててスネークらを飛び越え着地したもの………それは、シャゴホッドであった。

 

 

 

だがそこにあるのはキャタピラが付いた操縦席部分だけである。

 

そう、あの時谷底の川へと転落していったのは、シャゴホッドのミサイルサイロが取り付けられた後部パーツだけだったのである。

 

ヴォルギンは鉄橋の崩壊に際して操縦席側から後部パーツをパージし、操縦席側の転落を防いだのだ。そして残った操縦席部分でここまで這い上がってきたというわけなのだろう。

 

 

<<まだ終わっていない!>>

 

 

シャゴホッドの操縦席部分が旋回してこちらを向くと、スピーカーからは未だ健在らしいヴォルギンが叫ぶ。彼はどう足掻いても自らの手でスネークらを倒さなくては、諦めきれないらしい。

 

 

「EVA、運転は任せた!」

 

「いいの?」

 

 

スネークの言葉にEVAが問い返す。シャゴホッドは先ほどとは違い、あの操縦席だけ───間違いなく小回りや速度も最初より上がっている筈だ。

 

そのシャゴホッドを前にして運転を任せるというのは、EVAの腕に全面的に命を預けるという意味に他ならない。

 

 

「ああ、信じている」

 

 

スネークは、EVAのその問いに信頼という答えを返した。彼女の腕に、自らの命を預けると…。

 

 

「その代わり、攻撃は俺とザ・ピースに任せろ」

 

「…そうね、逃げ回るのはもう沢山!」

 

 

EVAも、スネークの言葉に信頼を寄せていた。

 

しかし…アメリカのエージェントと敵対国の女スパイ、アメリカお抱えの非合法部隊兵士が手を組み、世界に核戦争の火種を撒こうとしたGRUの大佐と彼が操る巨大兵器と全面対決───かのハリウッドですら見られない、世界中のジャーナリストが涎を垂らす世紀の一場面ではないか。

 

まさか2大国の核戦争を阻止するという物語が、こんな形に集束していくとは一体誰が予想しえただろうか?

 

 

「スネーク、決着をつけようではないか…あのコミュニストに引導を渡してやろう」

 

「ああ、EVA、ザ・ピース。3人で共に戦おう」

 

 

スネークはザ・ピースとEVAに呼び掛ける。これまでに何度もヴォルギンを仕留める機会を逸してきた。故に、今度こそ終わらせるとスネークは決意したのだ。

 

するとEVAは笑みを浮かべ、景気づけとばかりにスネークと唇を重ねる。

 

 

「景気付けよ!」

 

 

EVAもここで決着をと決めたのだろう。

シャゴホッドと最後のチェイスを始めるべく、アクセルを回してエンジン具合を確かめる。

 

 

「行くわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャゴホッドとヴォルギン、そしてスネーク、EVA、ザ・ピースらによる最後の戦いに新たな狼煙が上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ゴースト・カンパニー】

 

 

 

 

「カイル上曹!あそこだ、シャゴホッドがいる!」

 

<<いや、しつこすぎるでしょう、あの変態大佐!>>

 

 

グロズィニグラード上空を進む2機のハインド。その機内ではゴースト・カンパニーの面々がシャゴホッドとスネークらが戦う鉄橋先の対空防衛陣地へと急行していた。

 

そしてその対空防衛陣地では、スネークとザ・ピースが女スパイEVAの操るバイクのサイドカーからシャゴホッドへと攻撃を加えている。

 

そして本来なら比類なき装甲を誇るシャゴホッドだが、現状ではその装甲も無意味と化していた。

 

先ほどからスネークとザ・ピースが狙うのはシャゴホッドの背後───核ミサイルを収納するミサイルサイロが取り付けられていた後部パーツとの接合部だ。

 

そう、後部パーツをパージして転落を防いだのはヴォルギンの咄嗟の機転であったが、戦闘に関してはそれが大幅なアドバンテージの喪失を招いていた。

 

後部パーツを取り外したシャゴホッドは、背後の一部の最も装甲の薄い箇所───すなわち接合部を露出させてしまったのだ。

 

 

それを見逃すスネークとザ・ピースではない。

 

 

女スパイEVAが華麗に操るバイクのサイドカーから次々と手持ちの対戦車兵器や爆発物を用いて、接合部の装甲が薄い箇所を狙い撃ちしていたのだ。

 

ヴォルギンも負けじと操縦席下部に残る機銃1丁とシャゴホッド本体を用いた体当たりによる反撃を試みてるが、小回りの利くバイクをまったく捉える事が出来ずにいる。

 

 

<<ぬぅぅ!キャタピラが!?>>

 

 

攻撃に転じれば小刻みに方向を変えながら駆け回るバイクにかわされ、隙を晒せば簡単に接合部への反撃を許し、シャゴホッドはまるで蚊に翻弄される図体だけの巨象の様である。

 

 

「各員号令一斉射撃用意!超低空飛行で駆け抜けつつ最後のロケットポッド斉射で少佐殿を援護する!残弾を全てばらまけ!」

 

 

先頭を飛行するハインドのドアから下を眺めつつ指示を出すのはヴァイスである。そして彼の言葉を受けて2機のハインドは即座に列を組み直し、低空へと降下を始める。

 

その機内では動ける面々が持ち出せるだけの武器・弾薬を抱え、ハインドの両脇ドアを開けるとシャゴホッド目掛けてそれぞれが照準を合わせる。

 

その中には、ゴースト・カンパニーの服とは違うオリーブドラブの野戦服に目出し帽の男もいた。

 

 

「左側機銃準備良し!号令一斉射まで待機!」

 

 

額部分にJの刺繍が入れられた目出し帽を被るGRUの兵士───そう、グロズィニグラードの監獄でスネークらをわざと脱獄させ、このスネーク・イーター作戦に一役買った男───ジョニーであった。

 

彼はあの後、ザ・ピースことデグレチャフの指示に従いヘリの駐機場にてスネークがシャゴホッドを破壊するまで潜伏していたのだ。だが、スネークはシャゴホッドの破壊を完遂出来ず、ヴォルギンにより追跡されていた。

 

そこで急遽ハインド機内で潜伏していた彼もこの戦いへと…すなわちスネークらの援護へと駆り出されたのだ。

 

しかし食い意地と腹具合を崩しやすいという欠点を除けば、彼、ジョニーは非常に優秀な兵士であった。

現在もヴァイスの指示が出た直後に、搭載されていた三脚付のMG42汎用機関銃(恐らくは大戦期の滷獲品)を座席後ろから引っ張り出すと、ハインドの左側ドアを開けて攻撃準備を整え終えていた。

 

 

<<こちら2番機、攻撃準備完了。何時でも突撃出来ます>>

 

 

そして後方を飛ぶハインドも準備完了を伝える無線を飛ばしてくる。

 

後はヴァイスの号令で超低空で対空防衛陣地へと突入───シャゴホッドに対して一度きりの一斉射撃を浴びせつつ、離脱するだけである。

 

 

「よし、コース突入カウントダウン始め!10、9、8、7!」

 

 

 

<<ロケットポッド、左右共に異常無し!>>

 

<<各機銃要員準備良し>>

 

 

 

 

「6、5、4!」

 

 

 

 

<<突風無し、攻撃コース侵入角度適正!>>

 

<<シャゴホッド、依然として戦闘行動中!及び対空防衛陣地よりの対空砲火の兆し無し!>>

 

 

 

 

「3、2、1、0!各機攻撃ぃ!攻撃開始ぃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

 

何発もRPGを撃ち手榴弾を当ててもなかなか止まらないシャゴホッド。

 

だがそのシャゴホッドは、いざ自分らの乗るバイクへと体当たりをしようと予備動作に入った直後、いきなり頭上から降り注いだ弾雨の嵐に包まれた。

 

何者かと上空を見れば、ゴースト・カンパニーの部隊マークがペイントされた2機のハインド戦闘ヘリが縦隊の体形でシャゴホッド目掛けて飛行しつつ、左右のポッドからロケットを次々と降らし、ドアからは同じくゴースト・カンパニーの兵士らが機銃とライフル、手榴弾を惜しむことなくシャゴホッドへと浴びせていた。

 

僅か数秒程の一斉射撃は、しかし雨あられと降らされたそれはシャゴホッドを炎に包み込み、炎が散った後には全体を焼け焦げさせ所々を酷く損壊させた姿が残された。

ゴースト・カンパニーのハインド2機はありったけの攻撃を加え終えると、止まることなくラゾレーヴォの森林地帯の向こうへと消えていった。

 

 

「やったか?」

 

 

あれだけの攻撃だ。流石のシャゴホッドでもこれ以上は戦闘を継続するだけの余力は存在しない筈…。

 

 

それは間違い無かった。シャゴホッドは各所から電気がショートする音を立てつつ、煙を上げると軋む音と共に駆動音が消えた。

そして完全に沈黙したシャゴホッドのハッチが開くと、中からヴォルギンが這い出してきた。

 

だがその顔は、まだどす黒い怒りの炎が燃え盛る瞳と狂喜をない交ぜにしたような笑みを浮かべている。

 

 

ハッチの上でゆっくりとしゃがみこんだヴォルギンは、自らの身体に巻き付けているライフル弾の弾薬ベルトから、指の間に数発を挟んで抜き取った。

 

そして身体中に電圧を溜めると、一気にシャゴホッド目掛けて拳ごと振り下ろした。

 

金属をぶち抜く音と共に拳をシャゴホッドの装甲内へとめり込ませたヴォルギンは、そこから何かを抜き放った。

 

それはシャゴホッドのあらゆる電子回路と繋がる、幾重にも束ねられたケーブルであった。

 

更にもう片方の拳を同じように弾薬を挟んで装甲内にめり込ませ、ケーブルの束を抜き取る。

 

一体奴は何をするつもりなのか…そんな事を考えていた時、奴───ヴォルギンは急激に身体中に電流を帯電させると、一気にそれを解き放ったのだ。

 

解き放たれた電流はヴォルギンの握り締めるケーブルの束を伝わり、シャゴホッド全体を迸った。

 

するとどうだろうか…先ほどまで完全に沈黙していた筈のシャゴホッドが、再び駆動音を立てながら動き出したのである。

 

 

 

 

「な…なんて出鱈目な…」

 

 

 

 

隣にいたザ・ピースは、目の前で起こったあまりに非常識な事態とそれを成したヴォルギンに呆れと驚愕が入り混じった表情で呟いていた。

 

 

ただ自分はそんなザ・ピースを見て、こう思った。

素手で大木抉ったり貫通する威力の石を投擲し、果てにはロケットブースターで突っ込んでくるシャゴホッドをカウンターパンチで殴り飛ばすという芸当を披露している目の前の幼女も相当だと…。

 

 

分かりやすく言うなら

 

 

 

『お前が言うな』

 

 

 

である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ!まだ終わらんぞ、スネェーク!」

 

 

そんな事を内心思い浮かべてはいたが、シャゴホッド上にケーブル群を握りしめ仁王立ちしているヴォルギンの咆哮に、今優先すべきは非常識層トップに入るザ・ピースの客観的視点が抜けた発言に呆れることではなく、奴との戦いに完全に終止符を打つ事だと思考を切り替えた。

 

 

「スネーク、ザ・ピース!降りて!私が奴を引き付けるわ!」

 

 

そこで、EVAが降りろと指示を出してきた。自分がシャゴホッドを引き付けると言うのだ。

 

 

「急いで!奴が突っ込んでくる!」

 

 

EVAの言葉を合図にしたかのように、ヴォルギンが咆哮を上げながらシャゴホッドを自分ら目掛けて走り出させた。

 

最早時間が無いと、自分とザ・ピースはサイドカーから左右それぞれに飛び出した。

 

 

 

まさに間一髪。

 

 

 

自分とザ・ピースがサイドカーから飛び出して地面へと落ちる辺りで、EVAの操るバイクがギリギリの間合いでシャゴホッドの真下を駆け抜けていく。

 

そして自分らは、サイドカーから飛び出して肩口から地面に着地すると同時に背中を丸めつつ、肩口から背中を地面に接触させて身体を回転させながら受け身を取っていた。

 

受け身を取り終わるとすぐに立ち上がり、シャゴホッドとEVAへと目線を向ければ、彼女はバイクを小回りに動かしながらシャゴホッドをわざと挑発し、自分を追い回させていた。

 

ヴォルギンはヴォルギンで頭に血が上っているせいか、自分とザ・ピースの事など頭からすっぽりと抜け落ちているかのように、一心不乱にEVAを追い回していた。

 

 

「スネーク!向こうの対空機関砲を使え!航空機を撃墜出来る威力の対空機関砲なら奴を押さえられる!」

 

「分かった!ザ・ピースはあちら側の機関砲を頼む!奴に十字砲火を浴びせてやろう!」

 

「ああ!しつこいストーカー男には相応しい御断りの返事だ!」

 

 

自分とザ・ピースは互いに指示を出し合うと、対空防衛陣地内に幾つも設置されている対空機関砲から互いの火線がクロスする位置にある銃座へと駆け寄っていく。

 

銃座に乗り込むと機関砲の位置を調整しつつ銃口を未だEVAを追い回しているシャゴホッド───その上に立つヴォルギンへと合わせた。

 

 

<<スネーク!今EVAに連絡を取った!彼女がこれから言う指定ポイントまで奴を誘きだす!奴が駆け抜ける瞬間を狙ってコイツを浴びせるぞ!>>

 

「了解した!指定ポイントを頼む!」

 

 

 

 

「良し!銃座に用意されているボードマップがある!そいつで指示を出す!グリッド、X…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ターニャ】

 

 

 

スネークにグリッドによる指定ポイントを伝えると、私もシャゴホッドを狙うべく対空機関砲の火線先を調整する。

 

後は奴が通過するのを見計らい、大口径機関砲の雨を浴びせてやるだけである。それで仕留められれば良し───仮にそれで仕留められずとも、ここにはまだまだ機関砲と機銃が鎮座しているのだ。

 

しつこいストーカー大佐へのプレゼントには事欠かないだろう。

 

 

…っと来たな!上手い具合に誘き寄せてくれるものだ!

 

 

「スネーク!来るぞ!」

 

<<準備完了だ!何時でも撃てる!>>

 

 

スネークとの通信を終え、後はシャゴホッドが通過するだけだ。

 

 

もう少し…もう少し…

 

 

 

比我の距離が徐々に縮まっていき、その度にトリガーに掛けた指の力が強まっていく。さあ、来るが良いヴォルギン大佐───これで終わりにしてやる!

 

 

 

 

指定ポイントまで後3m、2m、1m……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私の叫びと共に、私の対空機関砲とスネークの対空機関砲が凄まじい射撃音と共に大口径の鉛を次々と銃口から吐き出していく。

 

ヴォルギンはようやくそこで、自分が無防備に罠に飛び込んだことに気付いたのだろう。

 

咄嗟にシャゴホッドを停止させ、身体回りに電撃を纏わせた。

 

だが対人想定の機銃やアサルトライフルならいざ知らず、こいつはZU−23−2。その程度で防げるほどヤワな威力ではない。

 

 

 

【ZU−23−2】

口径14.5mmのZPU−1/2/4の後継として開発され、1960年制式採用。ガス圧作動方式の23mm口径2A14機関砲2門を二輪と三脚を備えた砲架に搭載。牽引状態から車輪を折りたたんで接地させて射撃準備を整えるのに約30秒かかるが、緊急時は牽引姿勢でも射撃可能。

照準は手動だが、改良型では電動旋回機構を搭載。ZAP−23光学機械式照準器に目標情報を入力することでより正確な対空射撃が可能であり、地上の歩兵や軽装甲車両を攻撃するためのT−3対地射撃用照準器も有している。

 

 

 

そんな鉛を雨あられと浴びせられては、いかに電撃によるシールドを張ろうが無意味である。

 

事実先ほどから何発かが電撃のシールドを撃ち抜き、ヴォルギンの腕や足を深々と抉っている。だが貫通する際に弾そのものが強度のためか砕けてしまい、破片となっている。

 

そのためか未だヴォルギンは止まらない。

 

 

「その程度、効かんな!」

 

 

げっ!

 

ヴォルギンの奴、口ではああ言いながらも頭にきてはいたらしい。

EVAを追い回すのを止めてこちらを標的に定めたのか、私のいる対空機関砲座目掛けて突進してきやがった。

 

 

あんな巨体に踏み潰されてはかなわん。

 

 

直ぐにトリガーから指を離すと銃座から身を乗り出して外側へ脱出───直後に突進してきたシャゴホッドのキャタピラが対空機関砲を巻き込んで粉砕し、スクラップへと変貌させた。

 

そこへスネークの操る対空機関砲が援護射撃を行ってくれる。お陰でいきなりシャゴホッドに追撃されるという事態には陥らず、私は別の対空機関砲座へと辿り着けた。

 

直ぐ様対空機関砲の座席に身体を滑り込ませると照準をシャゴホッドへと合わせ、再び射撃を開始する。

 

そこへ近づいてきたEVAが手榴弾をヴォルギン目掛け投擲───爆発と破片が私へと注意を向けていたヴォルギンの無防備な背中を切り裂いた。

 

 

「くそっ!!」

 

 

そうして奴がEVAへと注意を向ければ今度は私とスネークの攻撃が襲い掛かり、ヴォルギンを八方塞がりの状況へと追い込んでいく。

 

 

<<チャンスだ、ザ・ピース!このまま一気に攻め立てるぞ!>>

 

「ああ、終わりにしよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─グロズィニグラードの外れ・対空防衛陣地─

 

 

 

 

 

私とスネークの指が機関砲のトリガーから離れるのと、ヴォルギンが操るシャゴホッドが沈黙するのは同時だった。

 

シャゴホッド上で両手にケーブル群を握り締めたヴォルギンは全身至る箇所を弾や破片で抉られ、切り裂かれ、もはや虫の息という状態だ。

 

 

だが片膝をついて荒い息を吐きながらも、その目から怒りが消えることはない。

 

 

ヴォルギンにとって、私とスネーク、EVAの3人は自らの野望を邪魔した憎むべき存在───そんな彼らを置いて倒れるなど、ヴォルギンには出来ないのだろう。

 

だからこそだろうか…ヴォルギンはそんな有り様になっても未だ諦めようとはしていない。

 

ふらつきながらも立ち上がると、全身に再び電流を流し始め、シャゴホッドを起動するべく電流を蓄積させていく。

 

 

と、そこで空模様が怪しくなり始めた。

 

 

確かに今日は朝から曇りがかった晴れ空ではあったが、このタイミングでより陰りが強まってきていた。

 

仕舞いには暗雲立ち込める空から地鳴りのような雷鳴が鳴り出した。

 

 

「…ふん…!雷など、何ともない!」

 

 

ヴォルギンは自らをそう鼓舞するように言うと、更に身体を纏う電流の圧を上げていく。

 

だが…それが命取りだ…ヴォルギン大佐…。私が、貴様の身体の弱点を知らないとでも?

 

貴様は常々、雨と雷が轟く度に日本の魔除けの言葉を呟いていたな…。

あれは雷を恐れているから…だがその理由は怖いとは違うもの…。

 

 

そう…貴様の弱点は雷そのものだ。

 

 

1千万ボルトの電圧で常に帯電している貴様の特異体質…だがそれは非常に危うい諸刃の剣だ…。

 

人間の身体は普通、高い電圧には耐えきれない。例えるならパレードチョックCSが妥当か…あいつは瞬間電圧4万ボルトのスタンガンだが、一歩間違えれば護身武器から殺人武器に早変わりするのだ。

 

そんな人間の身体に1千万ボルトの電圧を帯電するというのは特異体質というアドバンテージを考慮しても、相当な負荷の筈だ。

 

まずそもそも、何故彼は性欲を満たすにも怒りを発散させるにも電撃を用いているのか?

 

それも度々だ。

 

もし、これが身体に負荷が掛かる要因を解消する為ならば?

つまり、電圧を帯電するがままにしておくのは危険故の放電なのか?

 

その仮説を正しいとした場合、もしそれだけの電圧を帯電している身体に新たに大量の電圧が流れ込んだとしたら?

 

 

そうだ…私はそこから解を導きだしたのだ。

 

 

奴は帯電する電圧により身体に負荷が掛かるのだ。だからこそ様々な理由にこじつけて度々電圧を放電しているのである。

 

こじつける目的は勿論、その特異体質故の弱点を周りから隠すためだろう。

そして彼の元々のサディストとしての性格や性癖は、その弱点を隠しつつ、身体の負荷を解消するには都合よい隠れ蓑になっていたという訳だ。

 

 

 

…これまで誰も疑いを抱かないレベルの性格や性癖というのはなかなかに度しがたいが…。

 

 

 

 

 

さて…では終わらせるとしようか。

 

私はベルトのポーチから"ある物"を取り出すと、勢いよく振りかぶって奴の真上へと投げつけた。

 

それはライフル弾の薬莢だ。

 

それはヴォルギンの真上へと飛んでいき、丁度ヴォルギンが最大限まで身体に電圧を溜め込み、周囲には雨が降りだしたという条件も揃った。

 

 

そして雷が落ちた。

 

 

避雷針代わりに投げつけた薬莢は見事に弾頭先の尖った部分に雷を被雷。

更には降りだして付着した雨粒と真下で濡れながら電圧を溜め込んでいたヴォルギンとを一直線に結んだのだ。

 

 

 

 

「ガァアアアアア!!」

 

 

 

 

そして辺りに響き渡るヴォルギンの激痛による叫び。だが、それでは終わらなかった。

 

ヴォルギンの身体に落ちた落雷の電圧は、最大限まで溜め込まれた電圧を更に膨れ上がらせ、彼の特異体質を凌駕する。

 

するとまるで化学反応のようにヴォルギンの身体は、突如として内側から燃え始めたのだ。

 

更にはヴォルギンが身体の各所に巻き付けていたライフル弾を何十発も差し込んだベルトリンク───そのライフル弾の薬莢内火薬と雷管が瞬時に燃え出した高温の炎に炙られ、連鎖して自爆を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぅお…!あがっ…!グッ!あがぁぁ…ぐ…ぎ…ガァアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

身体を内側から高温の炎と電圧に焼かれ、自爆する薬莢の火薬が表皮で弾け、その度に発射された弾頭が身体のあちこちを撃ち抜き、跳ね回る。

 

そして逃れられない苦痛に悲鳴と叫びを上げるヴォルギン。

 

ついには焼ける炎に耐えきれなくなったヴォルギンの握り締めるケーブル群が、まるでワイヤーを切断するような音を立てて引き千切れた。

 

 

 

 

支えを失ったヴォルギンの身体は真後ろへと倒れ、シャゴホッドの上で仰向けに横たわる。

 

もはやヴォルギンは悲鳴も叫びも上げてはいない。

 

しかし彼の身体を焼く炎や弾ける火薬や弾頭は落ち着くどころか、更に激しさを増したようであった。

 

 

 

「自分で自爆するとは…奴(サンダーボルト)にはうってつけの最期だ…」

 

 

 

スネークの言葉には同意だ。普段の冷静なヴォルギンなら、私が薬莢を投げつけた瞬間に目論見に気付き、すぐさま電流帯電を止めるなりその場から離れるなりしただろう。

 

だがヴォルギンは完全に我を忘れていた。

 

自らを邪魔した我々を始末するためだけに全神経を集中させ、復讐だけを思考していたが故に気づけなかった。

 

私はそこに一石を投じただけ…あれは完全な自爆───自滅であった。

 

だが、これでスネークはようやくシャゴホッドの破壊と、ヴォルギン大佐の排除という任務を達成した。

 

 

私も、遺産という目的と部下への報いという務めをついに果たした。

 

 

後は…残るはザ・ボス1人だ…。それが最後の───しかし最も難しい任務である。

 

だがそれはスネーク次第だ。彼が自ら選択し、果たさなければならない任務。

 

私は側で話し合っていたスネークとEVAが互いに納得したのかバイクに乗り込むのを見て、私もサイドカーへと飛び乗り、再びスネークと背中合わせの体勢を取るのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目指すはラゾレーヴォを抜けた先のザオジオリエ森林地帯の更に先…。

 

 

ザ・ボスがスネークを待っている雌雄を決する地───ロコヴォイ・ビエレッグ(運命の水辺)だ。




【対シャゴホッド戦】

本編の流れも取り入れつつ、オリジナル展開で戦闘。ゴースト・カンパニーの乗るハインド2機による火力支援は、ただ超低空飛行で駆け抜けながら対地攻撃するハインドを描写したかったから。
対空機関砲の下りは本編でもバカバカ使ってるし、ただあるだけの描写じゃ勿体無かったので使用。


【自爆】

本編では雨が降り雷が鳴る中電圧溜めてたヴォルギンが勝手に避雷針代わりに雷受けて自爆しただけ。
ただそれだけだとつまらないかなと思い、ターニャがヴォルギンの自爆という結末を迎えるに一役を演じました。
でも実際に目の前であんな光景見たら相当エグいでしょうね。

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