歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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ザ・ボスの語りに涙しなかった人っている?

俺は涙した。そしてこれを考え出した小島監督を尊敬している。




※2018年4月28日
すっぽ抜けていた戦闘シーンを追加修正しました。

※著作権切れでない歌詞転載NGであったため、スネーク・イーターの歌詞とスネークとザ・ボスの会話を削除しました。


第29話

深く生い茂る森林地帯、ラゾレーヴォ。

 

その森林の奥に私は居た。…というよりは居る羽目になっている。

さらに正確性を期す答えをするなら、事故に遭った直後だ。

 

まったく、何故世の中というのは肝心な時に限って失敗や予想外のトラブルに見舞われるのか…。

 

万能神でもいれば是非今の私の素朴かつ切実な問いかけに答えて貰いたいものだ。

ただし存在X、貴様は出てくるな。代わりに豚小屋で豚の餌になれ。

 

 

「…はぁ…儘ならない世の中だな、まったく…」

 

 

事故で投げ出されていた場所で長々と世の理不尽を愚痴るのも良いが、気分転換以外に益が無いのでさっさと起きることにする。

 

皆さんこんにちは、雨降りしきるラゾレーヴォの森林地帯から失礼致します。ターニャ・デグレチャフであります。

 

さて話は今から少しばかり前に戻るが、私はスネーク、EVAと共にヴォルギンを打ち倒し、グロズィニグラードからの脱出に成功した

 

 

が…

 

 

まだまだ追跡に駆り出されていた連中はその多くが残っていたのだ。故にラゾレーヴォへ入ってからもあちこちに警戒網を敷いていたGRU兵らと撃ち合いを交わしながら、道を走り抜けていた。

 

そしてようやく連中の追跡を振り切ったと思ったら、まさかのバイクの燃料漏れ───からの前方不注意による事故に巻き込まれたのである。

 

EVAの「燃料が漏れている」という言葉に揃って被弾箇所を覗き込んでしまい、スネークの声に視線を前方に戻せば急カーブと倒木のダブルコンボが待ち構えていたという訳である。

 

EVAが慌てて車体を真横に向けて急ブレーキを掛けるも間に合わず、バイクは倒木に衝突───よって3人とも揃ってバイクから投げ出された。

 

そこで私はスネークらとは別方向に飛ばされてしまい、地面の上に投げ出されたのがつい先ほどの出来事である。

 

 

「スネークは…無事のようだな…」

 

 

バイクの事故現場にスネークもEVAも居ないということは、既に湖を目指して進み出したのだろう。

 

ならば私もさっさとこのザオジオリエを踏破して脱出しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

計画通りならば、あと数時間もしないうちにこの辺りは汚染されるだろうからな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ロコヴォイ・ビエレッグ(運命の水辺)】

 

 

 

 

最初に抱いたのは美しい情景に対する感慨だったか…もしくは師であり愛する人と命を奪い合わなければならない運命に対する疑問か…

 

 

それとも…

 

 

そんなスネークの前で起こったのは、突然の核爆発であった。周囲には猛烈な爆風が吹き荒れ、オオアマナの花が幾つも空へと散った。

 

爆発が起こったのはグロズィニグラードの方向───そしてあれほどの威力では、グロズィニグラード周辺はおろか、自分が先ほど抜けてきたザオジオリエ付近も巻き込まれているだろう…。

 

スネークらを追跡してきて、そこにいたGRUの兵士達も…。

 

 

 

「綺麗でしょう?命の終わりは…切ないほどに…」

 

 

 

スネークに向けてそう言葉が投げ掛けられ、そちらを見ればザ・ボスが居た。片手にあの核爆発を引き起こしたデイビー・クロケットを持ちながら…。

 

 

「命は最後に残り香を放つ。光とは、死に行くものへの闇からの餞別」

 

 

そしてザ・ボスはその言葉と共にスネークを見据えると、デイビー・クロケットを投げ捨てた。

 

 

広大な湖のそばの畔、真っ白なオオアマナが咲き乱れるその花園が、ザ・ボスとスネーク───2人の運命を決める舞台。

 

 

どちらかが死に、どちらかが生き残る。

 

 

「待っていたわ、スネーク…貴方の誕生、成長、そして今日の決着を…」

 

「ボス…どうしてなんだ!?」

 

 

そう問うスネークに向けられるザ・ボスの瞳は、グロズィニグラードで見せていたような、鋭い眼をしてはいなかった。むしろ、愛しい我が子を見守る母親のような澄んだ優しい眼をしていた。

 

 

だがそれも一瞬のこと…

 

 

「どうして?世界をひとつにするためよ。かつて世界はひとつだった…だが、大戦の終結と共に『賢者達』の反目が始まり、世界は分散した。コブラ部隊もバラバラになった…共に訓練し、共に闘った仲間だ…だがそれも、政府の体制・時代の流れで敵味方がまるで風向きのように変わる。こんな馬鹿な話はない」

 

 

再び彼女は眼に鋭さを宿し、スネークに次々と語りかけていく…。

 

 

「昨日の味方は今日の敵…冷戦?思い出せ、私がコブラ部隊を率いていた頃、米ソは同盟国だった。そして想像してみろ?21世紀に米ソが変わらず敵対してるかどうかを?おそらく違う…時代によって、時流によって敵は変移する。その中で我々軍人は弄ばれるのだ。お前を育て、鍛え上げたのも、私とお前が闘い合うためにしたことではない。我々の技術は、仲間を傷付けるためにあるのではない…では、敵とはなんだ?時間には関与しない『絶対的な敵』とは?」

 

 

ザ・ボスの言葉は、スネークの胸に次々と突き刺さる。そして、誰が否定出来ようか…。時代という怪物に翻弄されてきた彼女の言葉を…。

 

 

「そんな敵など地球上には存在しない。何故なら敵はいつも同じ人間だからだ。『相対的な敵』でしかない…だからこそ、世界はひとつになるべきだ。大佐の資金をもとにそれを実現する!『賢者達』を再び統合し、私の技術をそこに投入する!」

 

 

 

 

1951年、ネヴァダ砂漠での原爆実験。そしてビキニ環礁───それがザ・ボスとスネークの出逢うきっかけとなった。すなわち───ザ・ボスとスネークは、互いにそれぞれの核実験により、放射能被爆したのだ。

 

身体を蝕まれ、もはや2人は子供を作ることすら出来ない。だが、ザ・ボスは「未来を夢見ることは出来る」と語る。

 

だが、彼女のことを…彼女が生きてきた裏の歴史を真に知る人間はこう言うだろう。

 

 

『未来を夢に見て、身も命も捧げた彼女を祖国は裏切り続けた』と…。

 

 

1961年、キューバ・コスチノス湾───亡命キューバ人による祖国奪回の体を成した、CIAによるキューバ侵攻作戦だ。

だが時の大統領J・F・ケネディはこの作戦での航空支援作戦中断を決定───敵地に残されたままのザ・ボス率いる部隊は孤立無援のままキューバ軍に壊滅させられた。

 

 

だがスネークはおろかアメリカ政府の中枢人物以外はあらゆる政府職員も、アメリカ国民や国際世論ですらその決定が招いた真相を知らない。

 

そう…皮肉なことに、それがアメリカの『賢者達』の逆鱗に触れたのだ。キューバ侵攻による共産圏の資本主義化を望んでいた『賢者達』にとって、最早ケネディは不必要な存在となってしまったのである。

 

当然ながら『賢者達』は自分らが望むストーリー(展開)を演じられる新たな大統領を求めた。だがそのためには邪魔な存在がいる───だからこそ、あのダラスでの悲劇は起こったのだった。

 

 

だがケネディの死すら、物語の歯車を止めることは出来ない。それ以前に、コスチノス湾での作戦失敗は、ザ・ボスを表舞台から追い落とし地下へ潜らせた。

それから2年間、ザ・ボスは汚れ仕事を押し付けられる役目を引き受け続けていた。そんな中、ザ・ボスはかつての戦友、ザ・ソローと対峙した。

 

ザ・ボスは与えられた任務に従い、彼を殺し、彼はザ・ボスのために己の命を断つ決断をした。

 

それらは全てが『賢者達』の指示であった。

 

ザ・ボスの口から漏らされたのは、かつては20世紀初頭に米露中の真の権力者達が集まり開いた秘密協定会議が『賢者達』の始まりだという。しかし1930年代、賢者の最後の1人が亡くなると、組織だけが暴走を始めたのだと彼女は言う。

 

あらゆる戦争のあらゆる局面で、様々な国・組織につく───そう、あの第二次世界大戦すら、賢者達の手引きであった。

全ては『賢者達』にとって理想とする世界を築くためだけに…。

 

更にザ・ボスから驚愕の事実が告げられる。

 

それらを何故ザ・ボスが知り得たのか?それは、彼女が『賢者達』の娘だったからだ。そう、彼女の父親は賢者の一員だったというのだ。しかし、その父親は真実を彼女に教えたがために、組織に命を奪われた。

 

更には、ザ・ボスは子供すら奪われたという。父親はザ・ソロー───彼との間に産まれた元気な男子、その赤子を彼女は1944年6月のノルマンディー上陸作戦で出産した。しかし、賢者はその赤子を奪い去った。

 

もはやザ・ボスは自らには何も残ってはいないと一人ごちる…だが、身体に残る出産の傷痕だけが、夜になると蛇のようにじわじわと身体を苛むと…。

 

長い彼女の身の上話は、人間という個が体験するには、あまりに壮絶な生き方であった。

 

彼女…ザ・ボスは身の上話を全て、黙って聞き続けたスネークに礼を述べた。そしておもむろに腰から無線機を取り出すと、何かを告げて、再びスネークへと向き直る。

 

 

「スネーク…私はお前を愛し、武器を与え、技術を教え、知恵を授けた。もう私から与える物は何もない…あとは私の命を、お前が奪え…自分の手で…どちらかが死に、どちらかが生きる。勝ち負けではない」

 

 

ザ・ボスはまるで我が子に言い聞かせるように、その口からとうとうと言葉を紡ぎ出していく。

 

 

「生き残った者が後を継ぐ…私達はそういう宿命…生き残った者が、"ボス"の称号を受け継ぐ…そして"ボス"の称号を受け継いだ者は、終わりなき闘いに漕ぎ出してゆくのだ。10分間時間をやろう。10分後に、ミグがこの場所を爆撃する…10分のうちに私を倒せば、お前達は逃げ切れる…」

 

 

ザ・ボスは腰から取り出した愛用の銃、パトリオットを構えると、スネークに告げた。

 

 

 

 

「ジャック!人生最高の10分間にしよう!」

 

「ボス!」

 

「お前は戦士だ。任務を遂行しろ!お互いの忠(loyalty)を尽くせ!さあ、来い!」

 

 

 

ザ・ボスはそうスネークへと叫び掛けると己の愛銃、パトリオットを構えスネークへと向かっていく。

対してスネークも拳銃とナイフを手に、ザ・ボスを迎え撃つ。

 

 

「試してあげるわ!」

 

 

初めに一撃を入れたのはスネークだ。掴みかかってきたザ・ボスの拳を顔を反らしてかわすと、ナイフを首筋に突き込んだ。

 

だがザ・ボスは空いているもう片方の拳でナイフを持つスネークの手を受け止めると、がら空きになった胴体に鋭い蹴りを放つ。

 

スネークはザ・ボスが放つ蹴りを受けまいと、まだ自由が利く身体をずらして蹴りをかわし、同時にもう片方の手でザ・ボスの足を外側から抱え込んだ。

 

そこからザ・ボスの腹部に向けて、足を抱え込んだほうの手に握る拳銃を向けて発砲する。

 

しかし読まれていたのか、ザ・ボスはスネークにがっちりと掴まれた足を軸に身体を浮かせ、もう片方の足をスネークの側頭部に叩き付けた。

 

スネークの拳銃弾は外れ、代わりにザ・ボスから側頭部に叩き付けられた蹴りで、スネークは倒れ込む。

 

ザ・ボスはその体勢から地面に落ちるも、すぐさま立ち上がると、体勢を立て直そうとしていたスネーク目掛けて駆け寄ってくる。

 

そこからスネークの顔目掛けて繰り出された2発の突き。

 

だがスネークも負けてはいない。即座に顔の真横に八の字になるよう腕を構え、ザ・ボスから繰り出された突きを弾く。

 

そして今度はザ・ボスの正面ががら空きになった。突きだした拳を引き戻して備えようにも僅かだが、スネークのほうが早い。

 

そこへスネークは素早く突きをザ・ボスの顔に打ち込む。そして怯んだザ・ボスの手首を掴むと、その手首を内側に固めつつ彼女の身体より外側へと捻り込んだ。

 

するとザ・ボスは捻り込まれた手首の痛みに無理に抵抗しようとはせず、自ら地面に倒れ込んだ。

 

そして倒れ込んだ体勢から蹴りを打ち上げるように伸ばし、スネークの顎を捉えた。スネークは咄嗟に顔を反らすが、かわしきれずに爪先に顎を打たれてしまい、よろめく。

 

そして今度は立ち上がってきたザ・ボスの攻撃を受ける側に回る。次々と繰り出される拳を防御しつつ反撃の機会を狙うが、なかなか機会は訪れない。

 

このままでは分が悪いと、スネークは後ろ側へ飛び退き、ザ・ボスから距離を取ろうとした。

 

だがそれを黙って見逃すザ・ボスではない。スネークが距離を取ろうと後ろへ飛び退くのを見ると、すぐさまパトリオットを構え、発砲し始めた。

 

後ろへ飛び退いたスネークはすぐにその場に伏せると、拳銃を連射してザ・ボスの攻撃に応戦する。

 

互いに相手へと発砲をしつつ、相手の弾を被弾しないようにと花畑に幾つも点在する木々の裏側へと身を隠した。

 

格闘戦から今度は銃撃戦である。しかも幾つも点在するそれなりの太さを持つ木々や古い倒木、そして吹き抜ける風とスネークとザ・ボスの戦いで巻き上がったオオアマナの無数の花弁が視界を遮っている。

 

この時点で、スネークは既にザ・ボスの姿を見失っていた。ザ・ボスが着ているのは、シギントいわくソ連が開発したという新型の潜入用スーツだという。

 

カムフラージュ性能よりも着用者の体力・状態維持等のバイタル保護を優先させたスーツらしく、通常であれば目立つ姿である。

 

しかし今スネークがいるのはオオアマナが無数に咲いている花畑だ。真っ白という表現が相応しいここでは、ザ・ボスの白いスーツはそのままカムフラージュとなる。

 

更にはスネークが通常の野戦服なのに対し、ザ・ボスはバイタル保護・調整を主眼に開発された潜入スーツだ。防弾・防刃に優れた素材が使われ、負傷した場合でも全体的に身体を締め付けるようにフィットしたスーツが負傷箇所を圧迫し応急的に止血される。

 

あらゆる面で見ればスネークにはこの戦いは不利である。

 

 

しかしスネークにも唯一利点がある。

 

 

それはザ・ボスと共に彼が作り出した近接格闘技術───CQCである。

 

 

この格闘術はザ・ボスが最も得意としている技の1つだ。だが彼女が得意としているということは、すなわち彼女の唯一の弟子であったスネークに、その真髄を叩き込んだのもまた彼女なのである。

 

銃撃戦では決着は着かないだろう。ならば両者は、互いに己が最も信ずる技術で戦いの勝敗を決めようとするのだ。

 

そしてザ・ボスとスネーク───この2人が、師と弟子として編み出した───だがそれ以上に両者の絆でもあるCQCを選ぶのは、必然と言えるだろう。

 

 

 

 

時間にして僅か1分にも満たない、しかし長い時間にも感じられる銃撃戦を生き延びた両者は、最初同様拳を武器に接近し始めた。

 




明日、続きを投稿予定。



─英単語について─

今回、今まで全角文字で打っていた英単語を半角でやってましたが、もしよろしければ読みやすいかどうかの評価もお願い致します。

半角カナ文字は以前に見辛いとご指摘を受けたので全角文字打ちを維持しますが、英単語については読みやすいかどうかで今後は半角文字打ちにするかどうかも決めたいので、よろしくお願いいたします。

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