早くアナg…ジーンさんの演説とかやりたいみょん…。
【アメリカ合衆国・国防総省】
偉大なるサムおじさんの国の首都ワシントンD.C.の外郭部、ポトマック川を越えたバージニア州アーリントン郡に所在するペンタゴンを本拠地とするのが、アメリカ合衆国の陸海空の軍事一切合切を取り仕切る国防総省である。
両脇をガタイの良い身辺警護担当の護衛(とは名ばかりで、実際は国防総省が懇切丁寧に手配してくれた脱走防止のための監視役)に挟まれながら入口をくぐり、デスクワークに勤しむ職員らの事務部屋をいくつも通り抜けていく。
機密のために設けられているゲートでいちいち止まり、前を歩く国防総省の地味な眼鏡の職員が短機関銃を持った警備員と合言葉をボソボソ交わすのは既に5回目だ。
オマケにその国防総省の地味な職員は、ロリコンの気がある周囲からの鼻つまみ者というとんでもない輩である。
これでペンタゴンの機密に触れられる資格持ちだと言うのだから、質が悪い。
出来ることなら大統領に「性格調査の実施で引っ掛かった人員を一新しろ」と苦言を呈したいところだ。
皆さんこんばんは。ターニャ・デグレチャフ少佐であります。
現在私は国防総省からの召喚要求に応え、このペンタゴンへと出向いた次第であります。
だがよりによって案内に割り当てられましたのは、先ほど述べましたロリコンの気がある周囲からの鼻つまみ者・嫌われ者である地味な容姿の眼鏡さんです。
さて…お陰で先ほどから前を歩く職員は時折私のほうをチラチラと眺めてはため息を吐いている。
あまりにしつこいので「何か?」と尋ねれば、帰ってきたのは「君が逃げ出さないか監視しているだけだ」というお粗末な言い訳である。
当然ながら監視役とはいえ良識を持っているのだろう護衛の1人が咳払いをして告げる。
「ご安心下さい副次官補。そのために我々が彼女を見ておりますので、貴方は案内をお願い致します」
「あ…いや…そ…そうだな…頼むよ…」
おい待て護衛君、今聞き捨てならない役職名が聞こえてきたのだが?
副次官補だと?このうだつの上がらない奴が?ロリコン───いやペドの気を申し訳程度にしか隠してない人間としてアウトゾーン入りしてるような輩がだと?
ああ、軽く目眩がするよ全く…。一体ペンタゴンの採用担当はこいつの何を調査したんだ?
そんな私の内心を知らないだろう副次官補は居心地が悪いのかそそくさと進んでいき、地下へと続くエレベーターに乗り込む。
続いて私が乗り込むと、護衛2人の付き添いはここまでなのだろう…彼らはエレベーターには乗り込まず扉が閉まるまで私を酷く心配そうに見ていた。
理由は言わずもがな…地下に着くまでは僅かとはいえ、エレベーターの中でこの変態副次官補と2人だけになるのだ。
良識ある人間からすれば、"トラブルが起こります"と全力アピールしているようなそういった状況に置かれる女性を心配するのは当然なのだろう。
だが大丈夫だ護衛君。万が一の場合は副次官補が股間の男性特有の負傷によって病院に担ぎ込まれるだけだからな。
(………ええい、私は男だろ!!悪魔存在Xに災いあれだクソがっ!!!)
…久しぶりに例の女性的思考が頭を支配にきたので、精神衛生のバランスを保つべく内心で存在Xへの罵倒を交えて叫んでおく。
さて、扉が閉まれば後は地下へと降りるだけだ。その間は暇であり、また副次官補の顔を見るのも言葉を交わすのも不快になるため、前世で癖だったエレベーターの電子表示される階層数字が変わっていくのを見ながら到着を待つ。
ちなみに心理学分野によると、このエレベーター内で複数の人間と居る場合に操作盤や扉上に表示される階層数字を見上げたりするのは、他者に侵害されるのを嫌って無意識に己のテリトリーを作り出そうとしているかららしい。
…余計な話になったな、すまない。ああいや…私も無意識…いや、この場合はかなり意識して己のテリトリーを作り出そうとしているのだ。
何せ護衛君が心配した通りになったからだ。
私の真横に居た副次官補が、徐々にこちらとの距離を詰めてきているのだ。足の位置を直すフリをしながら徐々にこちらに近付いてきている。
しかも鼻息が荒い。
先ほどから鼻息を荒くし、なにやら深呼吸を繰り返している。しかも吸い込み終わる時に何かを味わうように口元や鼻腔付近をモゴモゴと動かしている。
勘弁してくれ!!この変態副次官補の奴、私の匂いを嗅いで味わってやがる!!
「…デグレチャフ少佐…いや、デグレチャフくん。何やら顔色が悪いが、大丈夫かね?」
顔色が悪い?ご心配ありがとうございます副次官補殿!ちっとも嬉しくないがな!貴様のせいだ貴様の!
ああ!おぞましいことこの上ない!たった1分も掛からないエレベーターでの時間があまりに遅く感じる!早くこの空間から出て気色悪い男から離れたい!
「我慢はしないようにな…国防長官からの召喚で悪い予感がしているのだろう?ほら、肩の力を抜いてリラックスしたまえ」
お言葉ながら副次官補殿、もし私が自制と我慢を止めた場合、間違いなく貴方のその何やら汗ばんでいる気色悪い顔面に銃床をフルスイングで叩き込みますが宜しいか?
ええい!鼻息を荒くするな!近寄るな!何がリラックスだ!おぞましい手つきで私の肩を撫でるな!!
「デグレチャフ君…私は国防総省でもそれなりの地位にいる。もし君さえ良ければ今晩食事でもどうかな…色々と君に便宜を図ってあげられると思うが…」
そういって肩を撫で回していた手を私の頬に触れさせてきた。
「待っていたぞ、デグレチャフ少佐。ラングレーよりはるばる御苦労」
だがあと一歩というところで、悪夢は終わった。ベルの音が響き、エレベーターの到着を知らせたのだ。
そしてエレベーターの扉が開けば、目の前には髪を極端に短く剃り上げたサングラスが似合うスーツズボンにストライプ柄のYシャツといった出で立ちのクールガイが佇み、私に挨拶を入れてくる。
その男を見た副次官補は慌てて私の肩から載せていた手を離して、咳払いをしたりスーツを整えたりして誤魔化そうとしている。
どうやら目の前のクールガイ、かなりの偉い人間らしい。少なくとも副次官補が体裁を整えようとするくらいには…。
「CIA作戦本部のハドソンだ。今回君の召喚に際して証人として参加する。同僚同士よろしく頼む」
「ハドソン?あのMACV・SOGの担当官の?」
MACV・SOGは、現在も戦争継続中のベトナム戦争の中期辺りに創設された南ベトナム軍事援助司令部(U.S.Military Assistance Command,Vietnam)───通称MACV所属の特殊作戦部隊である。
SOGは特殊作戦群(Special Operations Group)の省略であり、所属隊員らはベトナム以外にもラオスやカンボジア等にて潜入・破壊工作・要人救出等を中心に南ベトナム軍とソ連を相手取って活動している。
その2つを合わせて我々は南ベトナム軍事援助司令部特殊作戦群(U.S.Military Assistance Command,Vietnam・Special Operations Group)と読んでいるのだ。ただ毎回喋るにはやたら長くて面倒な名前である。だから省略してMACV・SOGだ。
でもって目の前のJ・ハドソンという男は私と同じCIA所属で、作戦本部の情報員として時折そのSOGグループの作戦に同行したりしている情報員というより現役兵士といった表現がしっくり来る工作員なのだ。
そんなCIAの同僚が証人として来てるということは、この召喚───かなり不味い状況だ…ああクソめ。
「ご苦労様ですハドソン情報員。本日はよろしくお願いいたします」
「そうだ、ハドソン君!済まないがまだ仕事が残っていてね!名残惜しいが私はこの辺りで失礼するよ、後は君が案内してくれ!ではな、デグレチャフ少佐!」
私の挨拶の直後、副次官補殿は私の肩を撫で回していた光景を見たのだろうハドソン情報員の、喋りながらも彼を冷徹に見据えるサングラス奥の視線に耐えきれなくなったのか、矢継ぎ早に言葉を繋げるとさっさとエレベーターで戻っていった。
「では行こうか、デグレチャフ少佐」
「はっ」
私はハドソン情報員の先導で歩き出し、国防長官が待つ部屋へと向かう。
なお、途中ハドソン情報員が耳元に繋がる小型無線に向かって「副次官補の行動は最近目に余る…」といった言葉を呟いていたのを見て、私はあの気色悪いペドの副次官補の末路に小さくガッツポーズをしていたのは内緒である。
─ペンタゴン地下施設─
(不味い!非常に不味い!)
理解してはいたつもりだった。だがその場所に足を踏み入れた時、私は自分の認識が甘かったことを思い知らされた。
楕円形状のテーブルに座るのは国防長官だけではなかった。
陸海空の各長官までもが雁首揃えて、ノコノコと部屋に足を踏み入れた私を待ち構えていたのである。
アメリカ国防総省───ペンタゴンの地下にある機密施設の一室に案内されて早々、私は自分が来たのが召喚という皮を被った高等軍事裁判だと思い知らされた。
(…国防総省は、初めから私を事件に関与した犯罪者として裁くつもりか…ふざけるな、結論ありき主義の官僚共が…!スネークへの疑いといい、FOX指揮官ゼロの拘束といい、事件に関わりがありそうな疑わしい連中を片っ端から潰して回ろうとは!)
「…デグレチャフ少佐。つまり、貴官は今回のFOXの反乱にはなんら関与していないと?」
「はっ、国防長官。我々は確かにCIA作戦本部所属であり、かのFOXとの関わりも御座います。しかし私の部隊は既に上層部の決定により解散しており、今回のサンヒエロニモでの現地ソ連部隊を味方に引き入れた武力蜂起は決して我々の仕業ではありません。CIA上層部としても今回の軍事兵器の強奪と蜂起は寝耳に水という状況であります(当たり前の質問、当たり前の回答…駄目だ!このままでは私は犯罪者まっしぐらだ!どうにかしなくては!)」
「それは知っている。私が聞きたいのは、君はあのCIAの元エージェントが蜂起を首謀した理由を知っているのではないかということだ」
「お待ち下さい国防長官、首謀ではなく、"首謀の容疑"です。BIGBOSSがサンヒエロニモでの蜂起を指導または蜂起の煽動をしたという証拠はありません」
ハドソンが国防長官の言葉を訂正し、証拠無き現状ではBIGBOSSは首謀者と確定してはいないと言う。
そして国防長官が彼の訂正を受けて言葉を止めたところで、私はふと必死に回転させていた頭で思い付いた───しかしそれ以上に私の無実を示せる有効な選択肢がそれしか無い提案を国防長官に提示した。
「…国防長官、ひとつよろしいでしょうか…」
例え核ミサイルの爆心地に飛び込むような行為だとしても、この提案を通して、絶対に無実を証明せねばならない。
さもなければ私の平和は半永久的に失なわれるのだから…。
【サンヒエロニモ半島】
ターニャが国防総省にて自身の未来を賭けた戦いを始めた頃、このサンヒエロニモ半島でも1人の男が新たな戦場へと飛び込む…その始まりの入口へと足を踏み出していた。
「薬剤投与後12時間ちょうどか。正確なお目覚めだな…いい夢は見られたかね、BIGBOSS(ビッグボス)?」
サンヒエロニモ半島のとある施設にて、監獄のベッドに寝かされていた男…彼は自分が起きるのを待っていたかのような人物の声に反応する。
「誰のことだ?」
「とぼけても無駄だ。お前のことはよく知っている。それともスネークと呼ばれるほうが好みかね…
ネイキッド・スネーク?」
スネーク・イーター作戦のエージェント、核戦争を止めた英雄───ネイキッド・スネークは、新たな火種渦巻く陰謀に巻き込まれようとしていた。