【サンヒエロニモ半島、ソ連軍基地】
「キャンベル、敵を捕まえてきたぞ。トラックに乗せるのを手伝ってくれ」
「了解だ、ご苦労様スネーク」
ハーツ・アンド・マインド(民心獲得工作)はエージェントの基本である。
現地民や敵兵士の不満に取り入り、彼らを味方に付け、国家への反抗心を煽り、デモを敢行させるも良し、不満の種を膨らませてクーデターを引き起こさせるも良しである。
そして今、スネークもまたその為にこのソ連軍基地にて敵兵士を気絶させ、輸送トラックへと運んできたのである。
数日ほど前、監獄でのFOXの尋問官カニンガムとのやり取りの後、スネークは同じく監獄に囚われていた囚人であるロイ・キャンベルと知り合った。
彼の助言を受けてスネークは牢屋から脱出すると、監獄内の無線機にてスネークイーター作戦で共に協力した医師パラメディックに連絡を取り、現状と自分が置かれている立場を知ることになったのだ。
本国からはFOX部隊反乱を煽動した首謀者として扱われていること。
そしてパラメディックと同じくスネークイーター作戦で協力してくれた武器・装備品のアドバイザーを務めてくれた黒人シギントから、首謀者の捕縛ないし抹殺こそが身の潔白を証明すると言われた。
勿論いくらスネークが高い技能を持つとはいえ、単独では不可能に近い任務である。
そこでシギントのアドバイスに加え、監獄から脱出したキャンベルの詳しい説明を受けたスネークは、最初に述べた民心獲得工作(ハーツ・アンド・マインズ)による味方部隊の設立に動くこととなった。
そして実際に敵兵士を捕らえる為に現地調達したソ連兵の野戦服を着て彼らに紛れ込んでいた間にも、スネークは敵の溢す愚痴や不安を幾度となく聞き、そこにつけ入る隙があると確信していた。
そして今、スネークとキャンベルはトラックの中で捕らえたソ連兵が目を覚ますのを待っていた。
暫く待っていると、ソ連兵がゆっくりと瞼を開けていく。そして、目の前で彼を見ているスネークをその視界に捉えた。
「お前は……!」
その瞬間、彼は即座にスネークの顔目掛けて拳を繰り出していた。しかし予め攻撃を予想していたスネークに、あっさりといなされてしまう。
「回復が早いな?」
スネークは素直に兵士の回復力に感心するが、彼は言葉を返す代わりにスネークの脇を素早く駆け抜けると、スネークの後ろから見ていたキャンベルに襲い掛かった。
まだ怪我から回復しきっていないキャンベルは防ぐ間もなく腹部に拳を受け、腰に差していた拳銃を奪われてしまう。
だがソ連兵がその拳銃をスネークに向けようとした時には、スネークも既に動いていた。ソ連兵は電光石火の如く突進してきたスネークに構えようとした拳銃を弾かれ、即座に喉を掴まれるとトラックの荷台床に叩き付けられた。
「うん……判断力もある。よく訓練されているな。いい兵士だ」
「……あんたは……何者だ?」
「スネークだ」
「スネーク?暗号名(コードネーム)か?アメリカ軍だな。あんたもFOXなのか?」
「アメリカ軍でもFOXでもない。ただの兵士だ」
「……ただの兵士が、なぜ……?」
アメリカ軍でもFOXでもないただの兵士がどうして居るのかというソ連兵の疑問に答えたのは、キャンベルだった。
「俺達はFOXの反乱を阻止するために来た。FOXのジーンは、アメリカ政府を裏切って手に入れた新兵器とこの基地にある核弾頭を使ってお前達の祖国と交渉しようとしている────だが、その実態は脅迫だ。俺達はそれを阻止したい。サンヒエロニモ半島にいる兵士たちをジーンから解放して、裏切り者のFOXを捕らえるのが俺達の目的だ」
話を聞きながら黙りこんでいるソ連兵に、キャンベルは説得を続ける。
「FOXの隊員達を恐れる気持ちは分かる。だが、俺達がこの半島のソ連兵を救うには協力者が必要だ。力を貸してくれないか?」
「……俺達を助ける?だからジーンを倒すのに協力しろと……ハッハハハハ!」
だがソ連兵はその説得を笑い飛ばした。そして洗脳かと疑うスネークらを嘲笑しながら自分らの身の上を語りだす。
──家族や友人との連絡すら許されない秘密基地の警備・防衛。
──慣れない気候や貧しい食事、風土病やコロンビア政府との小競り合いに倒れた仲間達。しかし祖国の為にと任務に従い続ける日々。
──だがソ連本国は基地が明るみに出ることで戦略兵器制限交渉等にてアメリカに政治的な負い目を作ることを恐れ、基地自体を無かったことにしたこと。
──兵士の帰国の代わりに通信痕跡の排除・補給断絶を行い、核発射基地を現地ソ連部隊による独断・暴走によるものという体裁を整えたこと。
そしてソ連兵は続ける。ジーンに従うのは、祖国が自分らを裏切ったからだと。そしてジーンは、俺達の国を作ると言ったと……。
兵士を支配する国家ではなく"兵士のための国家"を作ると。
自分らにはジーンが与えてくれた正義がある。その正義を失うことが恐怖である。だからジーンに従うと……。
「正義か……」
しかしスネークはその言葉を聞いても、全く動じてはいなかった。彼は知っていたからだ。
「正義の意味は、時の流れによって変わる。職業軍人なら、任務に正義を持ち込むことはない。戦う理由を求めるのは、兵士として生きる者だけだ。俺の師匠がそう言っていた。"政治は時代とともに移り変わる。国に忠を尽くしている限り、俺達兵士が信じていいものは何もない"と……」
戦う兵士には正義も何もない。国に忠を尽くすからこそ、例え孤立しようと、圧倒的な大軍に擦り潰されようと最後の瞬間まで足掻いて、戦い続けることが義務である。
「正義ではなく、国家でもなく……自分に忠を尽くして、彼女は死んだ。任務のために」
「それが……あんたに戦闘の技術を教えた師匠か……何者だ?」
「彼女は、ザ・ボスと呼ばれていた。俺が殺した……」
「ザ・ボスを……伝説の兵士を殺した?そうか……スネーク、あんたがBIGBOSSか。グロズニィグラードで、ヴォルギン大佐を倒した英雄……」
あのグロズニィグラードでの一件は、本来国際的には無かったもの───存在すらしていない扱いだ。ヴォルギンもコブラ部隊もシャゴホッドも、全ては闇の中に葬られたからだ。
しかし知る者は知っていた。世界を核の悪夢から救いだした、1人の兵士の存在を……。
「"戦士として、互いの忠(loyalty)を尽くせ"───ザ・ボスは俺にそう言った。俺にはまだ、その意味が分からない」
「忠を……尽くす。正義でも、国家でもなく、自分に忠を……ジーンは……本当に俺達の祖国を脅迫しようとしているのか?」
「本当だ。スネークが哨戒基地で機密文書を手に入れた。ジーンがアメリカから強奪した新兵器が核弾頭を発射すれば、ソ連国内の主要都市全てに壊滅的なダメージを与えることが出来る。信じられないかもしれないが……」
キャンベルはソ連兵に、嘘偽りなく伝える。それはすなわち、シャゴホッド以来の、灼熱の地獄を始まらせる存在でもあった。
「いや……信じよう。ソヴィエトの軍人ではなく、1人の兵士として」
「……助かる」
「俺は貴方に従う。任務を与えてくれ、スネーク。いや、BIGBOSS」
「スネークでいい」
「そうか、失礼した。そこでなんだが、実は教えておきたいことがある。昨日の夜間、このサンヒエロニモ半島に接近してきていた船が居たんだ」
「船?」
「ああ、アメリカ軍の揚陸艇数隻と小型輸送船だ。連中は沿岸の防衛部隊を制圧して、今はこっちに向かっているらしいんだ。もしそいつらと話が通じるならスネーク、貴方が作る部隊の戦力に組み込めるかもしれない」
「アメリカ軍?俺達グリーンベレー以外にも部隊が送り込まれたのか?」
「キャンベル、お前は何か知らされていたか?」
「いや、何も知らされちゃいない。だが、アメリカ政府からすれば自国の特殊部隊が反旗を翻して新兵器を奪い、敵国部隊と結託したなんて事態は好ましくはない筈だ。もし可能性があるとすれば、俺達の失敗の尻拭いか……もしかしたらアメリカ政府とは別の誰かさんが送り込んだか……」
既にFOXを抜けているスネークは当然ながら、反乱鎮圧に送り込まれたキャンベルも知らないという。
しかし同じアメリカ軍であり、目的が近いものであれば協力関係を築くのは不可能ではない。ましてや今のスネーク達には、敵の大部隊に対抗出来るだけの戦力が必要だ。
「スネーク、確実ではないがそいつらを味方に引き入れられるのであれば一気に戦力の増強が出来る。一応覚えておくとしよう」
「ああ。さあ2人とも、やることは山積みだ。早速行動開始だ!」
「「了解!!」」