魔法少女リリカルなのは➖プリズン➖ 作:幽閉者
ではよろしくお願いします。
ここに入れられてどれくらい日にちが経っただろうか。食事は1日2回目。メニューはバラバラだが、不満しかないものしか出てこない。人間がギリギリ死なない程度の量と言ったほうがいいのか。唯一、女の子としては牛乳が喜ばしいもの。紙パックの350ml。それだけが毎日の楽しみ。
しかしそれも、無理やりこの生活から見出しているに過ぎない。一体どうして私がこんな目に合わなければいけないのか。何もしてない。でも誰も信じてはくれない。無実の罪で一生このまま出られないのだろうか。そう思うと我慢できずに自分の両膝を抱えたくなってしまう。
「寒い……寂しい。誰か……助けてぇ……っ!? え? 」
「ほら! 今日からここがお前の住まいだ。精々反省しながら死ぬまで過ごす事だな」
突然隣の部屋で見張りであろう局員の話し声が聞こえた。誰かが隣に入れられたらしい。
これまでこの空間には人の気配はなかった。つまりここは特別な区画という事。それだけは入る前に聞いていたし、入るときも他より部屋の数が少ないとは思っていた。
だから隣に誰かが入ってきたのはなんとなく嬉しかった。それが例え極悪人だったとしても。
「あれ……この音なんだろう。結構隣の音って結構聞こえるんだ……はは。トイレの音も聞こえちゃうね……こんな境遇だからなんとも思わないけど…………」
「1048番、時間だ」
「え……待って、また……もう嫌!? 嫌!? 」
普通に刑務所暮らしだったら私はまだ耐えられたのかもしれない。辛くても、まだ我慢できる。でもこれは無理だ。異常すぎる事を我慢などできるわけはない。
ここに入れられてからというもの、毎日ここの刑務官にいうな人が来て私を虐めて帰る。これの繰り返しだ。その度に自分のした事を認めろと言ってくる。
ただでさえ下着の着用も許されず、薄い上着しか着させて貰えない。そんな中で、私は床に組み伏せられながらあられもない格好で尻を叩かれる。
「ぐっ!? きゃっ!? いづっ、あぐっ!? いだいっ!? いやぁっ!? いぎゃっ!? いやぁぁぁああああああああ!? 」
「ふん、認めれば楽になれるものを。ふふ、全く虐めがいのある女だ!! 」
「がっ!? う゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? 」
辛い。苦しい。そんな事をいくら思ったところで、許してなどくれない。名前も呼ばれず、まるで人権を剥奪されたような扱い。しかもこの行為は私がいい大人なのにも関わらず、大泣きするまで続けられる。私の屈辱という想いを燻り出し、精神面を裸にされる。
これが手で叩かれているのならばここまではならない。しかし私を叩いているそれは乗馬用の鞭と言ってもいい代物だ。痛みが通常のそれとはわけが違う。
「うっ、うっ……も゛う……ゆるじでぐだざい゛……うっえぇぇん」
「はは、毎度いい大人がよく泣くものだ。いいだろう。今日はここまでだ。また明日タップリ虐めてやる」
私は数時間責められた後、やっと解放された。しばらく泣き止む事なく薄い毛布に包まりながら私は泣きつづける。私は早くも限界だった。死にたい。そんな願望が私を誘惑する。このまま舌を噛み切って死ねば、今すぐにでも楽になれる。
それが逃げなのは私自身よくわかっているのだ。でももはや限界。私はなんとなく舌を自分の歯で挟み込む。すると、またあの音が聞こえた。何かを傷つけるような音。響き方からして壁だろうか。毎日、一定間隔で聞こえるその音。しかし実祭見えない隣の事はいくら考えたところでわかるはずもない。
「貴方は……何をしてここに入れられたんですか? 刑務所ってこんなにも辛いところだなんて思いもしませんでした」
本当になんとなく、なんとなく私は音のする壁にもたれかかりながらそんな事をつぶやく。話し相手が欲しい。今の気分を晴らすためにそんな事をを考えた。でも当然答えなど返ってこない。いつの間にか音も止んでいた。そうなると、きっと私なんかとは話したくもないのだろうと余計卑屈なことを考えてしまう。
「そうだよね……私なんかと話しなんかしたくない……よね」
「気をしっかり持つ事だな、娘さんの為にも」
「え……今なんて!? ねぇ、今なんて!? 」
それ以上言葉は帰って来なかった。だが、かすかに聞こえた。聞こえてしまった男の声。確かに娘と言った。私の事を知ってる理由などこの時はどうでもよかった。ただこのワードは私の心を熱くしてくれた。温め、暖め……ヴィヴィオやフェイトちゃん達のことを思い出させてくれた。頑張る。死んでしまうその時まで。きっと外で待っていてくれるから。そう……かすかに見えた光は私を蘇られせてくれた。死のうと思った私を引き戻してくれたのだ。
「ありがとう」
翌日……目を覚ました私はあの音で目を覚ました。本当に何をしているのだろうか。音だけ聞こえる私はそれが気になって仕方がなかった。
「ねぇ……何してるの? 」
何か言って欲しかったが返事は返って来なかった。そしていつものあの時間がやってくる。ゆっくりと部屋の扉が開かれ、刑務官が現れた。またあの時間が、そう思うと苦痛で涙が出始める。泣けば許してくれると思っている身体がそう反応してしまっているのだろうか。
「いやぁ……」
「さぁ〜時間だぞ」
「お゛ら゛ぁあ゛あ゛!!! 」
「っ!? な、なんだ!? 」
「おいお前、何を騒いでいる!? 大人しくしろ!! 」
扉を蹴り飛ばすような大きな音。さらには他の見張りの人が大慌てでこっちへ向かう足音が聞こえた。目の前の刑務官も私の部屋から出て隣へと向かう。こんな事初めてだった。ここに来てこの時間がなくなった事が。
実際には隣で男が大暴れした為に私に構う時間がなくなったのだが、私は救われた。一度でも今時間がなくなった。それだけで私は救われた。
それから何故か時間が来るたびに隣で男が暴れる為、私を虐める時間が前に比べて格段に減っていた。毎日聞こえる私の悲鳴。もしかしてそれを聞いて隣の男の人はわざと暴れてくれているのではないのか。そう思うとなんだか不思議な胸の鼓動に襲われた。
そんないつもと少し変わり始めた刑務所生活が続いて何日経っただろうか。ある朝、いつも聞こえる音が聞こえなくなった。なんだか人の気配もない。
「おい、時間だ」
「うっ……と、隣の人はど、どうしたんですか? 」
いつもの刑務官がやって来て私を虐める時間が来た。私は怖かったが隣の男について切り出す。明らかに何かがおかしい。刑務官も妙に気分が良さそうなのだ。
「あ? ああ〜あいつなら今頃懲罰房だろうよ。へへ、哀れな奴だ、大人しくして入れば苦しむ事もないだろうに」
「え……」
この時少し楽になったと思った私を別の罪悪感が襲った。私が楽になった分、隣の男の人が苦しんでいる。だがそれは当たり前だ。刑務所で問題を起こせば、当然ただでは済まない。苦しい罰が待っている。
「あぐっ!? うっ!? ぎっ!? 」
「ん? なんだぁ? いつもみたいに泣かないのか? 面白くねぇーな? 」
「……ぃ」
「は? 」
「私は負けない! 貴方達みたいな最低な人達には絶対に!!! 」
「こ、この女ぁ……クソが!! 」
「いぎっい!? あ゛あ゛っ!? あぎゃっ!? まけっ、ないぎっ!? 」
私の態度に逆上した刑務官は私の尻を絶えず叩き続けた。皮膚は破れ、そこから少し血が出始める。でも私はこの時自分の信念に火をつけた。隣の男の人が苦しんでいる間は弱音は吐かない。この刑務官には絶対に負けないと。それが隣の男にできる唯一の誠意。お返しなのだと。
「ちっ! この間まで大泣きしてた奴が、どうしていきなり……もういい。今日はここまでだ」
悔しそうにし、刑務官は私の部屋から出て行った。いつも以上に傷つけられたお尻を手で撫りながら私は毛布をかぶる。泣きそうな心を必死に殺して、諦めない不屈を蘇らせる。
「負けないよ……だから貴方も頑張って」
まだ会話もロクにしていない。顔も知らない。にも関わらず私の心は彼に惹かれていった。こんなロクでもない場所で、辛い思いをしていた私の唯一の光。それを見せてくれた男の人。こんな状況であるから、私はきっとロクでもない勘違いをしているのかもしれない。本当は男の人もそんなつもりじゃないのかもしれない。それでも……それでも私は男の人に惹かれた。隣の部屋の彼に惹かれていった。
彼が戻って来たらもっと、今度はちゃんと話をしてみたい。勘違いかもしれないお礼を言いたい。ありがとうって言いたい。そんな思いが私を駆り立てる。
だから……私はまだ不屈でいられる。
◆◆◆◆
「彼からの連絡はまだなんか!? もう半年やで!? 」
「ちょっ、落ち着いてはやて!? 」
「うるさい人達ですね。静かに待てないんですか? 」
「なんやて!? 大体、あの男は脱獄なんて簡単に言うけど、そないな事本当にできるんか! それに中からって、警備だってどんだけ厳しいと思って」
あの男がエターナルに収容されて半年が経った頃、はやてと私は状況を聞きに男の助手である女の子の元を訪ねた。一見普通のアパートの一室。だがそこで見たのは十数台はあろうかというモニター。女の子はそれをジッと見ながら何やら作業をしている。訪ねて来た私達には目すら合わせようとしない。
「キリンとか言うたか? 君はどうしてあんな男の下で働いてるんや? 言いたくないけど、性格悪いであの男は」
「ちょっとはやて!? 」
「……キリンではなくキリナです。名前間違えないでください。頭悪いですね」
「な、ななな……」
「ダメだってはやて!? 今のははやてが悪いよ」
完全に冷静さを欠いているはやてはまともな精神状態ではなかった。ここ半年、この問題に着ききっりでロクに休んでいない。そうなればはやてがこうなるのも頷ける。私にしたってもう心が折れる一歩手前だ。しかし目の前のキリナちゃんを見てみるとはやてみたいに突っかかることはできない。よく見れば目の下にはロクに寝てないのかクマができており、机の上も眠気覚ましや栄養ドリンク。さらには簡単な栄養食らしきゴミが大量に置いてあるのだ。
「いい加減こっち向いて喋り! 」
「うるさいですね!!! 少し黙ってください!!! というか邪魔なんで帰れ!! 私は今貴方に構ってる暇はないの!! それに、あんな男なんて言いますが、貴方たちはあの人の何を知っていると言うのですか? 何も知りもしないであんな男なんて言うな!!! 私から見れば貴方達の方が腐って見える!!! 」
「なっ!? 」
「ご、ごめんねキリナちゃん。私達別に邪魔しに来たんじゃなくて。はやても疲れてるから。さっきのは許して……」
キリナちゃんは膨れてまたモニターに向き直る。私達は完全に嫌われているようだ。はやてはともかく、私もセットにされてしまったのはちょっと痛い。とはいえ、半年経った今でも状況がわからないのは事実萎える。だから少しでも状況を知りたいと思うのもまた本心だ。
「フェイトさんといいましたか? 」
「え? う、うん! 」
「通常この手の仕事でどれくらいの期間を要するのかわかりますか? 」
「え、えっと……実際数週間程度だと思ってた。ごめんね何も知らないんだ」
「最短で……1年。幸いエターナルの構造的には大した物じゃないからいいですが、もっと複雑な刑務所であるのならば2年かかります。それがどう言うことか……-貴方達にわかりますか? 」
「そ、そんなに!? え……でもキリナちゃん達ってこの仕事専門だって……まさか!? 」
今キリナちゃんがいっている話を驚愕しながら私もはやても聞いていた。ただ仕事をして1年、2年帰れないという言うのは、特殊な仕事なら珍しいことじゃない。しかしこの仕事は別だ。刑務所に1年、2年いる。それは刑期を1、2年過ごしているのと変わらない。仕事の度にその年数を無駄にしているといってもいい。
だからそんな仕事に100万で妥当。1億で高い。そもそもそんな線引きをすること自体おこがましかった。
「100万で妥当なんて思っていたんでしょうけど……それがどれだけずれてる思考かわかりましたか? 大体、BOSSは半年前に仕事を終えて帰ったばかりだったんです。それがどうして急にこの仕事をやろうなんて思ったか……私にはわかりませんけど……それに……まがいなりにも管理局の仕事を受けるなんて」
「どう言うこと? 」
「管理局の仕事はしないんか? 」
「いえ、刑務所が管理局の施設である以上は管理局管轄の仕事になりますが、刑務所からではなく管理局直属で受けるなんて今までなかったことですし。と言うよりも……BOSSは大の管理局嫌いですから」
初めて知っていく彼についての情報。どれを聞いてもこの案件に関わろうと考える人間じゃない。むしろ関わらないように動くのが普通だった。彼がもし本当に管理局嫌いだとすれば新たらしくできたエターナルの管理局員は関わるべきじゃない。目をつけられればロクなことにならないだろう。
「ど、どうして管理局嫌いなんや? 昔何か」
「私も聞いただけですが……BOSSは管理局で刑務官をしていたらしく。その時に冤罪をかけられて……殺されかけたそうです」
「え……」
「まさか……そないな事……あり得るわけ」
管理局がそこで働く刑務官を殺す。それは今の管理局を知る私達には到底信じられない話だった。
だが……
現場で働く私達が初めて知る事になる犯罪者が向かう刑務所。
そこにある闇を私達はまだ知らなかった。
次回もよろしくお願いします。