戦女神×魔導巧殻 第二期外伝 -ハイシェラ魔族国興亡伝- 作:Hermes_0724
ケレース地方の歴史において、最後まで残った国家は「イソラ王国」である。イソラ王国の家系は、一時的に断絶をしている。アーベルフ・クケルス王の時代、ハイシェラ魔族国との戦争において世継ぎである二人の王子を失い、イソラ王国は魔族国に降伏する。マーズテリア神殿の騎士であった「ヴィルト・テルカ」の妻となった王女「シュミネリア・テルカ」は人質となり、老いていたアーベルフは絶望のうちに死去するのである。しかし、程なく魔神ハイシェラの間隙をついてマーズテリア神殿が西ケレース地方に侵攻し、ハイシェラ魔族国は滅亡、イソラ王国も支配から解放されることになる。ヴィルトとシュミネリアの間にできた子を王子とし、イソラ王国は辛うじて、王家を繋ぐことが出来たのである。
後世においても、イソラ王国は「人間族のみ」の国家としてケレース地方の小国に留まっている。ルナ=クリアの次の聖女、ルナ=メアの時代では、マーズテリア神殿は闇神殿との対決姿勢を鮮明にし、アヴァタール地方南部からニース地方全土を統治下においていた「エディカーヌ帝国」、レスペレント地方の一大帝国である「メンフィル帝国」、リガナール半島中部の「ザルフ=グレイス帝国」と敵対することになる。その結果、マーズテリア神殿の影響が強いイソラ王国も、メンフィル帝国との交易関係が絶たざるを得なくなり、オメール山付近にまで拡大した勢力圏も縮小することになるのである…
エルネスト・クケルスは前を進む兄の背中を見ながら、来る決戦に向けて状況を整理していた。マーズテリア神殿からの返答は、まだ来ていない。義弟も何度か催促に動いてくれているようだが、状況は思わしくない。万一、マーズテリア神殿が動かないとなれば、作戦を見直す必要がある。だが一方で、籠城戦にも限界があった。イソラ王国はそれほど豊かな国ではない。籠城となれば民衆たちも城内に入れる必要がある。食料の備蓄もいずれは尽きてしまう。敵はターペ=エトフを占拠し、無限に近い兵站を持っている。悲惨な籠城戦になることは目に見えていた。マーズテリア神殿が動かない場合の最良の作戦は「降伏」であろう。だがその選択は出来なかった。ケレース地方唯一の「光の国」として、三百年に渡ってこの地を護ってきたのだ。父も兄も、そこに誇りを持っている。民衆たちも納得しないだろう。暗い表情を浮かべる弟に、兄が声を掛けた。
『エルネスト、笑顔を見せろ。お前は副将だ。そのお前がそんな表情を浮かべていたら、兵士たちが不安になるぞ?』
兄に諭され、エルネストはようやく笑顔を浮かべた。大将であるウィリアムが頷き、自分の考えを語る。
『確かに、マーズテリア神殿の確約は取れていない。だがお前の作戦が間違っているとは、俺は思わん。俺たちには一つ、有利な点がある。補給線だ。ハイシェラ魔族国は、イソラ王国に近づくほど、補給線が伸びる。俺達は逆に、補給線が短くなる。いざとなったら退いて、別働隊によって補給部隊を叩くという作戦もあるのだ。ここで粘れば、マーズテリア神殿も動くだろう。それに元ターペ=エトフ国民が、容易に支配を受け入れるとは思えん。魔神の留守中に反乱を起こすことも十分に考えられる。相手は魔神だ。悲観をしたらキリが無いだろう。だが戦場にそれを持ち込むな』
『兄上の言う通りですね。動き始めた以上、私は戦場を全力で想定します』
イソラ王国軍五千は、北華鏡平原の北東部に陣を構えた。
『出てきヤしたねぇ、生娘が…アッシらは五十年間も戦争を続けた精鋭、一方の生娘たちは人を殺したことも無いでしょうなぁ~ この戦場で処女喪失、ただし死ぬのは自分ってわけで』
シュタイフェの下品な表現をハイシェラは特に気にしていない様子であった。ルプートア山脈麓に陣を構えると、ハイシェラは単身でイソラ王国軍の陣に向かった。
突然、上空から赤髪の美女が降りてきた。その美貌に兵士たちが呆然とする。だがすぐに警戒態勢に入った。重装兵が槍を構える。ハイシェラは鼻で嗤うと気配を一変させた。現神にも匹敵する圧倒的な気配に、前衛の兵士たちが一斉に尻もちをついた。
«我が名は地の魔神ハイシェラ… 汝らの命を奪う者の名じゃ。死するまでの僅かの間、覚えておくが良い»
兵士たちが恐慌状態に陥る。ウィリアムもエルネストも混乱をしていた。魔族国を相手にする以上、最悪、魔神が出てくることも想定していた。魔神が恐るべき力を持っていることも知っていた。だが知っていること実感することは違う。エルネストは恐怖のあまり、口がきけない状態であった。兄であるウィリアムは、ようやく理解した。グルーノ魔族国との戦いで連戦連勝出来たのは、「魔神が出てこなかったから」に過ぎなかったのだ。馬を退きながらも何とか叫ぶ。
『か、か、掛かれぇ!』
だが腰を抜かした兵士たちが動ける筈がなかった。ガンナシア王国が滅びてから六十年、兵士の世代も変わり、誰も戦争を経験していないのである。ハイシェラが一歩を踏み出した。それだけで兵士の中には発狂する者が出現した。恐怖のあまり、白髪化する者、泡を吹いて気を失う者も出る。魔神の気配を開放したまま、ハイシェラは呆れた表情を浮かべた。
«…汝らはこれまで、何をしておったのだ?ターペ=エトフの兵士と比べると、まるで大人と子供だの。あまりに情けなくて目障りじゃ。消えるが良い»
右手を差し出し、純粋魔術を放った。「アウエラの裁き」である。小さな集落なら簡単に吹き飛ばすほどの爆発が起きる。陣の中央にポッカリと穴が空く。次を放とうとする前に、兵士たちが狂乱状態で逃げ始める。立ち上がることも出来ず、這いながら逃げようとする兵士に、ハイシェラも攻撃を仕掛けることを躊躇った。背中から討つことは、ハイシェラの「闘争の美学」が許さない。深く溜息をついて、逃げる兵士たちに背を向けた。ハイシェラが何気なく放った一撃で、およそ一千名の兵士が肉片と化した。不運なことに、二人の王子もその中に含まれていた。一方のハイシェラは、自分が大将と副将を討ち取ったことすら、気づいていなかった。
『お疲れ様でございヤした~ 強く!気高く!美しく!そこに痺れる!憧れるぅ!』
シュタイフェが出迎える。ハイシェラは首を傾げ、不満そうな表情を浮かべた。
『一体何なのだ、あ奴らは?ターペ=エトフでは、童のような衛兵ですら、剣を取って我に立ち向かってきた。いかに虫ケラといえども、戦場である以上、最低限の矜持というものがあろうに…』
『恐れながらハイシェラ様、ハイシェラ様の放つ圧倒的な「気」に立ち向かえる者など、そうはおりゃせんぜ?並の者であれば、腰を抜かすのが普通でしょう。ターペ=エトフの兵は「王国を護る」という使命感が、恐怖を上回っていたんでさぁ』
『なるほど、そういうものかの…』
ハイシェラは頷くと、前進を指示した。
イソラ王国王宮内は、大混乱の状態であった。一瞬にして息子二人を失ったアーベルフ・クケルスは卒倒し、そのまま私室へと下がった。父親に代わり、娘であるシュミネリア・テルカが陣頭指揮を執る。
『まだです!まだ私たちは、敗けたわけではありません!』
シュミネリアの指揮により、王宮内は無秩序な混乱から辛うじて逃れていた。だが、国王が不在の中で滅亡の危機が差し迫れば、保身を図ろうとする輩が出るのは亡国の常である。王宮内からは重臣が数名、消えていた。彼らの行先は明らかであったが、今はそれどころではなかった。戻ってきた兵士たちの大多数が、戦意を喪失している。王宮の近衛兵を中心に、西側の城壁の護りを固め、住民たちを地下の塹壕に避難させる。魔族国の軍は、約一日というところで陣を敷いていた。戦力の差は歴然としている。自分の夫がマーズテリア神殿を動かすことが、一縷の望みであった。
『姫様、マーズテリア神殿より使いの者が来ています』
待ちに待った知らせに、シュミネリアは思わず駆け出した。だが様子がおかしかった。謁見の間ではなく、別室で話をしたいというのである。人払いをされた部屋で、マーズテリア神殿総本山からの使者は、聖女ルナ=クリアの伝言を伝えた。その内容に、シュミネリアは激高した。
『…降伏?私たちに、滅びよというのですか!私たちを見捨てるつもりですか!』
『姫様、どうか落ち着いてください。聖女クリア様は、一時の屈辱に耐えて欲しいと申し上げているのです。クリア様は、魔神ハイシェラに「罠」を仕掛けようとしています。ですがそれには時間が必要なのです。マーズテリア神殿は決してイソラを見捨てません。必ず、イソラの街が再び輝く日が来ます。どうか、我々を信じて下さい』
シュミネリアは唇を噛んだ。混沌としたこの地に踏みとどまること三百年以上、自分たちは耐えに耐えてきた。二十年前の災厄から復興するために父親がどれ程に苦労をしてきたか、自分は知っている。
「まだ耐えろと言うのですか!」
シュミネリアはそう叫びたかった。だが叫んだところで、何の解決にもならない。兄二人を失い、国王は憔悴している。この状況で冷静さを失うわけにはいかなかった。溜め息をついて頷く。
『…解りました。それで、どれくらい耐えれば宜しいのでしょう?五年ですか?それとも十年ですか?』
『長くて三年、クリア様はそう仰っていました。どうか少しの間、雌伏をお願い致します』
腹が突き出た中年の男や、顔色の悪い痩せた男などが陣の中を歩く。やがて大きな天幕の中に通される。そこに坐する存在に、男たちは狼狽えた。赤い髪の美女が、大きく胸元を主張し、白い足を太腿まで剥き出しにして脚を組んでいる。普通であれば、どんな男でも獣欲が刺激されるだろう。だが男たちにそんな余裕は無かった。秀麗な顔に、あからさまに軽蔑の表情が浮かんでいたからだ。男たちは膝をついて礼を取った。青肌の魔人が主人に一礼して説明をする。
『ハイシェラ様、この者たちはイソラ王国の重臣とのことでヤス。アッシらを城内まで案内をしたいとのことです』
ハイシェラは鼻で嗤った。顔を伏せる男たちに命じる。
『表を上げよ』
不安げな表情を浮かべ、男たちは顔を上げた。軽蔑の表情のまま、ハイシェラは尋ねた。
『汝らに問いたい。見返りとして何を望む?』
太った中年男が、脂汗を流しながら、返答しする。
『わ、私たちの生命と財産の保証、それだけでございます』
『ほう?汝らの生命の保証とな?では、汝らの主人である国王の命は保証せずとも良いのだな?』
『そ、それは…』
男たちが顔を見合わせる。ハイシェラの口元が歪んだ。傍に控えていたシュタイフェは、思わず溜め息をついた。次の瞬間、中年男の頭が弾けた。脳漿が飛び散り、血が噴き出る。他の男たちは、何が起こったのか理解できていないようであった。ただ口元から野鼠のような声が漏れる。ハイシェラの怒気を前にして、蛇に睨まれた蛙であった。
≪呆れたものじゃ。逃げ出すだけならまだしも、主人を裏切った上で命を保証せよとはの。汝らのような下衆に、生きる資格など無いわっ!≫
一瞬で、全員の首が飛んだ。
イソラ王国西門の城壁は、極度の緊張状態であった。城壁に取り付けられた強弩の射程外に、ハイシェラ魔族国の軍が待機し、今にも襲い掛かろうとしていた。国王のアーベルフは消沈しながらも、玉座に座っている。しかし謁見の間を切り盛りしているのは、娘のシュミネリアであった。住民の避難確認や籠城に必要な食糧の備蓄などを確認する。降伏をするにしても、出来るだけ好条件で降伏をしなければならない。魔神の力の前では、どんな城壁も無意味だろう。だがイソラ三百年の歴史は、簡単に差し出せるものではない。絶望的な状況の中で、シュミネリアは足掻いていた。外から悲鳴が聞こえてきた。王宮内が騒然とする。扉が吹き飛ばされる。舞い上がる煙の中に、赤髪の魔神が立っていた。
≪弱い…弱すぎるの。マーズテリア神殿があると聞いておったから、もう少し歯ごたえがあると期待しておったのだがの?≫
ハイシェラは暗黒の気配を放ちながら、カツカツと謁見の間を歩いた。国王と思しき焦燥した男に持っていた生首を放る。周囲から悲鳴が上がった。
≪汝が王か?汝に代わって、愚かな虫ケラを誅してやったわ。有り難く受け取るが良い≫
だがアーベルフの反応は薄かった。ただ、アウアウと漏らすだけである。その様子に、ハイシェラの闘志は萎えた。この場にいる全員を皆殺しにして終わろうかと考えた時、一人の女が自分の前に進み出てきた。
『魔神ハイシェラ殿。私はイソラ王国の第一王女シュミネリア・テルカと申します。先の戦いにおいて二人の王子を失い、陛下は深く消沈しております。私が代わって「交渉」をさせて頂きます?』
≪フンッ…交渉?汝は何か勘違いをしておるようだの?戦って滅びるか、降伏して滅びるか、汝らに残されている途は二つに一つじゃ≫
柱の陰に隠れていた衛兵が、ハイシェラに斬りかかろうとしていた。だがシュミネリアはそれを睨み、首を振った。
『解りました。イソラ王国は降伏します。父に代わり、私が人質となります。ですので、どうか民には手を出さないでください』
ハイシェラは黙ってシュミネリアを見つめた。
≪…それだけでは不足だの。マーズテリア神殿、イーリュン神殿は直ちに取り潰しじゃ。神官たちを即座に追放せよ。あとは軍の武装解除じゃ。我が国の兵を一千ばかり常駐させ、ここを護らせる≫
『承知しました。その条件、お受けします』
『ひ、姫様…』
重臣たちや兵士たちが不安げな声を漏らす。ハイシェラは真顔のまま、シュミネリアを見つめた。
≪…気に入らぬの。汝の瞳は、諦め降伏する者のそれではない。何か強い決意を持った者の眼だの。なんぞ、企みでもあるのかの?≫
『……』
シュミネリアは魔神の気配に慄くことなく、黙ってハイシェラを見返した。ハイシェラの口元に笑みが浮かんだ。
≪面白い。汝のその希望を打ち砕くのも一興だの。汝は人質じゃ!プレメルまで連れて行く。せいぜい無駄な希望に縋るが良い≫
ハイシェラの哄笑が謁見の間に響いた。
『…そうですか。イソラ王国は降伏しましたか』
聖女ルナ・クリアは頷いた。イソラ王国の降伏により、マーズテリア神殿はケレース地方への足掛かりを失った。およそ半月ほどハイシェラはイソラに留まり、プレメルに戻ったという報告であった。聖騎士エルヴィンはともかく、陳情に来ていたヴィルト・テルカは明らかに不満の表情であった。怒りを辛うじて堪えながら、クリアに詰め寄る。
『クリア様、どうか私だけでも出陣の御許しを!魔神を滅ぼし、わが妻を取り戻してまいります。このままでは、わが妻の命が…』
『それは大丈夫でしょう。調べた限り、魔神ハイシェラという人物は「卑怯」を嫌うようです。イソラ王国が従う限り、約束を反故にするとは思えません』
『魔神を信用されるのですか!』
弟の激高を兄が窘める。肩で息をする弟に代わり、兄である聖騎士がクリアに尋ねる。
『聖女殿、貴女様はマーズテリア神殿最高の聖女と言われています。その御力も、その御知恵も、常人を遥かに凌駕しています。ですがそのため、私たちには理解できないのです。どうか貴女様の見通しをお教えください』
聖女は頷き、立ち上がった。
『…この数か月間、私は魔神ハイシェラについて調べてきました。ハイシェラの力は、従来の常識を超えています。単純な膂力、魔力だけならば、その力は現神にさえも匹敵するでしょう。「軍神の雷槌」をもってしても、滅ぼせないかもしれません。魔族国を滅ぼすには、魔神ハイシェラを本拠地から引き離すしかない…ここまでは宜しいですね?』
兄弟は頷いた。クリアはカツカツと部屋の中を往復する。
『私が感じた最初の違和感は、クケルス王から聞いた話でした。およそ二十年前、ハイシェラ魔族国とターペ=エトフは、ケレース地方を荒野に変えるほどの激しい戦争をしました。しかしその後、両国の間では小競り合いすらも起きていません。両国の間で和睦が取り交わされたのでしょうが、妙だとは思いませんか?ターペ=エトフには多くの民が暮らしています。当時高齢だったインドリト王は、自らの死を悟っていたはずです。そして自分の死によってターペ=エトフが滅亡し、そこに魔族国が進出してくることも…インドリト王はターペ=エトフの理想を継ぐ国として「エディカーヌ王国」を建国しました。ではターペ=エトフに生きる民は、どうするつもりだったのでしょう?そのまま魔族国の民として生きよ、と言うつもりだったのでしょうか?そんな筈はありません。「賢王」と呼ばれたインドリト・ターペ=エトフが真っ先に考えたのは、民の未来のはずです。恐らく、ハイシェラ魔族国とターペ=エトフとの間で、民衆についての密約が交わされています』
『具体的には、どのような密約でしょう?』
『ターペ=エトフには、十万から十五万の民が暮らしていると考えられています。その大多数をエディカーヌ王国に移す…という密約です』
『そんなことが可能なのでしょうか?十万の民が移動するなど、隣国のレウィニア神権国も黙っていないと思いますが…』
『そうですね。ですので、通常の移動手段ではないでしょう。恐らく、大規模な「転移魔法陣」を使うつもりなのでしょう。実際、この数か月間でターペ=エトフからの輸出量は徐々に減ってきています。民が減っていることで、物産量にも影響が出ているのでしょう。民衆の保護、およびエディカーヌ王国への転移魔法陣の維持…これがインドリト王が出した条件だと思われます』
『聖女様…その話とわが妻の救出の話が、どう繋がるのでしょう?』
イラついた表情で、ヴィルトが口を挟んだ。慌てて兄が窘める。クリアは笑った。
『申し訳ありません。少し、説明が長すぎましたね。私が申し上げたいのは、民衆の移送が完了するまで、魔神ハイシェラに罠を仕掛けることは難しい、ということです。先ほども申し上げた通り、魔神ハイシェラは約束を守る魔神です。過去の記録を見ても、襲撃した行商隊において「自分が闘うから他の者は見逃してくれ…」という頼みを受け入れ、実際に見逃している事例が複数あります。残忍、残酷ではありますが、自らの在り方に一定の規定を置いているようです。まして五十年に渡る戦争によって交わされた約束です。自らの存在を賭けて、ハイシェラは約束を守ろうとするでしょう。ですがこの約束が果たされた後、ハイシェラはどうするでしょうか?「ようやく終わった」と油断をするのではないでしょうか?私は、そこに至るまで「およそ三年」と推測をしました』
『油断をしたところに戦を仕掛ける、というのですか?』
『いいえ…ハイシェラに罠を仕掛けるのです。それがこれです』
聖女は、一枚の古びた羊皮紙を取り出した。