戦女神×魔導巧殻 第二期外伝 -ハイシェラ魔族国興亡伝- 作:Hermes_0724
とある獣人種が主に問うた。「生きるとは何ぞや」と。
主は答えた。「生きるとは即ち死すること」と。
とある獣人種が主に問うた。「死するとは何ぞや」と。
主は答えた。「死するとは即ち生まれること」と。
とある獣人種が主に問うた。「ならば神とは何ぞや」と。
主は答えた。「神とは即ち汝自身」と。
マーズテリア外典「アマグレア詩篇」より
圧倒的な魔神の気配を前に、ロコパウルは思わず息を呑んだ。ルナ=クリアが小さく足音を鳴らす。ロコパウルも頷き、謁見の間に入った。シュタイフェは気楽な表情で、傲然と脚を組む美しい魔神の横に立った。
『ハイシェラ様、マーズテリア神殿の方々です』
二十歩ほど離れたところで、ロコパウルは一礼し、一歩前に出た。マーズテリア神殿は国家ではなく宗教勢力である。国家間の外交であれば、国王を前に膝を折るのが外交儀礼であるが、神殿勢力の場合は必ずしもそれに倣う必要は無い。まして相手は魔族国なのである。一礼で十分と判断した。
『この度は、お目通りを頂きまして、誠に有難うございます。私はカルッシャ王国マーズテリア神殿神官長、ロコパウルと申します。後ろに控えるのは、女神官四名と騎士一名で御座います』
シュタイフェは不満げな表情を浮かべたが、ハイシェラは特に気にする様子はない。魔神の気配を抑えること無く、鷹揚に頷いた。
«我は「地の魔神ハイシェラ」じゃ。汝らは何用でこの地に来たのじゃ?我は忙しいのじゃ。手短に申せ»
ハイシェラはシュタイフェとは違う理由で不機嫌であった。マーズテリアは「闘いの神」である。黄昏の魔神との一戦ほどでは無いにしろ、それなりに闘争を愉しめると期待をしていた。だが目の前の連中からは、一名を覗いて闘志が全く感じない。後ろに控える騎士からのみ、強い殺気を感じていた。ロコパウルは微笑みながら、用件を告げた。
『ハイシェラ様のお情けに縋りたく、罷り越しました。実は、イソラの街に訪問したいという神官や騎士が、百名ほどいるのです。いずれも、イソラに親戚縁者を持つ者たちです。マーズテリア神殿はイソラから撤収を致しました故、彼らの願いを聞くことが出来ません。そこでハイシェラ様にお許しを頂きたく、お願い申し上げます』
ハイシェラは露骨に溜息をついた。ハイシェラにとって、そのようなことは瑣末以下のことである。虫ケラ百匹が入ろうが出ていこうが、どうでも良いことであった。あまりの小事に「好きにせよ」と言いかけた。だがその前に、シュタイフェが進み出た。
『誠に恐縮ではありますが、イソラ王国では光側神殿の進出を規制しています。マーズテリア神殿関係者を百名も送り込まれれば、我らとしても警戒をせざるを得ません。そちらの要望を受けた場合の見返りは、何でしょうか?』
ロコパウルは暫し瞑目し、顔を後ろに向けて頷いた。後ろに控える神官の一人が、羊皮紙を取り出した。ロコパウルがそれを受取り、シュタイフェに差し出した。
『マーズテリア神殿がご提供するもの。それは、貴国に眠りし「先史文明期の遺跡」についての調査情報です』
じっと観察を続けていた聖女は、ハイシェラの眉が動いたのを見逃さなかった。微かに、聖女の口元が綻んだ。
«
『恐れながら、アッシも初耳で御座いヤス。無論、アッシもケレース地方全土を知るわけではありヤせんが…』
羊皮紙を開いたハイシェラの顔色が変わった。どこかの洞窟が描かれているが、ところどころが欠けている。だがハイシェラの眼は、地図に描かれた「古代文字」に釘付けであった。マーズテリア神殿でも解読できなかった文字であったが、それはハイシェラの遠い遠い過去の記憶を呼び起こすものであった。地図には「Sierra Nesco」と書かれていた。
ルナ=クリアは顔を伏せ、眼だけで観察を続けていたが、ハイシェラの顔色が変わったことに一つの疑問を感じた。この魔神は先史文明期の遺跡に執着をしている。それは過去の調査から得た仮説であった。だが「何故、執着をしているのか」は解らなかった。
(この魔神の過去に、何があったのでしょうか?既に滅んだ文明の跡すら破壊する…それ程の「激情」を抱いているということでしょうか?あの地図は、どうやらハイシェラのお目当ての遺跡のようです。もう少し高く、売れそうですね…)
ルナ=クリアは少し前に出て、ロコパウルの背中に手を当てた。念話をしようとしたが、ロコパウルの首が縦に動いたのを見て、手を離した。さすが、大国カルッシャ王国で海千山千の貴族たちを相手に交渉をしてきた神官長だけある。ロコパウルはルナ=クリアと全く同じことを考えていた。ハイシェラはその様子に気づくこと無く、地図を見ながら尋ねた。
«この地図は何処で手に入れたのじゃ?»
『ターペ=エトフが出来る更に前のことです。我が神殿の賢者が、調査のためにこの地を訪れた際に、古代の遺跡を発見し、地図を残したと伝わっています』
«フンッ…で、汝らの要望を聞けば、この遺跡の場所を教えるというわけだの?»
『恐れながらそれともう一つ…イソラ王国王女シュミネリア・テルカ様をお返し頂きたく存じます。シュミネリア様は…』
ロコパウルが顔を後ろに向けた。
『…後ろに控える騎士ヴィルト・テルカの妻です。彼は妻の無事を按じて私共に同行をして来たのです』
«なに?シュミネリアの夫じゃと?»
ハイシェラがヴィルトに目を向けた。騎士は真っ直ぐに、魔神を見つめ返す。その眼は殺気で血走っている。ハイシェラに笑みが浮かんだ。
«シュタイフェ…シュミネリアを連れて参れ»
『ヘイッ!』
一礼し、青肌の魔人が席を外した。
シュミネリアは涙ぐみながら夫を見つめた。シュタイフェとパラバムに連れられて謁見の間に入った時、懐かしい夫の匂いを嗅いだ気がした。ハイシェラが笑みを浮かべながら、ヴィルトに声を掛けた。
«汝の妻は、この通り無事じゃ。これで満足であろう?さて、ロコパウルとやら。場所を教えてもらおうかの?»
『恐れながら…お返しは頂けないのでしょうか?』
ハイシェラは鼻で嗤った。
«汝らは何か勘違いをしておるようじゃの?我はこの地の支配者、その気になれば徹底して調査し、遺跡を見つけるという方法もあるのじゃ。面倒だから教えよと言っておるだけだの。このような中途半端な古地図一つで、大事な人質を返せと?どちらに価値があるか、童でも解ろうぞ?»
ロコパウルは瞑目した。やはり人質奪還までは難しかった。目の前の魔神が、遺跡に関心を持っていることは確かだが、何故関心を持っているのかが不明である以上、交渉は難しい。ロコパウルが諦めて同意をしようとした時、ヴィルト・テルカが叫んだ。
『魔神ハイシェラッ!一騎討ちを所望するっ!』
ロコパウルや他の神官が、驚いて止めようとする。だがルナ=クリアは、ハイシェラの表情を観察していた。赤髪の魔神には笑みが浮かんでいた。
『ヴィルト・テルカ殿…貴方は何を考えているのです。せっかく交渉が纏まりそうだと言うのに、それを全てぶち壊すつもりですか?今からでも遅くはありません。一騎討ちなどお止めなさい』
ハイシェラたちは王宮の前庭に出ていた。血気盛んな騎士をロコパウルが説教口調で止めようとする。だがヴィルトは首を振った。目の前に愛妻を捉えながら、諦めて帰るなど出来なかった。ロコパウルは溜息をついた。
『…これでは、マーズテリア神殿が魔族国に戦争を仕掛けたということになってしまいます。どうしてもと言うのであれば、残念ですが貴方を破門するしかありません』
『覚悟をしています。これは、私が独断で行うことです。兄にも、関係のないことです。どうか…』
ロコパウルはクリアに顔を向けた。聖女は瞑目したまま、頷いた。
«別れの挨拶は済んだか?ならばそろそろ始めようぞ。剣でも魔術でも、好きなように使うが良い。シュミネリアよ、汝の希望が打ち砕かれるところをそこで見ておれっ!»
剣を刺したハイシェラが、嗤いながら庭に出た。ヴィルトも自分の剣を受け取り、腰に刺す。ハイシェラに向き合う前に、確認をした。
『魔神ハイシェラよ。私は先程、マーズテリア神殿から破門を受けた。今の私は、一人の戦士だ。夫として妻を取り戻すために戦う。故に、マーズテリア神殿には一切、関係がない。それで良いか?』
«良かろう。先程の交渉のうち「親類縁者をイソラに送る」という点は認めようぞ。汝を嬲り殺しにした後で、連中との交渉を再開するとするかの。では、始めるとするかの…»
魔神と戦士が剣を構えた。ヴィルト・テルカは全身から闘気を昇らせた。相手が人間であれば、それだけで圧倒され、降伏をするだろう。だが魔神にとっては何処吹く風であった。
『おぉぉぉぉっ!』
ヴィルトの一閃をハイシェラの剣が受け止める。立て続けに連撃を繰り出すが、その全てが弾き返される。弾き返しながら、ハイシェラが愉快そうに嗤う。
«ヒトの分際としては、そこそこにやりおるの…じゃが、温すぎるわっ!»
ハイシェラが攻撃に移った。横薙ぎの一閃を辛うじて剣で受ける。だが凄まじい力に体ごと吹き飛ばされた。王宮の壁に叩きつけられる。
«軽すぎる…遅すぎる…その程度では闘いにすらならぬ。我から見れば、汝など路傍の蟻と同じだの»
『ま、まだだ…』
ヴィルトはフラつきながらも立ち上がった。首に掛けたマーズテリア神の紋章を引き千切る。ルナ=クリアが小さく呟いた。
『ヴィルト殿…貴方は、人を辞めるつもりですか…』
ヴィルト・テルカの気配が変わった。
『…我目醒めるは煉獄に棲みし竜騎士也 ヒトにして人に非ず 死徒にして使徒に非ず 無限を憎み夢幻へと帰さん 覇の理を持って 汝を紅蓮の炎に沈めん…』
ヴィルト・テルカの瞳が赤黒く変わる。一変した気配は、人間のそれでは無かった。
『禁忌「竜魔人化」…ヴィルト殿、貴方はそこまで…』
マーズテリア神殿騎士は、古代から伝わる様々な剣術、格闘術を修行するが、その中には「禁断の術技」が存在する。ヴィルト・テルカはその禁忌を破った。感情を憤怒と憎悪に染め上げ、魂そのものを変質させ、一時的に爆発的な力を得る。魔神にも匹敵する力を得られるが、その代償は計り知れない。ただの生命だけではなく、魂そのものの消滅を招くものである。
『止めてっ!ヴィルトッ!』
シュミネリアが叫んだ。目の前の男の変化に、ハイシェラの笑みが大きくなった。
«クックックッ…良いぞ、良いぞっ!これじゃ!これをこそ待っておったぞ。妻を奪い返さんと、己の命を賭け、それでも足らずに魂すらも捨てる!虫ケラが持ちし「愛」という力、それを捻り潰してこそ「完全な勝利」だの!»
…ゴォォォォアァァァァッ…
獣のような咆哮が響く。ヴィルトだった存在は、一瞬でハイシェラとの距離を詰めた。腹部を目掛けた突きを辛うじて躱したが、脇腹が微かに切れた。袈裟斬りを躱し、払いを避ける。ヴィルトの瞳は、まるで魔獣のようであった。剣撃を受け止めたハイシェラが満足げに頷く。
«やれば出来るではないかっ!先ほどとはまるで違うの!»
蹴りを腹部に放ち、引き剥がす。ハイシェラの気配が増大した。本気の一撃を出す。ヴィルトの首を目掛けて一撃を振り下ろす。だが…
«なんじゃと!?»
ヴィルトは左手から二の腕までを犠牲にして、剣を受け止めた。ハイシェラの動きが止まった瞬間に、右手一本で一閃を放つ。ハイシェラの首に剣が掛かる。
ドンッ
大きな爆発が起きた。ヴィルトは吹き飛ばされ、仰向けに落ちた。ハイシェラが左手を出している。純粋魔術を放ったのだ。
『ヴィルトォッ!!』
シュミネリアは泣きながら駆け寄り、夫の躰に覆いかぶさった。ハイシェラの首筋には、赤い筋が走っていた。左手を降ろし、ヴィルトとシュミネリアに近づく。
『もう、もう止めて下さい。夫の負けです!私はどうなっても構いません。ですから、どうか夫の命だけはっ!』
泣きながら夫を護ろうとする妻を見下ろす。そこには何の表情も浮かんでいなかった。
『シュ…シュミ…ネリア…』
微かに声が聞こえた。ヴィルトは竜魔人化から解かれていた。ハイシェラは無表情のまま、ロコパウルたちに顔を向けた。
『つまらぬ。我が闘ったのは全てを捨てた狂戦士であったはずだの。じゃがここにいるのは女に護られるただの弱者じゃ。興が覚めたわ。汝らの要望は受け入れよう。此奴らも連れていくが良い』
ロコパウルは一礼し、神官たちに手当を命じた。
『誠に有難うございます。お約束どおり、遺跡の場所をお教え致します』
ロコパウルは穏やかな表情のまま、遺跡の場所を告げた。
『遺跡の場所は「オメール山」の地下で御座います。山の北西部中腹にある亀裂から、入ることが出来ます』
ハイシェラは頷いた。
ヴィルト・テルカは意識不明のまま、船に載せられた。シュミネリアは夫に付きっきりで看病をしている。二人はカルッシャ王国で暮らし、イソラ王国に入らないことが条件で帰還を許された。甲板で海風に吹かれているルナ=クリアに、ロコパウルが声を掛けた。
『ヴィルト殿は辛うじて生命は無事です。ですが龍魔人化の影響が心配です。魂まで汚染をされているとなると、回復は難しいでしょう』
『禁断の術技を用いてまで、シュミネリア殿を取り戻そうとしたのです。それだけ、愛情が深かったのでしょう。今度はシュミネリア殿が、その想いに応える番です。彼女の愛情があれば、ヴィルト殿も魔境に堕ちず、こちら側に踏み留まるでしょう』
『それにしても、よくあの魔神が人質を手放す気になりましたな。いやはや、魔神というのは理解しがたいものです』
『恐らく…いえ、そうですわね』
ルナ=クリアは言葉を切って、同意した。
(恐らく、魔神ハイシェラは敗けたと思ったのでしょう。剣と剣との闘いに、魔術を使った。そのことが自分の美意識では許せないのでしょう。彼女は確かに魔神ではありますが、一般的な魔神とは一線を画しています。恐らく元々は古神なのではないでしょうか…)
『いずれにしても、交渉は成功しました。この地を見ることが出来ましたし、魔神ハイシェラ自身を観察することも出来ました。三月から半年以内に、ハイシェラは間違いなく、オメール山に向かいます。イソラに潜入させる人員の選出を急いで下さい』
『承りました』
ロコパウルが立ち去った後、ルナ=クリアは思考の海に沈んだ。
(魔神ハイシェラの力は想像以上に強大でした。竜魔人化したヴィルト殿は、兄である聖騎士エルヴィン・テルカすらも超えていたはずです。それを簡単にあしらった。ハイシェラの力は、魔神の域を超えています。罠を掛けて、プレメルを占領することは出来るでしょう。ですが、その後が問題です。あの魔神が戻ってきたら、全滅する可能性すらあります。あの魔神を討つ力となると…)
『「彼ら」に参戦してもらうしか、ありませんね…』
暫し瞑目し、ルナ=クリアは呟いた。
ターペ=エトフ滅亡から三年と四ヶ月が経過した。シュミネリアという人質は失ったが、イソラの街は半自治状態のまま、それなりの税収を齎している。マーズテリア神殿から来た百名も、イソラで自活をしている。シュタイフェは当初、内乱などの工作活動を懸念していたが、そうした行動は見えない。付けていた監視も、一週間前に解除をした。
『ハイシェラ様、本日が「最後の組」です。あれから三年…ようやく、終わりヤス』
感無量という表情で、シュタイフェが報告に来た。ハイシェラは頷き、宰相と共に「転移の間」へと向かった。ドワーフ族、獣人族、ヴァリ=エルフ族、イルビット族、人間族の各族長とその家族たち。ターペ=エトフの元役人たちが魔法陣の中に立つ。ドワーフ族長が、皆を代表して礼を述べた。
『シュタイフェ殿、今日でお別れです。裏切り者と誤解をした我らを、どうか許して下さい。そして…』
族長は赤髪の魔神に顔を向ける。ハイシェラの表情は少しだけ寂しそうであった。
『ハイシェラ殿、貴女様はインドリト王との約束を護られた。この三年間、我らは何一つ不自由なく、この日を迎えることが出来た。妙な申し上げ方だが、貴女様は「信頼できる魔神」です。どうか、末永くお達者で…』
『我は魔神だの。汝らより長生きするのは必定じゃ。汝らこそ、達者でな。インドリト王のように、生命を輝かせよ』
シュタイフェが術式を起動する。百名以上の人々が、まばゆい光の中に消えた。残光が弱くなり、部屋が暗くなる。ハイシェラは静かに呟いた。
『これで全てが終わったの。我にとっても忘れ得ぬ年月であったわ。生まれ変わりし日が来れば、再び会おうぞ。偉大なる王よ…』
一度頷き、ハイシェラとシュタイフェは、玉座の間へと戻った。
マーズテリア神殿総本山において、聖女ルナ=クリアを中心に魔族国討伐作戦を精査してた。エルヴィンが作戦の概要を説明する。
『今回は何よりも速度が求められる。我々はまず、レウィニア神権国軍との「合同訓練」という名目で、ブレニア内海を渡る。魔族国の注意が向かぬよう一旦は南下し、城塞都市シーランスに入る。その間、オウスト内海ではカルッシャ王国やバルジア王国の軍船二、三隻が動き、魔族国の注意を北に引きつけておく。時を合わせてオウスト内海の軍船は撤退し、我らはシーランス、プレイア間で訓練を開始、徐々に北上する。北の軍船が消えたことで魔神ハイシェラは安心し、オメール山に入るだろう。潜伏させた監視者から「魔晶石」を通じて知らせが届く予定だ。受け取り次第、電撃的に北上し、華鏡の畔を突破、一気にプレメルに侵攻する』
ルナ=クリアが言葉を継いだ。
『今回の作戦目標は、プレメルの占拠、宰相シュタイフェの捕縛、魔族国行政府の資料全てです。財宝なども残されているかもしれませんが、そのような物など捨て置いて構いません。最も価値があるのは、シュタイフェの中にある「知識」です。魔人シュタイフェは、必ず生かして捕らえて下さい。なお、プレメルには民衆も暮らしています。彼らには決して、手を出さないように』
全員が頷いた。エルヴィンが説明を続ける。
『皆の最大の懸念は、魔神ハイシェラが戻ってきた時のことであろう。皆、今まで闘った最も強い魔物、魔獣を想像してみろ…想像したな?魔神ハイシェラの前では、その魔獣が蟻に見えるほどだと考えておけ。余りにも強すぎて、ヒトの想像を超えている』
マーズテリア神殿が誇る精兵を預かる将たちである。この程度で怖じけるはずがなかった。だが何らかの対策が必要だという認識は一致した。ルナ=クリアが皆の顔を見て、対策を述べた。
『教皇猊下よりお許しを頂きました。今回の討伐には、マーズテリア神殿教皇庁直属「対魔特務機関」が同行します』
数瞬の沈黙後に、場が騒然となった。