ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
艦娘になって身体だけでなく心もじわじわと変わって行く天津風の葛藤やらなんやらが書きたかったです。
海水浴場の清掃があった次の日の朝方天津風が深刻そうな顔をして執務室の扉の前を何度も往復していた。
(うう・・・・お兄さんに買い物の付き添いを頼むだけなのになんでこんなに緊張してるんだろ?別に買い物なんか行かなくてもいいから?昨日の阿賀野さんと大淀さんの痴話喧嘩を見てから私ずっと変だよぉ・・・べっ・・・別に二人が羨ましかったわけじゃないし・・・でもお兄さんがこれ以上変態になるくらいなら私が・・・って何考えてるの私・・・いいや僕は男の子で・・・それでお兄さんはあくまでお兄さんなんだから・・・でもこのままじゃ僕・・・うん。よし!決めた!)
天津風は深呼吸を一回した後執務室のドアノブに手をかけた。
話は数週間前に巻き戻る。
最初は慣れなかった鎮守府での艦娘としての生活にもやっと慣れ始めて来た天津風はいつものように夕飯を済ませ寝支度をしていた。
(今日は初雪先輩のおかげで演習もいつもよりできたような気もするしお兄さんと二人っきりでお出かけできていい1日だったわ。でも長峰さん・・・やっぱり私のこと気づいてないのかしら?お兄さんもそう言ってたし気づかれない方がいいけどやっぱりなんだか寂しい・・・)
天津風はベッドで寝転がって一人そんなことを考えていた。
「おーい天津風ー」
部屋のドアの向こうから天津風を呼ぶ声とドアをノックする音が聞こえた
「わひゃぁ!お、お兄さん!?」
天津風は急な来客に驚いてベッドから飛び降りた
(こんな時間になんの用なの?でもお兄さんからこんな時間に私に会いに来てくれるなんて・・・ってなにドキドキしてるの私・・・別に嬉しくなんかないんだから・・・平常心平常心・・・)
天津風は自分にそう言い聞かせてドアを開け
「何よ?今から寝る所だったんだけど?」
提督に自分の心情がバレないように言ったつもりが彼を睨みつけてしまった。
(ああ・・・またやっちゃった・・・・私のバカ!)
「あ、ああ。なんかお前宛に荷物が来ててな。これなんだけど」
提督は少し申し訳なさそうに天津風に荷物を手渡してくる
「えっ・・・私宛・・?誰からかしら・・・?芹本さんから・・・!?ちょっと開けてみてもいい?」
(芹本さんから・・・?一体何かしら)
「あ、ああ良いけど芹本って誰だ?」
「私を艦娘にしてくれた科学者の人よ。それにしても今更荷物なんて何かしらね?何か施設に忘れ物でもしてたかしら?」
天津風は器用に小包のガムテープを剥がして中身を確認した。
「えーっと・・・・なっ・・・・・・!!!!!これって・・・!!!」
(み・・・水着!?それもこれ・・・・女の子のやつじゃない!こんなのお兄さんには見せられない)
天津風は自分の顔が一気に暑くなるのを感じた。
「お、おい 何が入ってたんだ?」
そんな天津風を見て提督は心配そうに聞いてくるが
「なんでも良いでしょ!?あなたには関係ないの!!とっとと帰りなさいよ!!!」
天津風は恥ずかしさのあまり部屋に戻ってしまう。
「はぁ・・・・またやっちゃった・・・きっとお兄さんもまた私のこと可愛げのないヤツだって思ってるわ・・・はぁ・・・なんで私お兄さんにあんなこと言っちゃうんだろ」
天津風は大きくため息をついた。
そして小包を恐る恐る開け、中から可愛らしいデザインのビキニタイプの水着を取り出す。
「うわぁ・・・やっぱり女の子の水着・・・・これを私に着ろって言うの?」
すると小包の中から紙が一枚はらりと床に落ちた。
「何かしら?」
その紙にはソラくんへ
と書かれている。
「手紙・・・?芹本さんから?」
よく見てみるとどうやら便箋のようだ。
天津風はその便箋を拾って読んでみることにした。
そこには
【ソラくんへ お元気ですか?
××鎮守府での暮らしには慣れてきましたか?
あれから身体の具合はどうでしょうか?
長峰くんもとても心配していました。
急にこんなものを送ったりしてごめんなさい。
夏も近づいてくるのできっとあなたには必要になると思って送らせてもらいました。
まだ女性ものの衣類に抵抗があるかもしれませんがきっと似合うと思います。
ソラくんくらいの年齢だと精神的に不安定な時期に更に艦娘化に伴う精神の不安定になる時期が重なるので経過が心配です。
落ち着いてからでいいのでお返事待ってます。
芹本海夏より】
そう書かれていた。
「それにしてもなんで水着?こんなものなくたって艦娘なんだから海には入れるのに・・・」
天津風はまじまじとその水着を眺める。
(これ・・・・・お兄さんに見せたら可愛いって言ってくれるかな?)
「って何考えてるのよ私!こんな格好見られたら恥ずかしくて死んじゃう!」
天津風は思わず水着を放り投げた。
放り投げられた水着は壁にぶつかって床に落ちる
床に落ちた水着を天津風は恐る恐る拾いに行きもう一度眺めて見る
「これ・・・本当にサイズあってるのかしら?あれからまた胸もちょっとおっきくなってきてるし・・・そ、そうよ!ただサイズが合ってるかどうか試すだけ!それだけなら・・・」
自分にそう言い聞かせ水着を着てみることにした。
覚悟を決めて姿見の前で服を脱ぎ始めたそんな時
「天津風?なにやら騒がしいですがどうかしたのですか?」
春風が突然玄関のドアから顔を覗かせている。
「ひゃぁ!は・・・春風!?ノックくらいしてよ!」
天津風は反射的に胸を隠した。
「いえ。何度かノックはしたのですが返事もなかったですし鍵も開いていましたから。それにしても何故水着を持って裸になっているのです?今から泳ぎにでも行くのですか?」
(しまった・・・!お兄さんから水着を受け取った後鍵かけるの忘れてたんだ・・・!どうしよう・・・恥ずかしいところ春風に見られちゃった)
「こ・・・これは・・・その・・・あれよ」
天津風は渋々春風に経緯を説明した
「なるほど。突然あなたに手術をした方から水着が送られて着たので寸法が合っているかどうか確かめようとするために服を脱いでいたと」
「そ・・・そうよ!文句ある?」
「いえ。ありません。それにしても可愛らしい水着ですね。きっとお似合いだと思いますよ」
「そう・・・かしら?でも私女物の水着なんか着たことないし・・・その・・・恥ずかしいというか」
「何をそんな恥ずかしがることがあるのです?」
「だ・・・だって私・・・少し前まで普通の男の子だったのよ?それに今だって身体は男のまま・・・それなのにこんなの着るなんておかしいじゃない・・・」
「そうでした。あなたは艦娘になる前は普通の男の子として生活していたのでしたね。そう思うのがきっと普通なのでしょうね・・・わたくしも男ですがずっと女物の服を着せられて育ってきた手前思慮が足りていませんでした。申し訳ありません」
春風は頭を下げた
「と・・・とりあえずそんなところでずっと顔出してないで上がるか出て行くかどっちかしなさい」
「そうですか。それではお邪魔させていただきます。わたくしでよければお手伝いしますよ」
春風は天津風の部屋に上がり込んできた。
「て・・・手伝いってこれくらい別に一人で着れるし・・・」
「良いではないですか。わたくしもその水着を着た天津風を見てみたいですし」
「あなたそっちが本心でしょ・・・」
「さてどうでしょうか?」
「うう・・・わかったわよ!着れば良いんでしょ着れば!」
天津風は半ばやけくそになり水着を身につけてみようとするが初めての女性ものの水着をどうやって着ればいいのかわからない上に着替える所を見られている恥ずかしさからなかなか上手く身につけることができなかった。
「・・・あれ?ここどうすればいいの?こうじゃないし・・・ああもうっ!男の頃は水着なんか下だけ履いたら終わりだったのに!なんでこんなめんどくさいことしなきゃいけないのよ!」
天津風はむしゃくしゃして水着のトップスを床に叩きつける。
そんな様子を春風は微笑ましく見守っていた。
「そんなにむしゃくしゃしないで落ち着いたらちゃんと着れますよ」
「もう!ジロジロ見られてるのに落ち着けるわけないじゃない!見てないでなんとかしなさいよ!」
「はいはい。わかりましたから落ち着いてください。そこの紐は首の後ろで括るんです。わたくしがして差し上げますね」
春風は慣れた手つきで水着を天津風に着せていった。
天津風はそんな水着を着た自分の姿が恥ずかしく鏡から目をそらしたりしていたものの恐ろしくサイズがピッタリ合っていたことに驚きを隠せなかった。
「はい。これで完成です。やはりよく似合っていますよ天津風」
「そ・・・そうかしら?でも私男なのよ?こんなの変なんじゃない?嘘ついてるんでしょ?」
「そんな嘘ついて何になるんです?そう思うのでしたら鏡を自分でご覧になってみてはいかかですか?」
「うう・・・わ・・・・わかったわよ・・・・ありがと」
春風に促され恐る恐る鏡に目をやるとそこには水着を身にまとった少女が立っている。
(こんなにサイズもピッタリだし・・・それに下もスカートみたいになってておちんちんも全然目立たないし全然変じゃない・・・かも?これならお兄さんも・・・・)
天津風はそんなどこからみても少女にしか見えなくなってしまった自分の外見にどこか寂しさを覚えたがそんな自分自身の姿に見とれているのも事実だった。
「天津風・・?天津風!」
そんな春風の声で天津風は我に返った。
「べっ・・・別に見とれてたわけじゃないんだから!ただ変なとこがないか注意深く見てただけ!」
「わたくし何も聞いていませんけど・・・・ということはあなたもその水着を気に入ったということですね?」
春風にそう言われて一気に天津風の顔が赤くなる
「うう・・・・」
「でも何故今水着なんでしょうね?私も出しておかなければ」
「春風は水着持ってるの?」
「ええ。一応用意はしていますよ」
「そ・・・それなら私だけ不公平じゃない!あんたの水着も見せなさいよ!」
「わたくしの水着が見たいのですか?天津風がそういうなら見せて差し上げます!少し待っていてくださいね!」
春風は天津風のそんな言葉を聞くと待ってましたと言わんばかりに嬉々として部屋を飛び出していった。
「な・・・なんなのあの自身の溢れる表情・・・それにしてもこれじゃあ私・・・もう男の子には見えないじゃない。これじゃあ長峰さんにも気づいてもらえなくて当然よね・・・今の姿をお父さんとお母さんが見たら僕がソラだって気づいてくれるかな・・・・」
天津風は鏡に映った自分に問いかけた。
それからしばらくしてドアをコンコンと叩く音がして
「お待たせいたしました!わたくしも水着を着て来ましたから開けていただけますか?」
ドアの先から春風の声が聞こえた。
「鍵かけてないからそのまま上がって」
天津風がそういうとドアがゆっくりと開き
「それでは改めてお邪魔しますね」
何故かコートを着込んだ春風が部屋に入って来た
「な・・・なんでコート?」
「流石に今の時期に水着のまま外に出るには抵抗がありましたので羽織ってきました」
「外っていってもあんたの部屋すぐ隣だしそれで泳ぐんだから別に良いじゃないそんなの」
「そうですか・・・それでは見ていただけますかわたくしの水着・・・!」
「はいはいわかったからさっさと見せなさいよ」
「それではいきますね!はいっ!」
春風はコートをばさりと開く
(なんだか露出狂みたいね・・・・ってな・・・なにそれえぇぇ!!)
コートの中から現れたのはふんどし一丁の春風だった。
「きゃぁ!ななななんでふんどしなのよ!それにせめて胸くらい隠しなさいよ!」
天津風は思わず顔を手で覆った
「あら?ダメでしたか?でもこれ・・・とても男らしいと思いません?本当は女性ものの水着もあるのですがこちらの方が男らしくていいかなと・・・どうです天津風?わたくし男に見えますか!?」
(確かに春風の体つきは今の私よりずっと男らしいけど・・・・でも流石にこれはダメ!ただの変態じゃないこんなの)
「絶対女の子水着の方が良いわよ!そのふんどし一丁はやめといた方がいいわ!それに絶対女の子の水着の方が似合うから!!絶対そうしたほうがいいわ!」
天津風は必死で春風を説得した
「そうですか・・・残念です。やはりまだ修練が足りないのですね・・・天津風がそう言うならそうします。でもいつかはきっとふんどしの似合う男になって見せます!」
春風は残念そうにコートを羽織った。
「修練とかそういう次元の話じゃないと思うんだけど・・・でもなんで春風はそんなに男らしくなりたいの?ずっと女の子でいることを強制された反動とか?」
「確かにそれもあると思います。わたくしが艦娘になったのも家の威信の為と艦娘になってしまえば女性として生活せざるを得なくなるだろうという父の判断でしたし・・・それでもわたくしは男でありたかったんです。父から離れて尚更そう思うようになりました。でもそれは父に対する反抗なんかではなくわたくし自身の意志だと思います。どれだけ女性として育てられてもそうあるように強制されてもわたくしは男なのですから。それならば男らしく生きてみたいと思うのはいけないことでしょうか?あなたはどうなのですか天津風?わたくしと違って艦娘になって身体に大きな変化もあったようですが普通の男の子だった頃が恋しくなったことはありませんか?」
「無いって言ったら嘘になるけど艦娘になるって決めたのは私自身だしそれを否定してしまったら私は・・・でも結局のところ私自身もよくわからなくて・・・変でしょ?」
天津風は自嘲した。
「いいえ変ではありませんよ。わたくしも女性であることを強制されていた頃は自分の性のことで悩んでいましたし、他人にわたくしの考えを押し付けてしまえばきっと押し付けられた側はわたくしのように苦しむことになってしまいまうと思います。ですから天津風、今はどちらを取るや捨てるではなく悩めばいいのでは無いでしょうか?ごめんなさい。変なことを聞いてしまいましたね・・・きっとわたくしは普通の男の子だったあなたが羨ましかったのかもしれません。そんなあなたが普通の男の子であることをやめてまで艦娘になったことも私からすればどうしてそれを捨ててまで艦娘になった事を心のどこかで嫉妬していたのかもしれません。でもあなたはわたくしなんかよりももっと辛い思いをしてここに居るのにそんな感情を抱いてしまったわたくしがどれだけ浅ましいか・・・わたくしはそんな女々しい自分が嫌いで・・・そんな女々しさを捨てて男らしくなりたいとそう思っているのです」
「春風・・・」
「ごめんなさい。話過ぎてしまいましたね。それでは夜も遅いのでわたくしはそろそろお暇します。付き合っていただいてありがとう天津風。お騒がせしました。それではおやすみなさい」
春風はそう言い残すと部屋から出て行ってしまった。
「普通の男の子が羨ましい・・・か。私も普通の男の子で居たかったけど・・・それより私はどんな酷いことをされてもお父さんが側に居る春風の事が羨ましいけどな・・・・」
一人部屋に残された天津風はポツリと呟く。
「はぁ・・・何考えてるのかしら私・・・きっと色々あって疲れてるのね。さっさと寝てしまいましょう」
天津風はため息を一つ吐くと水着を脱ぎ、寝間着に着替え直して眠りについた。
それから数週間後海水浴場を美化する仕事を鎮守府ぐるみで頼まれていた日の早朝、天津風は部屋をノックする音で目を覚ます。
「うぅ・・・何よ・・・まだ朝の5時じゃない」
天津風は重い体を起こしてドアを開けると春風が立っていた
(こんな朝っぱらから何の用よ・・・)
「おはようございます天津風!いい朝ですね」
「何がいい朝よ!まだ5時なのよ?叩き起こされて最悪の朝よ」
「ごめんなさい・・・つい張り切ってしまって。いつもはこれくらいの時間に起きて身支度をしているのですが今日は少し早く起きてしまったものですしわたくし方向音痴なので集合場所までご一緒してほしくて」
「それにしたってまだ集合時間まで後3時間もあるのよ!?幾ら何でも早すぎるわよ!」
「そう・・・ですか・・・起こしてしまってごめんなさい」
「ああわかったわよもう今更寝る気にもならないし付き合ってあげるからからちょっと待ってて」
「本当ですか?ありがとうございます」
天津風はドアを閉めて身支度を済ませた。
「お待たせ。それじゃあ行きましょ」
「はい」
天津風は春風を連れて集合場所の海岸に向かうと既にシートと簡易テントが貼られているのが見えた。
「ここで待ってろってことかしら・・・ってあれは」
テントの方に近づくと金剛が一人で体操をしている。
「まさか私たちより先客がいるなんて・・・」
「まだ一人しか来ていないのですか・・・」
二人はそんな人影を見て正反対の言葉を漏らした。
(いやいや流石にまだ5時過ぎなんだから誰もいない方が普通でしょ)
天津風はそう思ったが反論するのも面倒なくらいに眠たかったので言わなかった。
「金剛さん、おはようございます」
春風が体操をしている金剛に声をかけた。
「oh!ハルカゼにアマツカゼデース?グッドモーニングデース!早いネー」
二人に気づいた金剛はそう返した
「金剛さんこんな朝の早くから一人で何やってるの?」
天津風は尋ねる
「日課のランニングと簡単なエクササイズデース!いつもは鎮守府の周りでやってるんデスが今日はここ集合だと聞いてせっかくだからと思ってビーチでやってたんデース」
「日課・・・それじゃあ毎日こんな朝の早くからやってるって事!?」
「YES!最近4時くらいには目が覚めちゃってやることもないしフィットネスデース!体型維持も大変だからネ・・・そうデース!そろそろランニングをしようと思っていたんデスけどアマツカゼたちも一緒にどうデース?」
「私は眠たいからパスで・・・」
「そうデスか・・・残念デース・・・でも無理はいけまセーン!まだ時間もありますしテントでゆっくりしてるといいヨー!ハルカゼはどうするデース?」
「是非わたくしご一緒させてください!金剛さんがこんなにすといっくな方だとは思いませんでした!尊敬します!」
眠そうな天津風を尻目に春風は目を輝かせている
「そこまで言われると照れちゃうヨーそれじゃあひとっ走り行ってくるデース!」
「はいっ!お手柔らかにお願いします!」
金剛と春風はそう言って走り去ってしまった。
(なんでこんな朝っぱらから元気なのよこの二人は・・・)
天津風は二人の背中を眠そうな目で見送った。
「誰もいなくなったことだし少しテントで横になろうかしら」
天津風はテントに入って腰を下ろす。
「このテントもなんだか懐かしいわね」
テントの天井を見つめた天津風は以前の自分のことを思い出していた。
(毎年長峰さんたちが海水浴場の整備とかやってるの遠くから眺めてたっけ。毎回めんどくさいとかなんとか適当な理由つけて手伝わなかったけど結局やることもないから眺めてたのよね・・・長峰さんたちはいつもなんだかんだで僕のこと気にかけてくれてたのに・・・なんでもっと素直に受け入れられなかったんだろう・・・?)
天津風は以前の自分のことを悔いていた。
それからしばらく天津風がぼんやりとしていると
「あら?もう誰か来てる?」
「せめて先に待っているくらいの時間で来たつもりだったんだが」
聞き慣れた声が聞こえて天津風は反射的に身構える。
(な・・・長峰さんに奥田さん!?って二人が頼んできた仕事なんだから来て当然よね・・・でもなんだか気まずい・・・)
そんな天津風に気づいたのか
「や、やあ天津風ちゃんおはよう君一人なのかい?」
長峰が声をかける
「違います。金剛さんと春風もいたんですけどランニングに行っちゃって」
天津風は消えそうな声でそう答えた。
「そうだったのか。こんなに朝早くから来てくれてありがとう」
「い、いえ仕事ですから」
「仕事・・・か」
長峰は少し悲しそうな顔をして会話はそこで終わってしまった。
そして二人が黙っていると
「朝から来てくれたのこの人愛想悪くてごめんね。はい、お茶飲む?」
奥田が持っていたクーラーボックスの中からペットボトルのお茶を取り出して手渡した。
「は、はい・・・いただきます」
天津風はそれを受け取って飲み始めた。
「どう?あの鎮守府は楽しい?」
奥田は天津風に問いかける。
「えっ・・・!?」
急な問いに天津風は驚きを隠せなかったが
「急にごめんね。お兄さん年端もいかない艦娘の子がどう思ってるのか気になってね・・・答えたくないなら答えなくていいけどよかったら教えて欲しいな」
奥田はそう続けた
「楽しい・・・です。提督はちょっと頼りないけどみんなこんな私にも優しくて・・・」
それを聞いた長峰は一人安堵の表情を浮かべていた。
「そう・・・変なこと聞いちゃってごめんね。まだ時間あるからゆっくり休んでね。もしかして僕たちがいたら落ち着かなくてゆっくりできない?」
「そ・・・そんなことはないです!邪魔にならないようにしてますからぼ・・・・私のことは気にしないでください」
「そう。それならここで長峰と一緒に待たせてもらうね」
それからしばらくして金剛と春風がランニングから戻って来た。
「うーん!今日も走ったデース!走った後は潮風が気持ちいいネー!」
「はぁ・・・はぁ・・・金剛さん待ってください・・・・」
金剛はまだ余力があるが春風の方は息を上げている。
「君、春風ちゃん・・・だっけ?初めまして。僕は××町観光協会副会長をやってる奥田陸って言います。あっちの無愛想な方は会長の長峰。よろしくね。君ランニングで疲れてるみたいだしこれあげるね。これ飲んでゆっくりしてて」
奥田はクーラーボックスからお茶を取り出して春風にお茶を手渡した。
「は・・・はい。ありがとうございます。いただきます・・・ぷはぁ!生き返ります!」
春風がお茶を飲み干して居る横で金剛が長峰と奥田に気づく
「oh!もしかして長t・・・・・むぐっ!な・・・なにするデース!?」
名前を言いかけた途端奥田は猛ダッシュで金剛に近づいて口を塞ぎ
「ごめんなさい金剛。その名前はちょっとあの子に聞かせる訳にはいかないの」
と金剛に耳打ちした
「・・・?よくわからないけどわかったヨー!ところでなんで二人はこんなことしてるデース?」
「これが今の仕事なんだよ。ね、長峰観光協会会長?」
「長峰・・・そういえばそんな名前でしたネー」
「あ、ああ。色々あってな。お前の方もその後色々あったようだが?」
「そうデース!まさかここにくることになるとは思わなかったけどネー!でもケンもワタシ好みのBOYで毎日退屈しないし来てよかったヨー!!」
「はぁ・・・謙くんも追い回してるの?」
奥田は呆れたようにため息をつく。
(長峰さんたちと金剛さん知り合いなのかしら・・・?)
天津風は金剛たちの会話を不思議そうに眺めていた。
「積もる話もある。ここではなんだから向こうで話さないか?」
長峰が遠巻きの岩陰を指を指した。
「向こうでデース?ここでじゃダメなんデース?」
「こっちにも色々あるの。特にこっちのほうが訳ありでね」
「ふぅん・・・わかったデース!それじゃあワタシは二人と話してきマース!それじゃあ行くデース」
金剛は天津風たちにそう言って長峰たちと共にテントから少し離れた岩陰の方に歩いていった。
そしてテントには春風と天津風の二人が残され海の波の音が聞こえてくる。
天津風は長峰たちが居なくなり緊張から解放されたのかぐったりと横になってため息をついた。
「はぁ・・・金剛さん騒がしい人だけど居なくなったら居なくなったで退屈ね・・・早く集合時間にならないかしら」
「そうでしょうか?波の音を聞いて居ると落ち着きませんか?」
「こんなんじゃ落ち着かないわよ。もう嫌という程聞いてるんだから・・・もう聞き飽きたわこんな音」
「あら?天津風はわたくしより後でここに来ましたよね?艦娘になる以前もお住いは海の近くだったのですか?」
「え、ええ・・・そうだけど・・・」
「そうなのですね・・・わたくしはずっとこんな感じでしたが艦娘になる前のあなたがどんな男の子だったのか少し興味が出て来ました。同年代の男の子がどんな風に生活をしているのかわたくし知りませんから」
「べっ・・・別に普通の男の子だったわよ・・・普通の」
「普通の・・・ですか?その普通がわたくしにはわかりません。しかしそんなあなたが親元を離れて一人で艦娘をしているなんて・・・さぞ大変でしょう?わたくしは艦娘になる道しか選ぶことはできませんでしたがあなたはたくさんの選択肢から艦娘になることを選んだのでしょう?それはとても立派なことだと思います。わたくしがそれしか知らないからそう思うだけかもしれませんが・・・」
「立派・・・?全然立派じゃないわ・・・それに私だって出来ることなら普通の男の子で居たかったわよ・・・」
「つまり艦娘にはなりたくなかったと?」
「そ、それは・・・違うけど・・・・でも最近艦娘になってから他にもやりたい事とかしたい事があったんじゃないかな・・・って思う事はあるわ。それに気づけたのも艦娘になってからっていうのは皮肉でしょ?僕・・・私だってできることなら普通に学校に通って遊んで勉強して友達を作ったりしたかった・・・でも今の暮らしも結構気に入ってる。だから胸を張って艦娘になってよかったって思えるように・・・静かな海を取り戻した後にやりたいことを探すために私は今ここにいるの」
「そうですか。意地の悪い質問をしてごめんなさい天津風・・・あなたはわたくしが思っていた以上にしっかり考えて居たのですね」
「なにそれ皮肉?」
「いえ!そんなあなたを尊敬します。私も艦娘でありながら男の中の男になる夢絶対に叶えてお父様に一泡吹かせてやります!天津風の見つけた目標とどちらが先に果たせるか競争しましょう」
春風は目を輝かせて天津風を見つめた
「なにそれ私まだスタートラインにすら立ってないんだけど・・・・でもいいわ。それくらいのハンデはあげようじゃない!絶対負けないんだから!」
天津風はむくりと起き上がって春風を見つめ返す。
それを聞いた春風は嬉しそうにクスりと笑った。
「はぁっ・・・これが漫画で読んだらいばる・・・と言うものなのですね!今日からあなたはわたくしのらいばるです!これからわたくしと高め合って行きましょう天津風!」
「はぁ・・・あんたって結構暑苦しいところあるわよね。夏場なのも相まって暑苦しいったらありゃしないじゃない・・・でもそんなところ嫌いじゃない・・・・かも」
天津風は気恥ずかしそうに春風から目線をそらす。
「ふふっ・・・!」
「なにがおかしいのよ!?」
「いえ嬉しいんです。同じような境遇の年の近い方と毎日こうやってお話ができることがとっても!わたくし艦娘になって良かったです!」
春風は嬉しそうに天津風の手を取る。
天津風はその言葉が嬉しかったが自分の表情が緩むのを春風に見られるのが恥ずかしかったのか手をほどいて後ろを向いた。
「ちょ!あんまり引っ付かないでよ暑苦しい!でも・・・私も転校ばっかりだったし学校もここ何年かロクに行ってなかったりで友達なんか居なかったからあなたや吹雪と知り合えたこと・・・・悪くないと思ってるけど」
「ん?何です?最後の方が聞き取れなかったのですが」
「な・・・・何でもないわよ!」
「え〜本当ですか?」
「本当よ!あ〜眠い眠い!ちょっと横になるわ」
「ふぅ・・・相変わらず恥ずかしがり屋さんですね天津風は」
「別に恥ずかしがってなんかないわよ!!」
その後も横になった天津風に春風は話しかけ続け、天津風はめんどくさそうにしながらもしっかりと返事を返し続けた。
それからしばらくして提督達や他の艦娘たちもテントに集まりはじめ作業開始の時間になると長峰があいさつや清掃の班分け、予定などを説明した。
「・・・以上だ。私が振り分けた班の通りに別れて各自行動してくれ。すでに協会員が持ち場で待機している」
天津風たちはブイやクラゲ避けのネットの点検や張り替えを任された。
「はぁ・・・艦娘の力をこんなことに使っていいのかしら・・・」
天津風は不満そうな言葉を漏らす
「激しく同意・・・私はねてたい・・・・帰りたい・・・」
そんな言葉に初雪が続けた。
「も〜ダメだよ二人とも!どんな辛い時でも那珂ちゃんみたいにスマイルだよ〜?きゃはっ☆」
そんな二人に那珂は笑いかけるが
「那珂ちゃんさん・・・暑苦しいです」
「うん・・・あつい・・・熱中症になる・・・・」
天津風と初雪は冷ややかな目で那珂を見つめつつ仕事に戻った。
それから不平不満を言いつつも着々とこなして行き昼休憩の時間まで後少しと言う時に
「はぁ〜やっぱりこれだけいっぱいいるとすぐに片付いちゃうね!去年はこれ全部阿賀野とイク先輩だけでやってたんだよ」
阿賀野は手袋で汗を拭って得意げに言った
「イク先輩って・・・?」
天津風は首をかしげる
「イク・・・?あっ、そういえば・・・いなくなってる・・・どこ行ったの?」
初雪も不思議そうに阿賀野に尋ねた
「ああ天津風ちゃんたちは知らなかったよね?提督さんがくる少し前までここに居た潜水艦の艦娘だったんだけど急にやりたいことが見つかったからって鎮守府を飛び出して今ショッピングモールでお洋服を売ってるの!なんでも阿賀野に似合う服とか探してくれてるうちにそういうことがもっとしたいって思ったらしくって・・・それじゃあ来年この整備全部阿賀野一人でやらなきゃいけないの〜!?って思ったけどこれだけみんなが来てくれたから心強いよ〜」
「そう・・・だったんだ・・・通りで見かけないと思った」
納得するようなそぶりを見せる初雪の隣で天津風はやりたいことを見つけて艦娘を辞めて去って行った先輩がいるという事と今のこの生活を投げ捨ててまでやりたいことに自分はこれから出会えるのかどうか少し不安に思った反面自分にももしかしたら何かが見つけられるかもしれないと思った。
次の瞬間
「あ〜っ!」
急に阿賀野が声を上げた
「なぁに阿賀野ちゃん?」
「そろそろお昼だよね。もう作業も半分以上できてるしちょっと早いけど切り上げちゃお!長峰さんたちが用意してくれるご飯すっごく美味しいんだ〜今年もいっぱい食べちゃうから!さ、みんなも早く行こっ!」
阿賀野は作業を中断し、休憩場所である海の家の方に舵をとった
そんな阿賀野の背中を天津風達は追いかけぽつりと残された那珂は
「いいなぁ・・・阿賀野ちゃん食べても太らないし・・・スタイルもいいし・・・って那珂ちゃん置いてかないでよ〜」
そう呟いて阿賀野を追いかけた。
そして海の家に入ると愛宕が阿賀野や天津風たちを出迎えた。
「あら?あなた達早かったわね。っていってもそれだけ居ればもう作業もだいたい片付いたって事かしら?」
「な・・・・あ・・・・愛宕さん!?なんて格好をしていらっしゃるんですか!?」
春風はそんな愛宕の姿を見て顔を真っ赤にする
「ええ〜これ?お昼休みは私はみんなに豚汁よそう係なの〜だからエプロン」
「だ・・・だからってそんな・・・・裸にエプロンなんて・・・そんな・・・はしたないですっ!」
「あら?これ裸じゃないわよ?ほらっ!」
愛宕は恥ずかしがる春風を見てエプロンをたくし上げた
「きゃー!な・・・・なにをしていらっしゃるんですか!?」
春風は手で顔を覆い悲鳴を上げる。
その横で吹雪達も手で覆ったが
「も〜そこまでおどろかないでよ〜ほらスパッツ!」
「す・・・すぱっつ?」
春風は恐る恐る指の隙間から愛宕を見た。
「ほらサポーター2重に履いてアソコも目立たないんだから!ちゃんと上もタンクトップ着てるのよ?」
愛宕は得意げに胸を張った
「でもなんでそんな格好を?」
吹雪は尋ねた。
「ああこれね。こっちの方がウケがいいのよ♡」
「は・・・はぁ・・・・うけ・・・?」
吹雪は首をかしげた。
「せっかく来たんだから早くご飯食べちゃわない?ここも混んじゃうし休憩時間も長くとれるわよ?」
愛宕がそう言うと
「はいはいはーい!阿賀野豚汁大盛りで!!」
阿賀野が威勢良く飛び出して行った。
天津風たちは阿賀野に続く形で昼食を受け取り指定された席に座って昼食を取り始めた。
昼食を取っていると作業を中断した協会員の人々がぞろぞろと海の家に入ってくる。
そんな協会員は列をなして愛宕の前に並ぶ
「みなさんせっかちさんなのですね〜でもちゃんと皆さんの分はありますからちゃんと並んでくださいね〜」
愛宕は媚びた声であざとく笑い、春風は遠巻きにそんな愛宕を釘付けになったように見つめていた。
「春風・・・?どうしたの食べないの?」
天津風はぼーっとしている春風に話しかけるが返事はなく
「春風!聞いてる!?」
「あっ、いえな・・・なんでもありません!」
少し声を荒げてやっと天津風に気づいたのか我に返った春風は昼食に箸をつけた。
それから少しして提督と大淀がやって来て同じテーブルに座ると突然大淀と阿賀野が喧嘩を始めた。
「阿賀野は提督さんと一緒にお風呂入ったもんね!裸のお付き合いだってしてるもん!その時提督さん阿賀野のこのおっぱいガン見してたんだから!」
阿賀野が勝ち誇ったように胸を強調してみせる。
そんな言葉に吹雪と天津風は目をまん丸にして阿賀野の胸を羨ましそうに見つめた。
(お風呂!?私だけじゃなかったの!?)
(お兄ちゃん・・・やっぱりおっぱいが大きい人の方が好きなのかな・・・)
「は?謙なにそれ!?って私だってお風呂くらい一緒に入ったことありますし!そのあと抱きしめてもらいましたし!!どうせあなたのことだから無理やり押しかけただけでしょう?」
大淀も言い返し、どんどん二人の言い合いが激化していき提督は辺りからの視線や恥ずかしい話で顔が真っ青になっている。
(大淀さんも!?それに抱きしめたって!?あのスケベなにやってんの!?それになに助けてくれって言わんばかりにこっちのことジロジロ見てるのよ・・・自業自得じゃないお兄さんのバカ)
(お兄ちゃん・・・大淀お姉ちゃんとも入ってたんだ・・・・私が一緒に入ろうって言ったら一緒に入ってくれるかな・・・・でも私の裸なんか見せたら・・・)
天津風と吹雪はそんな感情を抱きながら提督を見つめた。
提督は他の艦娘に助け舟を求めようとするがことごとくスルーされるも最終的には大淀が勝ち誇った顔でフライを食べ始めて沈静化した。
そんな折
「すみません天津風・・・」
突然春風が天津風に耳打ちする
「何?今私イライラしてるんだけど?!」
「す・・すみません・・・わたくし少々お手洗いに行ってまいります・・・なんだか立ち去りづらい雰囲気だったものですから」
春風はそう言うと少し前かがみになりながらこっそりとテーブルから離れて行った。
「トイレなんか勝手に行けばいいのに」
天津風はそうボソッと吐き捨てた。
そして昼休憩も終わり作業に戻った天津風の頭の中では大淀と阿賀野の喧嘩の言葉の断片がなぜか消えないままぐるぐると回り続けて居た
(私もお兄さんに抱きしめてもらいたい・・・・って何考えてるの私!?べつにあんな奴にそんな事してもらいたくなんかないし!!でもお兄さん・・・今の私のことどう思ってるんだろ・・・もしあの水着見たら可愛いって言ってくれるかな・・・それとも男なのに女物の水着着るなんて変って言われちゃうかな・・・・はぁ・・・なんで私・・・こんな事考えてるんだろ・・・あんな水着恥ずかしくてお兄さんの前でなんか着れないわよ・・・これでも私男なんだから・・・)
天津風の頭の中はその日の作業中はずっとそのままだった。
そして作業がなんとか終わり長峰が挨拶を始めた。
「そこでお礼と言っては微々たるものだが明後日に君たちのためにこの海水浴場を解放することにした。もちろん貸切だ。と言っても最終安全確認も兼ねて居るが存分に楽しんでもらえるとありがたい。それでは解散だ。本日は本当にありがとう。××町民を代表して礼を言わせてもらう。」
(な・・・・海水浴場貸切ですって!?それじゃあ私あの水着着なきゃいけないじゃない・・・必要になるかもってもしかしてこれのことだったの・・・!?はぁ・・・)
長峰の解散の言葉を受けて艦娘たちがぞろぞろと鎮守府に帰っていく中天津風は気が抜けたように歩いていた。
「はぁ・・・あの水着着なきゃダメよね・・・?参加しないのも勿体無いし海パンは全部引っ越すときに捨てちゃったし・・・」
(でもあの水着を着たらお兄さんはどう思うかな・・・?)
天津風は頭の中で妄想を巡らせる
しかしどんどんとその妄想は膨れ上がって行き・・・・・
(・・・・
「あのねにぃに・・・見て欲しいものがあるの」
「ああ。なんだ?」
「この水着似合ってる?男の子なのに女の子の水着着てるの変に見えない?」
「ああ天津風。すっごく似合ってる。本当に女の子みたいだ」
「やったぁ♡にぃに〜私すっごく嬉しいっ!きゃぁ!にぃに!?私の顎なんか持って顔近づけて何するの〜!?」
「天津風・・・お前がそんな女の子みたいな格好してるのがいけないんだぞ。俺もう我慢できないんだ」
「そ・・・そんなだめだよにぃに・・・キスなんかしたら赤ちゃんできちゃう」
「ああ!それでも構わないぜ!好きだ天津風!」
「にぃに・・・・うれしいっ!私ね、やりたいこと見つかったよ・・・?」
「なんだ?こんな時に」
「にぃにのおよめさ・・・・・」
)
「ってちがぁぁぁぁぁぁぁぁう!!!!!!!!だからにぃにって何よ!?」
天津風は自分が脳内に思い浮かんだものをかき消した。
「ひゃわっ!ニヤニヤしていたと思ったら急に大声あげてどうされたんですか天津風!?」
隣にいた春風は驚いて声をかける
「べっべっ・・・別になんでもないわよ!!」
「そうですか・・・なんだか阿賀野さんと大淀さんが喧嘩した後からずっとそんな調子ですしお顔も赤いので熱で頭をやられたのかと」
「やられてないわよ!正常よ!!」
「もしかして司令官様のことですか?」
「なっ・・・!?なんでわかったの!?・・・・・・って違うわよ!あんな幸薄そうでぶっきらぼうでスケベで頼りなくて・・・でもたまにちょっとだけかっこよくて優しいにぃ・・・提督のことなんか考えてないわよ!」
「ふふっ!本当に素直じゃないのに嘘が下手ですね天津風は・・・本音が漏れていますよ?」
「だから本当に違うってば!」
「わたくしも司令官様のことお慕いしているんですよ」
「え・・・・!?」
「お父様以外で始めてしっかり私とお話してくれた殿方ですから・・・漫画に出てくる方々に比べたら少々頼りないですが私、男として彼の方を尊敬してるんです!きっと司令官様以上の男になって見せます!」
「はぁ・・・びっくりして損したわ」
「あら?天津風は違ったのですか?」
「い・・・いやまあそんなところ・・・かしら・・・そういえば春風は明日どうするの?」
「海水浴場の話ですか?もちろん参加しますよ?」
「参加するかじゃなくて水着・・・」
「天津風が男物はやめろと言いましたから女物の水着で参加しますよ。天津風は違うのですか?」
「い・・・いや・・・・その・・・・女物の水着を着るのには流石に抵抗があって・・・」
「この間あんなに嬉々として着ていたではありませんか」
「あれはサイズが合うかどうか試したかっただけで喜んでなんかないわよ!」
「そうでしたか・・・わたくしはずっと女装が普通でしたからなんの抵抗もありませんが天津風は少し前まで普通に男の子として生活して居たからそう思うのも当然ですよね」
「そ、そうよ!正直あの制服も恥ずかしいったらありゃしないわよ」
「そうだったのですね・・・それでは男物の水着で参加をするのですか?」
「そ・・それは・・・・なんだかおっぱいも膨らんできちゃったしちょっと厳しいかなって」
「天津風は艦娘になってからお胸が膨らんで来たのですね・・・わたくしは全く身体に変化がありません・・・・」
「そっちの方がいいと思うけど?」
「そうですか・・・」
そんな話をしている間に宿舎へとたどり着いた二人は部屋の鍵を開け
「それじゃあまた夕飯でね」
「ええ」
そう言ってお互いの部屋に戻った
部屋に戻った天津風は引き出しに入れていた水着を取り出してまじまじと見つめる
(やっぱり男の僕がこんな可愛い水着なんか着るの変だよね・・・でもこれしかないし・・・・そうだ!地味な水着をお兄さんと一緒に探しに行きましょう!別にお兄さんを独り占めしたいとかそういうのじゃなくて・・・・こんな水着僕が着るの変だし!そうしよう!!それにその時可愛い水着を来て見せたらお兄さんの反応がわかるしいい反応だったらその時はあの水着を着てもいい・・・かな?)
天津風はそう心に決めたが夕飯の時は切り出すことができなかった。
(うう・・・結局言えなかった・・・明日またチャレンジしなきゃ!)
そして次の日・・・
(うう・・・・お兄さんを買い物の付き添いを頼むだけなのになんでこんなに緊張してるんだろ?別に買い物なんか行かなくてもいいから?昨日の阿賀野さんと大淀さんの痴話喧嘩を見てからずっと変だよぉ・・・)
天津風は執務室の扉の前を何度も往復していた。
(べっ・・・別に二人が羨ましかったわけじゃないし・・・でもお兄さんがこれ以上変態になるくらいなら私が・・・って何考えてるの私・・・いいや僕は男の子で・・・それでお兄さんはあくまでお兄さんなんだから・・・でもこのままじゃ僕・・・うん。よし!決めた!)
天津風は深呼吸を一回した後執務室のドアノブに手をかけた
「提督!居る?」
天津風は勢いよく執務室のドアを開け提督に詰め寄り、提督は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「うわぁ天津風!?せめてノックくらいしろよ」
「ごめんなさい・・・ってそうじゃないの。大淀さん、ちょっとこいつ今日だけ借りていいですか?」
「え?急にどうしたの天津風ちゃん?」
「ちょっと用事があるの。ダメかしら?」
「そうですか。わかりました」
大淀は少し渋々うなづいた
「それじゃあ今すぐちょっとだけ顔貸しなさい」
「えっ、今からか?まだ仕事終わってないんだけど」
「いいから!すぐ終わるからさっさとこっち来なさい!」
天津風は半ば強引に提督を執務室の外へ連れ出し少し執務室から離れた場所で立ち止まる。
(よし!これであとはお兄さんにお願いするだけ・・・!頑張れ僕・・・!負けるな私!!)
天津風は覚悟を決めて提督を見つめた。
「な、なあ用事ってなんだよ天津風」
「明日・・・海水浴場で遊べるじゃない?」
「え、ああうん。」
「私ね・・・女の子用の水着を持ってなくて・・・こんな男か女かわからないような身体になっちゃったし男物の水着じゃ泳げないでしょ?だからね・・・?その・・・買いに行きたいからお兄さんについて来てほしいなって・・・・」
天津風はそんな嘘をついて提督を誘った。
(お願い・・・!良いって言って!)
天津風は胸の中で祈った。
すると
「ああ・・・わかった。俺でいいなら」
提督は頷いた。
(や・・・やったぁ!お兄さんと二人でお出かけできる!)
天津風は嬉しくてその場で飛び跳ねたかったがそんな所を見られるのが恥ずかしかったので感情を押し殺し
「そう・・・それじゃあ今日の書類整理が終わったら買い出しに付き合いなさい。私13時くらいに門の前で待ってるから!」
そう言い残して自室の方に逃げるように走り去った。
嬉しそうに部屋に戻って少ししてから落ち着きを徐々に取り戻した天津風に気恥ずかしさがじわじわと湧き上がって来る。
「やったぁ!お兄さんとお出かけ!!ってなんで私こんな喜んでるのよ馬鹿馬鹿しい・・・ただ買い物行くだけじゃない・・・でも服・・・どうしよう・・・流石に制服で行くわけにはいかないし・・・そういえば!」
天津風は何かを思い出したように押入れに入った段ボールを引っ張り出して開けた。
中には可愛い女性ものの洋服が何着か入っている
「ここにくるときに芹本さんが送ってくれたけど・・・結局まだ着てないのよね・・・ちょっと試着もかねて今日はこれを着て行こうかしら・・・・」
天津風は何着かある中から1着を選んで着てみることにした。
(はぁ・・・本当に女の子の服って着るだけでもめんどくさいんだから・・・それにこのスカート短くない?いつもは履いてないようなものだけど履いてみるとと意識しちゃう・・・うう・・・恥ずかしいよぉ・・・)
天津風は不慣れながらに服を着て恐る恐る鏡を見た
「よしっ・・・!これなら男の子には見えない・・・よね?こんな格好したらお兄さんどう思うかな・・・・」
天津風は鏡に映ったいつもとは違う自分を見て胸を高鳴らせて時計を見る
「そろそろ時間ね・・・誰かに見られませんよ〜に!」
時計が12時30分頃をさしたので天津風は部屋を飛び出し指定した待ち合わせ場所に走った
(お兄さん早く来ないかな・・・・・今の僕の格好見たらきっと驚くよね?でもなんで僕こんなにドキドキしてるんだろ・・・きっと走ってきちゃったから・・・だよね?)
天津風は鼓動を高鳴らせて提督を待った。