ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
色々あった海水浴場警備も残すところ数日となり、暦的には秋がすぐそこまで近づいてきている。
というのに全く涼しくなる気配もなくいつもと変わらず警備の報告やら艦娘への指示やなんかを出していた。
「ふぅ・・・長かった海水浴シーズンもそろそろ終わるな〜」
「そうだね。ずっとお休みもなく働いて偉いよ謙。私が褒めてあげる」
「それはお前も他のみんなも同じだろ?でもこれだけ忙しかったのが急に暇になると調子狂っちゃわないか心配だな」
「そうね。でも何もないのが一番幸せだと思わない?」
「確かにそうだな。出撃が少ないことに越したことはないか」
「でしょ?さ!あともう少しでこの忙しい期間も終わりなんだから気を引き締めて頑張ろ!」
「ああ。そうだな!」
大淀に奮い立たされ俺は仕事に戻った。
まあ仕事といっても書類を片付けたり警備に出てる艦娘からの定時連絡を聞いたりするだけなんだけど・・・
それでも急に敵襲があって艦娘達や海水浴場に被害が出るくらいならこれくらい退屈くらいが丁度良いのかなって思える自分がいた。
退屈だけどこうやって大淀と昔みたいに軽口を叩きあったりもできるこの時間はとても有意義で平和なひとときなのかもしれない。
それからしばらく業務を続けているとドアをコンコンとノックする音が聞こえる。
「提督〜ちょっと良いかしら〜?提督にお客さんよ〜」
ドアの先から愛宕さんの声がした。
お客さん?
「謙にお客さんなんて珍しいね。仕事は私がやっておくから謙はお客さんの対応してあげて」
「あ、ああわかった」
基本来客の対応は愛宕さんや高雄さんがしてくれているが直接俺に用があることなんて滅多にないので少し身構えてしまう。
「はーい。どうぞー」
ドアに向けてそう言ってみるが一体誰だろう?
そうこうしているうちにドアが開き
「謙さん、ご無沙汰しております」
愛宕さんに連れられて雲人さんが執務室に入って来てぺこりと頭を下げた。
初雪の弟でしかも俺とほぼ同い年くらいだとは思えないくらいに大人びていて男っぽい服装をしているものの凄く美人で文字通り男装の麗人って感じだ(男なんだけど)
俺は久々に会う雲人さんの性別を超越した美しさに見ほれていた。
「あ、あの・・・私の顔に何か付いていますか?」
「あ、ああいやなんでもないですよ!こちらこそおひさしぶりです。俺に用事ってどうしたんです?」
「毎日お忙しいと愛宕さんから聞いていたのでお話ししたいことついでに陣中見舞いを渡しにきました。これ私が漬けたたくあんですどうぞ召し上がってください」
雲人さんはおもむろに風呂敷を取り出し、その中からツボを出して机に置いた。
漬物を今時ツボで渡すなんて事があるかよ!?
「あ、ありがとうございます」
「叢雲ちゃんのお漬物ほんと美味しいのよ〜?食堂に置いてある奴も大体叢雲ちゃんが持ってきてくれたものなの」
「だから叢雲ちゃんって言うのやめてくださいって前から言ってますよね?」
「あ〜はいはい。でも私からしたらどれだけ大きくなっても可愛い可愛い叢雲ちゃんのままよぉ〜」
「もう艦娘辞めて5年も経つんですから子供扱いしないでくださいよ!それにこっちからしたら変わらないどころかあなたの方が凄まじく変貌しててこっちはまだ付いて行ききれてないんですけど?」
「え〜私は何も変わってないわよぉ〜?」
愛宕さんは胸を雲人さんに見せつける
「わっ!ちょっとその一番前とはかけ離れた肉塊を見せつけるのやめなさ・・・やめてください!」
「叢雲ちゃんったら照れちゃってぇ〜ほらほらもっと昔みたいに甘えてくれて良いのよ〜?ほらほら〜」
愛宕さんがぎゅっと雲人さんを抱きしめた。
一体俺たちは何を見せられているんだ・・・
横で大淀も顔を引きつらせている。
「ぎゃーっ!は、離しなさいよ!!私昔も今もあんたにそんな甘え方した覚えないわよ!!」
メッキが剥がれるように雲人さんはツンツンした少女のような口調を発する。
多分あっちが本当の雲人さん・・・というより叢雲って艦娘なんだろうなぁ
艦娘辞めて五年たっても口調って戻らないものなのかな・・・
大淀は・・・淀屋はどうなるんだろう?
「あらあら。やっぱり喋り方も無理してるんじゃないの?そのツンツンした喋り方の方がやっぱり可愛いし良いじゃないの〜」
「うるさいうるさい!離しなさいよぉ!おっさんのおっぱいなんて当てられたって嬉しくないわよー!!」
「やっぱり反抗的で生意気なところは全然変わってないみたいねぇ〜でもそんなところも今となっては可愛いわぁ〜」
「やめなさいよ気持ち悪い!それに謙さんだって見てるんだから!セクハラよセクハラ!!」
「男同士なんだから大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃないわよー!」
雲人さんはそう叫ぶと愛宕さんの股間を思いっきり蹴り上げる
「ぐえっっ!!むっ・・叢雲お前・・・・・」
愛宕さんは低い声を出し股間を押さえてその場にうずくまった。
これは絶対痛い・・・
見てるだけでこっちまで痛くなるくらいに痛そうだ。
横に目をやると大淀も股間を抑えていた。
やっぱ男だし急所も思うところも同じなんだな・・・
「はぁ全く・・・そちらもスケベなのは相変わらずなようで・・・こほん、お見苦しいところを見せちゃったわ・・・じゃなかった見せてしまいましたねごめんなさい」
雲人さんが口調を戻して何事もなかったかのように話を始めた
「い、いやそこで愛宕さんがぶっ倒れてるんですけど」
「放って置いたらそのうち復活しますよ。こんなこと日常茶飯事でしたし・・・こんなのの世話するの大変でしょう?」
「ま、まあそれなりに・・・で、話って何なんです?」
「ああそのことなんですけどこれです。こいつ・・・じゃなかった愛宕さんから聞いてませんか?」
雲人さんはそう言うとチラシをこちらに手渡してきた。
「何何?えー××秋祭り・・・9月XX日~XX日まで・・・これがどうかしたんですか?」
そういえば秋祭りはそこそこ人が来るって話を前に雲人さんがしてたな
「その反応はやっぱり聞かされてないんですね」
「はい。全く。大淀はなんか聞いてるか?」
俺の問いに大淀は首を横に振った。
「やっぱりですか・・・はぁ〜年間行事くらいちゃんと説明しておけって言っておいたのに・・・こんなのが司令官だったなんて・・・ごめんなさい謙さん。しれいか・・・いえ愛宕さんからの伝達ミスみたいです」
雲人さんは大きなため息をつく
「伝達ミス?」
「ここ見てくれます?」
雲人さんがチラシの隅を指差す
そこには巫女服を着た阿賀野の写真が載っていた。
「なんで阿賀野が?」
「ええ。去年の写真なんですけど阿賀野さんには巫女のバイトをやってもらってたんです。それで聞かされていないと言うことで急になってしまって申し訳ないんですけど・・・今年も秋祭り運営のお手伝いを鎮守府の皆さんにお願いしたいと思いまして」
こんなこと少し前にもあったような気がするぞ・・・?
というか現在進行形でやってる海水浴場警備もこんな感じで引き受けることになったんだよな・・・
全く愛宕さんたちからそんなこと聞かされてなかったし本当に愛宕さん何やってたんだよ!
「またこのパターンか・・・」
「また・・・?」
「そうなんですよ。今の海水浴場の警備のこともギリギリまで教えてくれなかったんですよ?」
「全く・・・一応元部下として代わりに謝っておきます。ダメな元司令官で本当にごめんなさい」
「謝らないでくださいよもう半分慣れたようなもんですし・・・」
「そうですか・・・謙さんはあの人の何倍も良い提督みたいで安心しました。くれぐれもあの人みたいなダメ提督になっちゃダメですよ?」
「は、はい・・・」
「俺・・・一応ここにいるんだけど・・・?」
愛宕さんがうずくまったままよろよろと右手を挙げた
「黙ってなさい!後任に何も引き継ぎできてないじゃない!このダメ司令官」
「うぅ・・・・そのお説教も懐かしい・・・」
愛宕さんは弱々しくそう言うとまたガクリと床に突っぷす
「もう邪魔だから黙ってて!・・・と言うわけで今日はそのご挨拶もかねて伺ったんですけどで・・・もっと早くお話に伺えれば良かったですね」
「いえいえ雲人さんのせいじゃないですよ」
「それではひとまず今日はこの辺でお暇させて頂きます。近いうちに長峰さんからも話が来ると思うので詳しくはそちらから聞いてくださいね。多分愛宕さんに聞くより手っ取り早いですし」
「わかりました」
「それではお騒がせしました!また来ますね」
雲人さんはぺこりと礼をして執務室を後にした。
流石に床でぶっ倒れてる愛宕さんがいい加減不憫になってきたので俺は愛宕さんに駆け寄る
「愛宕さん大丈夫ですか?」
「う・・・久々に叢雲の蹴り食らった・・・男らしくなった分昔より痛え・・・成長したんだなアイツ」
「そんなことで成長を感じないでくださいよ!それにもう完全に愛宕さんの口調ぶっ飛んでるじゃないですか」
「そりゃあんな蹴り食らったらこうもなるだろ・・・」
「大丈夫ですか立てますか?」
「ああ。なんとか足もアソコもまだ立ちそうよ〜」
「急に口調戻したり下ネタぶっ込んだりするのやめてください!ほら早く立って」
俺は愛宕さんの手を取って立ち上がる手助けをしてあげた。
「ふぅ・・・本当に女の子になっちゃうかと思ったわ」
「ああもうわかりましたからとりあえずこれの事説明してくれます?なんで教えてくれなかったんですか?」
雲人さんが持って来たチラシを愛宕さんに見せる
「その方が面白いかなーって。それに提督警備とかで忙しかったでしょ?落ち着いてからにしようと思ってたらうっかり忘れちゃってて・・・」
「面白くないですよ!それに最後のが本音ですよね!?」
「ごめんなさいね。またおっぱい揉ませてあげるから許して」
「また!?謙!それどう言う事!?」
今まで黙って俺の代わりに書類の片付けをしてくれていた大淀が立ち上がって声を荒げる
「ああいやなんでもなくて・・・」
「んもぅ〜私と提督の仲じゃない!このあいだの夜の提督・・・すっごく情熱的だったわぁ〜」
「ちょ・・・誤解を招く言い方はやめてください!!」
「提督?この間夜愛宕さんの部屋に行ったことは聞きましたけどそこで何してたんですか?説明を求めます」
大淀は急に敬語で詰め寄ってきた。
「だ、だからこの間言ったことが全部で・・・」
「本当ですか・・・?」
大淀はニッコリと笑っているがその笑顔には威圧感すら覚えてしまう
「ひっ・・・!」
「それじゃあ提督〜私ちょっと急用思い出しちゃったから失礼するわね〜」
愛宕さんはそう言うと逃げるように執務室から出ていってしまう
絶対嘘だ!
「あっ、ちょ・・・愛宕さん逃げないでくださいよ!!」
「てーいーとーくー?愛宕さんとこのあいだの晩何があったのか包み隠さず教えていただけますか?」
「は、はいぃ・・・」
結局大淀の圧に負けてこの間は隠していたあっちが無理やりして来たこととはいえ愛宕さんの胸を揉んだ事とそのまま一つの布団で一緒に朝まで寝てしまったことを話した
「はぁ・・・」
大淀は大きなため息を一つつく
「すまん!高雄さんがいなくて寂しいって言われたら断れなくて・・・・」
「で、そのままあの日は遅刻したと」
「・・・はい。」
「そんなことだろうと思ったわ・・・謙はお人好しだから」
「ご・・・ごめん・・・」
「良いわよ許してあげる。この間私のお願いに付き合ってくれたしこの話はおしまい」
「大淀〜」
「で、でもおっぱいが触りたいなら言ってくれればちっちゃいけど私の・・・」
「へっ!?」
「私のおっぱいあんなに大きくはならなかったけど男だった時よりはずっと柔らかくなってるんだよ?」
大淀はこちらを見つめてネクタイを緩めて胸をちらちらと見せつけてきた。
確かに小さいがブラジャーに包まれた膨らみが嫌でも俺の目に入ってくる。
「きゅきゅきゅきゅ急に何言い出すんだよ仕事中だぞ!?」
「別に良いじゃない。誰も見てないんだから」
「お、大淀ぉ!?」
「ほ〜ら・・・謙ずっと私の胸見てる・・・見てるだけで良いの?触ってみる?」
「さ・・・さわ・・・・・」
美少女に見えるとはいえ彼は俺の男友達だ。
そんなことが許されるんだろうか
何度も膨らんだ大淀の胸は見たりはしたけどちゃんと触ったことはまだ無いし大淀の柔らかくなったという言葉が俺の好奇心を掻き立てる
「ほ・・・本当に良いのか・・・?」
そう尋ねると大淀はこちらに顔を近づけてきて顔が近づくたびに俺の鼓動が早まっていく
ど、どうなっちゃうんだ俺・・・
すると突然大淀は俺にデコピンを一発食らわせてきた
「痛ってぇ!なにすんだよ」
「白昼堂々おっぱいなんか触らせるわけ無いでしょ?謙が愛宕さんとの事隠してたお返しなんだから!謙のエッチ!」
「お前〜!!」
口ではそう言うもののやっぱりこいつはそんな安安と胸を触らせてくるような奴じゃないと思えて安心した。
「さ、まだ書類の片付け終わってないんだからさっさと再開して」
「・・・わかったよ」
大淀の一声で俺はまた作業を再開した。
そして作業もひと段落してさっき雲人さんが置いていったチラシを眺めて居るとパワースポットあります!とチラシの裏面に書かれている事に気づいた
「ん・・・?なんだこれ?パワースポット?そんなのあるのか?」
「聞いた事ないわね」
「えーっと何々?」
チラシの裏面には
××祭で永遠の愛誓ってみませんか?という触れ込みであの神社で今の××町ができた辺りの集落に住む男が神社で出会った神様と恋に落ちて最後には神様が神であることを止めて二人は結ばれたなんていう大層な伝説が書かれていた。
チラシによると祭りの最終日の花火大会で口づけを交わしたカップルは永遠に結ばれるらしい。
一応結ばれたカップルも少なからず居るみたいな事も書かれているけどなんか胡散臭いし伝説と花火大会がなんで紐付けされてんのかもよくわからない。
「なんだよ伝説のところまでは半分信じそうになったけど結局花火大会とかに集客するための眉唾な話じゃないかなあ大淀!根拠もなさそうだし神社にそんな事書いてある案内とかもなかったし」
「・・・そ・・・そうね・・・・でも私は伝説があろうがなかろうが別に花火大会の時にキスくらいならしても・・・・」
大淀は頬を赤らめて言った。
そうだこいつオカルトとか好きだったんだ・・・
ってことはもしかして信じちゃってる・・・?
「お前もしかして信じるのかよこの話」
「べっ・・・別にこんな非科学的な事・・・・でもちょっと素敵だなって思っただけ」
「非科学的ってお前オカルト好きにあるまじき発言だな」
「別に私はオカルトが好きなんじゃなくてスプラッターホラー物が好きなだけ!一緒にしないで!」
「あーはいはいわかったよ・・・」
「それじゃあ花火大会当日は私と一緒に花火見ましょうよ。キスするしないは別として謙と一緒に見れたら楽しいだろうなって」
「あ、ああわかった。まだいまいち祭りの手伝いって何すりゃ良いのかわかってないけど花火大会のときくらいは予定開けてもらえたらそうするか」
「うん!そうだね」
その時の大淀は嬉しそうだった。
そしてその夜。
夕飯でみんなが食堂に集まると
「みんな集まってるわね?ご飯の前で悪いけどこれちょっと読んでおいてもらえるかしら?」
愛宕さんが昼間に雲人さんからもらったチラシを白黒コピーした物を艦娘たちに配り始めた
「はーいそれじゃあ急で申し訳ないけど私たちこれのお手伝いをやるから目を通しておいてね〜」
愛宕さんの配ったチラシを各々が読んでいると
「what!?なんデース?この伝説って・・・・oh!すごいデース!花火大会中にKISSしたらその二人は永遠に結ばれるんデース!?」
金剛がそう言った途端露骨に大淀がああまためんどくさい事になった・・・みたいな顔をした
「え〜何それ阿賀野去年もお手伝いしたけどそんな話聞かなかったよ〜でも・・・そう言う事なら阿賀野もキスしに行っちゃおっかなー」
阿賀野がこちらを不敵な目で見つめてくる
「お、おい阿賀野去年はこんなのなかったってやっぱりこれ集客のための与太話じゃないのかよ!馬鹿馬鹿しいよなぁ天津風!」
ここは現実主義でなんだかんだでいつも冷めてる天津風に振っておけばなんとかなるだろう・・・
「そ、そうね・・・・こんなの信じるなんてバカみたい・・・阿賀野さんも真面目にお仕事してくださいね」
「だよな!それに手伝いだってあるし忙しいだろ?俺たちにそんな暇ないって」
「そ、そうよね・・・・でも・・・・」
天津風は最後に何かをぼそりと言ったが俺に聞き取ることはできなかった。
「ん?天津風どうした?」
「えっ?!ああなんでもないわよ!早くご飯にしましょう」
「天津風も腹減ってるって言ってるし連絡終わり!そろそろ飯にしようぜ」
「も〜あたしを食いしん坊みたいに言わないでくれないかしら?別にあたしはみんなもご飯食べたいかなーって思っただけで・・・」
「わかったわかった。でも今日も天津風は警備も演習も頑張ってたもんな。そりゃ腹減ってもおかしくないよ。今日も1日お疲れ様」
「・・・ふんっ!ほ、褒めても何も出ないわよぉ・・・」
天津風は恥ずかしそうにそう言ったが頭のカチューシャについている煙突みたいな部分からもくもくと煙を出していた。
一体どう言う仕組みなんだ?
「何ジロジロ見てるのよ!早く夕飯食べなさいよ!」
あたりを見回すともう阿賀野がガツガツとおかずを食べてご飯を一杯おかわりまでしていた。
幾ら何でも早すぎだろ・・・
というか早速俺がもらったたくあんでご飯食ってるじゃねぇかあいつ!
俺も今日は色々あって腹減ったし目の前であんなに美味そうに飯食われたら尚更だ。
それに俺だって雲人さんのたくあん食いたいし!!
「わかったよ。じゃあいただきます」
俺は早速雲人さんのたくあんに箸をつけて口に運ぶ。
甘すぎず噛むたびにコリコリとした食感と風味が口の中を駆け巡り白米を体が欲しがるような味だ。
どうせ漬物だろうとたかを括っていたけどこれはもはやおかずたりうる存在といっても過言ではない。
その日俺は気づくとご飯を三杯もおかわりしていた。
そして夕飯を済ませて部屋に帰ると
「・・・お兄ちゃん」
吹雪が深刻な顔をしてこちらを見つめてきた
「私・・・お夕飯食べた後からなんか変なの」
「どうした?なんか食べて腹でも痛くなったのか?」
「ううん・・・・なんかお兄ちゃんが天津風ちゃんを褒めてるところ見てたら胸がこう・・・うまく言えないんだけどモヤモヤってして・・・チクチクってして・・・私天津風ちゃんの事お友達として大好きなのになんだか嫌な気持ちになっちゃって・・・」
もしかして吹雪、天津風だけ褒めたから嫉妬してるのかもしれないな。
「吹雪ごめんな。俺が天津風だけ褒めたからそうなっちゃったんだよな?」
「えっ・・・?」
「吹雪も今日天津風と同じように頑張ったんだろ?」
「・・・うん!今日は天津風ちゃんより砲撃訓練で出した点数は上だったんだよ!」
「そうだったのか。吹雪お前もいつも頑張ってるんだよな。いつも偉いぞ」
俺は吹雪の頭を撫でてあげた
「えへへ・・・お兄ちゃんに褒められちゃった・・・なんか胸のモヤモヤ治ったかも!」
「そうかよかったよ。それじゃあそろそろ寝る準備しようか」
「はーい!」
そして風呂や寝支度を一通り済ませいつものように吹雪とベッドで横になると
「・・・ねえ・・・・お兄ちゃんあのチラシの裏のお話信じてないって言ってたよね?」
「あ、ああ。去年手伝ってたって言ってた阿賀野も知らないって言ってただろ?きっと誰かが取ってつけた話だよ」
「そう・・・かな・・・?」
「吹雪は信じてるのか?」
「わかんない。もちろんお兄ちゃんとずっと一緒にいられたら私はすっごく嬉しいと思う。でもお薬飲んでも病気も治らないしもし艦娘が要らなくなったら私どうなっちゃうんだろうってずっと・・・本当にずっとお兄ちゃんと居られるのかなって思うとなんだか不安になっちゃって・・・私変だよね。」
吹雪はそう言って俺に寄り添って服をぎゅっと握ってくる。
その手は少し震えていた
あるよな急に死ぬのが怖くなったりする事。
俺もじいちゃんが死んだ時こんな感じになったような気がする。
でも吹雪は・・・いいや艦娘は俺なんかよりずっと死を近いところに感じてるはずだ。
それでも皆そんな事一切匂わせないくらいに明るく精一杯生きているように思える。
吹雪もそうだ。
こんな小さな体で戦って傷ついてなんとか生き延びてる。
怖いと思わない方がおかしいくらいだ。
「なあ吹雪・・・戦うのは嫌か?」
「・・・なんで?」
「だって戦闘になったら生きるか死ぬかの話になるんだぞ?」
「そう・・・だね。でも私そんな事考えた事なかった。私はただ守るために戦うんだってそれが当たり前のことだって思ってるから戦うのは怖くないって言ったら嘘になるけど嫌じゃないよ。だって戦えばお兄ちゃんは私のこと必要としてくれるでしょ?だから戦って負けて沈むよりお兄ちゃんが私のこと要らなくなっちゃう方がずっと怖いよ」
その言葉に今まで深海棲艦と艦娘の戦いをニュースやドキュメントでしか知らずにのうのうと生きてきた俺と生まれた時からから艦娘として生きてきた吹雪の中に大きなズレがあるように感じた。
きっと吹雪はそう言う風に作られたんだろう。
だから戦うことも怖くないんじゃなく極力戦闘自体に恐怖を感じないように思考回路が働いているんじゃないだろうか?
他の艦娘もそうなのかな・・・
大淀も・・・
それとも吹雪がクローンだから・・・?
それは今の俺にはわからないし怖くて大淀たちに聞く勇気もない。
それに必要とされなくなる事に恐怖を覚えるのはやっぱり前の鎮守府での事が原因だろうか?
日に日に吹雪が笑ってくれるようになっていって今では年相応の少女のような吹雪にまたその頃のことを思い出させるわけにもいかない。
これは俺が吹雪と・・・それにもう一人の吹雪とも約束した事だ。
絶対吹雪の安らぎを守ってやらなきゃいけないんだ!
「吹雪・・・」
「なあにお兄ちゃん」
「俺が吹雪を要らなくなったりなんて絶対にしないよ。吹雪が戦わなくなったって艦娘がこの世界から要らなくなっても俺は絶対吹雪の事要らないなんて言わない」
「お兄ちゃん・・・」
「だからもっと自分のことを大事にしてくれ。お前が居なくなったら俺は悲しい・・・だからもし・・・もし本当にヤバいって思った時は吹雪、お前自分のことを・・・生きることを一番に優先して考えてくれ。お前が生きてさえ居てくれれば俺は絶対お前のそばに居てやれるから・・・」
「う、うん・・・ありがとうお兄ちゃん。今はこうやってお兄ちゃんが一緒に居てくれてるだけで私は何も怖くなくなるし明日からも頑張ろうって気になれるんだよ?ふわぁ〜なんだか安心したら眠くなってきちゃった」
「そう・・・だな。それじゃあ明日も早いし寝ようか。おやすみ吹雪」
「おやすみお兄ちゃん。あっ、そうだ」
「ん?どうした?」
「手繋いで寝てもいい?」
「ああ。いいぞ」
「ありがと・・・おやすみなさいお兄ちゃん」
吹雪の小さな手のひらが俺の手をぎゅっと握ってきた。
そして枕元の電気を消して俺は目を瞑る。
目をつぶって考えた。
ずっと側にいるなんて言ってしまったけど俺と吹雪はこれからどれくらい一緒に居られるんだろう?
戦いが終わったら俺と吹雪はどうなるんだろう?
と
考えれば考えるほど不安が募るが今こうして吹雪の側にいる時間を大切にしなければいけないと思ったし、
戦いが終わっても何が何でも絶対に吹雪を一人にはしないと俺は心に誓って吹雪の手のひらを優しく握り返した。