ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。   作:ゔぁいらす

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あけましておめでとうございます
今年もよろしくおねがいします(激遅)

おまたせしてしまい申し訳有りませんでした。


焼きそばとりんご飴

 ついにXX祭が始まった。

最寄りの駅から臨時でバスなんかも出ているらしく町を上げての一大イベントと言うこともあって普段は寂れた感じのXX神社とその参拝道はそこそこの賑わいを見せている。

俺は朝から食材の仕込みなんかをやって今は鎮守府でやってる焼きそばの屋台で調理をしてる訳だけど・・・

「ちょっと前までサンマ漁を手伝わされてたと思ったら今は焼きそば焼いてるって俺は一体何の仕事に就いてたんだっけ・・・?少なくとも焼きそば焼いたりする様な職業じゃないと思うんだけど」

「仕方ないでしょ?最近は深海棲艦も前みたいに頻繁に出てくる訳じゃなくなったんだしそれなりに働いてる所を見せとかないと税金ドロボーって言われちゃう。 あっ、はぁい焼きそば二人前ですね?500円でーっす・・・はいっ!丁度いただきます!ありがとうございまぁ〜す・・・えへへ〜お兄さんかっこいいからちょっとおまけしちゃった♥またお願いしま〜す」

死んだ目で延々と焼きそばを焼くのを尻目に阿賀野が客に愛想を振りまいている。

「ありがとうございましたー・・・・・ はぁ、阿賀野お前おまけって紅生姜何本か多くしただけだろ?」

「嘘は言ってないでしょ?それにああ言っとけばまた来てくれるかもしれないじゃない?せっかくの稼ぎ時なんだししっかり稼がなきゃね!あっ、焼きそば一人前ですね?ありがとうございま~す!提督さん?焼きそば一つ追加ね!」

「はいはいちょっと待ってください」

意外にも阿賀野は乗り気だった。

それに俺の方も夏に海の家を手伝った事もあって焼きそばを焼くスキルがここ数ヶ月で格段に上がっていることが身にしみてきて複雑な気持ちになってくる。

そんなこんなで屋台を始めて数時間、もう小一時間も働けば今日の仕事はお終いだ。

お終いと言ってもその後は天津風と祭りを回る予定が入っている。

まだ自分たちの屋台の周辺しか見れてないし最近あんまり遊びにも行ってないから楽しみではあるんだけどあくまで保護者みたいな感じだしそれに最近天津風からの当たりも強いからあんまりはしゃげないだろうというのが実情だ。

そんな事を考えていると

「すみま・・・せん」

と聞き覚えのある声が聞こえた

「はい!いらっしゃ・・・」

そう言って声の方に顔をやるとそこに居たのはアニメキャラがでかでかと印刷されたTシャツを着た初雪と男物の浴衣を着た天津風だった。

「おっ、天津風かもうそっちは当番終わったのか?」

「ええ。やることも無いしあなたがちゃんとサボらずに仕事してるかの確認も兼ねて今当直やってる吹雪達に何か食べるものでも買ってこよう思って」

「はいはいちゃんとやってるよてか初雪!お前準備の時は一切出てこなかった癖に出てくるならちょっとくらいは手伝ってくれよ!!こっちは猫の手も借りたいくらい忙しいんだぞ?」

初雪は部屋から全く出てこず自称駆逐艦達の非常勤コーチなので為当番表にも組み込まれる事もなかったのだ

「やだ。私はいつだってお祭りのプレイヤーでいたいから・・・それに私、もう仕事はやったし」

「はぁ?もうやった?何を?」

俺がそう言うと初雪は得意気に指を指した。

その方向にはXX祭りのポスターが貼ってある。

「あれ作ったの・・・私。だから私の仕事はあれでおしまい。それより焼きそばちょうだい4人前ね・・・あっ、袋は2個ずつ分けて」

そう言って初雪は千円札をこちらに手渡してきた

「わ、わかったよ。はい」

「ありがと。はいこれ皆で分けて食べて。私からのおごり」

「ありがとうございます初雪先輩!それじゃああたしは一回帰って待ってるけどそれまでちゃんと仕事しなさいよ?提督がだらけてるなんて町の人に知られたらあたしまで恥ずかしいんだから」

「え、ああ・・・わかったよ。初雪は?天津風の同伴してくれてるのか?」

「それだけな訳ない。遊ぶに決まってる・・・」

「意外だな。こういう人混みとか人一倍嫌いそうなのに」

「たしかに人混みはきらい・・・でもそれはそれ・・・これはこれ。屋台荒らしの初雪の名を轟かせてくる・・・じゃ!」

初雪はそう言うと変な笑いを浮かべて分けた焼きそばを片方受け取ると人混みの中へ意気揚々と消えていった。

「それじゃああたしはに戻って待ってるから」

「うん。終わったら迎えに行くよ。てか何で男物の浴衣着てるんだ?吹雪が可愛い浴衣を長峰さんからもらったって言って見せてくれたけど」

「べ、別に何着たっていいでしょ。一応あたしは都会の学校に行くために引っ越したってことで通っててるの。だから今日は男の子の格好で良くしてくれたおじさんとかに挨拶しようと思って」

「結構しっかりしてるんだな」

「結構って何よ!ここの町の人達はあたしがここに初めてきた時からずっと気にかけてくれてたの。それくらい当然でしょ?」

天津風・・・いやソラは両親を深海棲艦の攻撃で亡くしてこの町にいたお婆さんに引き取られたみたいな話をしてたな。

それから色々あって最初は学校へ通うために引っ越す事になったって俺も聞いていたしきっと他の知り合いの間にもそう伝えられたのだろう。

それはもちろん方便で今はこうして艦娘をやってる訳だけど・・・

「そっか偉いな。それならちゃんと挨拶してくるんだぞ」

「言われなくたってそのつもり。ただ最近男の子の言葉遣いで喋ってないからボロが出ないかちょっと心配だけど・・・なんか艦娘になってからこんな喋り方になっちゃって結構大変なのよ」

「そ、そうなのか・・・」

「ま、あたしが自分で決めた事だし何も後悔なんかしてないんだから!それじゃああた・・・僕行ってくるね。時間までちゃんと仕事しなきゃダメだよ提督のお兄さん?」

「お、おう・・・とりあえず時間になったら迎えに行くよ」

「それまでには鎮守府に戻るようにするわ・・・じゃなかった!戻るようにするから。 それじゃ行ってきます」

「おう!行って来いソラ!」

俺は天津風・・・いやソラの背中を見送った。

「提督さーん?話し終わった?そろそろ追加で焼き始めて欲しいなー」

「ん、ああ悪い悪い」

「天津風ちゃんなんか男の子の格好してたね」

「そうだな、まああいつなりに色々あるんだよ」

「そっか。阿賀野含めて皆そうだしわざわざ詮索したりはしないけど」

「そういうもんなのか?お前の事だし阿賀野気になる〜とか言うと思ったけど」

「そんなの言わないわよ!おと・・・私達が艦娘になるなんて選択を取るってことはそれなりに深い事情があるに決まってるんだからそんなヤブヘビな事しようとも思わないよ・・・あっ、はぁい焼きそば1人前ですね?ほら提督さん?天津風ちゃんにも言われてたでしょ仕事仕事!!」

「はいっ!今作ってるんでもう少し待ってください!」

俺は阿賀野に言われて大急ぎでヘラを動かした。

 

それから一時間程焼きそばを売り続けやっと仕事から開放される時間がやってきて次の当番の金剛と愛宕さんがやってきた

「HEYケン!お疲れ様デース!」

「提督?ちゃんとできたかしら?」

「ま、まあそれなりに・・・」

「あらそうご苦労さま♥よっしゃ金剛!俺た・・・じゃなかった私達の美貌で今日の分の在庫売り切るわよ〜♥」

「ドンと来いデース!なんかこう言うの久々で腕が鳴りマース!」

「と言うわけであとは私達に任せて今日はゆっくり休んで頂戴ね提督?」

「アガノは神社のHELP頑張ってくるデース!」

なんだろう・・・?いつにも増して愛宕さんが頼もしく見える・・・

それになんかいつもより化粧も決まってるし相当気合入ってるんだな。

俺と阿賀野はそんな二人に送り出された。

「提督さんこの後もう今日はオフなんだよね?いいなぁ〜阿賀野はこれから神社の売店のお手伝いだよー」

さっきまであんなにやる気に満ち溢れていた阿賀野はそう言ってため息をついた。

「目に見えて疲れてるな。さっきまでの威勢はどうしたんだよ」

「だってー神社の手伝いはあくまで地域の貢献って名目だから売上とかから分前が出ないんだもん」

「はぁ?さっきまでやる気になってた理由ってそれかよ!」

阿賀野は結構お金にがめついのかもしれない。

「それに一日に違う仕事やってると艦娘になる前にバイト掛け持ちしてた頃の事思い出しちゃうのよね・・・やだやだやだ!!せっかく艦娘になったのに他の仕事まで掛け持ちさせられるのやだー!!提督さぁん・・・阿賀野をお祭りに連れ出してよぉ」

阿賀野はわざとらしくダダを捏ね始めた

「こらこらいい年こいて駄々こねるんじゃねぇよ!それに俺は天津風と約束があるって言ってるだろ?」

「むー 提督さんの意地悪ぅ・・・!艦娘には年齢なんて関係ないしぃ〜」

「意地悪でもなんでもねぇしこんな時に都合のいい設定引っ張り出してきてくるんじゃないよ!第一これも仕事の一環だって言ったのはお前だろ!」

「うう・・・そうだけどさぁ」

「阿賀野さん? 全然来ないと思ったらこんなところで油売ってたんですか?」

阿賀野と話していると聞き覚えのある声がして、そちらを振り向くと巫女服を着た大淀が立っていた。

その姿にいつもとは違うギャップを感じたのか後ろでくくった黒く長い髪が揺れるその姿に俺は見とれていた。

「もう!私は着付けも済んでるんですよ?鎮守府外の方に迷惑がかかるので早くしてくれないでしょうか?提督も困ってますしさっさと離れて社務所まで来てください!」

「え〜何大淀ちゃん阿賀野が提督さんとこれまで二人で焼きそばを育んでたの妬いてるの?」

「そ、そんなわけ・・・ほらさっさと行きますよ?」

「やだやだーまだ予定まで3分あるじゃないー!」

「5分前行動を知らないんですか?今から準備するんですからどっちみち間に合わないじゃないですか!」

大淀はそう言うと強引に阿賀野を連れて行こうとする。

「お、大淀!」

「な、何?け・・・提督?」

「巫女服超似合ってるぞ!」

「へっ・・・?」

大淀は歩みを止め顔を赤くして黙り込んでしまった。俺なんか変なこと言ったか?

「嬉しい・・・それじゃあ頑張ってくるね!」

「おう!頑張ってこいよ!」

「ほらほらー5分前行動なんでしょー?さっさと行かなきゃ遅刻しちゃうー」

「あっ、ちょっと阿賀野さんっ!?今いい感じだったのに・・・じゃなくてあぁっ!そこ引っ張らないで!言われなくても行きますから・・・!あっ、せっかく着付けてもらったのにはだけちゃうじゃないですか!!あっ!あーっ・・・!!」

感情の全くこもっていない様な事を言いながら阿賀野が大淀を引っ張って社務所の方へ行ってしまった。

あの二人一緒にさせて大丈夫なんだろうか・・・?

大淀は場所もわきまえずに喧嘩するようなヤツじゃないし阿賀野もそんなことはしないだろうし・・・

あっ、そうだ!そろそろ天津風を迎えに行かないと

あんまり遅れると何言われるかわかったもんじゃないし急いで天津風を迎えに行くことにした。

 

 

「ふぅ・・・」

約束の時間までには鎮守府に戻ってはこれたけど天津風はどこに居るんだ・・・?

とりあえず吹雪達が待機してるであろう演習場にでも行ってみようかと思ったその時高雄さんがこちらに向かって走ってきた。

「あっ、提督!帰ってたんですね!丁度今探しに行こうと思ってた所なの」

「どうしたんです?そんな走って」

「とにかく早くこっち来てください!」

「えっ、ちょ・・・うわぁ!」

次の瞬間俺は高雄さんにぐいっと手を引かれた。

そりゃもうすごい力で高雄さんが男だと言うことを感じさせる。

どこに連れて行かれるのかと思えば更衣室の前で高雄さんは立ち止まった。

「天津風ちゃん? 提督帰ってきたわよ出ていらっしゃい」

部屋の中に向けて呼びかけた。

どうやら中に天津風が居るようだが出てくる様子はなく・・・

「えっ、もう!?あ、あたしやっぱりさっきまで着てた浴衣に・・・」

「今更何を言ってるんですか? とてもお似合いですよ?」

「そうだよ!私も早くお兄ちゃんにこれ着た所見せたいなぁ〜天津風ちゃんだって見てもらいたいって言ってたじゃない」

「ばっ・・・!それは秘密だって言ったじゃない!違うのよ?そんなこと言ってないからね!!」

部屋からは天津風、そして吹雪と春風の話し声が聞こえてきた

「えーっと・・・これは一体」

「まあまあ。あの子なりに色々あるのよきっと・・・それにやっぱり艦娘になりたての男の子の恥じらう姿は最・・・いえなんでも無いです」

高雄さんは笑みを零している。

この間の俺の女装の件もあるしやっぱりこの人まともそうに見えて結構ヤバい人なんじゃ・・・

「天津風ちゃん? 提督も待ってるしもう諦めて出てきたらどうかしら?」

「そうだよ天津風ちゃん!」

「往生際が悪いですよ。 もうここまで来たのですから司令官様に見てもらいましょう」

「うわぁっ・・・!ちょ・・・吹雪!春風引っ張んないで・・・きゃぁっ!」

吹雪春風に手を引かれ中から女物の浴衣に着替えた天津風が現れる。

「天津風ちゃん可愛いでしょ? 私も長峰さんに浴衣もらったの!でも見せるのは明日一緒にお祭り回るときまでお楽しみだよ!」

出てくるや否やいつもよりしおらしく見えた天津風の横で吹雪が笑顔でそう言った。

さっきまで男物の浴衣を着ていた彼と同一人物とは思えないほど可愛らしい浴衣を着こなす天津風の姿はたしかに可愛らしく見えるがこいつは男なんだぞ?

「よ、よぉ・・・天津風 浴衣着替えたんだな」

「え、ええ でもこれはせっかく長峰さん達がくれたのだから勿体ないし仕方なくで・・・別に着たかったとかじゃ」

「あらあらそんなこと言って・・・さっきまでは」

「わーっ!な、なんでも無いの!ほら!突っ立ってないでさっさと行きましょ!」

「えっ?あっ、ああ・・・それじゃあ行ってきます」

天津風は高雄さんの言葉を遮り逃げるように俺の手を引いてその場を離れた。

そして鎮守府から神社までの道のりをお互い少し気まずい雰囲気で何も話さないまま歩いていると天津風が突然話を切り出した

「ね、ねえ・・・」

「ん?どうした?」

「こんな派手な浴衣・・・変じゃない?丈も短くてひらひらしてるし・・・」

「全然変じゃないぞ? それどころか似合ってるって言うか・・・」

「に、似合ってる!?本当?」

「あ、ああ・・・普通に可愛いと思う」

「可愛い・・・ってあたし男の子なのにそんな目で見てたの!?お兄さんの変態!」

「はぁ!?別にそんなんじゃねぇし・・・ それならなんて言ったら良かったんだよ!!」

「・・・きょ、今日だけは許してあげてもいいけど・・・?せっかく長峰さんが選んでくれた浴衣だし似合ってないなんて言ったら失礼でしょ?ほら行くわよ」

そう言って俺の手を引く天津風の横顔はどこか嬉しそうに見えた。

天津風に手を引かれ、屋台の立ち並ぶ参道にやってきたがこういう時一体何をしてやればいいんだろう?

祭りに遊びに行くなんてここ何年かしてないしあんまり下手なことすると天津風の事だし子供扱いするんじゃないわよ!とか言って怒られそうな気もするし・・・それに元々地元民な訳だし俺より天津風の方がこの辺のことは詳しいはずで・・・

「な、なあ・・・?ここの祭りにはこれまで毎年来てたんだろ?」

「ええ。おばあちゃんが生きてた頃はおばあちゃん、おばあちゃんが死んでからは忙しいのに奥田さんが毎年一緒に回ってくれたわ」

「そうなのか。それなら俺なんかよりずっと詳しいだろうし毎年回ってたら目新しいものとかもないだろ?」

「うーん・・・たしかに屋台は毎年似たりよったりだけどやっぱり楽しいじゃない?こうして誰かと一緒にお祭りに行くって・・・ あっ、これは別にお兄さんと一緒に回るのが嬉しいとかそういうのじゃないのよ!?吹雪達と一緒に行けなくて仕方なく付き合ってもらってるだけなんだから」

「あーはいはい・・・でもさっき焼きそば買いに来てたしもうその時に一人で回っちゃったんじゃないか?」

「ううん・・・あの後はおじさんたちに挨拶しに行っただけ・・・ほんとよ?だってお兄さんと一緒にお祭り回るの・・・」

「だって・・・?」

「なんでもない! あっ、ほらあれ! さっき来たときから気になってたの」

天津風が指差したのは射的の屋台だった。

「射的か。 なんか欲しいのあるのか?」

「ええ! あの上から二段目のカワウソのぬいぐるみ・・・!」

天津風の言う方を見ると細長いへんなカワウソのぬいぐるみがあった。

「ん?あれがいいのか?」

「うんっ!可愛いしほし・・・こほん・・・あたしは別に欲しくないけど吹雪が喜ぶんじゃないかなって」

吹雪あんなのが好きなのか?まあいいや。

ここはかっこよくアレを撃ち落として少しでも株を上げておくか。

別に射的が得意なわけではないがあれだけ縦長な形状をしていれば弾さえ当たればバランスを崩して落ちるだろうしそんなに重いものでも無さそうだから難易度は低いだろう。

「よし!じゃあ俺が取ってやるよ。 おじさん一回お願いします」

屋台のおじさんからコルクの弾を5個受け取って銃に込めて狙いを定める。

「そこだッッ!」

トリガーを引いてポンと弾けた音とともにコルク弾は勢いよく飛び出して全く意図しない方向へと飛んでいく。

あれ?おかしいな・・・

「いや・・・まあこれは小手調べでまだ4発残ってるし」

俺は強がり半分でそんな事を言いながら次弾を銃に込めて打つ

そしてめげずにさらに打つ

打った

目標をセンターに入れてスイッチ・・・

したはずなんだけど弾はかするどころか全て空を切ってしまう。

なんでこの弾真っすぐ飛ばないんだ!?

「はぁ・・・射的って結構難しいんだな」

「もう・・・お兄さんはやっぱりダメダメね。あたしの日頃の訓練の成果みせてあげるわ! おじさん!あたしも1回!」

落胆する俺を見て天津風も意気揚々と射的を始めた

「えいっ・・・!あれ? おかしいわね・・・ もうっ! なんで!? 何で当たんないのよぉ!」

一発、また一発と空を切っていくコルク弾。

少しかすりそうにはなったもののぬいぐるみを落とすには至らなかった。

「なんで!?演習だと結構当てれるようになってきてるのにぃ!!」

天津風も惜しいところまでは行ったものの結局一つも当たらず目に見えて悔しがる天津風。

阿賀野曰く艤装と接続していない時は普通の人と変わらないらしいしそれにいくら鍛えててもまっすぐに弾が飛ばないんじゃ狙ったって当たらないよなぁ・・・

「はっはっは! お嬢ちゃん、もっとちゃんと腰入れて狙わなきゃ当たんないよ」

屋台のおじさんは適当なことを言っているが確かに狙いは完璧だったと思う。

「あたしちゃんと狙ったもん! おじさんもう一回!」

天津風は更に弾を追加して望むもやはり当たらず5発をすぐに使い切ってしまった。

「うう・・・なんで・・・あたし結構訓練頑張ってるのに・・・」

「まあまあ、そんな時もあるって ほら、気を取り直して他も回ろうぜ?」

「何よ!このまま引き下がれって言うの?一個もちゃんと当たらなかったくせに!」

「それはお前もだろうが!」

「あ、あたしはかすったもん!」

「はぁ!?当たってなきゃかすってようがかすってまいが一緒だもんね〜」

そんな意味もない言い合いをしていると

「お困りの・・・よう・・・だね!」

後ろから突然声をかけられて振り向くとそこには頭にはお面をかぶり腕にはキャラクターの描いた袋の綿菓子やら水風船やら光るブレスレットやらをいっぱいにぶら下げフランクフルトをかじっている絵に描いたようにお祭りを楽しんでいる事がわかる格好の初雪がドヤ顔で立っていた。

「は、初雪?」

「ふふん・・・これだから初心者は・・・天津風ちゃん?どれ・・・ほしいの?」

「え、あ、あの・・・二段目のカワウソのぬいぐるみ・・・」

「ん・・・わかった お、おじさん・・・1回分・・・ ほら新人、これ持ってて」

「し、新人って俺の事か!?」

「あなた以外だれがいるの・・・? ほら、こんなんじゃ射的できないから・・・」

「お、おう・・・」

「じゃあ新人と天津風ちゃんはそこで見てて」

俺は言われるがまま初雪の持っていたものを預かると初雪はガッツリと銃を構えだした。

「目標をセンターに入れてスイッチ・・・目標をセンターに入れてスイッチ・・・目標をセンターに入れてスイッチ・・・目標をセンターに入れてスイッチ・・・」

それ俺がさっきやった奴! てか口に出すな恥ずかしいから!!

とそんなことより弾は全て正確に棚の商品を打ち抜いていき、狙っていたぬいぐるみだけでなくその上の大きなぬいぐるみとロボットの玩具、それにラジコンと怪獣のフィギュアを撃ち落とす。

それを見た屋台のおじさんは口をあんぐりと開けていた。

「そ、そんなバカな・・・全部一発で撃ち落とせるはずなんて・・・もってけドロボーだこんちくしょう!」

そりゃそうもなるだろう。

だって俺もびっくりしてるんだもん。

「ふんっ・・・お、おじさん・・・ここのお祭りは初めて? それなら屋台荒らしのザ・ファーストの名・・・覚えておいて・・・フヒヒッ!」

初雪は気持ちの悪い笑いと謎の異名を告げて撃ち落とした景品を両手に抱えた。

ザ・ファーストってなんだよ!

「ふぅ・・・ またつまらぬものを撃ってしまった・・・・ぜっ! はい、これ・・・ほしかったんだよね? うーん・・・あとのも他の子たちと分けてくれていい・・・よ? 先輩からのプレゼント・・・!じゃ、私は型抜きでひと稼ぎしてくるから・・・ん・・・それもっててくれてありがと」

初雪はドヤ顔で手にした景品をすべて天津風に手渡すとそう言って俺に預けた荷物を取ってどこかに行ってしまった。

「あ、ありがとう初雪先輩・・・それにくらべてあなたときたら・・・」

「あの俺射的とか久しぶりだったし・・・」

「言い訳はいいの! 何がよし!じゃあ俺が取ってやるよ。よ」

「う・・・」

「ま、いいわ。 あたしもぜんぜん当てられなかったし次はあっち!」

「え、ああ・・・」

 

それから天津風に連れられて屋台を一通り回った。

なんだか天津風はいつにも増して嬉しそうだしまあ良かったんじゃないかな。

 

「はぁ・・・楽しかった!」

天津風もさっきの初雪の用に両手いっぱいに屋台で買った物やら景品を抱えて

「よかったな。 俺もこんな規模のでかいお祭りなんて久々だから結構楽しめたよ」

「ふぅ・・・はしゃいだら疲れちゃった。 ちょっとなにか食べて休憩してから帰らない?」

「そうだな。 何がいいんだ?」

「うーん・・・もうご飯ものは結構食べちゃったしデザートになるようなのが・・・あっ!あれ!あれ食べたい!」

天津風が指差したのはりんご飴の屋台だった。

「りんご飴か。あんなのでいいのか?」

「え?お兄さん止めないの?」

「何で止める必要があるんだ?」

「だってママ・・・じゃないお母さんもおばあちゃんもみんな虫歯になるからとか汚いからとかで食べさせてくれなかったし・・・」

「それじゃあ食べてみるか?」

「うんっ!」

「じゃあ買ってくるから待っててくれ」

俺は屋台でりんご飴を2つ買って天津風に一つ渡してやった。

すると天津風は目を輝かせてそれを見つめる。

そんなに珍しいものでも無いと思うんだけどなぁ・・・

「そ、それじゃああそこで食べましょ?」

「あそこ・・・?」

「ええ。この辺りは人が多くてベンチもいっぱいだけどあそこならすいてると思うから」

「わかった。じゃあそこまで案内してくれ」

 

「よし。やっぱりここまでお祭り目当ての人は来ないわよね!」

天津風に連れられてきたのは参道から少し外れた海辺のベンチだった。

「ここって・・・」

ここは初めてソラと会った場所だ。休憩してたら突然声かけられて・・・それからここでよく会うようになったんだっけ。

ソラが天津風になってから色々あったときもここで話したりもして俺にとってもこの☓☓鎮守府に来て出来た数少ない思い出の場所だ。

遠巻きに聞こえる祭りの喧騒と波の音、それに海から吹く涼しい風が心地良い。

「ここはね、参道からあんまり離れてないけどお祭り客はあんまり来ない穴場スポットなの。あたし、お祭りの時のこの場所はいつもより好きなの。いつもよりにぎやかな町の中でここだけはいつもと同じ。同じなんだけどなんだか違う所に来たような気がして」

「なんかそれわかるような気がするよ」

「・・・そう? こんな事誰にも言ってないんだから。お兄さんとあたしだけの秘密よ?」

「わかったよ。それじゃあ食べようぜ」

「う、うん・・・いただきます・・・・あむっ・・・」

天津風は美味しそうにりんご飴を頬張り、それを見届けた俺もりんご飴を食べた。

妙に甘ったるい飴とパサパサのリンゴが口の中でねっとりと広がる。

値段の割にあんまり美味しくないんだよなこれ・・・でもなんでだろう?こうして食べてるとそんな何の変哲もないパサパサで甘ったるいりんご飴も少しは美味しいものを食べている気になってくる。

「どうだ天津風?初めて食べたりんご飴の味は」

「・・・美味しい!」

「ホントか?」

「ええ!ホントよ!・・・お兄さんと一緒だからかもしれないけど」

「えっ?」

「な、なんでも無いわよ! でも今日は付き合ってくれてありがとう。毎年代わり映えしない退屈なお祭りだけど今年はいつもより楽しかったわ。お兄さんの情けないところも見れたし!」

「お前なぁ!」

「・・・ねえ?」

「どうした改まって」

「さっきこの浴衣姿可愛いって言ってくれたでしょ?」

「ああ。」

「男の子の僕と艦娘のあたし・・・お兄さんはどっちが好き?」

「えっ!?」

急に何言い出すんだよ!!

「きゅ・・・急にどっちって言われても・・・艦娘になったってお前はお前だろ? ちょっと艦娘になって帰ってきてからちょっと乱暴になった気がするけどな!」

「な、なによそれ!!」

「ごめんごめん!ソラはここに来て初めて仕事とか関係なしで話しかけてくれた友達だからな。それはお前がどうなろうが変わらないだろ?」

「お兄さん・・・!友達・・・ね」

「今はそれだけじゃなくて一応提督と艦娘でもある訳だけど・・・でもそのおかげでお前ともこうしてまた会えただろ?だから俺はどっちのお前も好きだし無理に優劣を付ける必要はないだろ?あっ!またなんか言われそうだから先に行っとくけど好きっていうのはあくまでLikeの方だからな!別にその・・・邪な考えとかは一切なくて・・・」

「はいはいわかったわよ。せっかくいいこと言ってたのに最後ので台無しじゃない・・・ま、そういうところもお兄さんらしくて嫌いじゃないけど」

天津風はクスりと笑って残ったりんご飴をすべて食べ終え、それからしばらく特に何も言わず二人で海を見ていた。

そんな時天津風が大きなあくびを一つする。

「眠いか?」

「う、うん・・・はしゃぎすぎちゃったみたい」

「そっか。ほら。祭りでかっこいい所見せらんなかったけどこれくらいならしてやれるぞ?」

今日はあまり良いところがなかったしおんぶでもして鎮守府まで連れて帰ろうと背中を天津風に差し出す。

「・・・いいの?あたしもうおんぶなんてしてもらう年じゃないし・・・」

「気にすんなって!お前くらいならできるよ」

「なにそれ?あたしがチビだって言いたい訳?」

「違うよ!ほら。乗るなら乗る!乗らないなら乗らない!」

そう言うと天津風は少し考え込んで。

「・・・それじゃあ仕方なく乗ってあげるわ。重いとか言ったり変なとこ触ったら殴るから」

「はいはいわかりました・・・よっと!」

天津風を背負うを背中にずっしりと重みが来てやはり体は小さめだけど年相応の男だというのを感じさせた。

それに持っている景品やらが上乗せされて結構キツイが一度やると言った以上やっぱり無理なんて絶対に言えない。

俺はゆっくりとそのまま鎮守府に向けて歩みを進めた。

「・・・なんだかこうしてもらってると昔お父さんにおんぶしてもらったのを思い出すわ。まだここに住んでなかった頃おばあちゃんの家に遊びに来てお祭りに行った帰りにこうやっておんぶしてもらったの・・・ねえ?お兄さんはアレ・・・信じてる?」

「ん?あれって?」

「・・・ほら、最終日の花火中にその・・・き、キス・・・したらずっと一緒に居られる・・・みたいなの」

「そんなのパンフレットに書いてあったな。信じる訳ないだろあんなどう見ても胡散臭いやつ」

「ふぅん・・・夢がないのね」

「じゃあお前はどうなんだよ?」

「あ、あたしだって信じてないわよあんなの・・・ ずっとここに住んでたおばあちゃんすらそんなの知らないって言ってたんだから」

「なんだ・・・やっぱりあれは客寄せ用の与太話だったのか・・・」

「・・・でもね?信じる信じないは置いておいて最終日お兄さんどうなるかわかる?」

「どうなるって・・・?」

「何かに付けてみんなお兄さんをからかってくるじゃない?」

「あ・・・」

「だからきっと・・・そうね阿賀野さんとか金剛さんはお兄さんとキスしたがるんじゃないかしら」

「う、うーん・・・ありえないとも言い切れない・・・」

「それに流されやすいお兄さんの事だしどうなるかわかったもんじゃないわよね?だから・・・」

「だからどうした?」

「ちょうど花火が上がってる間は高雄さんと愛宕さんが代わりに鎮守府で待機してくれるって言ってるから花火の間お兄さんが変なことしないかあたしが見張っててあげる。」

「何で俺が悪い事する前提なんだよ!!」

「だってお兄さんえっちだし男だって構わずそういう事するじゃない?前だって倉庫で那珂さん脱がせてたし・・・」

「ああもう語弊のある言い方やめろ!あれは那珂ちゃんが勝手に脱いだだけだし事故だって!それに俺は男には興味ないから!!」

「ふぅん・・・?ほんとかしらね?でもそんな事するようなお兄さんを野放しにしておいたら鎮守府の風紀も乱れちゃうじゃない?だからあたしがその間お兄さんを見張るのよ。そうしたらお兄さんも変なことしないで済むでしょ?それにあたしに変なことしようものなら長峰さんに言うからね!」

「ん・・・ああ。 お前なら安心だな。あの人だけは絶対敵に回したくないし」

「・・・そう。それじゃあ絶対約束よ?」

「ああ。わかったよあ、そうそう」

「何?」

「お前そのぬいぐるみ・・・本当に吹雪が欲しがってたやつなのか? なんかお前が欲しそうに見えたけどな」

「あ、当たり前でしょ? あたし男の子なんだし先輩が一緒に落としてくれたロボットかラジコンで良いの!こんな可愛いぬいぐるみなんて・・・」

「本当か? さっきも言ったけど無理に男の子ぶったり女の子ぶったりしなくてもいいんだぞ?好きなものは好き。それでいいだろ?今どき可愛いものが好きな男だってたくさんいるんだし変に気にすんなよ」

「・・・ほんとう? あたしがぬいぐるみが欲しいって言っても?変じゃない?笑わない?」

「今更そんなことでつべこべ言うかよ!そんな変に我慢するほうがよくないぞ?」

「そっか・・・じゃあロボットはもうお兄さんにもらったやつがあるからこのぬいぐるみ・・・もらっても良い?」

「もらってもいいも何もお前が初雪からもらったんだろ?好きにしろよ」

「・・・うん。それじゃあせっかくもらったんだし大事にしなきゃね」

「ああ。残りは吹雪と春風と分けて仲良く遊ぶんだぞ?」

「うん・・・!」

こうして俺と天津風は鎮守府にやっとのことでたどり着き、俺の長い1日はやっと終わった。

初雪が落とした残りのおもちゃはどうなったかって?

意外にも吹雪がラジコンを欲しがって目を輝かせて遊んでいて春風は怪獣とロボットを選んだ。

そして残った大きなぬいぐるみは俺の所に回ってきたので今日の思い出として部屋においておくことにした。

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