魔法少女リリカルなのは INNOCENT BRAVE 作:ウマー店長
俺とシュテルの対戦は射撃戦からスタートした。
シュートバレットでシュテルの動きを牽制しながら距離を詰めるべく空を駆ける。
しかしシュテルの方も先ほど見せた自信は伊達ではなく、射撃魔法でこちらの動きを阻害してくるためなかなか距離を詰めさせてくれない。
「っていうかあの子の撃ってくる弾、なんか燃えてるんだけど!?」
『炎熱変換の技能持ちのようだな。スキルに炎の属性を付与することで文字通り火力をあげることができる』
「なるほど……お、俺もそういうの使えたりとか……」
『お前のアバターにはそういった能力はない。あきらめろ』
「さいですか……」
ちょっとがっかりしたが、今は対戦に集中しなくては。
互いに決定打となるような一撃は与えられていないが、俺の方はちょくちょく被弾しているのでLIFEゲージが1割ほど減ってしまっている。
対するシュテルはまだ1割も削れていない。
「実力差を感じちゃう……なッ!」
ぼやきながらも射撃魔法を放つが、シュテルの下へと届くことなく次々と撃ち落とされてしまった。
『このままではらちが明かないぞ。攻め方を変えてみてはどうだ』
「気が合うな。俺もそう思ってた」
まだ手持ちのカードが充実していない俺は中遠距離での射撃戦での選択肢に乏しい。
対するシュテルは遠距離での射撃戦が得意なようだ。なんとか接近戦に持ち込まなければ勝機はないだろう。
俺はシュテルの放つ火炎弾をかわしながらスキルカードを構える。
「突っ込むぞ。ブレイブフォース、スラッシュフォーム」
俺はブレイブフォースの形態を杖の形態であるデバイスフォームから、槍のような穂先から魔力刃が伸びるスラッシュフォームへと変更する。
そして攻撃力を上昇させるスキルカード“ストライクパワー”をスラッシュ。
魔力刃の輝きが増しスキルが発動したのを確認すると、今までの回避行動から一転してシュテルの方へと全力で飛び始めた。
「っ! 突っ込んでくる気ですか!」
シュテルは俺を打ち落とそうと炎熱変換された射撃魔法を放ってきた。
俺は全速力で飛びながらそれらの弾を回避しつつ突き進んでいく。回避できないと判断した弾は──。
「はぁああああああああああっ!」
ブレイブフォースで切り裂き無理やり直撃を避けた。
「なっ!?」
いままで無表情だったシュテルの表情が驚愕に染まる。
それもそうだ。俺のとった手はシールドでの防御と違いダメージが軽減されるわけではない。
もちろん直撃よりはましだが、ダメージは普通に受ける。それでも俺がこの手段をとったのは少しでも前に進むため。
この1週間の中で俺が編み出したコンボをシュテルに叩き込むためだ。
「……なら、これはどうですか!」
ガション! という音と共にシュテルのデバイスヘッドが丸みを帯びた魔導士の杖のような形状から二股の音叉に装甲を取り付けた槍ような形状へと変形する。
そしてその穂先へ真紅の魔力が収束し始めた。
それを確認したブレイブフォースが舌打ちと共に大声を上げる。
『来るぞアヤトッ! 砲撃魔法だ!』
「っ! わかってる!」
「受けなさい! ディザスター・ヒートッ!」
解き放たれた魔力は紅蓮の奔流となって俺を飲み込まんと襲ってくる。
(直撃をもらうわけにはいかない!)
威力が高い砲撃魔法だが、弱点もある。
貯めた魔力をまっすぐに発射するという特性上、どうしても直線的な攻撃になってしまうのだ。
だがら、しっかりと意識して回避行動を取れば避けられないものではない……のだが。
「甘いですよっ!」
2発、3発と同じ砲撃が立て続けに発射された。
新たに魔力をチャージした様子がないところを見るに彼女が使った『ディザスター・ヒート』というスキルはもともと三連式の砲撃魔法なのだろう。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというが、彼女の場合もともとの命中精度が極めて高いので『上手な鉄砲を数撃たれるときつい』というのが正直なところだ。
……そんなスキルカード、ディザスター・ヒート。
「……欲しいなっ」
『言っている場合か! 真剣に戦え!』
俺はいつだって真剣だ。今だって真剣に、死に物狂いで砲撃を回避している。
一発目──余裕で回避。
二発目──少し掠った。
そして三発目──よけきれない。
炎の砲撃は俺に命中し、派手な爆炎の花を大空に咲かせた。
「……おわり、ですか」
割とあっさりと終ってしまった。
対人戦が初めてだったにしては自分相手に健闘したと思う。
……それでも、やはり胸に去来するのは“期待外れ”という感想だった。
いや、ある意味では期待通りなのか。
今まで何度か彼と同じくらいかそれ以上の年齢の大人たちとデュエルをし、自分が勝利してきたが彼らはそろって敗北の後にこう口にするのだ。
『小さい女の子相手だから手加減した』『小さい女の子相手だから油断した』
何が手加減だろうか。
デュエル開始直後は余裕ぶっていても、中盤を過ぎるころには焦りだし、最後には慌てふためいて無意味な特攻をしかけて墓穴を掘る。
そして、シミュレーターから出れば敗北の言い訳を頼んでもいないのにペラペラと話し出す。
まるで周囲のプレイヤーへと言い訳をするように。
なぜ素直に自分の未熟さゆえの敗北と認められないのか。なぜ私の年齢や性別を言い訳に使うのか。
そんなことを考えていたら、一番腹立たしい捨て台詞を思い出してしまった。
『こんなゲームにマジになれるなんてガキはいいよなぁ。暇そうでさ』
沢山の人が心血を注いて作り上げたゲームを、それをプレイしてくれているプレイヤーを侮辱する発言だった。
もし居候先の博士の娘が止めていなかったら、声を荒げて反論をしていただろう。
……一番悔しいのは、父の作り上げたゲームを侮辱された彼女の方だったろうに。
頭を振って嫌な記憶を頭から弾き飛ばす。
大丈夫、少なくとも今回の対戦相手の彼はそのようなことを言わないだろう。
人当たりもよさそうだったし、礼儀正しい好青年というような印象だった。
……何より楽しそうにデュエルをしていた。
ウィナー表示が出てデュエルが終了したら少しアドバイスをしてみよう。
余計なお世話かもしれないが、彼は強くなる。そんな予感がしたからだ。
「……?」
そこでおかしいことに気が付く。
未だにウィナー表示が出ない。
先ほどの砲撃は射撃で削られた彼のLIFEを削りきることができる程度の威力はあったはずだ。
にもかかわらずいまだに何の表示も出ておらず、デュエル終了もしていない。
「……まさか!」
慌てて先ほど砲撃が命中した場所の周囲を見渡す。
「いない……いったい何処に……」
「……ぉおおおおおおおおおおおっ!」
怒号が聞こえたのと、彼の魔力光の色──銀色に輝く光の槍が私を貫いたのは、ほぼ同時だった。
「これ、はっ……!」
バチバチと音を立て、体から火花が飛び散る。
槍は確実に私の体を貫いているにもかかわらず、LIFEは一切減少していない。
だがその代わりに、一切の身動きができなくなっていた。
つまり、この槍は……。
「バインド……!」
まずい……これは非常にまずい。
どういう手を使ったのかわからないが彼は先ほどの砲撃をしのぎ切り、爆炎に紛れて姿をくらまし、私にバインドを食らわせることに成功したのだ。
この千載一遇の好機に、相手が仕掛けてくることはただ一つ。私のLIFEを削り落とす、必殺の一撃……!
「行っけぇッ!!」
ようやく彼の姿を視認できた。
ステージの太陽を背にこちらへと飛来しながら発動遅延によって滞空させている射撃魔法を叩きこんでくる。
その数、8発。
そのすべてがクリーンヒットし体に衝撃が走ると同時にLIFEが削られていく。
「ぐぅっ! ルシフェリオンッ! バインド解除をっ」
『解除まであと8秒』
相棒のルシフェリオンが告げた解除時間は短そうで非常に長い。
8秒もあれば彼はここまでたどり着き、私に強力な一撃を加えてくる。
これまでのデュエルの展開でこちらへと接近しようとしていたところを見るに彼が得意なのは接近戦なのだろう。
そんな私の予想を裏切ることなく、彼は槍のように変化したデバイスをまっすぐに突き出しこちらへと突っ込んできた。
「うぉおおおおおおおおおおおおっ!」
『オートプロテクション』
ルシフェリオンが動けない私に代わって防御魔法を展開する。
しかし、まるでそんなことはお見通しと言わんばかりに彼は不敵に笑った。
突進の勢いは止まらず、魔力刃がプロテクションにヒビを入れ、そのまま突き破る。
(バリアブレイクのスキル……!)
バリアブレイクは文字通りバリアを破壊することに長けたスキルだ。
中距離からのバインド、ダメージを稼ぐ射撃、詰めのバリアブレイクでの突進……ときたら最後には。
「これで、決めるっ!」
『バインド解除まであと3秒』
彼がデバイスを振り上げるのと、ルシフェリオンがそう告げたのはほぼ同時だった。
「はぁあああああああああああああっ!」
彼は目にもとまらぬ速さで刃を振るう。
──その様はまさに乱舞。
銀色に輝く彼の刃の一撃一撃が確実に私を切り裂き、貫き、また切り裂く。
バインドが解除されるまでの数秒、私に彼の攻撃を防ぐ手立てはない。
なんというザマだろう。勝手にとどめを刺したと勘違いして思考にふけった挙句、絶体絶命のピンチに陥っている。
それもこれも彼が初対戦の初心者だからと油断して──油断して?
そこでハッとなった。今自分は何を考えていたのだろう。
気づけば心底嫌悪感を抱いたかつての対戦相手たちと同じ言い訳をしてしまっている。
そう思った途端に、自分の胸の奥の奥。まるで小さな種火のように燻っていた感情が熱を持ち始めた。
それは自分自身に対しての怒りと、鎮火しかけていた情熱だ。
私はこれまでの対戦での経験のせいで、どこか失望感を覚えていた。
楽しい対戦ができるのはもう故郷から共にこの国に来た友人たちと居候先の娘たちだけなのではないかと。見知らぬ相手と真剣に戦っても不快な思いをするだけではないかと。
だが、違った。
目の前の青年はこんなにも真剣に、そしてこんなにも楽しそうに、子供の自分と戦ってくれている。
消えかけていた胸の炎が、音を立てて燃え上がった。
「これでっ、終わりだぁああああああああっ!」
数ミリ残った私のLIFEを削り取らんと、彼がデバイスを振り下ろした。
だが、それに待ったをかけるかのようにルシフェリオンが告げる。
『バインド解除完了』
……そうだ、ここでこの対戦を終わらせはしない。
再び燃え上がったこの炎が消えてしまわないように、この胸にもっともっと風を送り込まなければならない。
この胸の炎が、空に浮かぶ明けの明星のごとく輝くように。
「終わり……? 違いますね」
私にとどめを刺すはずだった渾身の一撃は、ギリギリで張られたシールドによって止められ火花を散らしていた。
彼の表情が驚愕に染まる。
「ここから、です」