魔法少女リリカルなのは INNOCENT BRAVE 作:ウマー店長
……決めきれなかった。
目の前でシールドと魔力刃がぶつかり、真紅と白銀の火花を散らす様はそんな現実を俺に突きつけてくる。
どれだけ両腕に力を込めても目の前のシールドはびくともせず、まるで鉄パイプで戦艦を殴りつけているかのような感覚を覚えた。
(仕方なかったとはいえ、あの時に弾を使っちゃったのは痛かったな……)
微かな後悔を感じるが、あの時はそうする他なかった。
だが、同時に最大のチャンスを逃すことになったことに変わりはない。
鍔迫り合いを演じながらもあの時──シュテルの砲撃が俺へと迫っていた時のことが脳裏に浮かびあがった。
* * * * *
紅蓮の砲撃──その第三射が俺の数メートル先にまで迫ってきたとき、俺の脳はよけきれないと判断した。
シールドを張ってもシュテルの射撃魔法を切り裂きながら進むという無茶──必要なことではあったが──をしたせいでLIFEが残り3割程度まで減ってしまった現状を鑑みると、生き残るかどうかは五分……いや、三割といったところだろうか。
直撃すれば落ちる、防いでも落ちるかもしれない、普通に飛んでもよけきれない。
それなら俺がとるべき選択肢は『なんでもいいからとにかく直撃を避ける』だ。
「スフィア、収束ッ──!」
シュテルに接近しながら生成していた魔力スフィアを左手に収束する。
──本来であればダメージを稼ぐために準備していたものだがここで落とされては元も子もない。
そして砲撃に向かって収束スフィアを撃ち出し、それらが衝突する寸前にスフィアを握りつぶすような動作と共にこう唱えた。
「スフィアバーストッ!」
スフィアはシュテルの砲撃と衝突する直前、俺の詠唱に合わせて爆発し、より大きな爆炎の花を大空に咲かせた。
「ぐぅ……っ!」
スフィアと砲撃の爆風に煽られ、俺はその勢いに抗うこともできず錐揉みしながら上空へと吹き飛ばされた。
視界が目まぐるしく変化し、風景が流れていく。
まるで大砲の中に詰め込まれて発射されたかのような感覚を覚えるが、奥歯を噛み締めながら飛行魔法を制御しなんとか体勢を立て直すことができた。
(シュテルはどこだ!?)
今の砲撃+スフィアバーストの余波のせいでLIFEが風前の灯火となってしまったが、そんなことには構わず視線を巡らせシュテルの姿を探す。
どれだけ大きなダメージを受けようがLIFEがなくなっていない限り敗北ではない。俗にいう『死ななきゃ安い』というやつだ。
だがシューターを一発もらうだけで撃墜されてしまう状況というのも事実。
早いところお互いの位置関係を把握しなければならないが……。
「って、あれ?」
シュテルは案外あっさりと見つかった。
しかも、先ほど砲撃を放った位置から動いていないばかりか、こちらの姿を探そうとするそぶりも見せない。
(俺のことを完全に見失った? いや、それならもっとアクションがあるはずだし……。というか、何か考え込んでるような……?)
『どうやらこちらに気が付いていないようだな。チャンスだぞアヤト!』
ブレイブフォースの言葉に頷く。確かに今は千載一遇のチャンスだ。
ここで攻めなければ俺に勝機はない。
「スキルカードスラッシュ! 『バインドランス』ッ!」
ブレイブフォースを左手に持ち替え、スキルカードを発動すると右手に白銀の魔力で形成された槍が現れる。
このスキルは相手を拘束することができるバインド系統に属する魔法だ。
命中させれば相手を一定時間その場に拘束し一方的に攻撃を加えることができる。
シューターを発動遅延によって滞空させ、シュテルへ向かって全力で飛びながら槍を振りかぶる。
その途中でシュテルがハッとしたように周囲を見渡し始めたが、構わずに全力でバインドランスを投げ放つ。
「……ぉおおおおおおおおおおおっ!」
放たれたバインドランスはシュテルを貫き、槍からほとばしる銀色の魔力がその体を空中へと縛り付けた。
「行っけぇッ!! 」
掛け声とともに滞空させていたシューターすべての発動遅延を解除し、動かぬ的と化したシュテルへと発射した。
放たれた魔力弾は大空に銀色のラインを描きながらシュテルの下へと飛翔、そして命中しダメージを重ねていく。
『アヤト、相手がバインドの解除に入った。一気に決めるぞ!』
「あぁ!」
ブレイブフォースを正面へまっすぐに突き出し、一気に加速する。
それと同時に『バリアクラッシャー』のスキルを発動し魔力刃にバリアブレイクの能力を付与した。
バインド状態になってもシールドを張ることはできる。
当然シュテルもバインド解除の時間を稼ぐためにシールドを張ってくるはずだ。
「その守りを抜いて、勝負を決めるッ! うぉおおおおおおおおおおおおっ!」
『オートプロテクション』
予想通りシュテルを守るように防御魔法が発動した。
それを見て思わず口角が上がる。
俺は突進の勢いを緩めることなく、そのまままっすぐにシールドへ突っ込んだ。
魔力刃の先端がシールドにひびを入れ、ガラスが砕けるような音と共にシールドが砕け散った。
そしてすぐさま複数のスキルカードを一気にスラッシュし発動遅延設定を行う。
──パワースラッシュ、発動遅延1秒ストライクランサー、発動遅延1.5秒アッパーライズ、発動遅延2.1秒チャージストライク、発動遅延3.7秒クロスエッジ、発動遅延4.3秒ラウンドエッジ、発動遅延4.9秒クイックストライク、発動遅延5.5秒スラッシュザッパー……設定完了。
「これで、決めるっ!」
俺はブレイブフォースを振りかぶり、スキルを解き放つ。
発動遅延を絡めた複数のスキルは絶え間ない斬撃の嵐をシュテルへと浴びせ続ける。
(自分で組み立てておいてあれだけどコレ、制御が……キツイ……!)
スキルが繋がるようにするための斬撃の方向調整、体勢と飛行魔法の維持、ダメージを最大化するためにヒット位置を調整するなど非常にやることが多いし神経を使う。
だが、その代わり与えることができるダメージは絶大だ。
(もっと早く……もっと、もっと……!)
ブレイブフォースを握る腕に力がこもる。最後の一瞬まで気が抜けない。
シュテルのブレイブデュエルの腕は確かなもの、それはここまでのデュエルの内容からも明らかだ。
小さな女の子だからと油断する余裕など一切ない。
もし彼女相手にそんなことをすればすぐに撃墜されるのがオチというものだ。
(だからこそ、ここで決めてみせる!)
発動遅延していた最後のスキルが発動する。
『スラッシュザッパー』は俺の手持ちの近接攻撃の中で最も威力が高い。
その内容は「相手に強力な斬撃を行う」というシンプルなもの。
だからこそ、フィニッシュにはふさわしい。
「これでっ、終わりだぁあああああああああっ!」
一段と輝きが増した魔力刃をシュテルめがけて振り下ろす。
この瞬間に俺は勝利を確信した。
シュテルの残りLIFEはわずか数ミリ。この一撃が決まれば確実にLIFEを削りきることができる。
──ふと、シュテルと目が合った。
その目には敗北に対する恐怖や諦めなどの感情は一切なかった。
こちらをまっすぐ見つめ、焦りを浮かべるどころか口の端を上げどこか楽しそうにすら映る。
一瞬、俺の意識はその瞳に吸い込まれた。
瞳の奥で輝く意志の炎に一瞬、ほんの一瞬だけ心を奪われてしまったのだ。
──その直後、俺の魔力刃はシュテルのシールドによって止められた。
* * * * *
「お互いにLIFEはギリギリ、先に一撃を与えたほうが勝ち……なかなか厳しい状況ですね」
鍔迫り合いの最中、シュテルがそんなことを言った。
彼女の言う通り、互いに予断を許さない状況だ。
一瞬でも隙を見せればそれが命取りになる……にもかかわらず、彼女はどこか楽し気に見えた。
「その割には、楽しそうだね」
「えぇ、これほど楽しいデュエルは久しぶりです」
はっきりと、シュテルはそう口にした。微笑みながら俺とのデュエルが楽しいと、そう言ったのだ。
なら、俺もこう答えよう
「あぁ、俺も最高に楽しいよ!」
そんな俺の言葉が合図になったかのように、互いに後方へと飛びのき距離を取った。
シュテルはすぐさまシューターを撃ち出そうと構えるが、俺もそうはさせないとばかりにブレイブフォースを突き出す。
そんな俺の動きを読んでいたようにシュテルは俺の側面に回り込むように飛びのき、がら空きの横っ腹めがけてシューターを撃ち放った。
だが俺もおとなしくやられはしない。
突き出したブレイブフォースごと体を一回転させながらスキル『エアリアルセイバー』を放った。
ブレイブフォースの魔力刃がシュテルの打ち出したシューターへ向かって発射される。
このスキルによって打ち出された魔力刃は空中でリング状に変形し若干の誘導性も持つようになる。これにより魔力刃を操作し、複数のシューターをまとめて両断した。
そしてすぐさま魔力刃を再形成しシュテルへと突撃する。
「食らえ……ってうぉっ!?」
斬撃を放とうと構えたところに向かってシュテルがデバイスを槍のようにして突き出してきた。
完全に予想外の反撃だったが上半身を無理やりひねる事でかわす。
「そこです!」
俺の姿勢が崩れたところへ向けてシュテルは容赦なくシューターを放つ。
「くそっ!」
この状態では満足に回避ができない。
仕方なく俺はシールドを張りシューターを受け止めた。
(くそっ、足を止められた!)
これまで俺はシュテルに距離を取られないようにできるだけシールドによる防御を行わずに回避主体の戦法を取ってきた。
シールドは攻撃を“受け止める”という性質上、着弾の瞬間にどうしても足を止めることになってしまう。
そしてシュテルはここでさらに距離を取り自分の得意な遠距離戦に切り替えてくるだろう。
せめて少しでもその動きを阻害しようとシュテルがこれから飛びのくであろう後方へ向けてシューターを放った──だが。
「やぁああああああああっ! 」
「なっ!?」
俺の予想を完全に裏切り、シュテルはまっすぐこちらへと突っ込んできたのだ。
俺が放った牽制射撃は当然シュテルへと命中することなくあらぬところへと飛んでいってしまった。
そしてそのシュテルは紅蓮の魔力スフィアを手のひらに携え、それを振りかぶる。
(シューターを直接叩き込むつもりか!? でもそれじゃあシュテルまでダメージを──)
『まずいぞアヤト! あれは──』
ブレイブフォースが言い切る前に、魔力スフィアが俺の腹部へと叩き込まれた。
彼女は自爆ダメージによる共倒れを狙ったのだろうか?
そんな考えが一瞬浮かんだがそれが間違いだとすぐさま思い知ることになる。
「体が……動かないっ……まさか、さっきのは……」
「えぇ、バインドです。本来はシューターのように飛ばすものですけどね」
シュテルはそう告げると大きく飛びのいた。
……どういうつもりだろうか?
バインドを決めた今ならシューターを一発ポンと当てるだけで……それどころかデバイスで思いっきり殴るだけでも決着がつくというのに。
「今からあなたに文字通り“全力”の一撃をお見せします」
そう言うとシュテルは一枚のカードをスラッシュした。
『ブレイクショット、発動』
「これは今までフリー対戦では一度も使わなかった……いえ、使う必要もなかった私の奥の手です。本来はロケテストトーナメントまで見せるつもりはありませんでしたが」
デバイスが動けない俺へと突き付けられ、その先端には真紅の魔力が収束し始める。
先ほど見せた『ディザスターヒート』かと思いきや、それよりもさらに膨大な魔力がそこに集められていた。
「先ほどあなたが私に見せてくださった見事な攻撃への敬意、そして何よりも私の心の炎を再び燃え上がらせてくれた感謝をこめて……今の私の持てるすべてをあなたにぶつけましょう」
思わず息をのむ。
俺を消し飛ばさんとするほどの圧倒的な魔力がこちらへ向けられている。
だが。
「あぁ、来いっ!」
腹の底からそう叫んだ。
恐怖をごまかすためではない。
強がっているわけでもない。
“必ず耐えて一発お見舞いしてやる”という意思を込めた叫びだ。
それを理解したのかシュテルは微かに微笑み、デバイスのトリガーへと手をかける。
「疾れ明星──、すべてを灼き消す焔と変われ──!」
渦巻く魔力がさらに圧縮され、いまにも弾けんとばかりに燃え上がる。
そして、ついにそれが解き放たれた。
「ルシフェリオン……ブレイカーッ!!」
すべてを灼き消すとはよく言ったものだ。
とてつもない魔力の奔流が俺を飲み込まんと迫ってくる。
こんなものを食らえば今の俺のLIFEでは消し炭になるどころか跡形もなく消滅してしまう。
「ブレイブフォースッ! 頼むっ!」
『ラウンドシールド多重展開……3が限界だっ!』
「壊れた端から作り直せ!」
『無茶を言う……だがやってやろう! 』
目の前に白銀の魔力で生み出された円形の盾が三枚生み出される。
ルシフェリオンブレイカーがそれらと激突し、風圧と熱が俺の体を襲った。
あくまでバーチャルな疑似的感覚だからこの程度の衝撃で済んでいるが、もし本当に魔法がこの世に存在しこの一撃を受けていたら絶対に無事では済まないであろうし、トラウマとして胸に深く刻まれてしまうことは間違いない。
そしてあっさりと一枚目のシールドが破られ、その余波で二枚目にもヒビが入る。
『クソッ、再生が間に合わんぞ!』
「魔力効率は考えるな! とにかく強度と生成スピードに全部つぎこめ!」
『分かった!』
一番手前にあるシールドの後ろに新たにシールドが展開されると同時に、ヒビの入ったシールドが砕け散った。
(耐えろ……耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!!)
砕ける、再展開する、それを数度繰り返し、とうとう最後のシールドが俺の目の前にまで迫ってきた。
奥歯を噛み締める。これ以上シールドは展開できない。
それでもまだ諦めない。最後のシールドにすべての魔力をつぎ込み強化する。
「くっ……そ……ッ!」
それでもなお荒れ狂う真紅の奔流は収まらない。
ピシッ、という音が耳に入り、ついに最後の砦は崩壊した。
シールドを突き破った砲撃は俺の体を飲み込み、声を上げる間もなく残り僅かなLIFEを消し飛ばした。
(あぁ……くそっ、悔しいなぁ……)
目を閉じ、思わずそう独りごちる。
体から力が抜け、まるで翼を失った鳥のように落下していく。
このままいけば海面と熱烈なキスを交わすことになるだろう──と思っていたのだが、唐突に自由落下の感覚が途絶えた。
ゆっくりと目を開けると、穏やかな風に髪を揺らしながら優しげな笑みを浮かべるシュテルの顔が目に映った。
「まさか、女の子にお姫様抱っこされる日が来るとは思わなかったよ」
「私も大人の男性をこのように抱える日が来るとは思いませんでした」
互いに顔を見合わせながら、思わず笑ってしまった。
俺はシュテルの腕から離れ、再び空へと浮かびあがる。
そしてシュテルと向き直り右手を差し出した。
「すごく強かったよ。ありがとう、きみとデュエルできて……初めての対戦相手がきみでよかった」
差し出された手を見てシュテルはわずかに目を見開く。
……? どうしたのだろうか。
無意識のうちに何か失礼なことをしてしまったのだろうか……?
「えっと……シュテル、さん? どうかしました?」
戸惑いから思わず敬語になってしまった。
「……いえ、何でもありません。私もあなたのような方とデュエルすることができて、とても……とてもうれしかったです」
そう言うとシュテルは両手で込むようにしっかりと俺の手を握った。
その手には何か……強い感情が込められているように思えた。
「……もう二度と、この胸の炎は消えません」
* * * * * *
その後、俺とシュテルは休憩所を兼ねたフードコートへと足を運んだ。
お互いに冷たいジュースを買い求め、二人掛けの席に向かい合って座る。
「私はあなたに謝らなくてはなりません」
開口一番にシュテルはそう言った。
それに対して俺は首をかしげる。彼女とは初対面だし、対戦中も特に謝られるようなことをされた覚えはない。
「私は……あなたに対し初心者だからと、そんなつもりはなくても心のどこかで油断していました。これは全力で戦ってくださったあなたへの侮辱に他なりません。なので、謝罪を……」
シュテルは机に頭をこすりつけそうな勢いで頭を下げた。
そんな彼女を見て合点がいった。
あの時──ディザスターヒートから逃れ、シュテルの姿を探したとき──彼女は隙だらけだった。
拘束時間が長い代わりに当てづらいバインドランスを簡単に命中させることができてしまうほどに。
「──そっか」
天井を見上げ、長く息をつく。
つまり、その油断がなければ俺はギリギリの敗北どころかまともな勝負にすらならなかったかもしれないということだ。
これはもうなんというか、相当に悔しい。
「あ、あの……やはり怒っていらっしゃいますか……?」
対戦中、基本クールな表情を崩さなかったシュテルが見るからに不安そうな表情を浮かべている
「えっ? あぁ、いやいや! べつに怒ってなんかいないよ? ただ悔しいだけだからさ」
「本当、ですか?」
「うん! 次に戦う時までにシュテルが油断する隙なんて無いくらい強くなってみせるよ。だから、そんな顔しないで。ね?」
そう言ってシュテルに微笑んで見せた。
「……ありがとうございます。その……アヤトさん」
「ん?」
「もしよければ、連絡先を交換しませんか? これも何かの縁だと思いますので」
「うん、かまわないよ」
俺たちはお互いにスマホを取り出してプロフィールを交換した。
俺の連絡先一覧に『シュテル・スタークス』の名前が追加される。
そういえばお互いにフルネームでの自己紹介はしていなかった。
「結城アヤトさん……というのですね。結城さんとお呼びした方がよろしいでしょうか」
「アヤトでいいよ。俺もシュテルって呼ぶからさ」
「わかりました。これからよろしくお願いいたします。アヤトさん」
机をはさんで握手を交わす。
シュテルの手は先ほど激しいデュエルを繰り広げた相手だとは思えないほど小さくて柔らかかった。
「それにしても、先ほどのデュエルでのあなたのブレイクショットは見事でした。槍型のデバイスは取り回しづらいにもかかわらずあれだけの連撃を放つとは……。かなりの鍛錬を積まれたのでしょうね」
「……ブレイクショット? 」
シュテルのセリフの中に聞き覚えのない単語が現れたのでつい聞き返してしまった。
……いや、そういえばルシフェリオンブレイカーのカードをスラッシュするときに彼女のデバイスがそんなことを言っていたような……?
「……まさか、ブレイクショットの事も」
「ごめん、知らない……」
「な、なら、あの時の攻撃はどうやって……」
「え? えーっと、複数のスキルを発動遅延設定して……細かいところは気合で制御してた」
「あなたのデバイスから教えてもらっていないのですか?」
「教えてもらってない……と、思う」
正直なところ本当に説明してもらっていないのか自信がないので、困惑した表情でこちらを見つめるシュテルから思わず目をそらしてしまった。
「ブレイクショットというのは複数のスキルを組み合わせることで生まれるオリジナルスキルのことです。発動タイミングや位置・角度調整などをあらかじめ設定しておけるので複雑な制御をすることなく複数のカードを用いた強力なコンボを放てるというものです」
……開いた口が塞がらない。
「も、もしかして俺の今までの苦労って……全部無駄……? 」
自分でもびっくりするほど情けない声が漏れ出した。
シュテルの説明によると必死になってスキルの制御をしなくてもお手軽簡単にあの必殺コンボを放てる……ということになる。
果たして俺の今までの血のにじむような練習は何だったのだろうか。
開きっぱなしの口から魂が抜けだしていくような感覚すら覚える。
「そ、そんなことはありません! あらかじめ設定したようにしか発動しませんから融通は利きにくいですし……それに、あのレベルのスキル制御はそうそうできるものではありません。あなたの努力は無駄などではありませんよ」
「あ、ありがとう。シュテルは優しいなぁ……」
「……コホンっ。それで、これからどうされるのですか? 今後もブレイクショットは使わずにご自身の制御で戦うのですか? 」
「いや、おとなしく使うことにするよ。今までみたいに複数のカードをスラッシュするとどうしても隙が大きくなるし、それに……」
「それに? 」
シュテルが小首をかしげて聞き返す。
「シュテルのルシフェリオンブレイカー、かっこよかったからさ。俺もああいうの欲しいなって思って」
「そ、そうですか。でしたらブレイクショットの名前を考えないといけませんね」
「名前? 名前かぁ……」
いざ技の名前を考えるとなるとどうしても首をひねってしまう。
というのも、すでに名前が設定されているスキル名をゲーム内で叫ぶのはもう慣れたが、オリジナル技となると話が違ってくるからだ。
下手な名前など付けようものなら中学生時代に書いたオリジナル設定てんこ盛りの中二病ノート(処分済)のような黒歴史を再演することとなってしまう。
「……? ずいぶんと悩んでいらっしゃいますね?」
腕を組んだままうんうんと唸り続ける俺を見てシュテルがまた首をかしげる。
「いや、こう……いいのがパッと思いつかなくてさ」
「そうなのですか……? ふむ……」
「?」
今度はシュテルが指を唇に当てながら何か考え事を始めてしまった。
その姿からは幼いながらも知的な雰囲気を感じさせたが、俺としては彼女が一体何について考えているのかわからない。
今度は俺が首をひねりながらシュテルの様子を見守ることになってしまった。
「もしよろしければ、私がブレイクショットの名前を考えてもよろしいでしょうか」
ほどなくして口を開いたシュテルはそんなことを言った。
「シュテルが? いいの?」
「はい。あなたが嫌でなければですが……」
嫌なんてことはない。願ったりかなったりだ。
どうせこのまま自分一人で悩んでいても結論が出るまでに時間がかかってしまう。
よっぽど変な──もとい個性的なものでなければ喜んで使わせてもらおう。
「……実は、この話題に入った時から頭には浮かんでいたのです」
「え、そうなの? もっと早く言ってくれればよかったのに」
「いえ、さすがに私の思い付きを押し付けるのは失礼だと思いまして……」
礼儀正しい子だとは思っていたが、そういうところも律儀だなと思った。
「その、実際にあなたの攻撃を受けて思ったのです。輝く魔力刃の軌跡、磨き抜かれた技による乱舞。それらは思わず見惚れてしまうような美しさすらありました」
「う、うん……」
予想外のべた褒めに頬が熱くなった。
「なので、私はあなたのあの攻撃に『煌刃(こうじん)乱舞(らんぶ)』と名付けたいのですが……どうでしょうか? 」
煌刃乱舞。
煌めく刃の乱舞……か。
「……いいね、すごくいいよ! かっこいい!」
「そうですか? 気に入っていただけたのであればうれしいです」
「よし、さっそく作っちゃおう! 良ければやり方教えてもらってもいいかな?」
「もちろんです。ではまずはローダーの方へ──」
* * * * * *
「今日はありがとう。いろいろ教えてもらって」
俺はシュテルへ軽く頭を下げた。
ブレイクショット──『煌刃乱舞』のカードを作った後にもいろいろとブレイブデュエルの戦い方についてレクチャーを受けていたのだ。
今日出会ったばかりの俺にここまでしてもらって感謝しかない。
「いえ、私にとっても有意義な時間でした」
日が沈みかけ、白亜の外壁がオレンジ色に染まり始めたグランツ研究所の入り口で俺とシュテルは別れのあいさつを交わしていた。
「それじゃあ、今日はこれで。また今度」
「えぇ。また」
シュテルへと手を振り愛車(自転車)にまたがり、いざこぎ出そうと足に力を入れた時だった。
「アヤトさん」
シュテルに名前を呼ばれ振り返る。
彼女はこちらを真剣な眼差しで見つめながらこう言った。
「次に戦うときは、ロケテストトーナメントの……決勝で」
「……うん。必ず」
シュテルの言葉に力強く頷き、改めてペダルに力をこめた。
ロケテストトーナメント当日まで、あと1週間だ。
次回「笑わない向日葵」